第17話:菫の章《花咲月》
今回は、上手く切れずに、流れもキチンと追いたかったので2月下旬〜4月中旬までになっています。それから、今まで速人サイドだったので見えなかった"菫ちゃんと恵ちゃんとのやりとり"も盛り込まれています。
『夢見心地とはこんな風?
風が もう春ですよぉ って言っているよう
私も負けずに 春ですよぉ ってふるまうわぁ
まだ信じられない これは 春一番のイタズラ?
いやいや それにはちょっと早すぎる
じゃあ 誰の仕業? あの人の仕業?』
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高校3年生が卒業して、最上級生はみな自宅研修期間になって、あとは予餞会と卒業式だけの登校になる。
一学年分生徒がいなくなった学校は、少し寂しく広い。特に親しかった先輩がいた訳ではないけど、なんとなく風通しが良すぎるっていう感じかな?
今でも信じられない……思い出しただけでもドキドキしてきちゃう。
先週の予餞会の合同打ち合わせ後の一言が……更にその帰り道の出来事が。。。
今まで、たいていの事は相談していた恵にも、彼の事だけは打ち明けられないまま一年近く経って……雪の日事件はごまかせても、さすがにこれからは絶対ムリ。
だから、彼からの告白があった日の翌日、恵を誘ってみた。回転の速い恵には全てを悟られているはずだけど。
「久しぶりに…ウチに遊びに来ない?いつものシリーズの最新刊も貸したいしぃ。」
「いいねぇ。生徒会の仕事も私の担当部分は予餞会の当日待ちっていう感じだし…文学部の原稿も今日提出したらOKだし…行く!行く!………それに、菫の相談役としたら行かない訳にはいかないでしょう?」
そうだよねぇ。彼の事以外は何でも相談にのってもらってるし…この学校の色んな事を教えてくれたのも恵だしねぇ。
「ああぁ。やっぱり分かっちゃうわよねぇ。」
「あははっ!そうじゃなくて、菫が分かりやすすぎるのよぉ。何か考えてるな?って事くらいは分かるわよ〜。」
「ありがとう……めぐみぃ。ずっと前から話そうとは思ってたけど……」
「はい。はい。その続きは菫の部屋でたっぷり聞かせてもらうから大丈夫よ。」
話したい内容が特別な人の事なだけに、言葉がつまりそうになった。
そんな事も察してか?話の途中で遮るように恵が助けてくれたようだった。
次の休み時間に、授業中に書いた手紙を渡しに行った。今日は恵に初めて話す事とだから一緒に帰れない事。を簡単に話して手渡した。
『昨日はありがとうございます。
今日、クラスも部活も生徒会も一緒の多奈川 恵さんに松本くんの事を打ち明けようと思います。
もちろん学校ではなくて、私の家でですし、彼女はとても信頼出来るので大丈夫です。
なので、今日は一緒に帰れません。ごめんなさい。』
放課後は私の部屋で恵に春からの事を一気に話した。暮れの書類を渡しに行った時の事も…雪の日の事も…昨日の展開と帰り道の事も……そして、生徒会に誘ってくれた恵にはとても感謝している事。
もちろん恵だから、雪の日あたりから薄々察していたようだった。
「そんなに自分の中で抱えていたんだぁ。早く相談してくれたらキューピッド役をしてあげたのに!」
「えぇ〜!そんないいのよ!絶対実らないって思ってたから。」
「確かに女子を寄せ付けない目つきだしねぇ。まぁ、雪の日は絶対何かあったなぁとは思ったのよぉ。慌てた様子で来たからさぁ。でも何かどうしようもなくなったら相談にくるかな?いつもみたいにって。そしたら急展開があって解決してたのね♪」
その後も打ち合わせや前日準備・当日の担当など一緒に仕事が出来る機会も増えて、会話も増えた。
恵は応援してくれるって言いながら楽しんでいるみたいだし…
「いっそのこと生徒会をやめて、放送部に来て欲しいくらいだ。」と彼はムリなのは承知の上で、冗談交じりに話すし…
私なりに考えて…男子ばかりの放送部に行こうとは思わないし…恵との仲を考えても生徒会を離れたくない。
その後、しばらくして吹く風も生暖かくなり、心配されていた予餞会も盛大に行われて、無事終了した。評判も大変良かった。先生方も先輩方も口をそろえて言うことは
「こんなに生徒会と放送部がスムーズに協力しあって行われた予餞会は初めてだ!!」
っと驚きの言葉がほとんどだった。
まぁ彼が総指揮を執ってるから、誰も文句は言えない?っていう感じもあるけど…
多少文句を言ってくる人もいたみたいだけど、彼がキチンと説明して帰っていってた。
私がみていても、全体的なイメージが頭の中にあるんだろうなぁ。って思うくらいみんなに指示してて、上手くいかない時も次の策をちゃんと用意していてアドバイスしているみたいだった。
だからそんな姿からはとても"コワい"なんて思わなかった。もちろん真面目にやってないと厳しい言葉が飛んでいたけどねぇ。
生徒会の中でも、当初のイメージからはずいぶん違っていた。
「なんか今までと違って、仕事がやりやすい。」
「キチンと生徒会の意見も聞いてくれる。」
「相変わらずスケジュール管理はキッチリしているが、動きやすくなった。」
などのいいイメージが残っていて好印象のようで私も嬉しかった。
そして、こんな雰囲気のままず〜っと続けばいいのになぁ。って思っていた。
予餞会も終わって、一緒に仕事をする機会もなくなって少しだけ残念だけど…また来年度には一緒に仕事が出来る!って思うと楽しみで嬉しかった。
あれからは、放課後はそれぞれのスタイルがあるから、朝の登校と下校時に話すくらい。
だけど、放送部の先輩に私を紹介しろ!ってメールで催促された。って少し困った様な口ぶりで、照れながら話してくれた。
そういえば、彼が照れるなんてみた事なかったかも?
