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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
21/125

【5】



さて、と見る。

子供のイノシシのような魔物、ツノの生えたウサギの魔物、鳥の魔物がそれぞれ一体ずつ。全てレベル5のようだが、実物を目にすると腰が引ける。

レオニダスが前方にいて良かった。





「鳥は俺が」

「任せた」


レオニダスが銃を構え、鳥の魔物に向かって放つ。待たずしてアインルーガ様は駆け出し、ウサギの魔物へと斬りかかった。

空いたイノシシの魔物はこちらに向かってくるが、足元を凍らせて移動速度を落とす。


「ギィッ!」

「っ…!」




これは夢でもゲームでもなく、リアルなのだ。1ヶ月くらい前まで普通の平和な日本にいた女子に、なかなかハードな物を見せてくれる。

レオニダスの弾が鳥の魔物にヒットし、羽をもがれた鳥は地に落ちる。もう一発当たれば、鳥の魔物は魔力を霧散させ消えた。


「あと1体!」


アインルーガ様がウサギを倒す頃、イノシシはレオニダスの目前まで迫っていた。


水の槍(アクアニードル)!」


水の槍がイノシシの体を掠めて動きを止め、レオニダスは少し後ろにさがるが間に合わなかったのか腕に牙が掠っていた。

すぐさまネアシェさんが治癒魔法をレオニダスにかける。だがアインルーガ様がすぐさまイノシシに斬りつけ、私の魔法とレオニダスの弾丸で傷ついていたためかイノシシは魔力を霧散させ消えた。

これにて戦闘は終了だ。




「…初戦闘にしては、上出来か」

「…嫌味かしら?足止めが遅くてごめんなさいね」

「別に期待してなかったし」

「あら、それはごめんなさいね…!」

「もう…レオニダスさん、傷は治りましたか?」

「ああ、ありがとう」


戦闘で傷を負ったのはレオニダスだけだ。それも私の不手際のせいだから、尚更悔しい。

ピコン、とレベルアップの通知が来る。


「…これで基礎レベル2なのね…」





戦闘フィールド内で戦った全員に経験値は入る。ただそれは魔物の決められた経験値を分割して得るもので、貢献度によって配分が変わる。

メイルーンは戦闘フィールドに入った事があるが、魔物1体に対して多人数の取り巻きに命令し戦闘させ、自分は後方で手出ししなかった。取り巻きは子息だったため戦闘経験があるわけでもない、1体に対しても苦戦するような状況。

それで分けられた経験値など微々たるもので、面倒かつ危険、汚れるのが嫌だったので戦闘フィールドにすら入らなくなった。

基礎レベル1だったのは当然と言える。






「私もフォローが遅かった、すまない」

「いえ…アインルーガ様は前線にいたのですから当たり前です」


アインルーガ様は剣についた血を払い、鞘へと納めて戦闘フィールドを解除した。男子2人は再び先へと進み始める。

……先程まで戦っていたのは、確かに生物だった。体力が0になると魔力が霧散して消える魔物ではあるが、血溜まりはまだそこにある。


「…メイルーンさん、大丈夫ですか?」

「え…」

「酷い顔色です。指先もこんなに冷えきって…」


ネアシェさんが手を優しく包みながら、顔を覗き込んで来る。

…甘かった自分を不甲斐なく思うばかりだ。レベルが上がるという事は、魔物を討伐するという事。







「…わかります。私は、初めて魔物と戦闘した初等部3年生の頃…戦闘中、怖くて動けなかったんです」

「え…」

「そしたら、先生が倒してくれたんですけど…間に合わず、友人の1人が私を庇って怪我してしまって」


思い出しながら語るネアシェさんの表情は泣きそうで、その時もそんな顔だったのかもしれない。


「魔物に対する事は恐ろしく、命を奪うのは怖い……でも、魔物を倒さなければ、傷つくのは大切な人達です」

「あ…」

「だから私は、大切な人達を選びました。同じ命を天秤にかけた…私は、最低です…」

「そんな事ありません…!」


包んでくれていた手をぎゅっと握り、目を真っ直ぐに見つめる。


「傷つける覚悟をしたのでしょう、大切な人達の為に。そして大切な人達を救うために、治癒魔法を覚えたのでしょう?

そんな優しい方を、私は…尊敬します」

「…!!」




誰かや何かを傷つける覚悟を、ネアシェさんは持っている。それによって自分が傷つく事になっても、それを受け止める覚悟を。

私の知っている10歳代の少女とは、まるで違う。






「…では私は、ネアシェさんを護るための覚悟をします」

「え…」

「護るために、魔物の命を奪う…いえ、頂きます。そんな私は、最低ですね」

「なっ、そんなわけないです!」


くすりと笑うと、ネアシェさんも微笑んでくれた。さっきと立場が逆になっただけだ。


「…ネアシェ、さん」

「えっ、はい…?」

「もし、良かったら…私と、友達になって下さい」


打算も策略もなく、ただ互いに影響しあい高め合う関係。普通に話して、普通に笑って、普通に喧嘩する、そんな普通な関係。

この世界に来てから、周りにそんなものはなくて…現代では難しくなかったのに、こちらでは身分や立場から無理だと勝手に思っていた。


「…もちろんです、メイルーン。先程は魔物の足止めして下さってありがとうございました」

「ふふ、こちらこそ…よろしくお願いします、ネアシェ」


身分、貴族、という物があるから、難しいけれど…家族と同じように、気安い口調で話せる日が来て欲しいと願う。

そして、目を向ければ前方で待ってくれている男子2人。メイルーンのせいで将来、処刑されてしまうアインルーガ様。


「…話は終わったか?」

「ほら、さっさと行くぞ」

「ええ、待たせてごめんなさい」





勝手に負い目に感じて離れ、逃げてしまっていたアインルーガ様とも、いつか普通の友人になれるのだろうか。








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