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吝嗇のバナリテ  作者: 民間人。
ゆりかごを覗く時の顔は
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the company limited 1

 朝食の相手はフーケとギヨームである。二人は黙々と食事を始めたかと思うと、直ぐに平らげ、そして各々の日課に戻っていく。

 今日の食事は炒り豆に茹で野菜を入れたスープであった。肉特有の白さの代わりに蕪が浮かぶスープを一掬いする間に、机上には染みついたインクの匂いが溢れ出した。


 フーケは明朝に到着した報告書を基に記帳を行い、間違いをチェックする。大きな問題がない時は、彼は安堵に満ちた溜息を無表情のままで零した。


 ギヨームは食事をしながら法務関連の情報の報告を受けている。時折使者が来ては耳を傾けるその姿から、食事を純粋に楽しむ余裕は感じられない。


 この二人を今日の相伴とした理由は、今日一日でビジネスとしての「乳母」を調整する必要があった為だ。私は専門家である彼らの助力なしには何もできないのだ。

 朝食の間も忙しなく進む時間の中に取り残されそうではあったが、ジュスタンの言葉通りに余裕綽々として食事をとっていると、二人の作業の子細な部分にまで目がいって興味深い。

 ギヨームは耳を傾けて話を聞き、応答をした後に少しだけ身を逸らす癖がある。フーケは作業に没頭しているとき特有の猫背が強調され、記帳の頁をめくるたびにその細い視線が正面のギヨームとぶつかった。彼は勿論無意識であったが、ギヨームは向けられた視線にかなり神経質に反応している。これは、従者からの報告の量が多いために視野が広くなるギヨーム特有の癖なのかもしれない。

 ひとしきり観察をして、双方の注目がやっと仕事から別の所に向かったのを合図に、私は大きな咳払いをした。


「二人とも、ちょっといいかしら」


 首をこちらに向けたギヨームの首元で、ナプキンが擦れあう音がする。私は注目が集まるのを待ち、ギヨームの従者がすぐ後ろで待機しているのを確認して早口で続けた。


「乳母ビジネスについての今後の計画を立てたいと思うのだけれど、フーケ、実現可能性は高いのかしら?あとギヨームは、陛下に許可を取れそうか確認しておいて頂戴」


 フーケは少し考えた後、幾つかの計画案を記したメモをジュスタン経由で私に手渡した。

 フーケにとっても手探りのビジネス立ち上げだけに、いくつもインクで塗りつぶした跡が残っている。急ピッチで進めた計画らしくもあったが、とにかく非常に読みにくい。


「走り書きで恐縮なのですが。まず、貴族を主要な顧客層として捉えた場合のビジネスですが、単価を上げるためにはカペル領内でかつ古い医療へ対する信仰の残滓が見られるような領主をターゲットとすることになるため、恒常的に「開けた」ビジネス……つまり稼ぎにはなりそうにありません。やはり貴族の出産の都度、従者を派遣する旨の提案をして、反応が良好であれば詳細な計画内容を調整するという形になると思います。

 ですから、私達からは侍女らの一時的な食費・生活費の削減と割り切って、マージンにはあまり期待しないで運用する方が無難だと思われます。

 そうすると、安定して大量の収入を得るためには、私達は乳母を修道院や孤児院に派遣するという方法が効率がいいと考えています。その為に大量の乳母が必要となりますので……」


「前に言っていた領民への賦役を利用するわけね」


「そういう事です。分母が大きくなれば、一度に大量の利益が齎される。貴族相手よりも安価で、しかも効率的なのです」


 やはりギヨームを呼んでおいてよかった。賦役を課すとなると、どうしても領民や王国での法務の兼ね合いが問題となる。アンリ王からすれば、「どうでもいい」事だと無視しそうなものだが、一応伺いを立てる事で、ビジネスそのものを軌道に乗せるのに役立つ。


「それで利益は出るのかね?」


 ギヨームは姿勢を正しながら尋ねる。私は手元のメモを確認した。メモには詳細な収益の見込み額も書かれていた。それによれば、生活費や諸々の負担を加味しても、20%程度は利益が出る見込みがあるという。


「あります。ただ、利益が上がったとしても、これらの手続きを行うには些か大量の人員が必要となります。そこで、ギヨーム様にもお願いしたいのですが」


 フーケはそう言うと、徐にもう一枚の用紙、公式文章に使われる羊皮紙を取り出した。それが私の前に送られる。それは、契約金額と細かな契約事項が記された契約書だった。私はフーケの方を見る。彼は口の端を持ち上げてみせた。


「つまりは、これを立ち上げるために財界の力を借りようかと考えているのです」


 朝食の食器類が片付けられると、木材の積み重なる音だけが響いた。契約書には、「出資金額 21万ペアリス・リーブル」と記されていた。


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