49.皆さん自意識過剰なんですよ
49.皆さん自意識過剰なんですよ
「それはそうでしょうね」
「あ。……ご、ごめんなさい!」
「いえいえ、良いのですよ。誰だって失敗したくないと思うのは当然。普通の事です」
ルシアがにこにことした笑顔でそう言う。
「まあ、失敗できない職や事柄も大いにありますからね。ただ、失敗しても何とかなる場合だってある、と知っているだけで全部が全部と思わない分、少しは気が楽になるというだけのお話ですよ」
リラーックスリラーックス、とどこまでも気の抜けるような笑顔と雰囲気でルシアはのんびり言った。
「大体ですね、皆さん自意識過剰なんですよ。別に失敗したって世界が滅ぶわけでもなし。まあ、中には勇者やなんやと言われて失敗したら世界が滅ぶ場合もあるのでしょうが、そんなのどんだけの確率だと思います?」
「かなり低そう、ですね」
「特別は、『特別な責務』が付き物です。それ以外の方に、そんな特別な対価は求められておりません。だから、やれることで良いのですよ」
ルシアはぴっ、と片手の人差し指を立てる。
「やれない、出来ない事は、やりたくなった時とやらなきゃいけなくなった時に考えましょ?」
それで良いのか。多分、良くない。良くないとしても。
(何だか、気が抜けちゃった)
確実にダメな事だろう。後回しにして大変になるのは小学生の夏休みの宿題しかり。
でも。
(全部が全部、自分で、失敗できない、じゃなくて、良いんだ……)
ルシアの言っている事とは違うのかも知れない。ただ、何となく。
(全部自分で抱え込む必要なんてなくて)
抱え込まなければならない事はあるとしても、そうじゃない事まで抱え込む必要はない、のだと。
「さて。そろそろ次に向かいましょう。見たいものはございますか?」
「あ。黒月、よろしいかしら?」
「はい。どうぞ。エイミーさん」
「わたくし、団扇を扱っているお店が見たいです」
「エイミーちゃん、団扇?」
「ええ。うふふ。きっと、ミウもマリさんも、あると良いのではないかしら」
エイミーの言葉に、マリとミウは顔を見合わせた。
「お待ちしておりました! マリ様、一番坊ちゃまが見える位置はこちらですよ!」
エイミー主導のもと、ハートやキラキラモールのついた団扇を買ってライブ会場である騎士団前の半円広場に到着したマリ達は、テンション爆上がりしてユリアに出迎えられていた。
既にその手には『こっちみて』や『バーンして!』などが書かれた団扇がある。
(あ。そういう!)
エイミーがいそいそとマジックとかを買い込んでいたが、メッセージを書く為かとようやく理解したマリであった。
(ライブ……うん、そう言えば作ってた)
妹が何度か声優が行うライブイベントに行く際、やはり似たようなグッズ作っていたなと。
「マリ様。どうぞ。こちらのペンライトも」
「あ、ありがとう、ございます」
先端は青で持ち手に向かうに従って黄色にグラデーションするペンライトを渡される。
(これ、ラッセルさんの色、かな)
見回すと物販ブースが出来ていた。五種類のペンライト、タオル、その他とマリのいた世界でもあるあるのグッズが所狭しと並んでいる。
「うわぁ……五種類あるって事はやっぱり…………」
「初めからだろうね」
「うふふ。ケル様のペンライト買わなくちゃ」
ミウが紅から白のグラデーションペンライトを手に乾いた笑いをこぼし、アルデラが通常運転。そしてエイミーはいそいそと蒼と白が絶妙に揺らぐ色彩のペンライトを買い求める。
ちなみにディアは濃い紫の夕闇と黄昏が交じり合うグラデーションになったペンライトと藍から緋色混じりの黄色に変わるペンライトの二種を手にしていた。
その片方をアルデラに渡していた所を見ると、ノリで購入したのだろう。その心は「だって誰もペンライト振ってくれないと可哀想じゃない」だろう。確実に。
騎士団の門から二十メートル程の所に半円の中心点があり、そこを基点にして半径五十メートルほどの石畳半円広場は広がっている。
基点部分に今はステージが組まれ、音響設備が配備されており、それをすっぽり客席含めて覆う闇色のドーム。これが即席ライブハウスだ。
「防音だし、チケットがない人は通さないし、さらに外からは勿論、中にいても許可ない機材では撮影不可にする結界術式なんですよ」
気を取り直してどこか誇らしげにミウは即席ライブハウスの説明をする。やはり自分の職場が開発したものだけに、披露出来て嬉しいのかも知れない。
「皆さんの分はチケット手配済みです。どうぞ」




