第18話:菫の章《橘月》
『人は 言葉で 気持ちを伝えることができる
だけど 言葉だけでは 上手く伝えられない
そして 言葉に依存しすぎて 誤解をまねく
だから 瞳をみて 気持ちを添えて 言葉にしよう
誰も 初めから上手くいかない
だけど 真剣な眼差し と 真実の心 と 丁寧な言葉
それを もってすれば 必ず伝わるはずだから
あとは あなたが 相手を 信じることだけに 努めればいい 』
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ここ数日迷って…でも私がまとめられるかなぁ?いや!彼に相談しながらやれば絶対出来るわぁ!!って思ってみたりしていた。
それを初めて口にしてみた。やはり驚かれた。だって自分だって驚いた発想だなぁって思ってたくらいだから分からなくもない。
生易しい事じゃないって事くらい分かってるけど…私が"生きてる""ここにいる"何かを自分なりにカタチに残したいっていうのも少しある。
それから絶対言いきれるのは、なにか彼の役に立ちたい。って事。
まぁ先ずは来月頭の"生徒会長に当選する”というのが先にありきなんだけどもねぇ。。
”放送部と生徒会”のあり方についての構想。
実現したら、二重になる仕事やお互いを行き来していた書類も省略することが出来るし…
解釈の相違もなくなって、精神的な部分も好転される。
第一、最低限の人数確保も確実なものになるから、仕事を細分化されて個人的仕事量が軽減される。
あっ!!なんか彼みたいな思考になってきてない?!やっぱりいつも側でこんな風に聞いているから?頭の中の展開も似てきた?!(^o^)
ん?でも……彼は何もないところから今の展開を導き出してきたんだからスゴいわぁ!それに私も参加出来るなんて嬉しいし、スゴい事なのかもしれないわぁ。
う〜んしかし、そう上手くいくかはやってみないと分からない。けど大丈夫!!(^o^)……な気がする。
しばらくすると、私は生徒会役員選挙の準備と自分自身の立候補者としての行動とで忙しくなっていった。
彼は図書館で勉強したりしていたから、ちょっと自分自身おいてきぼりをくったようで寂しかった時もあった。「何で彼の為にって思っているのに私ばかりこんなに大変なの?!私だって勉強しないとダメなのに!ズルくない?!」ってねぇ。
単なる被害妄想なんだけどねぇ。
帰りは、私が図書室に迎えにゆく。……今度は彼が身支度をする。
ちょっとむくれた時やホントに忙しい時は
「ごめんなさい。今日は長くかかりそうだから、いいよ〜先に帰っても…」
っと、言いに行く時もあったけど、もちろん彼は帰ったりしない。そのまま一緒に部室と生徒会室のある2階へ下りてゆき、彼は放送部の部室に籠って勉強の続きをしながら待っていてくれる。
その後のゴールデンウィークもお互いの予定が上手く合わなくて、1日しかゆっくり会えずに終わってしまった。その1日も普段の日曜日のような感じで、特別どこかへ行くもなく近場でフラフラと過ごしていただけ。。。まぁ学生だから仕方ないのかもしれないけど、ちょっと残念。
その代わりといっては怒られちゃいそうだけど、恵とは久しぶりに雑貨屋さんめぐりに行ったり・・・スイーツの食べ放題に行ったり・・・楽しかったぁ。
ゴールデンウィークが終わるといよいよ選挙が行われて……何故かこの私が圧勝で当選!!!出来ちゃったの。
さすがに恵と一緒に「やったぁ!」って手をつなぎながら飛び跳ねちゃってた。。。これからが大変なんだとは分かっていたんだけど、やっぱり嬉しいものは嬉しいからねぇ。
でも、大変は大変でも何がどんな風に大変なのかはさっぱり分からなかったから、前生徒会長の船橋先輩に色々と資料を見せてもらいながら教えていただいた。。。けど、イマイチというか何となくポイントが分からない。
書記さんのノートを1年分借りて、家に持ち帰ってみたりした。
一年間の流れやその時々にどのくらい前から準備にかかるのか?とか、それぞれの行事の反省会ででた意見など…膨大な量になっていたけれど、彼となら絶対に乗り越えられそう!!って思いながら自分を励まして資料とにらめっこの日々をしばらく過ごしていた。
そんな生活も1週間か2週間も経つと頭がパンクしそうになってくるの。誰か助けて〜!って言いたいけど代わりはいないし…最初のお仕事の生徒総会は近づいてくるし…どうにかして〜!って感じの日々を過ごしていたわ。
そんな中、家に帰れば母からまた父の転勤の話を聞かされたの。更に、学校で募集している語学留学生の話をタテに生徒会の活動を"そんなの"扱いされて……私自身をけなされた思いがして、親子ゲンカになったりもしたわ。
そうそう、【語学留学生】っていうのは、要は交換留学生で、向こうに1年近くホームスティしながら向こうの学校に通うの。
但し、2つ条件があって…『2学期にある選抜テストにパスすること』と『帰国後の進学先は系列大学に必ず入学すること』
しかも選抜テストに通っても、男女それぞれの上位者5名ずつが留学生の切符をゲット出来るの。
はあぁ……母の言いたい事も分からなくないけど。。理由が納得いかないのよ!
