【1】第四幕:魔法競技大会、前途多難です。
茹だるような暑さを感じるようになってきた、初夏。
オルガンテ学園ではある行事に向けて、クラスが活気付いていた。
「魔法競技大会…もうそんな時期ですのね」
「この間林間学習が終わったと思ったらすぐでしたね」
伸びをしながら隣を見れば、ネアシェが深呼吸をしている。準備運動をしている今は、魔法授業の一部だ。
男女に分かれて行われるこの授業は、競技大会の練習も兼ねている。
魔法競技大会ーーー現代で言う、体育大会だろうか。
学年毎に4チーム、赤・青・緑・黄チームに分かれて競技を競い合い、点数を加算していき優勝を目指す。
体力はもちろん、魔力で対決する競技がある。チーム全員が参加する訳でなく、一握りの精鋭が出場しているイメージだ。
メイルーンは前に競技に出た事があるが、ぶどうジュースの生産地当てみたいな貴族向けの競技もあるので、その限りではないのだが。
高校生の体育大会より激しくないだろうーーーと、思っていた時期もあったが、この世界は魔法競技があるのだ。
「それでは、今日の授業内容は……」
先生が指揮杖を振ると、檻にかけられていた布が外された。
「このビターラビットの群れの中から、足の裏にハートマークが書かれた子を捕まえて下さいな!」
「「「ええーーっ!!?」」」
「ちなみに一昨年、実際に女性限定競技であった内容ですよ!」
語尾にハートがつきそうな軽い口調とは裏腹に、大きな檻の中にはビターラビット…食用のうさぎが元気に動き回っていた。
ビターラビットは苦味のある肉質が特徴で、香辛料などを上手く使うと大変美味しい。そして外見は可愛らしいが、危機を感じると異常な脚力を発揮し高速で逃げ回るのだ。
「もちろん、怪我させたりしたら失格です!それでは、スタート!」
「ちょっ…!」
この学園の先生方は基本的に人の話を聞かない。檻が塵になるように消えていき、ビターラビットは放たれた。
慌てながらも女子達は次々に動きを止める魔法を唱えるが、スピードが追いついていない。キャーキャー言いながら奮闘する後ろ姿をネアシェと眺めていた。
「…若いって楽しそうね」
「え…っ!?」
「あっこちらの話だから気にしないで?」
何か新しい事が起きる度に楽しんでいた小学生の頃が懐かしい。ここ数ヶ月で同年代と馴染んでは来たが、こういうはしゃぎっぷりを見て冷静になってしまうのはもう精神年齢の違いとしか言いようがない。
貴族社会とか派閥とか、そういう話題じゃなければみんな普通の子なのに。
「随分と余裕ですわね」
話しかけてきたのはユーグリッド嬢だ。林間学習の夜から今まで、舌戦はしていないがまだまだ睨み合う仲だ。
「今のところ競技に参加する予定がないもので…」
私とネアシェは青チームだ。チーム決めはまた、公平公正にランダム決めだが、運が良かったようだ。……いや、運は途轍もなく悪い。
「ふふ、そうね。貴方達に出る幕はないもの」
このユーグリッド嬢、そしてミレイユさん。そして……ロンギヌス様と同じチームなのだ。
なんと青チームは…ロンギヌス派閥の貴族が多く属する、メイルーンにとって最悪な状況なのだ。
「疲れましたわ…」
「ええ、本当に…」
ランチタイム。食堂のテラススペースでネアシェと共にグッタリとしている私、メイルーン・ウンディーネ・ファクトヒルデ。
恐らく転生して初めてと言っていいほど、壁にぶち当たっている。
「先程の青チームミーティング…酷かったですわね」
「ええ…」
授業の一環として、チームでの話し合いの時間がある。
青チームのリーダーは勿論ロンギヌスになった。5年生だろうが関係ない、そういう事なのだ。学年毎にリーダーをサポートするサブリーダーを選出し、役職を決めた。だが。
「体力を使う競技は全て平民とアインルーガ様派閥、それ以外はロンギヌス様派閥ですか…」
