第23話:僕の誓い
『 今でもハッキリと覚えている
初めて君に会った日の事を…
いや 僕にとって君に初めて会った日だね
君には 初めてなんかじゃない
君が勇気を出してくれた日 っと言った方がいいだろう
まさか 君が僕をみていたなんて
なんだか半年間も 僕は損をしてしまったように思うが…
いや これからの長い人生において
半年間なんて大した誤差にはならない
だから 気にしないでおこう
今のこの気持ちを伝える事が大事であって
君の気持ちを知りたい方が先だから
そしてまた 一緒に歩いていきたい
将来を夢みる事がこんなにもワクワクすることだなんて思わなかった
君と出逢うまでは知らなかったよ
君の傍でみる夢は色鮮やかで絶対叶うと信じられた ありがとう』
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キミは勢いでしゃべり続けて疲れたのだろう。ふとしばらくの間が出来た。
僕は半分ほど残ったエスプレッソを一気に飲み干すとゆっくりと話し出した。
「それ・・・開けてみてくれないか?どうしても今日、菫に渡したかったんだ。」
菫はハッとした顔をしてゆっくり頷き、そーっとピンクのリボンを解いて、ツヤツヤしたサーモンピンクの包装紙を丁寧に開いていった。
話したいことは山ほどある。だけど言葉を選びながらゆっくりとしっかりと一つ一つの言葉が菫に届くように話した。
「母さんが家の片づけをしている時に、昔父さんからもらったのを僕に見せながら話してくれたんだ。
『女の子は19歳の誕生日にシルバーのジュエリーをもらうと幸せになれるんだって♪』ってね。
それは、母さんが19歳の時に父さんからもらったもので、星型が付いた小さな指輪だったんだ。」
僕がそう言い終える頃、君はベルベット調の丸みをおびた厳かなケースを取り出して、ゆっくりと開いたところだった。
「夕べは、3つくらいお店を回ったんだけど…もちろん一人で行った。
やたら恥ずかしかった。
店員に色々聞かれても訳が分からないし、1件目では逃げるように出て来てしまった。
2件目では、少しデザインやなんかを見る余裕も出てはきたが、なんだか落ち着かず出て来てしまった。
3件目で店の中を少し歩くと直ぐにこれが目についた。絶対に菫に似合う!って思ったんだ。」
少し緊張と興奮気味になって、だんだん声がでかくなってしまったかもしれないっと反省して、一口水を飲み、気持ちを落ち着かせトーンも抑えて続けた。
「それから、恵にメールしてサイズを聞きだそうしたらアッサリと分からないから自分で聞けば?
なんて失礼な返事がきたから、『分からなかったら聞いてでもして至急連絡入れるように!』っと頼んだんだ。
だからいきなり恵から連絡があっただろ?すまなかった。」
とりあえず全てを暴露してしまおう。隠していても仕方がないからな。
話しをしている間に菫は、しっかりというか…ちゃっかりというか、右手の薬指に指輪をはめてニコニコしている。
「ピッタリだよ~ありがとう。
可愛いハートがついてて一目で気に入っちゃったo(^-^)o
でも、どうして今日はスーツなの?」
菫はそんな風に喜びながら、手をヒラヒラとさせたり、陽射しに透かすように斜め上にかざしてみせたりしていた。
「自分自身に気合を入れるためにキチッとした服装が良かったから。かな・・・」
まさか、そんなところを聞かれると思わないから、意表をつかれて返事に戸惑ってしまった。
まぁ、これは本当だ。
自分自身の儀式じゃないがな、気がついたらそうしていた。
「なんとなく以前から制服のネクタイを締めるとスイッチが入るというか…
きちっとした服装になると、余分なものをそぎ落とした様な感があるからな。
集中できるっているか・・・やるぞ!とか、いくぞ!とか気合が入る感じがするんだ。」
僕がそんな風に自分に確かめながら説明していると
いつの間にか注文していたのか?でっかいパフェを持ったウェイトレスが近づいてきて
「お待たせいたしました。ハッピーパフェをお持ちいたしました。」
っとにこやかに営業スマイルを振りまいて、菫の目の前にそのパフェを置いて
手際よくテーブルを整理し、会釈に「ごゆっくりお召し上がりくださいませぇ。」と添えて去っていった。
呆気にとられながら僕は言った。
「おい。。。それ、いつ頼んだんだ?しかも、それ一人で全部食べられるのか?」
いつもにまして視線を感じる。
絶対近くの席に座る客の視線と興味は、このパフェに釘付けなことだろう。
「え?さっき指輪をみる前かな?
それに!今日は誕生日なんだもん♪速人にもちょっと分けてあげるからさっ!心配しないで。」
銀色に光る細長いスプーンを右手に持ち、ニコニコとどこから食べようか眺めている様子は
まるで大事な宝物のおもちゃを手にした子供のようだった。
「っあ?あぁ。その頃は指輪の話をしようと思って、半分真っ白になりかけていたから気が付かなかったんだろう。
っていうか、僕は欲しいなんて言ってないぞ!?ただ、完食出来るのか心配したんだ。」
っと言うのも聞いているのか?聞いていないのか?
