15.冷気漂ってるぅううう!
15.冷気漂ってるぅううう!
(しぇ、シェルディナード先輩の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)
高級ホテル並みの騎士団来客棟の客室にて、ミウはあらん限りの絶叫を心の中で上げた。殺される。そんな思いで。
「ミウさん」
「は、はいぃぃぃぃぃぃ!!」
正面、つまり部屋の中を見たままのラッセルから、ひんやりとした声がミウに掛かった。
(冷気! 冷気漂ってるぅううう!)
あまりの冷たさに氷柱の幻覚まで見えそうな。
「奴は、――――どこに?」
奴=上司だ。
振り返ったラッセルの凍りつくような色の瞳が、静かにミウを見ている。
(いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 怖いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいい!!)
「ああぁ、あ、あの、その」
蛇に睨まれた蛙の方がまだ顔色が良いだろう。もう青通り越して白い。
と。
「あ、ミウ指揮官。シェルディナード様が伝える部屋番号、間違えたって伝言」
「うえ!? あ、あああ! ありがとうっ!」
ミウ達が通ってきた廊下を、追いかけて同僚がメモとカードキーを差し出す。
(た、助かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!)
メモを開くと、今度はちゃんとラッセルとマリの部屋が隣り合わせではあるが、別で用意されている。
「ご、ごめんなさい! 間違えてご案内してました! こっちです!」
改めて案内した部屋はベッドがシングルなだけで、他の設備は間違えた部屋と変わらない。それぞれの部屋にバス・トイレ付きだ。
一気にどっと疲れたミウだが、案内はまだ始まったばかり。
(心臓! 心臓止まります!)
動悸を静めるように両手で左胸を押さえ、ミウは深呼吸する。
「ミウ、大丈夫?」
「う、うん。何とか……」
(ダメダメ。あたしがしっかりしなきゃ!)
ミウの緑色の瞳がちらりとマリを見た。
あまり歳が違わないかなと思っていたが、なんと人間だとまだ二十年かそこらの歳の外見らしい。つまり、すっごく年下。
しかも魔力が濃い階層では数時間すら生きられないか弱い存在とくれば、いくら弱い弱いと言ってもミウの方がお姉さん&守る立場。
(頑張らなくちゃ。マリちゃんはあたしが守る!)
心意気だけは一人前である。
「お部屋に荷物を置いたら、一階にお集まりください」
鍵を渡し、ラッセル達が部屋に入るのを見届けてミウは一階へ。
「指揮官、お客様の分のフロアガイドは指揮官に預けて大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう!」
「オッケーっす」
「ミウさん、診療所の告知とか受付段取りとかの確認書類に署名お願いします」
「はい! あ、すみません、机においといてください!」
「ミウー、頼んでた備品届いたみたい。納品書どこにやるー?」
「それも机に!」
「ミウ指揮官、シェルディナード様が執務室にいないんですけど」
「また!? う、うう! 後で探すので放置で!」
案内から少し離れただけでわんさか問い合わせがくるわけだが、これも日常。
案件を全てさばききった頃合いでラッセル達が姿を現す。
「……大丈夫か?」
「だ、大丈夫、です」
見るからにぐったりしているが、ミウは何とか立ち上がる。
「皆様、お腹空いてますよね? 丁度お昼時ですし、本棟の食堂にご案内します」
「よろしく頼む」
「はい!」
外の光りが溢れ、一瞬だけ目が眩む。次いで飛び込んでくる光景は、美しく手入れされた木々や垣根と、色とりどりの花が咲き誇り、花に負けない羽の蝶や鳥が楽しげに遊ぶ姿。
来客棟の玄関を出て、アーチを描く石造りの屋根に守られた回廊を中庭の花を眺めながら歩くと、本棟の玄関ホールへ繋がる扉が見えて来た。
「一応、二階にも渡り廊下があるんですけど、帰りにそっちはご案内しますね」
本棟の一階も基本は石造りで、来客棟と違うのはどことなく質実剛健の雰囲気が漂う所だろう。
それでも野粗とかそういった言葉は似合わないと思うのは、華々しくはないものの清潔感があり、揃えている調度品や装飾が良いものだからに他ならない。
食堂の入り口は数ヶ所あり、少し早めだからかまだ人の出入りも少なく、席にも余裕がありそうだ。
中庭に面した側は開閉できる全面ガラスで、幾つかの丸テーブルと椅子がテラス席のように配され、広い室内には長い木製のテーブルと同じように長い木製のベンチ席が三列。個別の席と、四、五人で利用できそうな席もある。
天井からは星形の灯りが下がり、昼間は光量を抑えて点灯していた。
「朝は日の出くらいには開いてます。正午まではモーニング、以降、日の沈み始めるイブニングまではランチメニューです。夜はお酒も扱いますよ」
落ち着けそうな席を確保。ラッセル達を案内しつつ、ついでに注文口へ誘導してメニューの説明をしようとしたミウだったのだが……。
「よ。何にする? 今日のオススメは」
「っ!! 何でシェルディナード先輩がいるんですかあぁぁぁぁぁ!!」
注文口から笑顔で手を振るシェルディナード(ラフな格好にエプロン姿)に、ミウは思わず注文口のカウンターを両手で叩いた。




