動物園の仕事
夏。朝日に焼け付く空。もう、セミが鳴き始める。
さあ、今日も仕事を始めよう。
動物園の仕事を。
うらやましい……よく、そう言われる。
そうでもない。
確かに食いっぱぐれないが、
変わりばえの無い、たいくつな肉体労働だ。
特に、夏休み中はなにかと忙しい。
俺たちは、可哀想な生き物たちに目を向けた。
声をかけると、興味津々、近づいてくる。
しかし、しばらくすると、向こうに行ってしまう。あいつら、飽きっぽいなあ。
「おはよう。今日も暑いな。」
同僚が近づいてくる。
「おはよう。あれ、今日のシフトお前だっけ?」
「健康診断でシフト交換。あいつ結婚したばっかだろ?」
「確かに。職場結婚、いいよなぁ。」
「やっぱ、それしかねーよ。最近、出会いも無いし。」
恋の話と、飯の話くらいしか、話題が無い。最近、忙しいからな。
「おっ、水飲んでる、水飲んでる」
生き物たちを見ながらつぶやく。
同僚が笑う。
「おお、飲め飲め。こう暑いと、あいつらだって、体を壊すだろう。」
「あいつらって、元々アフリカとかがルーツじゃないっけ?それでも暑さに弱いのか?」
「遺伝子がそうでも、生まれは日本だろうが。」
飯の時間になっても、生き物たちが、こちらをじっと見てくる。
さっきより視線が増えてるのは、俺たちの飯がうまそうだからだろう。
「あげないぞ。お前らが食ったら、腹を壊すだろう。」
「可愛いよな。どんな生き物も、食い物には目がないのさ。」
ふと、
いつも思っていることを、口にする。
「なぁ、あいつらって、何が楽しくて生きてるんだろ?」
同僚は、あっけらかんと答えた。
「それを言ったら、俺たちはどうなる?」
うっ、と、
デザートのオレンジが喉に引っかかる。
「…そうだよな。そう、変わらないかもな。俺たちも、あいつらも。」
たいくつな忙しさ。
窮屈な日々。
寂しさ。
ひょっとすると、毎日感じるものは、同じなのかもしれない。
「しょうがない。午後は、なるべく楽しんで、仕事をしてやるとしよう。どうせ、やることなんて他にないんだ。」
「そうだな。あいつらで、アテレコ合戦でもしねぇか?笑ったら負けな。」
「よし、いいぞ。仕事とはいえ、そのくらいなら許されるだろ。」
俺たちは、腰を上げて午後の仕事を始めた。
夕方、定時を迎えた動物園。
「1日お疲れ。ゆっくり休めよ。」
「アフターファイブに誘いたい相手はいないのか?」
「まだ、俺には早いかなって。」
お互い声を掛け合い、ため息と、あくびを一つずつ。
俺たちは、檻から飼育室に帰って行った。
涼しい飼育室の寝ワラに体を預け、伸びをする。
明日も、可哀想な生き物…人間たちに愛想を振りまく、
変わりばえの無い仕事が始まるのだ。