トッピングされたフルーツから攻略し始めて、何やら突き刺さっているプレッツェル状のお菓子をつまんでいる。
しかし、ホントに幸せそうな顔をしながら食べているよ、キミは。
菫の気持ちは全然分からないままだし・・・口には出せないが、僕は複雑な心境だよ。
早くも全体の半分ほどまで差し掛かった頃
パフェの容器の中を見つめながら、ふと何かを思い出したように
「・・・そう。速人。」
視線はそのままで、ムダにスプーンで中身を突きながら続けた。
「今日はありがとね。すっごく嬉しかった。それに安心したわ。
しばらくケータイ越しのやり取りだったから、不安になってたの・・・私。
だから、ワザと連絡もあまり入れないようにしたりしたし、
課題に集中したり、新しい仲間との生活で時間を潰したりして気を紛らわせてたのかもしれない。
そんなだから自分の誕生日にも気づかなくって・・・」
笑顔で話し始めたのに・・・だんだん表情が硬くなって、涙がひとすじ零れた。
その先は言葉を詰まらせて、歯を食いしばるようにして必死にこらえていた。
「ごめん。僕がもっと気遣ってやらなければならなかったのに。
昔の仲間と再会して、流されすぎたのかもしれない。
でも、これからは大丈夫。菫を二度と不安になんてさせないから、僕を信じて欲しい。」
俯きながら、手を震わせて涙をこらえているキミ。
とっさに僕は震える手を両手で包み込んで、不安になるもの全てを取り除いてやりたかった。
「その指輪に誓って、僕自身をかけて、キミの全てを守るよ。・・・分かるね。」
キミは目を閉じたまま、一生懸命コクンコクンとしっかりと頷いた。
そのままどのくらい過ぎたのだろう。1,2分?いや5分?
短いとも長いとも言えないくらいだがそのままの姿勢でいた。
いつしかキミの手の震えも止まり、かたまっていた肩の強ばりも解けて
「・・・ありがと。速人。」
ポツリとつぶやくように沈黙を破ったかと思うと、小さく笑い始めた。
「フフフッ。はぁやぁとぉ。アイスクリームが溶けちゃうよ。」
「あっ。あぁ、わりぃ。大事な誕生日のパフェだったなぁ。////」
握り締めていた両手をそっとはなした。
キミのぬくもりを手のひらに感じながら、ぬくもりが少しでも消えぬよう指を組みテーブルにそえた。
「はい。あ~んして。スポンジとアイスと生クリームが絶妙よ(^o^)/」
笑った時に、しっとりしたまつ毛が少し光ったように見えた。
とても綺麗で可愛くて、とても愛おしかった。
そして、僕は少し・・・いや、かなり恥ずかしかったが、差し出されたそれを大きな口を開けてパクリと食べてみた。甘すぎずホントに美味しかった。
「よぉ~し、今日はこれから速人とデートだわぁ♪決めたからね!」
続きの後半戦をパクパク食べながら、嬉しそうに君は言った。
「おいおい。大丈夫なのか?大学の方は?
確か・・・レポートがどうのって言ってなかったか?本当に大丈夫なのかよぉ。」
元々予定は入れずにおいて、菫のために今日一日を使うように決めていたから
僕の方は大丈夫なんだが、さすがに驚いた。
すかさずキミはケータイを取り出して誰かにメールを送っている様子だ。
「だいじょ~ぶ!今、友達にはメールで連絡入れておいたから!
それに、レポートは今週末の提出だし、今日は速人っていうセンセ~がいるから添削してもらうもん♪
ほらっ!決まったからには、速人も連絡しておかなきゃ!」
そっそういうことだったかぁ。
まぁレポートは話を聞いた時から僕がみてやらなきゃなぁっとは思っていたけど
そうとう気持ちがスッキリしたんだなぁ。
活き活きとしている様子がわかるよ。
「ぼっ僕の方は大丈夫だ。元々今日一日は菫のために使おうと思って丸々空けておいたから。」
しかも、目の前にそびえていたような、菫の顔よりもでっかいパフェは
どんどん攻略されまくり、もう残すところあと数口で完食しそうな状態で
その勢いにも圧倒されて、今日のキミには驚かされた。
ハッピーパフェ。気になりますが、私が学生の頃駅前の喫茶店に名前は忘れましたがポ○キーが2本TOPに刺さった大きなパフェがありました。
今もあるのかは不明ですが。
友達と一緒に特別な日には食べに行く約束みたいなのがあって・・・っていうかいつの間にかそんな風に決まっていて。懐かしくふと思い出したので登場させてみました。