46.問題無いから放置で
46.問題無いから放置で
「わ。凄い……」
マリは目の前に広がった光景に思わずそう声をこぼす。
「ふふ。あらためまして、ようこそ。シアンレード領へ!」
マリ同様、浴衣に身を包んだミウが両手を広げて言うそこには、日本と似て非なるお祭りが広がっていた。
晴れた青空に弾ける色煙の花火、子供達のはしゃぐ声と大人の喧騒。十字通りと呼ばれる大人が両手を広げて何十人も横並び出来る幅の大通りいっぱいの、不思議で楽しそうな屋台。
チカチカしそうなくらい溢れる色彩の雨。甘い匂い、香ばしい匂い、食欲をこれでもかと誘う匂いも漂い、活気が渦巻いて全部が「早くおいでよ」と手招いている。
お祭り、特に縁日や屋台が出ると言えば夜を思い浮かべる事も多いかも知れないけれど、昼間のお祭りはまた違った華やかさがある。
「今日はめいっぱい楽しんでいってね!」
「相変わらず活気があるわねぇ」
「ホント。まあ、ここっていつも賑やかだけど」
ミウに続いて、浴衣姿のディアとアルデラもそう言って通りを眺めた。
「あ。まずはアレにしない?」
「どれですか? ディアさん」
「えーと、あれは……」
「はー……。帽子」
黒いレースの手袋を嵌めたディアの長い指が示したのは、帽子の露店。
「あのさ……」
「やだ、アルデラちゃん。そんな目で見ないで。違うのよ、ちゃんと理由があるんだから」
「ほう……」
アルデラの冷たい視線にディアが慌てて両手をぶんぶん振った。
「こほん。今日は良いお天気ね? 日焼けしそうなくらい」
「まあ、確かに」
「そこに……この人混みでしょ? 日傘を差すと邪魔だし、動きづらくなるわ」
「でも日焼け止めくらい塗ってるでしょ」
アルデラの言葉にマリもミウも頷く。
「アルデラちゃん……違うのよ。そうじゃないの。確かに、日焼け止めは塗っているわ。でもね!」
次の瞬間、ディアの蜂蜜色の瞳がカッ! と見開いた。
「可愛い格好してる女の子はそれに合う小物を持つべきなの!」
「はい、みんなこっちー。まず何か飲み物でも買おっか」
「アルデラちゃあぁぁぁん!」
軽く手を叩いてアルデラが一行をまとめに掛かる。
「アルデラちゃん、ディアさん泣いてるけど」
「問題無いから放置で」
ミウの言葉にもそう返し、アルデラは叫ぶディアを置いて二人の背を押す。
「あはは。容赦ないですねー、アルデラさん」
「ひぎゃ!?」
「うっわ。ビックリした。ルシアさんか」
どこからともなくかつ自然に現れたルシアにミウが飛び上がり、アルデラが軽く目を見開いてすぐ元に戻る。
「ルシアさん。こんにちは」
「はい。マリさんこんにちは」
軽く片手を胸に添え、会釈したルシアに向きつつ、マリは何かを探すように辺りを見た。
「ああ。ラッセルなら只今リハーサル中ですよ。開演をお楽しみに」
「え。あ、そ、そうなんですね」
「うふふ。はい」
「黒月もバンド参加でしたよね? 何でいらっしゃるんですか」
アルデラの後ろに隠れつつ、ミウがルシアに問い掛ける。
「私はドラムですから。そんな難しい曲でもないので自由時間です」
いやいや音合わせそれ揃って出来ないじゃないですか? とミウが言いたそうな顔をしているが、それを言う勇気はないらしい。
「ところで、帽子屋の露店は御覧にならないのですか?」
「お祭りで見るもんじゃないと言うか、お祭りの時じゃなくても見られると思うんですけど」
アルデラの返しにルシアはにっこりと笑う。
「確かに、『通常』のお品ものはそうですね。ですが、帽子屋の祭露店は特別なものも揃えているのですよ。しかも、お値打ち価格で」
「特別、ですか?」
特別な帽子、にマリが首を傾げる。
「はい。まあ、見た方が早いでしょう。買わなくても構いませんので、見るだけ見てみませんか?」
「ほー……。そういう事なら」
「アルデラちゃん、何でルシアの時は譲歩するの!?」
「マトモな答えだから」
「アタシにも対応して!?」
自分への塩対応を嘆くディアを変わらず放置して、一行は帽子屋の露店へと近づいた。
祭用に用意された帽子屋の露店は、通常店舗の入り口横にある。店舗自体は品の良い店構えで、ショーウィンドウにはイチオシ商品が飾られ、どことなく商品自体が誇らしげに見えた。
一方、露店はそれに比べたら素朴で、木製ですぐ移動や撤収が出来るようにか、滑車付きの台をベースに組立式の衝立、そこに帽子掛けがついていたりするもの。良く見れば細かく植物などが彫り込まれていて、繊細なデザインだとわかる。
品物は多種多様。本当にいかにも帽子というものもあれば、ヘッドドレスのような髪飾りもありだ。
「で。どれが特別?」
「そうですね……。ああ、これなど」
ひょいとルシアが手に取ったのは頭の後ろから両側頭部までをカバーするタイプのベッドドレス。
水色に近い色合いの銀色針金と大小の真珠がまるで小さな波や水流のようだ。
「おー。ミウに似合いそう」
「あ。確かにそうですね。ミウ、どう?」
「え! あ、うん。えっと、じゃあ……」
アルデラとマリにすすめられ、ミウは戸惑いつつルシアからヘッドドレスを受け取る。




