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吝嗇のバナリテ  作者: 民間人。
ゆりかごを覗く時の顔は
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穏やかな昼も時は金1

 宴会と凄んではみたものの、金の出所がなければそもそも宴会など出来る筈もない。ジュスタンと共に厨房に立った私は、彼らが徹底的に私の言葉に従ってくれたことを誇ることになった。


 小麦粉は全て市場で売りさばくために保管し、厨房には安価かつ領内で収穫可能な豆類のみを置いている。また、調理器具も最低限以外は全て通りがかった小物商に売り捌いたため、壁に掛けられたフライパンや、鉄製のおたまや、ヘラ、竈の上に放置された巨大な鍋位のもので、本当の本当に文字通り高度な調理など出来そうもない。


「ジュスタン、鶏肉を領地で買い取ると高くつくかしら?」


「無論でございます。鶏肉の質感を出すにはやや張りが必要ですが、肉類に似た豆料理などを作ることは可能です」


 ジュスタンは粛々と答える。背筋を伸ばしたまま腰に手を回し、微動だにしないで私の背中を見つめている。

 私は、その間に厨房の扉と言う扉を開けて回り、食材と言う食材をかき集めた。

 こうして城内を調べると、葉物がある分、領民の食生活の方が余程健康的かもしれない。


「それは……それでお願いするわ。キャベツ、玉葱、ニンジンなんかは領内のどこかしらで採ってこれるわね。……そうだ、肉は、出来ればギヨームに狩りにでも行ってもらおうかしら。魚はリオネルに釣って貰えばいいわね。数匹でもいいから」


 ジュスタンは了解の言葉を言って、回れ右をして音もなく厨房を出ようとする。私は身を起こし、背伸びをして体を解した。


「そうだ、ジュスタン。また貴族から乳母の依頼が来ていたから、誰かしら候補者を派遣して置いて」


「左様でございますか。畏まりました。お伝えしておきましょう」


 ジュスタンは恭しく頭を下げる。ぎぃ、と言う扉の軋む音に従って、窮屈な厨房からは徐々に光が消えていく。やがて大きな音と共に扉が閉ざされると、廊下には、薄く伸びる使用人服の影が張り付いていた。


 ……さて、フーケが間もなく入城するという間際になって、宴会の準備をする訳にはいかない。私は早足でリオネルの下へと向かった。



 キノコの堕胎薬の粉末が舞う個室の中で、リオネルは半笑いをしながらその粉末を少量ずつ瓶詰めにしていた。

 緑がかった硝子は海上都市ウネッザ特性の逸品であり、それなりの高値で取引されるものである。一体どこから仕入れてきたのか、私が硝子瓶を見つめていると、リオネルは光を反射する瓶を揺すりながら口角を持ち上げた。


「一杯,如何ですか?」


「エールじゃあるまいし。これ以上婚期を逃すのはごめんよ」


 リオネルは乾いた笑い声を上げる。瓶詰の底にある件のキノコから作られた白い粉末は、さらさらと良く滑り、小さな瓶の中で混ざり合っている。傾けるたびに流れる粉末が硝子瓶を曇らせる。


「で、今日はどんなご用件ですか?」


 リオネルは中空を見ながら尋ねる。床に散らばったキノコは勿論、雑多な私物に足を取られないように注意を払いながら、リオネルに近づく。


「フーケがいい報せを引っ提げて帰ってくるみたいだから、宴会の準備に釣りでもしない?」


 リオネルは目を瞬かせて私を見つめ、暫くして膝を叩いて大笑し始めた。


「釣りですか、いいですねぇ。積もる話をしながら、まったり、と言ったところですかね?」


「出来れば大漁が良いのだけど?」


 川魚には恵まれているので、是非保存食として保管していきたい所存である。リオネルはようやく硝子瓶を下ろし、のっそりと立ち上がった。


 麩吹きを跨ぎ、書棚の裏に手を突っ込むと、簡素な釣り具を引っ張り出した。リオネルは更に深くに手を入れる。中で雑多な転倒音が鳴り響き、少し屈んだリオネルは網を取り出して、私に放り投げた。

 埃が一気に舞い上がり、思わず顔をしかめる。舞い上がった埃が視界を軽くくすませ、手には黒い煤のような埃が手に付いた。リオネルはにやにやと笑いながら埃を被った釣竿を振り上げた。


「行きましょう、久々に太陽にあたるのも実に良い事だ!」


 意外にも乗り気なリオネルは、釣竿を襖吹きにひっかけて強引に引っ張り、扉にその先端をぶつけながら、部屋を飛び出してしまった。


「ちょっと、鍵!鍵!」


 冗談じゃない、外交資料全部積まった部屋を開け放しにするな、と叫びたくなったが、既に彼は階段を駆け下りて消えてしまった。


「……もう。鍵どこに置いているのかしら」


 私は乱雑に積み上げられた書類や、気味の悪い置物が置かれた机の上を捜索する。幸い、鍵は良く磨かれて輝いていたが、机の下に落ちていた。私は机を叩き、鍵を閉めると、即座に階段を駆け下りた。


 リオネルの呑気な鼻歌が、階段を下りる間中響き渡っていた。


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