第16話:菫の章《梅見月》
『四季……
日本は 自然とともに 生きてきた
つねに 自然を意識して 生活してきた
四季のほかに 二十四節気が 僅かに残っている
"立春"も その一つ
人間は毎日の中で 季節感を忘れがち
そんな中でも 私は 花たちのように
自分自身で 季節を感じて 生きてゆきたい 』
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天気予報では【雪】
季節は【雨水】
………雪が次第に雨へとかわり、氷がとけて水となるころ。
そろそろ春一番が吹いて、草花が芽吹き始める。
そんなことをいっても朝はまだまだ寒い。
少し前に比べたら、全然気温は上がったけど、寒いものは寒い。
予報は当たり朝から霙混じりの雪が降っていた。
こんな日にローファーで歩くのは大変。
靴底がなめらかというか?ツルツルしていて、いかにも!っという雪とは最悪な相性だったりするからキライ。
そんな私を横目に姉は……ロングブーツで通学するらしい。しかも遅めのスタートで……!!そんな時は大学生を羨ましく思う。
しかも、今日の占いではラッキーディでNo.1だった。信じられない!!最悪最低なのに……
何気に学校が遅くスタートするかな?なんて期待もしたけど、こんな雪では電車も遅れないだろうから、まずムリ(ToT)
仕方ない早く出発してゆっくり歩くかぁ………。
やっぱり、今日はすんなり行けない…学校は台地の上にあって…長い坂を登ってやっと到着する。
しかも、今日は霙混じりの雪だから足元が滑りやすくなってて……もうイヤ!!!
周りの子達は、固まりながらしがみつきあいながら歩いていた。だけど、私は自分だけ歩くのに必死でいっぱいいっぱいだから、誰かと歩くなんてムリ。
大嫌いなこんな日も、私にとってホントに占い通りにラッキーな日になるとはみじんも思わず必死に歩いていた。
っとその時!私の右足が運悪くマンホールの上を歩いてツルリッ!と滑ってしまった。
「きゃぁ〜!!」
「えっ!?」―ドサッ!ガシッ!―
しまった!っと思った時にはもう遅かった…自分の身体が後ろに倒れてゆくのがスローモーションのように感じて……目をつぶって、しりもちをついて痛いハズなのに痛くない!?
ハッとして目を開けてみると目の前に彼の顔がアップでびっくり!おまけにみぞれ雪が髪にハラハラと降ってきていて、しっとりとしている。それがまたたまらなくカッコよくて見とれてしまいそうになった。
2秒くらい空白の間があった気がするけど、慌てて降りようにも緊張して身体が固まってか?道がツルツルしていてか?上手く立ち上がれない。その間も心臓はバクバクするし…恥ずかしいし…で頭の中は大パニック!!
「最悪!最低!穴があったら入りたいとは、こういう時に使うんだわぁ」とか頭の中のワタシが叫んでいたし。。。
「あっ!すみません。」
「いっいえ大丈夫…ケガはない?」
そんな間もまた頭の中のワタシは
「今日の占いNo.1もあながちハズレてないかも?」とか言ってたりする。
そして、彼は手首をからげるように私のひじ下あたりをしっかりつかんで、ゆっくり立ち上がらせてくれた。
「はい。おかげで大丈夫…だと思います。」
「それは良かった。でも、今日はこれからも気をつけてね。」
「はい!ありがとうござ…あっ!」
お辞儀をしながらバランスを崩してよろけてしまい、彼は直ぐに両手で両肩をガシッとつかんでくれた。
しかも!!まぁ笑いながらだったけど…嬉しいことにこんな一言まで言ってくれちゃって!!
「エスコートしますよ(笑)」
私は嬉しさと恥ずかしさとで顔をあげられなかった…だけど身体は正直なもので、ただ黙ったまま右手を差しだしていた。
そして、彼も黙って左手でしっかり握りしめてくれた。
しばらくは二人とも黙ったまま歩いた、さっき濡れたスカートが脚にあたり冷たかったけど、身体も顔もそれどころではないくらい、ほてりまくって熱かった。
ゆっくり歩く私達を追い抜く人達……転んだのが分かるのか?(濡れちゃってるから分かるよねぇ)クスッと笑って通り過ぎる人もいる。視線が痛い。
そんな沈黙をやぶって彼から話しかけてくれた。
「制服…濡れちゃって冷えるんじゃない?大丈夫?」
「はい…ちょっと。でも大丈夫です。」
「じゃあちょっと止まって。………はい!これで少しはしのげるから。」
っと彼は自分のコートを脱いで、私の肩にかけてくれた。あったかかった。。。
それまでも心臓バクバクしていたけど、更に鼓動が速くなって、誰かに見られてないかドキドキするし、頭がクラクラしてきた。
クラクラしながらも頭の片隅で「どうして彼は助けてくれたの?」「この間の冷たい瞳はなぜ?」「立ち上がらせてくれた後も、こうして手をつないで歩いているのは?」たくさんの?が飛び交っていた。
本当は優しい人なんだろうなぁ。そう!本当はみんなに優しいんだよぉきっと!!
それより、今日学校に着いたら幸せ過ぎて恵に悟られそうだよぉ。どうやってごまかそうかなぁ?
