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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
31/125

【15】



ベンチの空いている所に腰掛ければ、嫌そうな顔をしたが場所は変えないようだ。

これで会館に戻ってくれれば楽だったのだけれど。


「先生方が慌ただしくなければ放っておくのですけれど」

「じゃあ勝手に戻るから放っておけ」

「受付の方には借りがありまして」

「令嬢が一般人からの借りなんて気にしないだろ」

「1個人としては気にしますわ」

「……お前、やっぱり5年になってどっかの誰かと入れ替わったんじゃねえの」


中々鋭い所を突いてくる、流石天才児か…。内心ドキドキしつつ外面は何でもないように振る舞う。メイルーンはそういう事が得意で良かった。


「心を入れ替えたのは否定しませんわ、敵を作る今までのやり方は辞めたのです」

「ふん、どうだか…去年までえげつない事をやっていた奴は、そう簡単に変わると思わねえよ」

「まあ、まだ始まって数ヶ月しか経っていませんから…これからですわ、これから」

「そんな簡単に一度貼られたレッテルが変えられるかよ」


いつの間にか私の話になっているが、私はレオニダスの話を聞きに来たのだ。

そしてハッキリ言わないとこの人は自分からは言わないとゲームで知っているのだ。




「こんな風に…朝、ロンギヌス様に真っ先に反論するのはあなただと思いましたわ」

「!」

「あなたは身分は気にしないと思っていたけれど。……ロンギヌス様は、気にするのかしら」


レオニダスの体があからさまに強張る。


「お前…この事に関して嫌味言うつもりなら本気で怒るぞ」

「嫌味ではないわ、ただ1人で悩んで苛立って、こちらに影響があるのが嫌なだけよ。明日の課題も分からないし」


レオニダスは今日の事を思い出したのか押し黙る。

朝から昼まではハイペースで進み、あの事件の後はアインルーガ様とのコンビネーションが上手く機能しなかった。

前線の機能不全は後衛であるこちらの負担となる。




「………」

「…悩むのは別にいいのだけどあなたもアインルーガ様も、いい意味でも悪い意味でも馬鹿正直なのだから」

「はあ!?」

「どうせ隠せないのだから互いに言いたい事言えばいいのに、とは思うわ」

「隠せない、互いにって…」

「あら…今日の後半、様子がおかしかったのはアインルーガ様もよ」

「アインルーガも…」


前線の機能不全はレオニダスもだが、アインルーガ様もどこか上の空で気を引き締められていなかった。

多分自分に集中していてアインルーガ様の様子を深く見ていなかったのだろう。


「…お前さ、アレ覚えてるか?」

「アレ?」

「初等部1年の時の…学園の一部が吹き飛んだ、アレだよ」

「ええ、覚えてるわ」




アレ、と言われ思い出す。

魔石…高密度の魔力が物質化した物を指すのだが、それが暴走する事故があった。学園の一部が爆発し、燃え移ったせいでかなりの騒動になった事をメイルーンの記憶から引っ張りだした。


「あの事故、やったのは俺なんだよ」

「………」

「厳密に言えば違うけど…魔石を爆発させたのは俺だ。箝口令が敷かれたから、知らないだろうけどな」




………ごめん、ゲーム本編であなたが語ってたから詳細知ってるの………。






レオニダスのイベントの1つ。過去の失敗を露呈し、主人公に励まされるエピソードがある。

初等部に入学して間もない頃、今朝のようにロンギヌス様がアインルーガ様に対して罵声を浴びせた事があった。

最初に会った皇族がアインルーガ様だったためレオニダスの皇族に対する態度は世間一般では不敬と言われるものであり、罵られたレオニダスはロンギヌス様と口論になった。

それに対してロンギヌス様は護身用に持っていた魔石を使って傷つけようとした。レオニダスも口論で頭に血が上り対抗しようとし、魔力制御が疎かになっていた状況で大量の魔力が魔石に流れ込み、ドカン。

