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カレンデュラ・カプリチオ  作者: 琳谷 陸
2.脱出ゲームin異世界
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37.これは、吊り橋効果!?

37.これは、吊り橋効果!?




 叫ばなかった自分を褒めたい。

 マリは叫ぶ一歩手前で口を塞がれた状態のままそう思った。

(ラッセルさん!)

 三日ぶりのラッセルは相変わらず整った顔、その眉間にシワを刻んでいる。むしろいつもよりそのシワは深い。

 湖の揺らめきめいた光を宿した藍色の瞳がじっとマリを見て、マリの口を覆った片手と反対の手がゆっくりラッセル自身の口も塞ぐ。

(声を出すな、って事、かな?)

 唇の前に人指し指を立てる「しー」ではなく、わざわざ自分の口ごと塞いで見せているのは、小声もNGだからかと思い、マリはゆっくり口を塞がれたまま頷いた。

 ラッセルがそっとマリの口を覆っていた手を離す。

 手が離れた後、マリ自身が自ら口を両手で押さえて見せると、ラッセルがこっくり頷いたので間違っていなかったらしい。

 部屋の外に耳をすませたラッセルの、眉間のシワが増える。マリの手を引き、ラッセルは火の無い暖炉の方へと歩む。

 冬はあかあかと(まき)の燃える暖炉も、シーズンオフでは休業状態。そういった時は薪も灰も全て取り除かれ掃除され、薪の変わりに飾りが置かれる。

 その飾りは暖炉の外に出され、ラッセルはマリの手を引いたまま暖炉の中、正確にいうと正面ではなく角度によっては死角になりそうな脇側の壁に身を寄せようとしているようだ。

(……童話に何かあったよね。かまどに入らせられそうになるやつ)

 あれ思い出す、とかわりと余裕な雑念が浮かぶのも、ラッセルと合流出来て気が緩んだからだろうか。

 そんな雑念でやや集中をかいたマリも、手を引くラッセルが(いぶか)るような視線を向ければ童話ではなく今の状況を思い出す。慌てて手を引かれるまま、二人で暖炉の壁際に身を寄せる。

 大きいとはいえ、立てるほどの高さはなく、横の死角になりそうな部分も大人の男性が一人ギリ隠れるくらいしかない。

 ラッセルは片膝を突き、そっと暖炉の入り口から部屋の中を見て、次いで思い出したようにマリへ画面の消えた携帯端末(ミラーリ)を取り出して見せる。

 ゆっくりラッセルの口が一言声を出さずに動く。

『消せ』

 その指示に従い、とりあえず端末の電源を落とす。

 ラッセルがそれに頷くと、そのまま暖炉の中から部屋のドアを窺う。

 ――――ガチャッ、ガチャガチャ。

「っ!」

 咄嗟(とっさ)にマリは自らの口を両手で覆う。

 ドアノブが廊下側から激しく音を立てて回されている。やがてガチャリと回りきる音がして、ドアが少し開いた。

(ひっ!)

 口を覆った手を強く押し付けて叫ぶことを必死に止める。

 その細く開いたドアの隙間。

 子供の握りこぶし一つ分くらいの大きさの、黒いガラス玉が浮いているように見えた。

(ちがう。あれ)

 黒いガラス玉がギョロリと動く。

(目玉!)

 ドアを異常に長い指が掴み、部屋の中へと開いていく。

 室内の光によって照らし出された入室者は、首の無い猿のようだった。

 だらんと垂れ下がる異様な長さの両腕。身体は黒い毛が生え、大きな黒い一対の瞳で、鼻も口もない。

 ペタン、ペタンと裸足で歩き、部屋の中を見回す。

 先ほどの肉色ヘドロとはまた別の、怪物(クリーチャー)

 目玉の大きな黒い猿もどきは、うろうろと室内を歩き回る。

「…………」

 時折、暖炉の中から見えない所で何か物に触っているのか、何かを落とすような物音がして。

 ドクドクと嫌な心臓の鼓動を感じながら、マリは全身で恐怖を抑え込むようにぎゅっと両目を閉じた。

 猿もどきの足音が、二人が隠れる暖炉へと近付いてくる。

(え?)

 歯を食いしばるようにきつく目を閉じていたら、不意に強い力で頭から抱き寄せられた。

 自分の額が何か平べったいものに当たっている。

 びっくりして目を開くと、それはわかっていたけどラッセルの胸元で、頭の後ろと背にあるのはラッセルの暖かな手だ。

 先ほどとは違った意味で叫ぶのを抑える。

 バクバクと鼓動がやはり先ほどとは違う意味で速まり音を立て、瞬間的に首から上が赤くなる。

(いや、そんな場合じゃないの、わかってるけど!)

 だが仕方ない。だって好きな人がいた記憶すら遠い状態の女子に、いきなり至近距離待ったなしの抱き締めは刺激が過剰。

(こ、これは、吊り橋効果!?)

 そんな混乱状態になったマリとは対照的に、ラッセルは相変わらず猿もどきの動向を窺っていた。

 ペタリ。異様な長さの指が、暖炉の縁に掛けられる。

 やがて大きな黒い感情のない瞳が、二人のいる暖炉の中を覗き込む。

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