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カレンデュラ・カプリチオ  作者: 琳谷 陸
1.おいでませ異世界
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13.変な扉開けそうで怖い

13.変な扉開けそうで怖い




「ごめんね! 文字読めないって思わなくて」

 次の日、様子を見に訪ねてきた私服姿のミウは居間(リビング)にて、自身の送ったメッセージにまつわる顛末(てんまつ)を聴いて、マリに手を合わせて拝むように謝った。

「え。いや、大丈夫だよ。ラスティシセルさんに教えてもらえるようになったし。こっちこそ返事できなくてごめんね」

「読めないなら当然だよ……。うう」

 謝った時には若干ピンと張り詰め浮いていた垂れ耳が、今はしおしおの野菜のように力ない。項垂(うなだ)れているから余計にそう見えるのか。

 しょんぼりしながらマリを上目遣いに涙目で見てくる様子が何とも……。

(私、何かミウと居ると本当に変な扉開けそうで怖い)

 ちょっといじめたくなる。なんて半分冗談で思いつつ。

「少しずつ教えてもらうんだけど、流石にメッセージ見せて教えてもらうのはどうかと思ったから、ミウが送ってくれたメッセージの意味、教えてくれる?」

「うん!」

 一気に花咲ような笑顔になるミウに、マリは思わずクスクス笑った。

(すっごく変化する。楽しい……)

 わかりやすく、目まぐるしく。

 人によっては騒がしいとか落ち着かないとか思うかも知れないが、ミウの笑顔は屈託もなく明るくて見ていると楽しくなる。少なくともマリにとっては。

(癒し。これが『萌え』かな)

 妹がよくドはまりしている作品に興奮して口にしていた言葉。

 今まであまりよくわからなかったが、この感じは近いのかも? と。

「えっと、昨日送ったのはね」

 画面とミウの言う訳を比べ、マリはそれをメモしていく。

「できた」

 単語がどこで区切られるのかなんかも聞けたおかげで何となく記号もわかってきた。そして内容はお買い物楽しかったらまた行こうというものと、後半は、

「ミウの職場に……?」

「うん。シェルディナード先輩がラスティシセルさんと一緒に呼んで良いって」

 なんてミウはニコニコ嬉しそうな笑顔で言うが。

「えーと、邪魔じゃない?」

 普通に考えたら邪魔じゃなかろうか。

「それは大丈夫! ラスティシセルさんに往診してもらう時期だし、診療の間つまんないだろうからって。それに場所は第一階層だからマリちゃんには楽だと思う」

「第一……それが何で楽なの?」

「んとね、マリちゃんみたいに他の世界から人間が迷い込む事って、実はそんな珍しい事じゃないんだよ?」

「え。そうなの?」

「うん。意図的に喚ばれたり、こんな深い階層のまして人の家の中に迷い込むのは確かに聞いたことないんだけど」

 異界からの迷い人自体は珍しくないらしい。

「それでね、迷い人の大体は第一階層に現れるの。この世界って階層が深くなればなるほど魔力に満ちてるんだけど、普通の人間には魔力って合わないらしくて」

(ああ。ラスティシセルさんが薬飲み忘れたら死ぬって……)

「第一階層は一番魔力が薄くて、お日様の出てる時間とかも多分マリちゃん達の世界と大差ないんじゃないかな」

「なるほど……」

 頷くマリだったが、ちょっとミウが言いにくそうに視線を逸らす。

「ただね……その、ちょっと治安に問題があるから、マリちゃんはあたしの仕事場から出ないで欲しいかな。敷地広いし、その中にいる限りは安全だから」

「……そう言えば、ミウの職場って何?」

(最初に会った時に着てたの、軍服ぽかったけど、まさかね)

「えーと……う、うう。その、あの」

 あまり言いたくない顔だが、ミウは決心したのかマリを見る。

「第一階層の半分くらいシェルディナード先輩のお家が管理してる領地なんだけど」

 何かいきなり脳内処理に困る単語が聴こえた。

「領地の治安維持とか、運営するお仕事をしてる部署があって」

「……うん」

「部署は領地によって呼び方とか内容が微妙に違うんだけど、シェルディナード先輩の所だと…………騎士団て呼ばれてて」

「…………」

「そこで、あたしも働いてます」

「……」

「……」

「……」

「う。あの、騎士って言っても、あたしは弱っちいから内勤で。書類仕事とか雑用とかなんだけど」

「あ。びっくりした。ミウ、見かけ小動物なのにまさかのゴリラかと」

「しょ、小動物ってなに!? あとゴリラって何かわかんないけど正反対の何かだよね!?」

 マリはぷくっと膨れっ面になるミウに胸を撫で下ろす。

「何を騒いでいるんだ?」

「あ。ラスティシセルさん」

 怪訝そうな顔でラッセルがマリ達を見る。

「ミウさん。シアンレードから往診の依頼が入っているんだが」

「丁度そのお話をしてました。シェルディナード先輩がマリちゃんも一緒にって。滞在のお部屋も用意があるそうで、ユリアさんにも連絡してるはずです」

「そのようだ。部屋の用意は出来ているからすぐにでも受け入れ可能だとあったからな」

 ラッセルはチラリとマリを見て、首を傾げた。

「君はどうだ。慌ただしくて落ち着かないだろうから、気がすすまないなら残っても良いが」

「いえ、大丈夫です。あの、私はここにいる間はラスティシセルさんの侍女(メイド)ですし」

「そこは気にしなくて良いのだが」

 はぁ、と溜め息をついてから、ラッセルが眉間を揉む。

「では、明日には伺うと伝えてくれ」

「はい。了解です!」

 こうして、マリの職場見学は決定したのだった。

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