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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
32/125

【16】






「3日目はご褒美で課題ないから自由にしていいぞー」


えっ、と困惑の声が所々から聞こえる。

朝、食事中に突然入って来たリンドウ先生は挨拶もそこそこに、今日の予定を話し始めた…と思ったら、これだ。


「チームとか気にしなくていいぞー。昼食は会館外の広場で立食形式にするから、昼は広場に集合な。その後は片付けして学園に戻る感じだ。

ただし森林の外に出る場合は申請するようにー」


はい、解散ー。と昨日の終わりと違い緩さ全開だ。

飲み込むのに時間がかかったが、全員は突然出来た自由時間をどうするか話し始めた。するとレイサ先生がアインルーガ様に話しかけているのが見えた。


「わかりました」

「では後で」


「レオニダス、メイルーン、ネアシェ。食事が終わったら管理人室に行くぞ」

「え?」

「呼び出しだ」







「あら…?」

「あれっメイルーン様?」


4人で管理人室へと向かうと、ララさん達がいた。6人揃っていて、私達も合流すれば中へと案内された。

中にはリンドウ先生にレイサ先生、引率の先生方が全員と……1番奥で、中央に座る人。


「が、学園長!?」


思わず、といった形でララさんが呼び、ハッとして口を押さえていた。

そう、1番中央の執務机に腰掛け、優雅にこちらを見てニコニコと笑う人。見るのは5年生が始まった時の入学式ぶりだ。

学園長は謎に包まれている。

それは性別も然りだ。男女どちらでも通じるような中性的な美貌を持ち、何年も勤めているはずなのに年齢を感じない。


「呼び立ててすまなかったね、驚かせてしまったかな?」

「いえ、そんな事は」


突然の出来事に動揺する私達を尻目に、アインルーガ様は受け答えする。だが、若干上ずっているような…?


「少し伝えたい事があって」

「なんでしょうか」

「昨日の湖での出来事なんだけど」


学園長の手が掲げられ、空中へと映像が映し出される。そこには昨日襲われた巨大魚となったストルプがいた。


「襲われたのはこの魚で間違いないかな?」

「はい、そうです」


ララさん達のチームのリーダー格、ルタ・マインさんが答える。ただ…もう少しサイズは大きかった気がする。


「これは昨晩、我々で調査した時の映像でね…湖の中にいたほぼ全てのストルプが、巨大化もしくは凶暴化していた」

「それは…」


ストルプは食用になるだけあって、比較的穏やかだ。魔物なので人を襲うのだが、縄張りに入ってきた者を追い払うくらいのレベルだ。

映像では何体ものストルプを倒したようだが、まだ水中には何体か存在しているようだった。


「実は今日、湖の近くで昼食を食べる予定だったのだけど、ご覧の有様だからね。会館の広場になったのさ」

「その、原因はわからないんですか?」

「目下調査中でね。で、ここからが本題なんだけど…」




学園長はにっこりと笑う。美形の笑顔はそれだけで迫力があるのだが、底知れぬ恐怖を感じた。




「この件に関しては、箝口令を敷かせてもらうよ。昨日見た事は忘れる事、いいね?」

「え…」

「襲われた者がいるのに、ですか…?」

「うん。もし恐怖で忘れられない、誰かに吐き出したいって気持ちがあるなら、本当に忘れて貰うのも、吝かではないよ」

「!」


学園長の言動は軽いが、目はどこまでも本気だ。


「…何故ですか?学園の不祥事を隠したいのですか?」

「うーん、忘れてくれるならそう思って貰って構わないよ。学習先の生態変化を把握してなかったと言われればそれまでだしね?

でも、この事態は皇帝陛下も把握していて、調査に協力してくれる事になってる」

「!」

「余計な茶々を入れられたくないというのが正直な所かな。君達の年代は特にネームバリューが豊富だから」


私のファクトヒルデ家、ネアシェのシドレ家。ララさんチームにも貴族はいる。

特に私のファクトヒルデ家は水を司る家であり、このエルスヴァティの森はシドレ家の領地である。だがそこにわざわざ皇帝家が直接絡んでいるとすれば、私達の返答は1つしかない。


「…わかりました」

「承知致しました…」


チームのリーダー格が返事をすると学園長は映像を消す。


「はい、ありがとうございます。では皆さんで返事をしてくださいね。





【巨大ストルプに関する全ての情報は、ここにいる人間以外には決して伝えない】」

「……? 【はい】…!?」


返事をした瞬間、何か重くなったように感じた。他の皆も返答すると違和感を感じたらしく、動揺している。


「一度発した言葉は覆せぬものです、それが意に介さぬモノでも……皆さん、決して口外してはいけませんよ」


どうなっても、知りませんからね?と微笑んだ学園長はーーーどこまでも、恐ろしく感じた。











「学園長、よろしかったのですか?あのように脅すような真似……」


管理人室には学園長とリンドウ、レイサがいた。他の皆は退室し、学園長は窓の外へと視線を落とす。


「ええ、今存在を知られる訳にはいけませんから」

「それはそうですが…」

「多分、アインルーガは気付いてると思いますけどねー」

「えっ?」


リンドウの言葉にレイサは目を見開く。


「あいつの【光】は、最近見なかったほど適性が高い。湖の底に眠ってた()()の存在を無意識に感じ取ってたみたいだしな」




学園長が机の引き出しの中から本を取り出す。ソレは昨晩、湖の底から見つかった魔導書(グリモワール)だった。

深淵を連想させる煙は出ていないが、その周囲には封印魔法がかけられた鎖が巻かれている。


「結構厳重にしておいたんだけど…それが優れた適性魔力持ちの感覚ってヤツなのかな?大変そうだよねぇ、彼も」

「そうですねー」

「……エルスヴァティの森が難易度の上がる5年生の林間学習地に毎年なっている理由の1つが、湖が長年清浄だったからなんだけどなあ…」

「水場は、周囲への影響を顕著に表しますからね」


魔導書から出る煙は禍々しいのに、本の生地自体は白いものだった。隙間から浄化の力が漏れているが、それ以上に煙に巻かれてしまっている。




「その長年清浄さを保たせた魔導書を【穢した存在】…なんなんでしょうねー」

「物なのか、出来事なのか、それとも……」





「人なのか、だねえ」
















そして、その後。


林間学習の最終日は、本当に昼食を食べるだけだった。

私達やララさんチームの面々は、朝の出来事を思い出しながら上の空で参加するのだった。





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