それから一週間後の生徒会・放送部合同の打ち合わせでは…っていうか打ち合わせの後に、耳を疑うくらい驚くことを聞いてしまったの。。。
その日は、打ち合わせが行なわれる会議室に入ると、なんだか冷たい空気がはりつめてし〜んとしていた。元々生徒会と放送部は仲も悪いから?っと思っていたら、隣の席に座った恵が「いつもこんな感じなのよ〜。イヤよねぇこの空気。たえらんないよねぇ。」っとひそひそと話してきた。
その後の打ち合わせは、予想と反してスムーズに予定通りに進んだ。
先生方も、みんなも、安心した表情で帰り支度をしてバラけていった。
私も早く帰れるぞ!っと思って廊下に飛び出した!んだけど、先週のお礼を彼にキチンとしなきゃ!っと思い直して廊下で待つ事にした。
まるで告白するみたいにドキドキしてきちゃってたけど、「この間は、ホントにありがとうございました。」って一言いえばいいんだから、別にへんな事ないよね?って自問自答してみたり……たぶん今日を逃したら、話すきっかけというかタイミングを逃しそうだなぁって思ったから。
中には船橋生徒会長と彼が残って戸締まりして直ぐに出てくる。ハズ?!なんだけど………全然出てこない。
それどころか生徒会長の少し荒い声がしてビックリした。
「放送部のクセに…っというより、放送部だから口が巧いのか?お前、何が狙いなんだ!何の理由で塚本さんに近づいたんだ!?」
「は?何の話です?僕が何かしましたか?しかも、塚本さんとは誰です?」
「とぼけるな!!見てたヤツがいるんだからな!お前と塚本さんが一緒に登校してくるのを!」
生徒会メンバーの誰かが、先日の雪の日の登校ツーショットを目撃していたらしく、っていうか二人で歩いたのなんてあの日一度きりだけだし。
しかし、なぜ?………なぜ彼があんな言われ方をしなきゃならないの?そうそう第一私の名前だって知らなかったじゃない?頭の中がまたまた?だらけで上手くまとまらないでいると……
「あぁ。別に何も狙いなんてないですよ。理由もないですしねぇ。。。ただ、強いて言うなら"僕は彼女が好き"っていうことですかね。
それとも…生徒会長に断ってからでないと交際って出来ない規則なんですか?」
「なんだって!?」
いやぁ私だって頭の中で
「なんだって!?」って叫んでた。その証拠に目も口もポカンとまん丸く開けたまま直立した状態で固まってしまった。
「他に話がないなら…僕、帰っていいですか?じゃぁ、お先に失礼します。」
え??出て来ちゃう!!!でもこの場を走り出してもみつかっちゃうよねぇ。っとか考えているうちに身体も顔もどんどん熱くなってくるし、緊張で固まってくるし、息も上手く出来なくなってくるし、うつむいていた…っと思う。頭の中が真っ白になって、どうしていいかわからなくなっているところに彼が会議室から出てきて、足が止まった音がした。
「一緒に帰らないか?聞こえてたと思うけど、キミにはきちんと話したいから。。。」
「………」
私は黙ったまま、ゆっくり少しだけうなずいた。
それから、あの時の坂道を二人並んでゆっくり下って…駅まで来てしまった。まさか今日こんな展開になるとは夢にも思っていなかったし、ただ先週のお礼を言おうと思っていただけなのにぃ!その後は歩きながら何か話していた気がする。大した事ない自己紹介的な事を話していたようだけど、全然覚えてない。どうやって靴に履き替えて駅まで歩いてきたのかも…その駅の近くにある小さな神社の境内にきたのも覚えていない。彼の言葉でビクッとして我にかえり、ここにいるのに気がつくほど真っ白になっていた。
「今日はいきなり驚かせてすまなかった。だけど、僕は初めて会った時からずっと気になってて…ずっと好きだった。そう、キミが部室に訪ねて来たあの時からずっと。」
「えっ…あっ、はい。私…えっと…私もで…う〜んえっと…」
身体中に電気が走っていくように彼の言葉が響きわたって、何て返事をしていいのか分からなくって…でも私もそうだけどそうじゃなくって…もっと前からで、春からで…頭の中では上手く言葉がまとまらない上に彼にそっと優しく抱き寄せられたりしちゃったから!!!息が完全にとまっちゃって失神しそうだった。
「キミの口から、キミの名前を聞きたいんだが…教えてくれるかなぁ?」
「はい。つ…塚本…菫です。」
「キレイな名前だ。。すみれさん。」
自分の名前をなんとか言って息をついた。女の子の友達や先生に「キレイな名前ねぇ。」っと言われたことはあるけど、男の子になんて言われたことないし、まして彼に言われたからか?この名前で良かった。。。っと初めて思った。するとゆっくりと離れて向きなおり彼は真剣な瞳で話を続けた。
「キミのいる生徒会では、僕は目の上のコブな扱いなはずだ。困った事があったら話して欲しい。必ず策を考えて解決してあげるから、安心してくれ。」
そう言い終えると初めて会ったあの時のように優しく微笑んでくれた。