20.婚活斡旋会議の第二ラウンド
20.婚活斡旋会議の第二ラウンド
シェルディナード達がすぐ隣のテーブルの着き、婚活斡旋会議の第二ラウンドが始まった。
「ところでシェルディナード様。ダブルベッドはやり過ぎでございます」
「悪りぃ。予想以上にラスティシセルって初心だったわ」
「ラッセルを君と一緒にしないで下さい」
へいへい、とシェルディナードがやる気のない返事をして、珈琲と一緒に運ばれてきたドーナツを口に運ぶ。
「で? くっつけんの? あの二人」
「それは本人達の問題でしょう」
「えー。それじゃ何にも変わらねーぜ? 多分」
「それならそれで良いんです。人の心を無理やりどうにかしようなんて、ろくな事になりませんよ」
サラがじとりとした目でルシアを見る。
「人の、こと、言える?」
「私はあくまできっかけです。きっかけは、最後まで見届けるのが義務。強引に本人達の意思を無視するのは違います」
「きっかけ、だけ。……無責任」
「見届けるのが責任です。無責任ではありません。それに、本人達が望むならいくらでも手助け致します」
「サラもルッシーもそこまでにしとけって。とりあえず様子を見つつ、適度に茶々入れようぜ」
「シェルディナード様。あまり過激なのはお控えくださいね。あと、ミウさんを落とした料理を教えてくださいませ」
混沌の渦巻く一角が形成されたそこで、シェルディナードがユリアの言葉に意外な事を聞かれたという顔になった。
「ミウを落とした?」
「餌付けしたのでは?」
「いや、別に。確かに作った料理食わせた事はあっけど、そんな気ねーよ? むしろ学生ん時は俺がミウに弁当作ってもらってたし」
「そうなのですか?」
ユリアが若干腑に落ちない顔をする。
「餌付け以外で何で君にミウさんが懐くんです」
「ルーちゃん、優しい、もん。当たり前」
「貴方に聞いていませんし、異常な懐き方している貴方の言葉は考慮に値しません」
「…………」
どこか嬉しそうというか誇らしげに言ったサラの言葉を、ルシアがすっぱりと切り捨てる。
サラの目が据わり、何か物騒な気配すら漂い始め。
「あー、ストップ。サラ、ルッシー、一般の店でやるなよ。他の客に迷惑だろ」
仕方なさそうに笑ってシェルディナードが割り込む。
その言葉にルシアは軽く肩を竦めてツンとそっぽを向いた。
「そちらの方が物騒なだけですよ。少しは我慢や忍耐というものを持ったらいかがですか」
ルシアの言葉にサラは座ったまま、隣にいるシェルディナードの腕に抱きつく。ルシアの方を変わらずジト目で睨みながら。
「ルーちゃん。オレ、こいつ、キライ……」
「奇遇ですね。私もです」
最後の言葉だけは満面の笑みで言うルシアである。
混ぜるな危険。そんな言葉がぴったりな二人はとりあえず横に置いておこう。
「でもさ、きっかけも一度じゃ足りねーだろ? あと、やっぱきっかけの種類もあった方が良くね?」
「……段階的に意識させる、という事ですか?」
「そそ。ラスティシセルもそだけど、マリの方がどう思うかにも関係すんじゃん」
ニッとシェルディナードは無邪気そうな笑みを浮かべ、首を傾げる。
「無理やりはねーけど、両思いなら良いんじゃねーの?」
「まあ……。気づきというのも、好きに気づくとは限りませんしね」
合わないとか嫌いに気づくというのもある。あくまできっかけはきっかけでしかない。要は好きでも嫌いでも何とも思っていないとしても、それに『気づく』事がまず大切なのだ。
「具体的には?」
「そうだなー。まず、お互いを知る?」
「案外良い、というか王道でございますね」
「お見合いの王道ですが」
ご趣味は? 的な事から。まさしくお見合い。
「マリ様の事も知り、坊っちゃまの事も知っていただく。確かに重要ですわ」
「良し。んじゃ、何かイベント立てとく」
後で企画草案出すわ、とかシェルディナードが言う。何だか普通に会社めいてきたのは気のせいだろうか。
「そうですわ、今後の事も考えて作戦名もつけましょう」
「お。良いじゃん。面白そ」
「はあ……。あのですね、遊びでは無いのですよ?」
「えー。でも、普通に話す時に困るじゃん。企画名あって良いんじゃね?」
完全に約一名遊ぶ気だ。しかし、とルシアは考える。
「わかりました。確かに連絡時、ラッセルにバレるとよろしくなさそうですからね」
「では何に致しましょう? この婚活会議自体の名称と、シェルディナード様案の名称それぞれつけた方がよろしいかと」
「まんまなのは避けるとして、オペレーション……」
じっと、それまで黙っていたサラがシェルディナードを見て呟く。
「オペレッタ……」
「お。良いんじゃね?」
「そうでございますね。歌劇……口に出しても違和感ございませんし」
「まあ、確かにシェナッドの管轄では興行系は発展傾向にありますしね」
「決定でございますね。この会議はオペレーション小歌劇」
「俺の企画は……それなら奇想曲にしとくかな」
「ふむ。オペレッタで使う奇想曲。スムーズかも知れませんね」
トントン拍子の名称が決まると、自然とお開きのムードがその場に流れた。
「じゃ、俺達は先の出るわ。夕食はラスティシセル達と摂るし」
シェルディナードがそう言って立ち上がり、不意に振り返って言う。
「そうそう。ユリア、料理は別に出来ても出来なくても関係ねーと思うけど? 俺のは単なる趣味だし。それに飯作れなくたって、ラスティシセルには他に魅力あるんじゃねーの」




