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ナトリウムとカリウム

 これまで基本的な基礎化学品の製造法を列挙してきました。


 いよいよこれらを用いて文明の利器へ発展させたいのですが、実は前々回と前回の流れでうまくマッチしていない点があります。


 それはアルカリ金属の種類です。

 この塩の種類、つまりナトリウムイオンかカリウムイオンかというのは、意外と大事です。

 植物の成長にはナトリウムよりもカリウムが必要となります。

 だからこそカリウムを蓄えている植物の灰から得られるアルカリは、炭酸ナトリウムではなく炭酸カリウムなのです。


 ここでひとつ現代世界の例を挙げましょう。

 例えば醤油。最近減塩醤油という商品を目にする機会が多いと思いますが、減塩の手法として一つ、しょうもないとも思える方法があります。

 醤油の容器のラベルの裏を御覧ください。食塩相当量とは塩化ナトリウムの量です。

 ナトリウム(Na)の量から食塩相当量(NaCl)は計算できます。

 ここにカリウム(K)が入っているでしょうか。

 実は食塩(NaCl)と塩化カリウム(KCl)はかなり似たもの同士なのです。

 KClはNaClと比べるとやや苦味がありますが、似たような塩味がします。


 NaClの代わりにKClを入れることで味を保っているのです。


 さらにもう一つ例をあげます。大手ファストフード店のマク○ナルドです。

 アプリなどで商品の成分表示が見れるのですが、ここのポテトは「食塩」がやけに少ないのです。

 あんなに塩味が効いているのになぜか。

 それは、ここのフライドポテトの塩味の主役はKClだからです。

 重さで言えば、カリウムはナトリウムの2.5倍ほど入っています。


 フライドポテトの味は皆さんご存知かと思うので、NaClとKClがどれほど似ているか、想像がつくと思います。

 醤油でもポテトでも、味を保つのに配合具合などいろいろ検討されているとは思いますが、減塩醤油が健康に良いなどと謳って売られているのを見ると、体して変わらないのではと疑いたくなります。

 医療の専門家ではないので詳しいことは知りませんけど。


 そんなナトリウムカリウム論争ですが、前々回の記事『硝石の製造』において、培養法で製造したときの硝石は、最終的に硝酸カリウムとして出荷されていたと思います。


 このとき炭酸カリウムを使用していましたが、前回の記事『曹達工業』では炭酸ナトリウムの製造法を記述しています。


 実は工業的にアルカリを作る際、出発物質に海水(NaClが主成分)をそのまま使うと炭酸カリウムを製造することができず、炭酸ナトリウムとなります。


 硝酸カリウムを製造するには炭酸カリウムが必須、しかも肥料にする場合、原料としては硝酸ナトリウムよりも硝酸カリウムが優れています。

 理由は先述の通りです。


 ここ、重要です。

 ナトリウム塩でも使えないことはないですがカリウム塩の方が優秀なのです。


 こうやって生まれた優劣を技術力の差として物語に組み込めそうです。

 現実世界の技術力も元をたどれば、このような小さな差から生まれていることが往々にしてあります。



 植物の灰からアルカリを得る場合にはカリウムを多く含むアルカリを得られるので、江戸期の日本では硝酸カリウムとして得られていましたが、海水を原料にする場合には一工夫必要になります。


 そこで、今回は海水から食塩(NaCl)と塩化カリウム(KCl)の分離・製造についてお話します。


 海水の利用ということで、はじめに海水の組成を確認します。

 水96.6 wt%、塩分3.4 wt%


 更にこの内塩分の内訳は

 NaCl 78 wt%、MgCl2 10 wt%、MgSO4 6 wt%、CaSO4 4 wt%、KCl 2 wt%


 ではソルベー法のごとく、溶解度差によって分離しましょう。


 まず海水を煮沸します。

 量が少なくなれば海水を加えて塩の含有量を増やす作業を数回行い、塩を補充します。


 最後水を完全に飛ばしますが、水分が無くなる前に少量の濁りが生成します。

 これは極端に溶解度の小さい硫酸カルシウム(CaSO4)の沈殿です。

 石膏として使えるのでこれはこれで回収します。


 CaSO4の沈殿を除いた濃縮海水を完全に蒸発させて、塩分の固形(ここでは海水塩と呼びます)を得ます。


 CaSO4を除去したあとの濃い海水に対し、海水塩を投入します。


 海水の主成分はNaClなので、最初にNaClの飽和水溶液となります。

 NaClの溶解の限界を超える量の海水塩を入れればNaCl以外の成分が溶けるので、NaCl単独の沈殿を得ることができます。


 この工程を繰り返すとその他の成分、MgCl2、MgSO4、KClの濃度が次第に高まってきます。


 ここで温度による溶解度差を利用します。

 NaClやMgCl2は温度による溶解度差が小さいですが、KClやMgSO4は溶解度が温度に敏感です。


 NaClを濾過回収したあとの溶液を冷却すれば、溶解度が温度に敏感なMgSO4、KClの固体が析出するので、これを得ることができます。

 またKClとMgCl2は共晶析出するので、KMgCl3•6H2Oとしても固体が析出します。


 これで残りの金属塩はだいだいMgとKだけになりました。

 これを再度水に溶解させて濃い溶液を作り、飽和水酸化カルシウム水溶液を適量加えれば、


 MgSO4 + Ca(OH)2 → Mg(OH)2↓ + CaSO4↓

 MgCl2 + Ca(OH)2 → Mg(OH)2↓ + CaCl2


 更に炭酸カリウムを加えることで更に純度を高められます。


 K2CO3 + CaCl2 → CaCO3↓ + 2 KCl


 多くのMg、Caの硫酸塩が沈殿除去され、最終的な純度を高めることができます。

 残りの溶液を蒸発させればKClだけを単離したことになります。



 加熱をすれば作業は早く進行しますが、燃料が必要になります。

 一方太陽光による蒸発を行うと燃料いらずですが、作業進行は遅くなります。


 何はともあれ、これでようやくカリウム塩とナトリウム塩を自由自在に使えるようになりました。

参考文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/海水

http://bsikagaku.jp/f-industry/KCl-industry.pdf

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