ほどなくして春休みが始まり。。。
一緒に図書館へ行って勉強したり…
映画を観に行ったり…
短い間の休みだけど、とっても充実していた日々だった。
そう、その時初めて彼に本当の事を打ち明ける事が出来たの。
それは…春の部活オリエンテーションの時に貴方を見て上級生だと思った事。
でも直ぐに同級生と分かり意識してしまった事。
夏休みに文化祭に出展する絵本を仕上げていたら、恵に生徒会で手が足りないから手伝って欲しい。と誘われた事。
文化祭の仕事から貴方の近くにいられるかと思って生徒会に入った事。
あの日、生徒会の書類を持って行ったのは、私自身で決めて行った事。
彼は驚きを隠せない様子で、目を見開いたり…落ち着かない素振りがうかがえた。
最後に一言、
「全く気付かなかった。悪かったなぁ。時間はかかったが、これからは僕らは一緒に歩いてゆこう。」っと言ってくれた。
そして、私達は高校2年生になった。
高校3年生は、もう部活に名前はあるものの受験体制で姿も見ない。高校2年生だって、上の上を目指している人は同様でさっぱりとしている。新学期になると、文学部と生徒会に半々で出席して…決まって17:00頃になると生徒会室にいる私を彼が迎えにきてくれる。
予餞会からは、生徒会の中でもずいぶん彼を敵視しない傾向になってきたので、私も安心して一緒に帰ったりしている。
それから時々彼の構想を聞く事が多い。
『生徒会と放送部。この2つの団体を1つにして…中で部門別にチームを作り、相互作用と理解のもと行事やイベントを行った方が効率的に良いのではないか?っという事。
しかし、まだお互いの意識が違って無理かな?ただ、連休直後の生徒会長選出選挙で理解者に世代交替すれば話は別なんだがなぁ。』
私自身、いつも彼に助けられている。ってとても感じる。だからなんとかして彼の構想を実現させてあげたい!って思っている。
そうとは言っても何をしてあげたらいいかなんて全く分からないけど……
でもいつもそんな堅い話ばかりしているわけじゃなくて…帰り道でお茶をしたり、ウィンドウショッピングしたり…少し前までは、ただ見ているだけで満足していたのに!数ヶ月後にはいつも隣にいてくれる人になっているなんて不思議でたまらない。
今は永遠に続くように願ってる。
…4月も半ばを過ぎようとしたある日の帰り道
私は思いきって彼に話してみた、ここしばらく考えていた事を。
「私…今度の会長選挙、立候補しようと思うの。。ねぇ、速人はどう思う?」
「えっ!?ちょっちょっと待って?キミが?」
「ええ。ヘンかしら?私が立候補しちゃ?
色々考えて…速人の話す奇跡を起こせるのは、私達じゃないと出来ない?っていうか、私達なら出来るんじゃないかな?って思ったの。」
生徒会は私がまとめて…放送部は彼がまとめていったら…たぶんスムーズに解決に向かえるハズ?!なんだけどねぇ。
その前に私が生徒会長にならなきゃダメなんだけどねぇ。
いきなりの提案でやはり彼も驚いていた。
実は最近、こんな風に彼の予想してない事を急に言ってみせて驚かせたり、ドキドキさせたりが楽しかったりするの……だって、普段はカチッとしていて、機敏に対応している姿しか見ていないから、こういう素顔は私くらいしか見られないのかも?!って思ったら嬉しくて。でも時々ねぇ♪
「あぁ。え〜っとぉ………よし!全面的に僕がバックアップするから安心していいぞ!だいたいのイメージもあるから心配するな。
奇跡は必ず起こすぞ。二人でな!」
「まってよぉ。まだなってもないのにぃ〜。
でも、良かった!しばらく考えてて…いつ言おうか迷っていたから。
こんなだったら早く話せば良かったわぁ。」
それから、もう一つ最近思う事があるの。なんだかこのまま二人で色んな事にチャレンジしていたら、なんでも乗り越えられそう!だなぁ。って……しかも、そういう時間ってすごく楽しくて、気持ちよくって、自分自身が元気になれる!し、とっても充実しているなぁって実感するの。
それも全て彼がいてくれるからなんだなぁって感謝しているの。もちろん言わないでおくけどねぇ。。。