レオニダスの魔力はその頃から強く、火の魔石だった事も合わせてかなりの規模の爆発が起きた。

アインルーガ様とロンギヌス様は互いに己側に非はないとしたが、レオニダスの意見は平民であったが故に聞き入れられなかった。

事故として片付けられる事となるが、レオニダスはロンギヌス様との直接的接触を禁止された。危険であり、将来に影響されるとして…平民であるが故に、責任の一端を負わされたのだ。

箝口令を敷かれたため世間的には3人の出来事などは知られていないが、レオニダスが貴族の養子となった理由としてストーリーでは普通に話していた。




「…あら、そうなの?というか箝口令が敷かれた話を私にしてはいけないでしょう」

「結構あっさりした反応なんだな。別に、最近のお前ならアインルーガの手助けになるんじゃねえかって思っただけだ」

「…なるほどね?平民の味方になりそうだ、と」

「…功績を立てて、力を持てば貴族になれると思った。だがガキの功績なんざ微々たるものだ」


将来あなた貴族になるわよ、と伝えたい所だが要らぬ疑いをされたくない。

それに、約2年後の古代海魔の出来事が起きるかもわからない。




「……あなたに貴族は似合わないわ」

「何でだよ」

「貴族社会のルール、しがらみ、様々な出来事…学園にいると感じないかもしれないけれど、相当複雑で面倒なのよ。

それに、アインルーガ様は友のあなたにそのままでいて欲しいと思うから」

「!」


平民でも貴族でも、レオニダスのまま友であって欲しかった。とは、アインルーガ様のゲーム本編中の言葉だ。


「……去年まで散々侮辱してた癖に」

「それはごめんなさい。でも先ほども言ったでしょう、心を入れ替えたのよ」


雲が晴れ、月が辺りを照らす。闇夜に紛れるのも無理だとベンチから立ち上がり、会館へと戻る事にする。


「………」

「婚約者がいる身で男性と2人でいたら、有らぬ疑いを持たれてしまうわ。面倒な貴族の1つだから、覚えておきなさい」

「…ああ、わかったよ。俺はもう少ししてから戻る」

「そうして頂戴、ではご機嫌よう」


挨拶をして立ち去った。








「こんな時間に、令嬢が婚約者以外の男子と会ってはいけませんよ?」

「ネアシェ」


会館の裏のちょうど見えない場所にネアシェがいた。


「いつからいましたの?」

「メイルーンが会館から出てすぐくらいかしら?課題の時からレオニダスさんの様子がおかしいのは分かっていましたから」

「つまり最初からですわね…」


人払いはしましたよ、とネアシェは微笑んだ。

ネアシェもアインルーガ様とレオニダスの空気感を分かっていたのだろう。話す所を見守っていてくれたようだ。ネアシェは自分から動く事はあまりないのだけど、いつも寄り添うように側にいてくれる、とこの2日間で良く分かった。


「ありがとう、ネアシェ。…あなたと友人になれて良かった」

「?…私も、メイルーンと友人になれて嬉しいですわ」


ネアシェもそのままでいてね、と願うばかりだ。

受付の人に報告すれば、女の子が1人湿布薬をもらった行ったと教えてくれて、安堵するのだった。

















貫け、雷槍(エヌマ・ヴォルティス)


バチバチッッ!!と雷が夜空に明滅する。槍と化した無数の雷が魔物を貫く。


「…リンドウ先生、あれを」


リンドウとレイサが見た先には、巨大魚となったストルプ。昼間メイルーン達が見たように、体力が0になっていなくても魔力に還っていった。


「学園長にも確認して貰いましたが…解決は現時点では難しいと」

「んーここまで広がっちまうと無理だなー。明日の予定は変更すっか」

「やむを得ません、危険ですし。近くにいすぎると彼らに影響があるかもしれませんから」


湖の周りにはいくつもの戦闘痕があり、他の教師達も巨大ストルプを討伐していた。


「……最近の水質の変化と関係あるんでしょうか」

「こうなると、水質の変化も()()の影響かって思っちまうな」





2人の目の前には、影すら生温いと思わせる深淵の煙を纏った魔導書(グリモワール)があった。





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