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カレンデュラ・カプリチオ  作者: 琳谷 陸
3.異世界フェスティバル
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43.もう嫌だこいつら

43.もう嫌だこいつら




「と言うわけで、ルシアさんの大プッシュにラスティシセルさんも……」

 昼下がりの来客用宿泊棟。そこに用意されたマリの部屋。

 洋室のソファやテーブルの上に、様々な浴衣と付随する小物が所狭しと並ぶ現在。

「うん。ラスティシセルさんにそれが出来るのは黒月(ノッティシェード)だけだよ……」

 マリの言葉に、ミウがどこか遠い目をして呟いた。

「まあまあ! お二人ともどうなさいました? ほら、こんなにたくさんのお召し物が」

 いつになくハイテンションのユリアと、若干引き気味のミウとマリ。

「あー。ごめん。良くわかんないんだけど、どしてこうなったの?」

 そして淡々と首を傾げて問い掛ける、茶色の翼を背にもつ少女。

「アルデラちゃぁん……」

 ミウはその少女、アルデラの名を呼んでひしっと抱きついた。




「いつか殺してやる……」

「アハハ。出来ない事は言わない方が良いですよー? ラッセル」

「アンタ達、そこら辺にしてさっさと着るもの選びなさい」

 女性陣とは別の部屋。眉間にシワを寄せながら殺意をルシアに向けるラッセルと、呆れ顔の赤髪着物美人がいた。

「私は決まっていますから、今はラッセルのものを選びましょうねー」

「おい」

「そうねえ。この紺無地は? 麻で感触も涼やか」

「良いですね! ディアはやはりセンスが良い。では、帯はこちらで」

「良いわね。小物は」

「貴様ら……」

 ラッセルの恨みがこもっていそうな声に、ディアと呼ばれ、サイドで結い上げた夕陽色の髪に蜂蜜色の瞳をもった着物美人が、軽く肩を竦める。

「あーあー、やーねぇ。一度押しきられたにせよ自分で承知した事にうだうだと……。男らしくない」

「ぐ…………」

(駄目だ。何を言ってもこいつらには……)

 喉まで競り上がるあれやこれや。それを意志の力で捩じ伏せ、ラッセルはルシアとディアを睨み付ける。

(我慢だ。選び終わればいなくなる)

「これとそれと」

「あれとそっちで」

 てきぱきと二人がラッセルを一式コーディネートし、笑顔でそれをラッセルに渡す。

「「じゃ、試着いってみよう!」」

(我慢…………)

 (すで)に苦行の様相(ようそう)(てい)している。恐ろしいのはこれがほんの(じょ)の口に過ぎない事で。

 全てが終わり、ルシアとディアがやりきった感あふれるイイ笑顔になる頃、ラッセルは無の境地にいた。

「これであとはマリさんが選んだ浴衣と合うものを、この中からセレクトすれば問題ありませんね」

「アルデラちゃん、どんなのを選んだかしら。アタシ的には大人っぽいけど甘さもある深緑に白い小花の流水紋のがイチオシだったんだけど」

「あー。あの方には似合いそうですね」

「でしょぉ? やだ、すごくワクワクしてきちゃった」

 何故この二人はまだこんなに体力気力共に有り余っているのか。

 ラッセルが眉間にシワを寄せる力もない死んだ魚の目よろしく生気のない視線を向けている先で、ルシアとディアが今度は女性陣の部屋へ突撃しそうなくらい盛り上がっている。

「まさかとは思うが、女性の部屋へ行こうとしていないだろうな」

 それは阻止せねばならない気がして、ラッセルは無意識に口を開いてそう二人に問い掛けていた。

 が。

「え? 何か問題ありますか? 仕事ですが」

「ね。アタシも服飾小物のお仕事だし、連れもいるし」

 やめろ。ラッセルがそう言うより早く、ルシアがキラッと眼鏡を光らせる。

「あ! もしかして、ラッセル」

「……あぁ! そういう? もしかしてそれで?」

「…………何が、もしかして、だ」

 嫌な予感がする。ラッセルは身の危険にも似た何かを感じ、怪しく笑う二人から後退りして距離を取……る間もなく二人が笑顔のままササーッと距離を詰めて。

「やだぁ、とぼけちゃって。もお」

「女性の部屋……というか、マリさんの部屋、に私達が行くのが気にくわない、と。そう言う事ですね?」

 違う。何を勘違いして……。

 そう口にする隙も暇も、目の前の暇人(ひまじん)二人は与えてくれない。忘れていた。こいつら人の話なんか聞きやしないことを。

「やだ可愛い」

「貴様の頭の中は花畑か」

「照れなくても良いんですよ。ラッセル」

「貴様はとっとと失せろ」

 もう嫌だこいつら……。としか言い様のない感情が胸を支配する。

 反射的にそれぞれにツッコミつつ、ラッセルは深く溜め息をついて片手で顔を覆った。

「いや、でも、本当に良い傾向だと思いますよ。最初は流石に色々大丈夫か心配になりましたけど」

「貴様に心配される謂れは……」

 無い。そう返そうとして、はたとラッセルは口をつぐむ。

「どうしました?」

「…………いや。何でもない」

(だから、だろうか)

 先日の研究所にて、マリは怒られるかと思っていたらしい。それは、こういうやり取りからそう思ったという事ではないのかと、ラッセルは考える。

 ちらりと、いつも通り笑顔で何を考えているのかわからないルシアの顔を見て、ラッセルは喉からやっとの事でその言葉を絞り出す。

「心配を、掛けた」

 そのラッセルの言葉に、ルシアは真顔になり。

「ラッセル、熱あります?」

「やはり殺す」

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