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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
15/125

【7】




原本の貸し出し期限を見れば、ちょうど林間学習の日付の後くらいまでだった。年齢毎に日付は若干違うから、恐らく同じ5年生の誰かが貸し出しを行ったのだろう。

植物に関してなので、必須の情報ではないのだが…情報はあるだけ良いという思いから、一応次回貸し出し申請を出しておく。これで期限より前に本が返ってきた場合、通知を貰える。




ピコンッ



「えっ」


申請を出して数分で、原本の返却通知が来た。確かに原本を持っている人の管理カードに、次に待っている人がいる場合表示が出るが…あまりにタイミングが早すぎる。

貸し出しや返却はこの図書室内でしか出来ないから、もしかして私が申請出している所を見たのだろうか。


「…本の管理棚は、あっちのほうね」


場所を保存して、本棚の方に向かう。人は机などの開けた場所に集まっているため、本棚が立ち並ぶエリアは極端に人が少ない。

本を探すのが好き、もしくは目的なく立ち寄ったという人、管理をしているひとくらいしかこのエリアにいないだろう。


そして地理・植物などのジャンルの近くに見た事ある人が立っていた。





「ネアシェさん?」

「えっ?」


同じクラスでありながらほぼ話した事のない、地のノームの名を(いただ)くシドレ家のご令嬢、ネアシェ・ノーム・シドレさんがいた。











ネアシェさんは四大貴族でありながら権力闘争とは離れており、本人も争い事を好まない性格と噂されている。

学園内の行事で何度か話した事はあるものの、メイルーンは彼女を嫌っていた。メイルーンの傾向として、自分と同じくらいの美しさを持つ女性や名のある令嬢は嫌っていたのだ。もちろん元取り巻きの方々も整ってはいるのだが、メイルーンやネアシェさんと比べると一歩劣る、という印象。

ネアシェさんはメイルーンと別方向の美しさだ。メイルーンが薔薇、華やかというならばネアシェさんは百合、可憐という感じだ。


「草花図鑑を貸し出していたのは、ネアシェさんでしたのね」

「……はい…貸し出しを待っている人がいるなら、その方が見たほうが良いと思いましたので」

「申請を出しておいて言うのだけれど、良かったのかしら?」

「大丈夫ですよ、そちらでしたら何度も貸し出して見ているのでもう殆ど覚えてますから」


植物図鑑を間に挟み、ひとまず必要はないと言ってくれて安心した。次回貸し出し申請の表示が出ると、意図せず返す人もいるから。


「それにしても、殆ど覚えてるって凄いのね」

「…我が領地の情報が多いですから」


シドレ家の領地は、地を司るその名を表現するかのように、緑地が多いと聞く。

今回林間学習で行くエルスヴァティの森に始まり、広々とした草原や山林などもある、という情報を思い出す。


「そういえば…この図鑑、林間学習に持って行こうとしていたのかしら?」

「はい、何かあった時のために…」

「あら、じゃあ必要なら言って下さいな。私も林間学習に持って行こうと思ってましたから」

「えっ…あ、はっはい…?」


ネアシェさんは困惑したように弱々しく首を縦に振る。少しナタリーを思い出してしまって、微笑んでしまう。




「あの…メイルーンさん」

「何かしら?」

「…最近、前までご一緒していたご令嬢方と離れていますよね?何かあったのですか?」

「うーん、そうねえ…」

「あ、いえ…申し訳ありません、不躾な事を」

「いいえ、大丈夫よ。そうね、」



このままで行くと没落するから、何て言えないよね。



「その……大変差し出がましいかもしれませんが…例え話をしますと、」

「はい?」

「…馬車の操者が、何もせずに手綱を離しますと馬が暴走します。いくら教育されていても、サラブレッドでも、方向を指し示していた存在がなくなればそれぞれの方向に動こうとしてしまいます。…その積荷が、いくら高価なものでも気にせず、それぞれの思うがままに…」


恐らく、操者はメイルーン、馬は取り巻きの子息令嬢、積荷はアインルーガだろう。

ネアシェさんの言わん事を察するに、馬…取り巻きの子息令嬢達が近頃暴走し始めていると言いたいのだろう。






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