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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
23/125

【7】




「生意気なのよ、男爵令嬢風情が!!」

「ひっ…!」



……1日目にして、とんでもない修羅場に出くわしてしまった。
















食事を終え女子棟へと戻った私は、まず戦闘やらで汚れた体を流すことにした。汗は出たし土煙は浴びたし、今思うとこんな姿で人前に立つのは若干恥ずかしい。

部屋にはお手洗いに洗面台、お風呂。公爵家の浴室より遥かに小さいが、現代の時より大きいサイズだ。

ナタリーなどが入浴の手伝いをしてくれるから1人でのお風呂は久しぶりで思わず長風呂してしまった。最初は入浴を手伝う人がいるのが恥ずかしかったが、もう慣れたものだ。


お風呂から上がりケアをして着替え、一息つく。さっぱりとして温かいからか若干眠たい気もするが、まだ少し早い時間だ。

管理棟にはラウンジや遊戯室のようなものがあったと思いそちらに行こうかと考えるが、行っても話す相手がいるだろうか。

まだネアシェとララさん、ユゥイさんくらいしかまともに話さないし、ロンギヌス様側の令嬢に会えばややこしい事が起きる場合もある。


「今日のイベントも、中々酷かったし…」


あの後聞いた話では、ランダムなチーム編成のためアインルーガ様陣営とロンギヌス様陣営が混ざってしまい、まともに機能したチームは今日ほとんどいなかったそうだ。貴族と平民で隔たりがある上に更に貴族間で真っ二つなのだから、尚更難しいだろう。











コン コン


ノックする音を聞き、返事をすれば「ネアシェよ」と返答があった。急いで扉を開ければシンプルなドレスを身に包んだネアシェがいた。

どうやら入浴し、落ち着いた頃に尋ねてくれたようだ。部屋の中へと案内すれば、後ろにいたらしい2人が顔を出す。


「あら、ララさん、ユゥイさん」

「あ、こ、こんばんは…」

「寛いでいる所に申し訳ありません」

「いいえ、どうかしたの?」

「ふふ、部屋の前でうろうろしてたから声をかけたの。メイルーン、良かったら談話室に行きませんか?」


部屋は3人招き入れるには少し手狭だ。


「ええ、2人も一緒に行きましょう?」

「はいっ喜んで!」

「はい、ありがとうございます」


手早く貴重品だけまとめ、4人で管理棟にある談話室へ向かった。談話室は男女合わせて数人いるが、広さに対して人数は少なめだ。人が少ないのは有難いが意外だ、話好きな貴族は来そうだと思っていたから。




「もう少し人がいるかと思ったわ」

「ええ、そうね…」

「友達に聞いたのですが…今日のイベントの影響で少なからず疲れたから早く寝る、と言っていました」

「みんながみんな、そうじゃないと思いますけど…」

「でも確かに影響ありそうね」


森林の中を歩き回り、魔物と戦闘し。心身共に疲労する人もいるだろう。

空いているテーブルに腰掛ければ、会館の従業員さんが飲み物はいらないかと聞いてきた。ラウンジのカウンターを利用して、色々頼めるみたいだ。全員に確認して温かい紅茶を頼めば、すぐに準備にとりかかっていた。


「ホットティーにミルクやレモンがついてくるみたいですね。メイルーンは何しますか?」

「そうね…紅茶の味にもよるけれど、ストレートのままかしら」

「美味しいと良いわね。ララさんとユゥイさんは?」

「ミルクティー… です」

「レモンティーに致します」


ララさんが恥ずかしそうにしていたので聞けば、ミルクティーのミルク多めじゃないと飲めないらしい。

弟の事を思い出して、思わず微笑んでしまう。


「恥ずかしい事ではないわよ。私も最初は飲めなかったけれど…意地を張って飲み続けたら飲めるようになっただけだもの」


公爵令嬢として、恥ずかしくないように。意地を張るための努力なら惜しまないメイルーンを思い出す。

ミルクティーが子供っぽいとは思わないが、恐らくプライドと見栄えを考えてだろう。


「……あの、大変不躾なんですが…」


ユゥイさんが緊張したように切り出す。口数が多い子ではないから意外だった。




「メイルーン様とネアシェ様、仲良くなられたのですよね…?」

「? 同じチームなのだから、当然よね?」

「そ、その…敬称を外してますので、突然どうなさったのかなと…」


貴族同士では、互いに敬称や肩書きをつけるのが普通だ。それこそ敬称を外すのは家族や特に親しい仲、婚姻関係の方など。

そういえば、先に敬称を外してくれたのはネアシェだ。


「そうですね…正直に言えば、対等な友人に憧れたから、ですかね?」

「あ…」


公爵令嬢のネアシェも、クラスでは単独で行動する人だ。中立である家系上、皇太子2人のどちらに着く事も出来ず、立場的に声かけしづらかったのだろう。





「では…」

「これは私個人が望んだんです。シドレ家も、派閥も、関係ないんですよ」


にっこり、とネアシェが言えば、ユゥイさんは言葉をつぐみ、頭を縦に何度も振った。


「ユゥちゃん、だから言ったのに…あ」

「ちょっとララ!」


ララさんはあわあわしながら訂正しようとした。その延長で2人の時はそう呼んでると漏らしてしまったのでユゥイさんは頭を抱え、私とネアシェは微笑ましく見ていた。


「ララさん、貴族にとって愛称は最大限の信愛の証なんですよ」

「えっ、そうなんですか!」

「ええ…とても2人は仲がいいのね」

「あ〜もうっ、お2人共、いらない事話さないで頂きたいです!」


顔を赤くするユゥイさんは小さくなり、ララさんは嬉しそうに問い詰める。ネアシェと見守っていると、いい香りが届いた。どうやら紅茶が出来上がったらしい。




紅茶を飲みながら談笑し、短時間であったが気軽に過ごす事が出来た。

こういう女子会みたいな事をすると、どうしても現代を思い出すのは仕方がない事だろう。随分優雅な女子会も、悪くない。

明日に障らないように、と紅茶を飲み終わって一息したら部屋に戻る事にした。それぞれ別れ、また明日と告げて部屋の中に入った。










寝る仕度を整えていると、誰かの甲高い音と鈍い音がした。何かと思えば部屋の窓から漏れ聞こえた音のようだ。角部屋で耳を澄ませないと聞こえないが甲高い声は続いており、何かを怒鳴っているようだ。


「……っ」


嫌な予感を感じて外に向かう。入り口の受付の方に少し夜風に当たってくる、と言伝て走った。













そして、冒頭の修羅場に戻る。

月の光も届かない薄暗い学館裏で、女の子…ミレイユさんが追い詰められている。ミレイユさんは俯き、顔を見る事は出来ないが体は震えている。

追い詰めているのはロンギヌス様側の令嬢達だ。子爵や侯爵令嬢達で、確かミレイユと同じチームだった気がする。




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