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カレンデュラ・カプリチオ  作者: 琳谷 陸
1.おいでませ異世界
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2.見ず知らずの男性二人と見知らぬ部屋

2.見ず知らずの男性二人と見知らぬ部屋




「貴様、責任を取れ」

 ルシアを呼び出して開口一番、腕組をして眉間にシワを寄せ、ラッセルはそう言った。

「何ですか藪から棒に。おや」

 昨日と同じ診察室。そこに昨日とは違うものがあった。

「この階層では珍しい。人間の女性じゃないですか?」

 簡易の寝台の上、気を失っているらしい女性が一人。黒髪にやや黄色の入った白い肌。女性というには少々あどけないというか幼い顔立ちだが、ルシアはそう言った。

「責任を、取れ」

「いやいや。何で私が」

 そう返すルシアの目の前に、ラッセルはずいっと雑誌を開いて押し付ける。

「これ、昨日の結婚情報誌ですね」

「貴様がやったんだろうが!」

「え。もしかして、運命の相手を引き寄せるおまじない、ですか?」

 それでこの女性が? とルシアが目を瞬かせた。

「貴・様・が! 魔力を注いで発動させたんだろうがっ」

 おまじないの解説に目を遣ると『注ぐ魔力量に応じて検索範囲と引き寄せる力が強くなります♪ 可能性は無限大』とある。

「あらま。あはは。私のラッセルを心配する心が世界まで越えちゃったみたいですね!」

「…………」

 ラッセルはルシアの胸ぐらを掴み、間髪入れずにそのままギリギリと音がしそうなくらいの気迫と力でルシアの首を絞めた。

「ラッセルー。ちょっと痛いです」

「死ね」

「殺ってみます?」

 ルシアの言葉に、ラッセルはピクリと反応して絞める力を緩める。

「おや? 殺らないんですか?」

 実に嫌そうに、ラッセルはルシアから手を離して、そのまま消毒スプレーで手を消毒した。

「あはは。ラッセルぶれませんね」

 殺りたくても、殺れたとしても、こいつを殺すと厄介な事になる。ラッセルは忌々しげにルシアを睨み、深く溜め息をつく。

「さて。心温まる心友との交流も良いのですが」

 やはり殺っておくか。

 ラッセルはチラリと置き時計に視線を投げる。本気で実行しようか悩みに悩んだ末、何とか踏みとどまった。

 置き時計の殴打くらいじゃこいつは死なないだろうと結論づけて。

「あのおまじないで引き寄せたとすれば、むしろラッセル、この女性(ヒト)は君の運命の人って事になりそうですが」

「くだらん。私は運命などというあやふやなものを信じていない」

「ふふ。奇遇ですね。私もです。しかし、ですよ? 実際こうして引き寄せてしまったわけですから、信じる信じないよりもどうするかを決めなければ」

「だから貴様が責任を取れ。貴様の魔力が引き起こした事だろう」

 ラッセルの言葉に、ルシアは「んー」と少し困ったように微笑む。

「私の所に置いたら、多分死んじゃいますよ?」




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




 身体が重い。

 頭が痛い。

(私、どうして…………?)

 何かとても怖い夢をみた気がする。

 何処か知らない場所にいきなりいて、とにかく家に帰らなくちゃと、そう思う夢。

(何だろう?……テレビ、かな)

 聴いたことの無い声が、聴いたことの無い言葉みたいなものをしゃべっている。テレビがついているなら、ここは家のリビングだろうか。

(部屋にたどり着く前に、リビングで寝ちゃった?)

 だとすればリクルートスーツが悲惨な事になっている可能性がある。起きてひとまずシワを伸ばしたりしないと。

(とにかく、目を、開けなくちゃ……)

 (まぶた)を通して感じる光。

 重く強固に閉じている瞼を何とか押し上げると、眩しくて少しだけクラクラとした。

 白い天井、花のような形の灯り。

(あれ? うちのリビングじゃない……?)

 その事に気づいた瞬間、ゾワリと悪寒が身体を駆け巡った。

 思い通りに動かない身体を無理矢理動かして、上体を起こす。

「あ……。だ、誰っ」

 テレビだと思っていた声は同じ部屋にいる二人の青年のもので、部屋はどう見ても自宅ではない。

 見ず知らずの男性二人と見知らぬ部屋。恐ろしくないと感じる方が珍しいだろう。

「い、いや! 来ないで!」

 金髪の白衣の青年が近付いてくる仕草を見せ、思わず掛けられていたシーツを引っ張り投げつける。

 シーツは青年に届かず、床にふわりと落ちた。

(なに。何が起こったの? ここはどこ?)

 ガタガタと身体の震えが止まらない。

 拒否の意思は伝わったのか、金髪の青年はそれ以上近付いて来なかった。けれど、その濃い青の瞳が不愉快なのか細められ、眉根を寄せたのが見える。

(怖い。誰か……誰か、助けてっ)

 じわりと涙が浮かぶ。

 誰か助けて。

 そんな思いが心の隅々までを支配した。

 金髪の青年の肩を、眼鏡を掛けた垂れ目の青年が軽く叩く。

 そして金髪の青年が一歩下がり、垂れ目の青年が手招きする。

(いや……)

 ふるふると首を横に振ると、垂れ目の青年は考えるような仕草をして、何やら片手のひらにポンと拳を打ち付けた。まるで何か思いついたような感じに。

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