曹達工業
曹達は染物やガラス原料、石鹸の原料に使われている炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウム、つまりナトリウム化合物の総称です。
ソーダ工業はこれに付随する連産品全体を指しています。
現代では食塩電解で発生する水素や塩素までも含みますが、ここでは炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムに着目してお話します。
まずアルカリですが、古くからガラス、織物、石鹸に利用されてきました。
伝統的な製法としては、木灰から得ていました。
基本的に植物や動物は炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、リンから構成されますが、金属元素が少量含まれます。
人間も体内にナトリウムやカリウムはもちろん様々な金属元素が存在しています。
木を燃やすと気化しない化合物は灰として残ります。
主としてカリウム、カルシウム、マグネシウムの化合物ですが、これらを水に溶かすことでアルカリを得ていました。
しかし木を燃やして得るのは効率が悪く、あっという間に禿山の出来上がりです。
史実において産業が拡大していた近代ヨーロッパでは大きな問題となっていました。
そこで1791年、海水からソーダを得る方法としてルブラン法が登場しました。
まず食塩を硫酸に溶かします。
NaCl + H2SO4 → Na2SO4 + 2 HCl↑
ここで得た硫酸ナトリウムを石灰石、木炭とともに燃焼して黒灰を得ます。
Na2SO4 + CaCO3 + 2 C → Na2CO3 + CaS + 2 CO2↑
硫化カルシウムは強酸の水溶液以外に溶けないので、残渣を濾過すれば濾液が炭酸ナトリウム水溶液です。
しかしこの方法は原子効率(仕込みの分子のうちどれほどが目的の物質になったか)が悪く非生産的でした。
しかも当時使い道のなかった塩酸は大気放出され、放棄された硫化カルシウムは長期間にわたり少しづつ硫化水素を発生させ、大規模な公害を引き起こしました。
異世界で塩酸と硫化カルシウムの有効利用は難しいと思います。
史実でこそルブラン法の誕生から百年後、塩酸はさらし粉へ、硫化カルシウムは硫酸へ利用する方法が開発されましたが、ガスの扱いは本当に難しいのです。
有毒ガスは密閉空間で扱えない以上あまり使いたくないというのが私の感覚です。
耐圧バルブや耐腐食性配管が存在すれば使っても良いんですがね。
そこで新しく登場したのがソルベー法です。
溶解度差を利用した賢い合成法です。
現在でも炭酸ナトリウムはソルベー法で合成されていますが、アンモニアを用いるプロセスです。
ハーバーボッシュ法が使えない状況でどうやって一定量のアンモニアを得るのか、これが一番大きな問題です。
ただソルベー法では反応で消費するわけではないので毎度消失した分を追加するだけで済みます。
アンモニアの合成は後にして、とりあえずソルベー法によるアルカリの合成を説明します。
NaCl + H2O + NH3 + CO2 → NH4Cl + NaHCO3↓
二酸化炭素は人間の呼気でも吹き込んでおけばいいでしょう。
得られた沈殿の炭酸水素ナトリウムをか焼して完成です。
2 NaHCO3 → Na2CO3 + CO2 + H2O
サイクルとするには塩化アンモニウムをアンモニア水にもどす必要があります。
2 NH4Cl + Ca(OH)2 → CaCl2 + 2 H2O + 2 NH3
アンモニアを水で回収してアンモニア水とします。
水酸化カルシウムは石灰石を焼成後、すぐに水と反応させて得ます。
CaCO3 → CaO + CO2↑
CaO + H2O → Ca(OH)2
さてプロセスはきれいですが、アンモニアはどうやって生産しましょうか。
硝酸塩の電気分解なども考えましたが、やはり一度に多く得るのに電池は向かないと思います。
そこで人間の尿を使うことにします。人間の尿には尿素、アルカリ金属塩化物、有機窒素化合物などが含まれており、この中でも約2%を占める尿素や有機化合物は加熱をすればアンモニアや二酸化炭素が生成します。
大量の尿を加熱しで発生したガスを水で回収していけば炭酸水素アンモニウム水溶液が得られます。
残渣はミネラル分です。
NH2CONH2 → HNCO +NH3
HNCO + H2O → CO2 + NH3
これで不純物の少ないアンモニア水ができ、炭酸ナトリウムが合成できます。
炭酸ナトリウムさえできてしまえば、水酸化ナトリウムまで持っていくことができますが、通常用途では炭酸ナトリウムで十分でしょう。
Na2CO3 + Ca(OH)2 → 2 NaOH + CaCO3↓
以上がアルカリの製造法です。
参考文献
https://ja.wikipedia.org/wiki/硝酸
https://ja.wikipedia.org/wiki/ルブラン法
https://www.ipros.jp/technote/basic-chemical-industy2/