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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
29/125

【13】



あの後。

リンドウ先生も来てくれて、湖周辺は立ち入り禁止区域に指定された。調査のために先生達が集まり、学園に応援要請も出したという。

レイサ先生から報告を受けたリンドウ先生が、珍しく真剣な顔になっているのが気にかかった。







そんな事があり、中止かとも思ったが課題はそのまま続けられた。だが状況説明などで大幅なタイムロスとなってしまったため、残り時間は少なかった。



「助けて下さってありがとうございました。お礼と言ってはなんですが…私達が捜索した範囲をお伝えします」


ララさんのチームのリーダー的な方はルタ・マインという中立派閥のマイン侯爵家の方だったが、チーム仲は良好のようだ。チームの総意である、と言ってくれた。


「助けられたのは偶然だ、礼を貰う程ではない」

「偶然でも、友人の命は救われました。礼を尽くさなければ気がすみません」

「…では、こちらの情報も渡そう。それが条件だ」


アインルーガ様は諦めたように小さく息を吐き、地図を見せて貰った。ルタさんは嬉しそうに情報を共有し、私達はチームのメンバーと話し合う。


「本当にありがとうございました、メイルーン様!」

「アインルーガ様も仰っていたように、本当に偶然よ。それに、私だけだと間に合わなかったわ」

「レオニダスもありがとうな!」

「…ああ」


レオニダスの射撃がなければ、ララさんやチームメンバーはタダでは済まなかっただろう。それどころか、恐らく死んでいた人もいた。

同じクラスの男子から礼を言われ、レオニダスは不器用に返す。その男子はレオニダスの反応に慣れているのか、めげずにしつこいくらいお礼を言っていた。

他のチームメンバーもお礼を言い、レオニダスはその中心で居心地悪そうにしていて思わず笑ってしまう。隣から小さく笑う声がして見ればネアシェも同じようだ。

アインルーガ様とラタさんの情報共有は終わったようで、こちらに戻って来た。


「残り時間は少ないですが、出来る所まで頑張りましょう」

「ああ、互いに気をつけよう」

「メイルーン様、ネアシェ様、また後でお会いしましょう!」

「ええ、ララさんも気をつけて」

「また後で」


ララさんチームは森の中へと入っていき、アインルーガ様は地図を全員に見せる。

ちょうど私達が捜索した範囲の隣ぐらいを探したらしく、合わせるとかなりの範囲を捜索出来た事となる。


「というか…消費した時間と比較して、明らかに私達だけで捜索するより広範囲に調べられた事になりますね」

「ああ、向こうも探知魔法を使いながら探したようだし信用していいだろう」

「ええ…予想外のプレゼントですね」


これなら、終わりまでにかなりの範囲を捜索出来そうだ。これで見つからないなら、恐らく運がなくて違う方向だったのだろう。

というか、


「全員で協力出来ないかしら…それで全域が捜せるくらいですわよね」


と思う。というかチーム毎で分担してエリアを決めればギリギリ全域を調べられる、と思われる。時間経過も加味して上手く事が運べば余裕が出来るくらいか。


「………」

「………」

「………」

「えっ、なんです?」


全員がこちらを見ていた。


「…お前が言うか?」

「………。確かに前年度まで対立を煽っていた私が言う事ではないですね」


学年を二分し、対立を深める原因だったメイルーン。協力出来ればと零したのは現代の私に他ならない。

ネアシェも苦笑しているし、レオニダスは呆れたような目をしている。アインルーガ様は、目を見開き驚いたように固まっていた。メイルーンは見た事のない表情だ。


「ア、アインルーガ様?」

「………」

「アインルーガ様…?」

「…すまない、少し驚いてしまってな…」

「ほら、お前が変な事を言うからキャパオーバーしただろ」

「キャパオーバーしてたんですか!?」

「してない」

「いてっ!?」


アインルーガ様はレオニダスの肩を拳で叩き先に歩き出した。その表情は変わらないが、どことなく恥ずかしさと不機嫌な雰囲気を持っているのが分かる。

アインルーガ様は基本的に無表情だが、意外とわかりやすいのだろう。メイルーンは、氷のような皇太子然としたアインルーガ様しか知らないからこんな反応は初めてだ。


「…話の通じそうな相手に会ったら、情報交換出来ないか聞いてみよう」

「はい、ありがとうございます。アインルーガ様」

「いや…そもそもこれは、そういう課題なのだろう」

「そういう課題…?」

「全チームが協力すれば、森の全域を捜索出来る…というな」


聞けばアインルーガ様は課題の資料を見た段階で、チーム数で地図を分割すれば森林の全域を捜索出来る事は分かったらしい。

だが、協力を漕ぎ着ける暇もなく朝のロンギヌス様の騒ぎが起き、話をする間もなく始まってしまった。


「じゃあ言えば良かっただろ?」

「あの朝の状況で協力すれば、と言い出して受け入れたか?」

「…無理だな」

「流石はアインルーガ様…と言いたいところですが、何も言わずに進めたのはいけませんよ?言って頂ければ私がロンギヌス様を諭す事だって出来たのに…」

「ネ、ネアシェ…中々強気ね?」


アインルーガ様の状況把握能力、先見の目には驚く。それ以上にネアシェの発言はロンギヌス様派閥に聞かせられない。


「私に貸しを作りたいでしょうから、多少は耳を傾けるでしょう?」


ネアシェの生家、シドレ家は中立派閥であるため、自分の派閥に引き込みたいだろう。にっこりと笑って言うネアシェに穏やかながら公爵令嬢の強かさを見た。

そしてコソッと耳打ちをしてくれた。


「先程驚いていたのは、メイルーンが言ってくれたからなのですね」

「え?」

「自分が言いたくても言えなかった事、飲み込んでしまった言葉を、です」


先程のアインルーガ様の表情は、だからかと納得する。何事においても全体を俯瞰して見て、先の先を読んでしまうが故に言葉を飲み込んでしまったアインルーガ様。

メイルーンはそんな事も察せず側にいたのだと分かる。


「教えてくれてありがとう、ネアシェ」

「いいえ…恐らく私が言った事も一度は考えた事かと思われます。何も伝えてくれなくて悔しいので、意趣返しです」

「…シドレ家に迷惑はかけられない、ですか。アインルーガ様らしいです」

「ええ、本当に」


ネアシェが言ったロンギヌス様に話をする、という手段を使わなかったのはシドレ家の…引いてはネアシェのためだろう。

貴族間の貸しとは碌な事にならないものだ。


「全く…行くぞ、出来うる限り課題達成を目指す」

「ええ、そうですね」

「そうだな」

「かしこまりました」









そして数時間後。

魔導書(グリモワール)を得るチームがいないまま、2日目の課題は終了したのだった。




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