「個人の適性も何もかも無視した決め方…流石に開いた口が塞がりませんでした」
「それは毎年下位にもなりますわ…」
魔法競技大会の花形は、魔法を使う競技だ。たしかに魔法使用禁止なのもあるが数は少なく、必然的に活躍する場も少ない。そしてメインは最後に行われる魔法戦だ。
恐らく毎年度そういった決め方をしていたのだろう、ロンギヌス様がチームリーダーを務めるチームは今まで最下位か良くて3位だ。
「いくら人数比率がロンギヌス様派閥の方が多いと言っても、全て彼らだけで出来ると思います?」
「無理でしょうね…皆さん、ほぼ優れた何かを持っている訳ではないですし」
貴族なため、貴族向けの知識や経験が必要な競技…それこそメイルーンが出た事のあるぶどうジュースの生産地当てなどは得意だろうが、魔法で飛び抜けたのはいない。
武力で言うとミレイユさんの幼馴染、スレイヴ・リットマンも青チームだから期待出来るかもしれないが。
「ええ…必然的にサブリーダー、6年生のヤクトさんに負担がいってしまいますわ」
ヤクト・シルフ・テラウィリス。
初等部6年生で青チームでサブリーダーを務めている。
そして風を司るシルフの名を戴く四大貴族の1人。長男で次期テラウィリス公爵となる方だ。
成績優秀で魔力も魔法も秀でており、レオニダスに次いで優秀な魔法使いとされる。
そして、何よりーーーこの人は、蒼海の奏者の攻略キャラの1人なのだ。
ちなみにであるが……私はこの人のビジュアルが気に入ってゲームを購入した。そして最初にトゥルーエンドを見た相手である。それ故にバッドエンドを何度も共に味わったため、美しい想い出と苦しい想い出が同居しているのが悩みどころだ。
「魔法戦もほぼヤクト様頼みでしょう。けれど赤チームが……」
「そうね、集まってしまいましたわね」
赤チームにはアインルーガ様、そしてレオニダスがいる。それに加えて各学年でも名が挙げられるような優秀な魔法使いが複数人集まった。
チーム仲は良好なようで、近頃見かけた事のない方がアインルーガ様に気軽に話しかける場面を見る事が増えた気がする。メイルーンの脅威がなくなったからだろうけど。
「正直、魔法戦でレオニダスさんに勝てる人いないのよね…」
「今のところ全勝…でしたっけ?」
「いえ…3年生だったかしら、集中狙いされて負けているはず」
だがそれ以外は勝っていると言う事だ。
アインルーガ様もロンギヌス様も、魔法戦には出ない。理由は皇族にしか持っていない力を持つから。
「あら、話が脱線してしまったわ。ヤクトさんは1人しかいないし、限界があります。平民の方々のほうがまだ勝ち目がある状況だというのに…」
「やはり、私がお話しましょうか?」
「いいえ、あれが彼の判断というなら…私は手出しする必要はないと思いますわ」
ネアシェの家との繋がりを狙って意見くらいは聞いてくれるかもしれないが、絶対に受け入れはしないだろう。
言うだけ無駄というものだ。
「大人しく応援でもしていますわ。負けるのは嫌ですけれどあの方を諭す手間を考えるとそちらの方がマシです」
「ーーーそれは困るな」
テラス席に入って来た男子。軽薄そうな笑みを浮かべてこちらに近付いてくる人は。
「…あら、ヤクト様。お久しぶりです」
「やあ、久しぶり。メイルーン嬢、ネアシェ嬢。前回の四大貴族パーティの時以来かな?」
「ええ、そうですね」
1つ年上であり、人好きのする笑みを浮かべる美少年。
だがテラウィリス家の次期当主でありテラウィリス公爵家はロンギヌス様派閥を支持しているのだ。ファクトヒルデ家とは友好的であるはずもない。
だけど……顔はめちゃくちゃ好みなのよ!
「困る…と仰られた気がしたのですが、聞き間違えでしょうか?」
「いや聞き間違えじゃないよ。出来ればメイルーン様に魔法戦に出て欲しいんだ」
「は?」
また聞き間違えました?




