【12】
「火人の射手!」
後ろから五本の火の矢が魚に向かって飛んでいく。レオニダスが放ったそれは当たり、傷つきはしなかったがぐらりと巨躯が揺らいだ。
「!」
それでも下敷きになりそうだった男子を微々たるものだが引っ張れば、すぐ横へと巨躯は大きな音を立てて落ちてきた。
すぐさま距離を取ろうとするが、巨大な眼球がこちらを見て、目が合った。
「っ、ぁ…」
「森の悪戯!!」
体に何かが巻き付いたと思ったら、強い力で引っ張られた。痛みに備えるが受け止めたのは草のクッションであり、周りを見れば湖近くにいた6人も同じように引き寄せられたようだ。
「魚か!?」
「にしても大きすぎだろ!」
体に巻き付いたのはネアシェの魔法で現れた蔦であり、草のクッションから降りる。離れて見れば巨大な魚は人1人容易く飲み込めそうなサイズだった。
アインルーガ様が巨大魚と私達の間に割り込み、私達も体制を立て直す。
「火魔法が弾かれた!注意しろ、強いぞ!!」
「ええ!…?」
レオニダスの言葉に身構えるが、巨大魚は地面の上でビチビチと跳ねている。思えば納得だが、水中でないから自由に動けないようだ。
「…油断はするな。メイルーンかネアシェ、解析魔法は出来るか?」
「私が。少し時間がかかりますわ」
ネアシェが無属性魔法である解析魔法を唱え始める。
「メ、メ、メイルーン様…」
「無事で良かったですわ、今は目の前の敵に集中を」
ララさんは目にいっぱいの涙を溜めて恐怖に震えていたが、手には武器が握られている。
「眼前の脅威を示せ 敵性捕捉」
ネアシェの側に巨大魚のステータスが出現する。全員に共有され、驚愕する。
「レベル7!?嘘でしょう!?」
ステータスを見ればレオニダスの火魔法は弱点属性であり、レベル7ならば貫通しても良さそうだ。なのに先程は貫くどころか傷すらつけられなかった。
全員巨大魚にただならぬ物を感じた瞬間、ヒレで大きく地面を叩く音がした。そして、
ドンッッ!!
巨大魚は突然、空気中の魔力へと還った。
前触れもなくただ突然で、私達は呆然とする事しか出来なかった。
「……消え、た…?」
「魔力に還った…解析魔法では、体力は減っていなかったはずなんだがな」
アインルーガ様は湖に注意しながらも魚がいた場所へと向かい、私達も後を追って近付く。血も何も流さず、体力も減っておらず、魔力に還った。
「魔物…だったんですよね?」
「この湖に生息する、魚系魔物の一種でした。ですが…」
ララさんからの問いにネアシェは口篭る。
食用の物とは別に、魔力を持ち人を襲うモノの総称として魔物と呼んでいる。魔物を食用とするには魔力を除外する必要があり、今消えた魚は【ストルプ】という魔物だった。
私の知っているストルプは食用にすると美味しい、そこそこ希少価値の高い小さな白身魚だった。
「…突然変異、ですかね?」
「とにかく、湖にまだいるかもしれない。先生を呼んで、立ち入り禁止区域にしてもらおう」
「確かに、他の皆さんはこの現象を知りませんし危険ですわ」
「そ、そうですね…私達も、メイルーン様が助けてくれなければ…」
ララさん達のチームは身を震わせ、青ざめていた。ララさんは地面へと座り込んでしまい、恐怖を思い出して涙ぐんでいた。
すると、周囲の魔力が一点に集まる感覚を覚えた。
「緊急要請とは、どうしました?」
「レイサ先生!」
移動魔法で来てくれたレイサ先生に全員が安堵する。アインルーガ様が時計端末から緊急要請を飛ばしてくれたようだ。レイサ先生は状況を見て、アインルーガ様に近寄る。
「先生、俺達はここで魔物と遭遇して…」
「魚系魔物、ストルプが巨大化…水からララさん達のチームを強襲、ですか…」
説明を受けてレイサ先生が水へと手を掲げる。
「水霊よ、我が手は祖を掴む者」
「!」
湖の水が盛り上がり、水球となって宙に浮く。水属性の中級魔法を詠唱もなしに利用したレイサ先生に驚くが、それ以上に浮き上がった水球の中に先程の巨大ストルプがいて後退る。
「!?これは…!」
レイサ先生も巨大魚を見て驚愕した所を見ると、初めて見たようだ。しかし、驚愕だけでないようにも感じた。
その瞬間、水球の中で魚が大きな口を開け牙を剥き出しにする。
「飛び込んで来る!?」
「大丈夫ですよ」
レイサ先生が指を鳴らす。
水は一瞬にして凍り、巨大魚も牙を剥いたまま氷漬けにされていた。しかし巨大魚はすぐに魔力に還ってしまう。
「あ…!」
「自らの強い魔力に耐え切れず、還りましたか……」
「自らの、強い魔力?」
「何らかの影響で、ストルプが許容出来る魔力をはるかに超えた量を蓄えていたようですね…原因は後々調べるとして確かに危険です、立ち入り禁止区域に指定しましょう」
レイサ先生は手のひらサイズのカード端末…現代のスマートフォンにも似た端末で、どこかに連絡を取り始めた。
声から察するにリンドウ先生のようだ。
「……」
巨大魚が囚われた氷の球を見て、何もいないはずなのに背筋が凍る感覚を覚えた。
そしてそれ以上に険しい顔で氷球を見るアインルーガ様を見て、言い知れぬ違和感と不安を覚えるのだった。




