最終話:夢が叶った時・・・
春には完結するといっていたのに早いですが・・・今回で最終話となります。
クールな速人が人間らしさを出して、夢に向かい将来を掴む時です。
『ここから見る風景はあの頃と変わらない
変ったのは僕だけだろうか・・・
いや 変ったように装っているだけの 僕
本当は何も変っていないんだ 弱さを隠してクールな僕を演じてる
人見知り と とっつきにくさが
愛想笑い と 多少おしゃべりになった そうそれだけだ
君に出会ってからは 弱さも出していいんだということや
人間くささも時には必要なんだということも分かった
そして 時には勇気を出して 言葉に表さないと伝わらないということも』
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歩き出した菫の足取りは軽かった。鼻歌交じりで歩いてゆく。
「フン♪フフン♪・・・フン♪フフン♪」
もちろん僕も足取りは軽かったが、比較にならないほどだった。
いかにも女性好みの!って感じの喫茶店を出ると
もう日差しはやや肌を刺すようになっていた、さすが初夏の太陽だなぁなんて空に感心しながら僕は歩いていた。
昼にはまだ時間があるし・・・デートといっても先ずは映画かな?と思っていたら
「気になることは先に片付けておきたいから!
早速で悪いけど、速人!お願い!私のレポート添削してくれない?」
っという菫の要望にこたえて、彼女の住む街の大きな図書館へ向かった。
そこからはたいして遠くないので、散歩がてら歩いてゆこう!ってことになった。
図書館へ着くと、何故か菫は迷うことなく児童書コーナーの方へと向かって入って行った。
一瞬自分が間違えているのか?っと思ったが、慌てて彼女の後をついていった。
結局向かっていたのは、大きな窓からたっぷり日差しが入って、いかにも気持ちの良さそうな席だ。
高さは低いが大きな丸いテーブルに、これまた低すぎるほどの小さい木製の椅子が6つ並んでいた。
窓際の席に躊躇なく座り、彼女はう~んと伸びをした。
そして、大きなカバンからファイルを取り出して、分厚いレポートの束を取り出した。
伸びをしている彼女の隣にある小さい椅子に腰掛けた。
早速カバンから眼鏡を取り出して、その分厚いレポートに目を通し始めた。
その間中ずっと菫は、椅子ごと右側に座る僕の方へ向いて
じーっと僕の事を眺めていた。
穴が開くほど見ているっていうのはこのことだろうと思うほど見つめていた。
初めのうちは気になって仕方がなかったが、次第に慣れてきて気にならなくなっていた。
一通り目を通した後に、もう一度流し見しながら、持っていた付箋紙にチェック箇所を記入しながら貼っていった。
それを一つ一つ横から見ては「う~ん」とか「へ~!」とか感想というか感動していた。
一つずつ書き直したり、書き加えたりして修正を終えると
「やっぱり速人に見てもらって良かったわぁ。
全然気付かなかったところもあるし、表現の仕方が違うだけで全然文章がカッコよくなったりするし、アドバイス道りに直してみると無敵になれた気がするよぉ。」
などと訳のわからない発言が飛び出した。
「まぁ彼女に喜んでもらえたんだから、よしとするかぁ」っと心の中でつぶやいた。
いや、しかしこんな風に甘やかしていいのだろうか?っと親心のような不思議な感情も抱いていたり
でも放っておけないのも事実だし、結局これからも同じようにみてしまうのだろうなぁ。っと自問自答してみたり。
恐らく僕の頭の中でこんな葛藤をしているなんて微塵も感じていないんだよなぁキミは。
「じゃぁ一休みしたらどこ行く?!
・・・ちょうどお昼過ぎだし、何か美味しいものでも食べに行かない?」
やはりなぁ・・・この調子だと絶対に感じていないよ。
まぁこの爽やかな元気さに惹かれているのは僕自身だけどな。
「あぁ、そうだなちょうど良い疲労感だし、何か美味いものでも食べてチャージしないとな!」
~~~~~そして、お互いの進むべき道を歩いて
馴れ合いになりすぎず…ドライになりすぎず…
あれから6回の誕生日を祝い、初秋。風は未だ生暖かい~~~~~
僕は大学に残り、子供の頃からの夢を実現すべく研究に励んでいた。
若者は真夏のような格好でキャンパスを闊歩している。って僕もまだ若者なはずだが…
先日研究室にて師匠とも呼べるほど師事を仰いでいる先生から呼ばれた。
そして、週に2回ほどだけれど、ピンチヒッターで僕が教鞭をとってくれないだろうか?っというお話だった。
なんでも…旧友から頼まれた別のキャンパスでの講義が入って、スケジュールの調整が利かず困っているという。そこで、この僕に白羽の矢が!!!
