第6話:それは突然に
今回から少し大きくなった速人です。高校1年生になりました。ちょっと大人っぽくなった気がします。
『 ボクはボクであって 誰でもない
太陽は全てを照らす 平等に
感情は抑えきれない 隠していても
時間は止められない 絶対に
キミ ハ ダレ ?
ドウシテ ソコニ イルノ?
ナニヲ ミテ イルノ? 』
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生暖かい風が吹いている。
今は冬なのに…まるで春一番のような。
時は、いつでもみな平等に一定に過ぎている。
それは当たり前な話なんだけど、どうしてこんなにも駆け足で過ぎているように感じるんだろう。
僕は何も急いではいないのに。
あの頃の僕は、色んな希望をもち…色んな期待をうけて…日々新しい何かに向かって走り続けていたような気がする。
あれから3年が経ち、僕は高校1年生になった。
心も身体も精神的にも様々な面において成長した。
だけど、あの頃のような勢いとハッタリだけで自信満々に向かっていくような…ある意味無謀な?無鉄砲な?そんな生き方は間違っても出来ない。
それは大人に一歩近づいたからなのだろうか?
もうじき年も明けて、いよいよ自分自身の中で描き続けてきた"その時"のために向かって作戦を練る時期に入る。
そして、再来年の今頃には最終戦直前になって、意気揚々としているのだろうか?
それとも、意気消沈としているのだろうか?
"その時"は怖いものなのだろうか?心地よい緊張感なのだろうか?
今の僕はとても穏やかだ。穏やか過ぎて何か物足りなさを感じるくらいだ。
かと言って何かを始めようなんて思わない。
何かを変えようとも思わない。
とりあえず、いつものように部室に寄って可愛い…!?後輩の放送部員達の面倒でもみてくるか。
視聴覚室隣のボコボコになった扉の鍵を開けて入ってみた…
「誰もいないしぃ。仕方ない宿題でもやってるか。」
薄汚い空間には誰も居らず、棚にはカメラや機材、テープにファイルがズラリと並び、隅のデスクにはでっかいパソコンが2台並んでいる。
パソコンと向かい合わせの位置には、こちらも古めかしい応接セットがある。
その後ろには事務机が2つ書類の山の台となっている。またその山に隠れるように何故か流しがあり、小さな茶箪笥まであった。
速人は迷いなく応接セットにドサッとカバンを置き、腰を下ろした。
するとその時、丁寧に扉をノックする音がした。
普段ガサツな男子生徒しか出入りしない部室には驚くべき出来事だった。当然速人も驚き、身なりを整え、のけぞっていた体勢を慌てて面接でも受けるように座り直した。
ゆっくり扉を叩く音がする。コンコン…
少し低めの声で速人は返事をした。
「どうぞぉ。」
「失礼しまぁす。」と見慣れない女子生徒が恐る恐る扉を開けて入ってきた。
「どうぞ…見ての通り汚い部屋ですが。」
っと速人にしては珍しく、努めて笑顔で優しく声をかけた。
「あの〜。生徒会の者なんですが、放送部ってこちらでいいんですよねぇ。」
「はい。そうですよ。」
「来学期の予餞会のお願いで来たんですが。」
訪ねてきたのは自分の方なのに、やっぱり引き気味の調子で彼女は話した。
またもやフレンドリーな速人。しかも笑顔つきだったし。
「大丈夫ですよ。怖がらなくても。まぁこちらにかけて下さい。お茶でもいれますね。」
「ありがとうございます。でも、おかまいなく…。この書類に詳しい事は書いてありますので、ご覧になって検討してから生徒会までご連絡ください。…じゃあ失礼しました。」
慌てて丁寧に断わると、彼女はペコリとお辞儀をして部屋を出ていった。
速人は立ち上がって2、3歩近寄るような位置で止まり、話を聞いていた。そして、彼女が去った後も暫く扉を見つめたまま立ち尽くしていた。
退屈な毎日に柔らかな風が吹いた放課後、速人の中で何かが動き出した瞬間でした。
放送部でも、私立だなぁっと思わせる部室。を勝手にイメージしてみました。