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おくろり(仮)  作者: さく
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二話

 男が戻ってきた住み処は、そこそこの広さがある自然洞窟である。

 暑さに弱い男には過ごし易い場所だが、エルフの娘には少々厳しい環境かもしれない。

 一旦自分の寝床に娘をゆっくりと寝かせると、洞窟の奥から寝わらを抱えて戻ってくる。

 その上に、木綿のシーツをかぶせれば簡易な天然ベッドのできあがりだ。

 改めてその上に少女を寝かせると、近くに杖を立てかける。

 火をおこし、洞窟内の温度を少し上げる。何か毛皮などがあれば良いのだが、あいにくそのようなものはここにはない。

 火に照らされた娘を眺めて、人心地つく。

 呼吸は安定しているし、肩の傷も問題ない。しかし、見れば見るほど幼さが残る風体をしている。とても、魔狼と一戦を交えたとは思えなかった。

 人間の年齢に照らし合わせれば十歳前後といったところか。

 エルフは長命であるためか、成人するまではゆっくりと成長すると聞く。人間の成人が十五歳と聞いた事があるが、皆目見当が付かない。

 この辺りでエルフを見かける事は無い上に、男自身も実際に見るのは初めてであった。


 パチパチと薪のはぜる音とともに、まずは考える。


 娘の所持品は、この杖と、腰のマジックポーチくらいだ。

 それ以外は切り裂かれた衣服だが、衣服の替えがポーチにあると信じたい。

 ただ、杖もそうだが、今着ている衣服は明らかにこの娘の体格にはあわない。

 魔道士は比較的ゆったりとしたものを纏う傾向があるが、この娘はゆったりを通り越してぶかぶかであった。


 ともあれ、どういう経緯でここに来たのかを問う必要がある。

 無害なのであれば――いや、有害なエルフが居るというのも考えにくいが――人里に連れて行くのもいいだろう。

 それに、戦慄の咆哮で竦むレベルなのだ。何かあれば自分が始末を付ければいい。


 問題はこの娘が目覚めた後なのだから。


 * * *


 妙にゴワゴワとした感触を背に抱く。

 ツンとする刺激臭が鼻を突くが、それほど不快ではない。

 頭が徐々に覚醒していくと、木綿の布の上に寝かされている事に気づいた。

 藁の上に木綿の布をかけた簡易ベッドは宿のない村で、馬小屋などを借りたときによくやる手法だ。


 横からパチンという薪のはぜる音が聞こえる。


 確か、パーティをしていて洞窟に入って――。

 いや、何か違和感がある。


 記憶が混濁しているのか、断片的な記憶がまばらにフラッシュバックする。


 そうだ。


 気づいたら、森の中に居た。

 そして、魔狼に襲われる最中、突如乱入した巨大なオークが、咆哮を上げ、その後の記憶が無い事から、おそらく気絶したのだろう。

 となると、運良く通りがかった誰かが、オークを討伐し、私を助け、ここに寝かせてくれた……。


 いやいやと心の中で頭を振って、否定する。


 そんな都合のいい話があってたまるか。

 あの、魂の奥底を震わせるような咆哮を聞いて、心が折れない冒険者は数える位しか居ないだろう。


 良くてもジェネラルクラスだ。それがこんな森の中に単騎で居ることに違和感も覚えるが、少なくとも、通りすがりの冒険者が倒すなんてレベルの相手ではない。


 だんだんと思考能力が回復していく。

 天井の形状からして、ここはどこかの洞窟で、私は何者かが拵えた寝床を陣取って寝ているわけだ。

 そして、どういう理由かは分からないが命を拾ったことは確かだ。

 まずはそのことに感謝しなければならない。


 ゆっくりと身体を傾け、そして、漏れ出る悲鳴を押し殺すのに精一杯だった。


 目の前には、かのオークが火の番をしていたのだから。

この世界では、オークは、無名<ハイ<ジェネラル<ロード<キングの順で強いとされています。

ただ、あくまで冒険者側の尺度であり、オークからしてみれば、知ったことでは有りません。

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