【11】
「俺たちは少し周りを偵察してくる。メイルーンとネアシェは食事の支度をしておいてくれるか?」
「わかりました、お気をつけて」
アインルーガ様とレオニダス様は茂みへと消え、ネアシェと準備をする。
「樹木よ、護り抱け。樹の家」
ネアシェの魔法で樹々が動き、巨木の幹の上へと上げてくれる。幹の上は枝葉が茂り、4人くらい余裕で座れそうな広い空間があった。しっかりと編み込むように折り重なっていてかなり頑丈だ。
「相当激しく動かない限り落ちませんし、下からはカモフラージュされて見えないようになってます」
「すごい…すごいわね、ネアシェ!」
「喜んで貰えて良かった。…これでレオニダスさんも落ち着けると良いのだけど」
ネアシェも分かっていたようで、困ったように笑う。いつも微笑んでいるネアシェだが微妙な違いは分かるようになった。
「まあ、朝のロンギヌス様の影響のようですから、仕方ないと思う所もありますけれど」
「ええ…あの方は、相変わらずですね」
ロンギヌス様は平民を心底見下している。むしろ嫌悪していると言っていい。
皇族の恩恵を無償で受け、貴族に言われるがままに流され、卑しく汚い。それがロンギヌス様の【想像する平民】なのだ。
ロンギヌス様のご両親は皇帝陛下、そして皇后陛下。
だがアインルーガ様のご両親は皇帝陛下、その母君は昔皇帝陛下の世話係をしていた平民のメイドで、後の皇妃陛下だ。
平民メイドとの浮気、という醜文を避けるために先代の皇帝陛下などが協力し皇妃として祭り上げる事で終息させようとした。
皇后様の方が先にご懐妊したが皇妃様は早産となりアインルーガ様が先に産まれた。故にアインルーガ様が第一皇太子となり、しばらく後に産まれたロンギヌス様は第二皇太子になってしまう。更に状況も悪く、皇帝陛下は皇妃様へと寵愛を注ぎ、皇后様の産後の見舞いにも行かなかったという。
当然皇后様は大激怒。身重でなくなったために皇妃様へとあからさまな攻撃をするようになる。皇位継承権を争って揉めに揉めた。
そして皇后様は実子のロンギヌス様に対して皇妃様がいかに卑しく汚らしいかを教え込んだという。
それは同時に平民出身の事へも繋がっていき、最終的にロンギヌス様の中で平民差別へと繋がっていった。周囲の人間もそのような考えの者が多かったのも原因だろう。
ゲーム本編ではミレイユの影響もあり少しずつ緩和していくのだが…幼い頃は相当酷かったと書かれていた。
だが、朝の彼は。
「レオニダスさんのあの様子は、ただロンギヌス様が嫌いというより…」
「?」
怒りより、悔しさに満ちていた顔を思い出す。
「ロンギヌスの事は気にするなと毎度言っているだろう」
「……」
アインルーガとレオニダスは茂みを掻き分けながら、魔物を狩っていた。一応魔導書も探しているため探知魔法を使っているが、手ごたえは全くない。
「いや、違うな…そんなに、自分を嫌悪するな」
レオニダスの手に力が入り、銃が軋んだ音を立てる。
「……俺には力がない」
「学年で…いや、初等部で1番の魔法使いはお前だろう」
「そういう意味じゃない!」
足を止め、レオニダスはアインルーガに向かって叫ぶ。
「俺は、お前を護るために学園に入ったのに…まだ、あいつに反論する術すら持たない」
「……」
「昔、初等部に入ったばかりのアレを、ずっと引きずって恐れてるんだ。自分が情けなくて、不甲斐なくて、反吐が出る…!!」
「…昔の事を掘り起こすつもりもない」
血を吐くようにも思えるレオニダスの叫びを、アインルーガは静かに受け止めた。
目を合わせ、静かに見据える。
「アレは俺が責任を負うのが1番都合が良かったと言っただろう?
…とにかくこれからはペースを考えて動くぞ、メイルーンやネアシェに迷惑がかかる」
「っ…!!」
「周りの索敵と探知も終わった、そろそろ戻ろう」
背を向けたアインルーガに、レオニダスはまた自分の不甲斐なさに目を背ける事しか出来なかった。
戻ってきた男子2人の様子は暗く、状況は改善したようには見えなかった。
私とネアシェは手出しする事も出来ずに食事を食べる事しか出来なかった。
そんな中、湖の方から近づく声が聞こえてきた。
「?」
「他のチーム…かしら?」
見れば6名ほどが湖の近くに居て地図とにらめっこしている。笑い合いながらも相談している中に、見知った顔を見つける。
「あら、ララさん」
「本当ですわね、挨拶致します?」
樹の家の効果もあり結構近くにいるのだが相手側は気付いていないようだ。他2人を見れば頷かれたので、ネアシェに頼んで全員が地面へと降りる事にした。
ちなみに樹の家は人がいなくなりしばらくすると自然に戻っていくらしい。
「……おい、ちょっと待て」
「?」
「あれ…なんだ!?」
レオニダスが指差したのは湖だった。
ララさん達がいる近くの水場からコポリと水泡が上がる。不思議ではないが、次から次へと上がってくる水泡は段々と大きく激しくなっていく。
地図を見ながら話すララさんやチームメイトは気付いていないようだ。ぞわり、と嫌な感覚が肌を撫でた。
「ララさん!後ろ!!」
「えっ?」
樹の家から飛び降りララさんに向かって叫ぶと同時に、一際大きい水泡が弾けた。
バシャンッ!!
「なっ!?」
「危ない!」
湖から飛び出したのは、巨大な魚。ただの魚でなく、魔物に思わせるグロテスクな体躯を持ったそれは、ララさん達の頭上へと飛び出したままに落ちようとしている。
分厚い唇が開いたと思ったら、鮫に似た牙が幾本も剥き出しになった。
ーーーこのままいけば、牙に噛みつかれ、巨躯に押し潰され、数名は亡くなるだろう。
ララさん達はやっと視認し逃げようとするが遅すぎる。
「水のや…!」
だめだ、間に合わない!




