【5】
「やっぱり仕掛けるならアンカーにだと思うんだよな」
「差が致命的になる前に使う方が良いのではないか?」
「妨害の方がいいよね」
私の周りでは話し合いが行われていた。周りの喧騒に消えかけているが、特殊ルールを使うタイミングを考えているのだろう。
クラスメイトが引いたクジを見ながら行っている作戦会議には委員長とレオニダス、アインルーガ様も合流し何故か私も輪の中に入っている。
「…突発的に使う可能性を考えて、効果の低いクジを除外しませんか?」
クラスメイト分…約半分の人数が走り終わっているのでクジがかなり嵩張っている。
効果の高いもの…妨害できる仮装と支援できる仮装を分けてピックアップする事を薦めた。1つ案を出したから、もう黙っていていいかしら。
「…メイルーン様、去年の学園祭みたいに指示出してくれませんか?」
「私が!?」
委員長の言葉に絶対無理!と内心で拒否する。だらだらと冷汗を流れているのを気づかれないよう回避に努める。
「いえ、私はこれから走りますし…!
それに先の先を対策しても運が絡みますもの、突発的な対処が可能な方のほうが良いと思いま…」
「おい、委員長」
私の声を遮るように作戦会議に参加したのはロンギヌス様だ。
「特殊ルールは俺の支援のために残しておけ、屈辱的な格好をするわけにはいかない」
………確かにロンギヌス様はアンカーだから残しておくのも手ではあるけど、屈辱的な格好になりたくないからという理由はどうなのだろうか。
確かにロンギヌス様が女装などすれば…皇族がどうというより純粋に絵面を想像したくない。
「…そうだな、残しておくか」
「まあそれがベストかな」
作戦会議の面々も諦めた…というか嫌な想像をしたのだろう、特殊ルールは後回しにした。クジの選別だけはしておくらしい。
見ればちょうどネアシェの前の走者が障害を超えている所だった。順当にクリアしていき、ネアシェへとタスキがスムーズに受け渡されてスタートし、クジを引き着替えスペースに入っていく。
「当たりの仮装でお願いします…!」
首位のチームが出て来たが外れだったらしく熊の着ぐるみだ。視界が相当悪いのか走るスピードが遅い。
そして次に出て来たのは、豪華絢爛と形容されるドレスを見に纏ったネアシェ。
フリルと刺繍がふんだんにあしらわれたドレスはスカート部分にボリュームがあり持ち上げていないとすぐにつまづきそうだ。
状況が状況だがネアシェに似合っていて、ちゃんと着飾った状態じゃないのにあまりの美しさに目を奪われるが、男子達の野太い歓声に現実に引き戻される。
女子も男子も歓声を上げていて、ネアシェは気にせず障害物へと向かう。
「外れ…だろうか」
「多分問題ありませんわ、ネアシェなら!」
1つ目の平均台はスカートのフリルを抱えるように高めに持ち上げ、慎重かつスピーディに進んで行く。スカートを翻る姿は慣れ親しんだ光景で、障害物に引っかかる事ない。
動きにくさを分かっているからか多少のタイムロスをしてでも障害を丁寧に超えていく方針のようだ。
「ネアシェ、その調子です!」
網潜りも装飾が網にひっかからないよう丁寧に潜り、的当ても順調に進む。僅差ではあるが2位まで上がり、次の人にタスキを渡していた。
私の応援の声に気付いていたのだろう、息を切らしながらも微笑んで手を振ってくれた。私も笑って手を振り、まもなく出番であるためアインルーガ様から離れた。
スタート地点に行けば、すぐさま名前を呼ばれた。
「メイルーン、来たなー」
「リンドウ先生、遅れました」
「いや、まだ何人かいるから大丈夫だぞ」
「メイルーン様!」
私の少し前に走る予定のミレイユ嬢が私を見つけて寄って来た。ニコニコとしていて、部屋を出て行った時の事など忘れているようだった。
「ネアシェ様のドレス素敵でしたね!私もあんな素敵な仮装がいいなあ」
「そうね…」
「メイルーン様の仮装も楽しみにしてますね!」
「ええ、動きやすい仮装だといいわね」
「ミレイユー、ほら次だぞー」
「はーい!」
リンドウ先生に呼ばれてミレイユ嬢はすぐさま離れた。つくづく、元気だな…と思うが、隣から感じた鋭い気配に思わず目を向けてしまう。
ミレイユ嬢を送り出したリンドウ先生がその背中を鋭い視線で見つめていた。それは生徒に向けるような優しいものではなく、今まで見た事がない射抜くようなその目に、思わず驚いてしまう。
「リ、リンドウ先生…?」
「んー、なんだ?」
私に目を向ける時にはもういつも通りに戻っていたが、どこかいつもの緩い先生ではない気がした。
そんなに見方が変わるくらい先ほどの目は印象深いものであり…感情の読めないものだった。
「体操しただろうが、ちゃんと体解しとけよー」
「…はい、わかりました」
ミレイユ嬢が走り始めてしばらくして、私はスタート地点に立つ。
「………」
先ほどのリンドウ先生の様子は気になるけど、まずは競技に集中しなくてはと頬を叩き気合を入れる。
最初から比べるとかなり盛り上がってきていて全員が一丸で応援していて注目されている。
そして今ミレイユ嬢は3位、なのだが。
「あれは…無理そうね…」
ミレイユ嬢が引いた仮装は着ぐるみだ。兎を模した着ぐるみの重量に負け、ふらふらと進んでいる上に障害物に相当時間がかかっている。
想像通り追い抜かされて最下位へと転落してしまい、チームメイトから落胆したような声が上がる。
ミレイユ嬢はふらふらしながらも的当てをクリアし、こちらへと向かって来ていた。腕に通していたタスキを外しながら向かってきて、私の少し手前で足をもつれさせた。
「あぶなっ…!」
タスキを外すために腕は塞がっており、そのまま転べばいくら着ぐるみを着ていても怪我は免れないだろう。
避ける事も出来たが、思わず前に踏み出し倒れ込む体を受け止める。1人分の体重に加え仮装の重量も相まって、後ろに倒れ込みながら下敷きになった。
「っ〜〜いった…っ」
「メイルーン様!」
着ぐるみの頭が吹き飛び、顔を出したミレイユ嬢が上から見下ろしている。
ーーーこの子…!?
「大丈夫ですか?」
「っはい!ミレイユ嬢、タスキを!」
「お願いします、メイルーン様!」
先生に声をかけられてハッとし、タスキを受け取って走り出す。受け止めた時にぶつかった節々が痛むが、とりあえずやることをやらないと!
「クジを引いてください」
「はいっ」
急いで引いて、着替えスペースの中に入る。中は広い試着室のようになっていて、置いてあった魔法道具に時計端末とクジを読み込ませるとサイズの合った仮装が現れた。
私が指定されたのは制服。大当たりの仮装だ。
「早く着替えないと…」
仮装に着替えようとした時、手首に突然痛みが走る。
「痛…っ」
ミレイユ嬢を庇った時、手を捻ったのかもしれない。痛みで指が痺れるが、動かせない程ではない。多分後でネアシェに怒られてしまうけれど、負けたくないから今は無視!
制服に着替え最低限の身嗜みを整えて着替えスペースから出ると少し前に1人、更に先に1人。3位に上がれたようだ。