何でもそつなくこなす姉を持つと妹はツラいわぁ。何かと比較されて、母の考えを通される。そんな状態がイヤで環境を換えたかった。
英語で進学したいから、留学も行きたい!自分なりに何もないところから、どれだけの事が出来るか試してみたい!全く違う文化や環境の中でチャレンジしたい!自分自身をパワーアップさせたい!とか色んな事が絡んでの挑戦だったの。
そんな私を後押しして助けてくれたのは、やっぱり彼だった。それは突然で…って言っても、私達の出来事っていつも突然だけどねぇ。今度も突然のハプニングでお互いを再確認出来たっと言っても過言ではないくらいだったわぁ。
それは、来週か再来週には梅雨に入るのかしら?って話がささやかれる時期で……その日の放課後は、今まで充分休めなかったので、部活も生徒会も休んで、早めに帰ろうかな?って思っていた。
「すみれ〜!すみれ〜!!」
当たり前だけど、一瞬にしてクラス中が声のした方を振り返りざわめき出した。
私は窓際の真ん中ほどにある自分の席で、帰り支度をちょうど済ませたくらい。普段みんなの前では『塚本さん』ってさん付けだったのに?!名前で呼ぶし、しかも声が大きすぎ!驚かない方がオカシイ。たぶん口をポカンと開けたまま現状を理解できない間抜けな表情を私はしてたんじゃないかしら??
彼は慌てた様子で教室に入ってきてグングン近づいてくるし、頭の中は???だらけ。気がつけば彼は左手にカバン、右手に私。連れ去られたような状態だった。
「とにかく行こう!」
「えっ?なっ何?どうしたの?」
どこに行くの?何が何だかわからなかった。だけど、不思議とコワさを感じなかった。掴んだ手もしっかりと握られてはいるものの痛くはなかったし。この非日常的な展開に何故か心地よさを感じるほど。ヘンな感じかもしれないけれど、私を気遣いながら連れ去っている?って思ったくらい。
そのまま屋上に着いた。ここは確か彼の特等席。桜が満開の時に初めて招待してもらった場所。。風があまり来なくて…日だまりになって…眺めがいい。右側は主にコンクリート・ジャングル…左側は近所にある大学の森や寺社仏閣を守るように緑が囲んでいて緑が綺麗。
二人とも走り続けて呼吸が早い。だけど息を切らしながら私は彼に聞いてみた。
「…ねぇ、……どっ…どうした…の?急に…」
「…ごめん。今まで…ずっと…ずっと、ごめんな。気づいてやれなくて。でも、大切なんだ。だから…だからごめんな。」
だんだん息も落ち着いてきたけど、謝られた意味がさっぱり解らなくて。。何を「気づいてやれなくて」なんだろう?こんなにもいつだって優しいのに。気遣ってくれるのに。「大切にされてる」って実感があるのに。どうして急に彼が私に謝るのだろう??
「えっ?何が?どうしたのよぉ。速人らしくないよぉ全然分からないよぉ。」
「キミが、すみれが大変な時に全然気遣ってやれなくて、寂しい想いさせちゃって、ホントすまなかった。」
真面目に、真剣に謝る彼の姿を見ていて……どんなに大変なことがあったのかと思って真面目に聞いていたら、私にとったらなぁ〜んだって事で拍子抜けしてしまった。
そうしたら途端に笑いがこみ上げてきて笑ってしまった。日頃、冷静沈着で何事にも緻密な計画と裏づけの元行動して、【氷の速人】と呼ばれるほど他人を寄せ付けないような瞳でクールな彼が!慌てて取り乱して…何度も謝っている。しかも最後に極めつけに”すまなかった”っていうのもオジサンくさくって笑いを誘った。でも、最後の言葉の事はナイショにしておこう。
お腹を抱えて笑って、涙を流しながら笑って、やっと落ち着いた。
その後、どうしてこんな事になったのか、今までのモヤモヤや悩んだ事。船橋先輩にいきなり言われた事。など一つ一つ順を追って彼は話してくれた。
そして全て話を聞き終えると、不思議と母親のような感覚になり自然と微笑みかけている自分がいた……
『ありがとう。。速人。』