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カレンデュラ・カプリチオ  作者: 琳谷 陸
1.おいでませ異世界
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6.ついでに言うと財布扱い

6.ついでに言うと財布扱い




 水城茉莉(みずきまり)は就活中の大学生である。

 その日もイベントで合同開催された複数社の会社説明会を終え、とりあえずエントリーシートを出して帰宅した。

 両親は共働きで、一つ下の妹は別の大学で部活動に精を出していて、まだ帰っていない。

 玄関の鍵を開けて、念の為にもう一度施錠。最近はニュースでも時折物騒な事件も報道されるし、家に女の子一人なのだから用心するに越した事はないと思ったのだ。

 廊下の電気を付けて、階段を上がって二階の自分の部屋へ。そして、ドアを開けて室内灯のスイッチへと、手を伸ばした。




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




(そう。そのはずだったんだけど……)

 今現在、何か違う世界にいるらしい。

 何で。

(これ、あれだよね? 由奈(ゆな)が良く読んでたラノベとかアニメとかの……異世界転移、だっけ?)

 妹の事を思い浮かべ、苦いものが口に浮かぶ。

(由奈だったら、むしろ喜んでたんだろうな……)

 好奇心が旺盛で、好きなことがあって。やりたいことに一直線。自分とは正反対の妹。

 いつも前向きで、きっと今のこの状況だって彼女なら楽しめた。

 そんな場合じゃないのはわかっていても、

 ――――羨ましい。

 ぷるぷると頭を振って、考えを払う。

(なに考えてんの。とりあえず今は、しっかりしなきゃ)

 半年掛かるとは言われたけど、帰れる。

 しかも半年、ちゃんと衣食住が保障してもらえるなら、これ以上望むとバチが当たる。

(大丈夫。大丈夫)

 普段ならあり得ないと本気にしないだろう状況でも、実際にそうなっているのだから、混乱する方が危険だ。

(ちょっと変わったインターンだと思えば……)

 まあ、それは無理のある想像だけど、とにかく。

(この人たちは、私に危害を加えない)

 それだけわかっていれば充分。

「マリさん。あの」

「あ。はい」

 目の前には、十代半ばくらいの可愛い雰囲気の少女。

 黒い軍服に似たデザインの制服と思わしき服を身に付けていて、スカートは膝より少しだけ上。編み上げになっているブーツを履いていて、髪は染めているわけでも無いのに深い緑。ボブで毛先の方に緩くパーマをかけている。大きな緑の瞳がとても綺麗で、額には薄紅色の楕円形の石があった。

「とりあえず、ですね……えっと、明日、日用品を買い出しに行くので、その、嫌だとは思うんですけど」

 困ったような顔で、若干顔を赤くして、ミウという少女は先ほど目の前で仕立てられた服を渡してくる。そして小声で男性達には聴こえないように囁く。

「今夜だけ、目の前で会ったばかりの男性が仕立てた下着なんて嫌だとは思うんですが、我慢して使って貰えますか?」

「はい。大丈夫ですよ」

 確かに目の前で下着を仕立てられたのには若干引いたが、替えがない方が嫌だし、仕立て屋だというなら仕事をしただけだ。

「明日、絶対買いに行きましょうね」

 ぐっとガッツポーズみたいにして両手の拳をにぎって見せるミウに、何だか異世界の人とか関係なく可愛いなと思えてしまって、結果的にクスッと無意識の笑みがこぼれる。

「やはりミウさんで正解でしたね」

 ルシアがうんうんと頷いて、ミウがジトッとした目をルシアに向けた。

「…………」

 ラッセルが深く溜め息を吐いてから、面々を見回す。

「マリ、だったか。彼女に部屋を用意して昼食をする。とりあえず貴様ら帰れ」

 ミウには礼と何時くらいに明日来るかを聞いて、ルシアとシェルディナードには用が済んだらとっとと帰るようにラッセルが片手を振る。

「えー。呼びつけといて冷たくね?」

「私が呼んだわけではない」

「あ。ラッセル。帰っても良いですが、ちゃんと明日はマリさんとミウさんのエスコートして下さいね」

「おい。何故、私が!」

「当たり前でしょう。君が保護者。家主で買い物の予算握っている上に、か弱い女性に荷物を持って一日歩けと?」

「荷物持ちではないか!」

「そう言っておりますが」

 ついでに言うと財布扱いもされている。

 それを聞いてシェルディナードがクックッと笑った。

「いいじゃん。何なら、俺が代わりに行ってやろうか?」

 両手に花、とか楽しそうな顔に、ルシアが一瞥もせずに言う。

「ミウさんの苦労が増えるだけでしょう。却下です。ラッセルがいない所に君をつけるなんて、羊を狼に差し出すようなもの」

「マリさん。シェルディナード先……様はセクハラするので、近寄っちゃダメです。ラスティシセルさん、お願いします」

 ミウが真顔でそう言うと、流石に断れなくなったのかラッセルが苦い顔をする。

「なあ、俺の扱い酷くね?」

 とは言いつつ笑っているのでシェルディナードもすぐに引き下がる。

「んじゃま、ラスティシセル。ミウよろしくな」

「……わかった」

「すみません。うちのシェルディナード様が信用なくて」

「気にするな。今に始まったことではない」

 ラッセルは溜め息をつき、かくしてマリの滞在(ホームステイ)と明日の予定は決まったのだった。

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