第9話:奇跡をおこそう
『今までの僕は 飼い猫のようだったかもしれない
決められた範囲で ただ自由に意気がるだけだった
表面的なクールさを カッコよさと履き違えて
人に優しくすることを 弱い軟弱さと勘違いして
でも本当は違うことが分かった
表面的なカッコよさは 人を寄せ付けなくする
無口で無愛想な行為は 怖さと豹変する
今は囲いを飛び出し ただキミを守るためだけに戦う
知恵と勇気と愛を武器にして 今 奇跡をおこそう 』
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高校3年生が卒業して、一学年分生徒がいない学校は、心なしか広く感じる。
先週の予餞会の合同打ち合わせ後の一言が……僕の宣戦布告が効いたのかもしれない。。
彼女に対して、船橋先輩からの嫌がらせなど何もないようだ。
ある意味、生徒会長っていう肩書きで近づいていたわけだから、敗北を認めたっていうところだろう。もう近づき様がないって訳だ。
もちろん生徒会として行事関係などの仕事での会話のみ・・・らしい。
おかげで僕達の距離もグッと近づけられて急展開の連続だ。
勇気を出して僕に詰め寄った船橋先輩としたら、玉砕して失敗した…と落胆していることだろうけど、僕達としては好転する有難いハプニングとも言うべきチャンスだった訳だ。
打ち合わせや前日準備・当日の担当など
一緒に仕事が出来る機会も増えて、会話も増えた。
僕としては、いっそのこと生徒会をやめて、放送部に来て欲しいくらいなのだが。。。なかなかそうもいかないらしい。
その前に、放送部には女子生徒が何故かいない。
入ってきても暫くすると辞めていってしまうのだ。
よく聞いてみると・・・
「先生がコワい。 先輩もコワい。」
「時間が不規則だ。」
「部室がキタナイ。」
「肉体労働が耐えられない。」
・・・肉体労働って?て思うが、何かとある。
・機材を運ぶ
・学校行事などの会場準備の手伝い
一番多い意見ではこの2つがとにかく大変だと言われる。
他にも挙げたらキリがない。
まぁとりあえず、予餞会も盛大に行われて、無事終了した。評判も大変良かった。
先生方も先輩方も口をそろえて言うことは
「こんなに生徒会と放送部がスムーズに協力しあって行われた予餞会は初めてだ!!」
っと驚きの言葉がほとんどだ。
いやぁ。。なんたって僕が総指揮執ってるから、誰にも文句は言わせない。
もちろんみんなの意見を取り入れ、前年までの反省点は全てクリアにしている。多少文句を言ってくるヤツもいたが、全て僕がきちんと噛み砕いて説明して対応していたので解決。
今回卒業される放送部の先輩方からもメールをいただいたり、廊下などでお礼を言ってくださった。
一つ年上だが、久しぶりに僕の師匠とも言える高橋先輩からもメールが来た。
『来年の予餞会の総指揮もお前がやれよな! そして、今年以上に盛り上がるように仕掛けること!なんてったってオレらが卒業する時だからなぁ。
それから、もう一つ。オレに紹介しないでお前ってヤツは!!!彼女の話は今度たっぷり聞かせてもらうからな!』
はいはい。仕方ないなぁ。来年も一肌脱ぎますかぁ。大事な大事な恩師のハレの門出ですからねぇ。
しかし、紹介って言ったって・・・親じゃないんだから何でセンパイに??訳分からないけど…
こっちの件も仕方ないかぁ、今の僕があるのは高橋センパイのおかげだからな・・・
ほどなくして春休みが始まり。。。あっという間に過ぎて僕は高校2年生となった。
高校3年生は、もう部活に名前はあるものの受験体制で姿も見ない。
高校2年生だって、上の上を目指している者は同様である。
僕だって本来ならそうしていたに違いない…。
だけど、実際の僕の日課は……先ず放課後になると部室で勉強。
後輩達の仕上げる原稿チェックや段取りプランをチェックして、後輩育成指導。
17:00頃になると隣の生徒会室に菫を迎えに行く。
悪いムシがつかないように視線で威嚇は忘れずに。だけど、もちろん口では丁重に挨拶して。。。
今年度に入って、表向きは和解されたような【生徒会VS放送部】だが…まだまだ高校2、3年生は微妙に温度差がある。
まぁ3年は先にもある通り、活動休止状態だけど。
それから、最近僕の中で考えているのは、この2つの団体を1つにして…中で部門別にチームを作り、相互作用と理解のもと行事やイベントを行った方が効率的に良いのではないか?っという事。
しかし、まだ垣根が高過ぎて無理かな?
ただ、連休直後の生徒会長選出選挙で理解者に世代交替すれば話は別なんだがなぁ。
また今日もそんな事を考えながら生徒会室の隅に立ち、彼女の帰り支度を待つ。
「お待たせ…」
「お疲れさま。帰ろうか。」
これがいつものやりとり。
自然に交わす会話一つ一つや行為が心地よくて安心していられる。
帰り道でお茶をしたり、ウィンドウショッピングしたり…少し前まで顔と声だけで、名前すら知らなかったのに、数ヶ月後にはかけがえのない人になっている不思議。
そんな不思議も今は大切にして、永遠に続くように願っている。
…4月も半ばを過ぎようとしたある日の帰り道
僕は彼女の発言に驚いた。
「私…今度の会長選挙、立候補しようと思うの。。ねぇ、速人はどう思う?」
「えっ!?ちょっちょっと待って?キミが?」
「ええ。ヘンかしら?私が立候補しちゃ?
色々考えて…速人の話す奇跡を起こせるのは、私達じゃないと出来ない?っていうか、私達なら出来るんじゃないかな?って思ったの。」
確かに放送部は僕がまとめて…
生徒会は彼女がまとめれば…
僕達だって仕事はしやすいし、わざわざ周りに気遣う事なく色々な仕事や作業をしなくて済む。
しかし、生徒会長っていったら、普通に学級委員長やるのと訳が違う。
「あぁ。え〜っとぉ………よし!全面的に僕がバックアップするから安心していいぞ!だいたいのイメージもあるから心配するな。
奇跡は必ず起こすぞ。二人でな!」
「まってよぉ。まだなってもないのにぃ〜。
でも、良かった!しばらく考えてて…いつ言おうか迷っていたから。
こんなだったら早く話せば良かったわぁ。」
そう言って彼女は笑った。その笑顔は今でも忘れないし…今も純粋なまま変わらない。