そして、今日その返事をする約束になっているのだった。
・・・・コンコン
「松本です。先生はおいででしょうか?」
はっきり言って喉から手が出るほど受けたい話だったが、尻尾を振っておいそれと飛びつく軽いヤツでもない。それに来春から正式にコマ数の割り当てを僕にくださるというから、足がすくむはずだ。
「おぉ〜松本君だね?こちらへ入りなさい。」
扉の向こうから老紳士の声。師匠とも言える恩師の和田教授の声に他ならない。
「・・・はい。失礼します。」
教授の部屋には何度も入ったことはあるが、今日は違う。
ドキドキが止まらない。面接を受けるよりもドキドキしていると思う。
そして、重厚な扉を開けて入ってゆく。
「じゃぁ、もう一度聞くけど・・・請けてくれるかね、先日の話。」
「はい。宜しくお願いします。
長年の僕の夢がまた一歩近づいた。っという心境ですので、有難くお請け致します。」
よし!噛まずにしっかり言えたぞ!・・・子供ではないが緊張のあまり失礼があってはいけないからな。
「まぁとりあえず、来週の火曜からだけれど、頑張ってくれたまえ。
私個人としても、色々な意味で君には期待をしているのだよ。
今までの伝統や型にはまったやり方も大事だが、今の世代の生徒達にあった新しい斬新なアイディアも必要だと考えているのだよ。」
頭の中では大人気ないが…バンザイしてジャンプしている自分がいる。
もちろん顔はクールに真面目に装っている。
斬新なアイディアとは。。やはり、いつも話している自論のことだろう。
「期待に応えられますよう、頑張っていきたいと思います。宜しくお願い致します。」
「いやぁ、こちらこそ頼むよ。」
今まで院に残って研究を続けていた甲斐があったというものだ。
来週から恩師の代理として表舞台に立てる。
助手って位置は未だ変わらないけど。。。いつかは必ず!
僕のデヴュー戦っというか”初陣”だ!!正式に教壇に立てるのだ。
夢のような…夢ではない話だ。
しかもこんなに早く叶うなんて。。実際思思ってもいなかった。
一礼して、教授の部屋を出た。
廊下を歩く自分自身を客観的にみている感じがする。おかしな気分だ。
まず、菫に報告。っていうか仕事か?メールにするかぁ。
それから両親に報告しないとな。
・・・そして大事な僕の原点でもあるあの人のところにも報告しなければならないな。
速人は自宅の最寄駅へと着いたが、いつもとは反対の南口へと降りて行った。
ゆっくりと商店街を歩き、途中花屋へ立ち寄り
そのまま駅の方へは戻らずに、さらに先をゆっくりと…しかししっかりとした足取りで進んでいった。
商店街の賑やかな音楽がフェイドアウトしてゆき、小さな畑や民家、小学校が見えてきた。
ちょうど小学校の正門と向かい合うようにして
古めかしくも重厚な木の扉と白壁に瓦が続き、速人は立ち止まりきびすを返し軽く一礼した。
頭を上げると立派な門を潜り入っていった。
そこは立派な寺院だった。
本堂はさほど古くはないので途中で立て替えたのだろう。
速人は本堂で手を合わせた後、ゆっくりと墓地の広がる方へ足を運ばせた。
深呼吸をした後に、祖父の墓前へ報告すると柔らかな表情をし、家路に着こうと歩き出した。
するとズボンに入れておいたケータイがブルブルと震えだした。
「あっ!メールだな。仕事終わったのか?? はいはい。今見ますよ・・。」
薄手のコートの裾ををはらりと開いてズボンのポケットからケータイを取り出した。
メールの主はやはり菫だった。
『速人!!おめでとう!良かったね。ホント良かったね。
今すぐに駆けつけたいけど、今日はどうしても抜け出せない打ち合わせが入ってて…
だけど、明日の夜は空けておくので二人でお祝いしようね♪ すみれ』
菫は大学を卒業すると、語学を活かして貿易関係の商社に就職した。
まだまだ新人の部類だから。っとは言うものの、最近はとくに忙しそうだ。仕方がない。
僕が忙しかったり、どうしても集中したい期間はメールだけのやり取りで過ごしていたし
こんなのはお互い様ってことで、大したことじゃない。
しかも、その方が僕にとっても都合がいい。
なぜならあの日僕が思い描いていた”僕たちのシナリオ”には続きがあって、まだ終わっていないから。
僕の夢が叶ったら…
僕たちが初めて出会った学校を見に行って
あの坂の下の神社の境内で、「結婚してください。」っと言おうと決めていた。
よし、これからシルバーのリングを買った店に行こう。
いつまでも、いつまででもキミが笑っていらるように・・・僕はずっとキミを守り続けるよ。
長く長くつたない文章を読んでくださってありがとうございました。
目に付くところは数え切れないでしょうが、とっても大事にしてゆきたい作品だと思っております。
温かい目でご指導願えたら嬉しく思います。
ホントに本当にありがとうございました。