第14話:菫の章《春待月》
今回からしばらくは、菫ちゃんの紹介もかねて彼女サイドのお話で進めていきたいと思います。
6話あたりからのフラッシュバックになります。
あと、それから題の春待月というのは12月の師走以外の12月を表すいくつかの呼び方のうちの一つです。
『憧れと尊敬……
夢と希望……
輝きと煌めき……
私の中にある 誰にも話せずにいる この想い
消してしまうなら今のうちに 誰にも知られずに終わらせたなら
何もなかったように また いつもの世界に入ってゆける
でも 貴方を見かけるたびに このまま何もなかったようになんて………
ならば 神様 お願い チャンスをください
その時 必ず 絶対に勇気を出すから 助けてください 』
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私、塚本 菫。16歳。高校1年生。
夢は、絵本作家になること。さらにチャレンジしてみたいのは、絵本の翻訳。
4つ違いの姉と私。小さい時から本は私の友達でした。
元々転勤族なので、小学校の間でも3校。さらに中学に上がると同時に、父の転勤で都会へと移りました。
北の地方都市から、ビルばかり並ぶ都会へ……
環境も感覚も何もかも違い戸惑いました。
中学校では、地元小学校からの繋がりでグループは出来ていて、馴染むのには時間がかかりました。
そんなしがらみのない私立の高校に行きたい!っていう私の希望
母校に行かせたい!っていう母の希望
………で、今の私がいる。
そして、入学して2学期を終えようとしています。
女の子ですから、恋も遊びも勉強もっ!と毎日忙しいけど楽しいです。
一つだけ悩みがあるけれど。。。
その悩みは、気になる人がずっといるんです。『松本速人くん』たぶん、彼は気づいていない。
何も接点がないし…クラスもちがう。
はじまりは入学後の『部活オリエンテーション』
放送部の紹介で、彼は他の2人の先輩と並んでステージに立っていた。
部活紹介でも先輩と引けをとらない、慣れた口ぶりで紹介していたし・・・長身でもあるし・・・
てっきり上級生かと思った。っていうか信じきっていた。
だけどその後ステージから下がると、どんどん近づいてくるし!!心臓がバクバクしちゃって息が止まってた。
私の脇を通り抜けると、最後の方のクラスの列に入っていったのを見て同じ1年生なのだと初めて分かった。
それから色々な行事やイベントでは先頭に立って動いている姿をみつめているだけだった。
結局この半年強で分かったのは・・・名前、クラス、部活、電車通学っていう事と、ウワサで【氷の速人】と呼ばれていること。
どうやら冷たくて、コワくて、ハッキリものを言うらしい。そして滅多に笑わない。
放送部でも、出席率や生活態度が悪いと部活出席停止にさせたり・・・辞めさせたりするらしくて異名がついたって聞いた。
私は結局文学部に入部した。部活の時間は、好きな詩や絵本など自分の作品を仕上げる時間として充てられて嬉しかった。
けど、やっぱりずっと気になって生活するには限界があって・・・そんな時!!
部活仲間の恵が生徒会にも入っていて、文化祭で生徒会の手が足りないから手伝って〜!って頼まれた。
その文化祭でも間近で彼を見るチャンスがたっぷり!!
なりゆきと文化祭のお手伝いの仕事ぶりから、11月って遅い加入だけど…正式に生徒会メンバーに加わることになった。
そして、運命の日を迎えることになる・・・・・!!!
12月に入って、3学期に行う予餞会の話が出た。しかも放送部と合同で取り仕切らなければならない!って事は
お話できるかもしれない?お近づきになれるかもしれない?っていう大チャンス♪
なのに生徒会メンバーは浮かない顔。
それもそのはず、みんなは【氷の速人】と出来るだけ近づきたくない。なぜなら、コワい空気がイヤ。口調も厳しい。スケジュールがキツイ。
元々生徒会と放送部は犬猿の仲だっていう事をココで始めて知った。ショックだった。
『じゃあ、私がその予餞会の文書を届けてきましょうか?』
と私が言った時、みんなの驚きの眼差しが一気に私へ集中した。
その日は、生暖かい風が吹いていた。まだ冬なのに…まるで春一番のような。
多分これからの出来事を風が予告していたのかもしれない。。。今ならそんな風に思える。
放送部の部室に着いてもソワソワして、なかなかノック出来なかった。
もしかして、彼が出てきて『は?誰キミ?あぁそう。じゃあ帰って。』とか
『聞いてないから、先生通してから来て。』とか
『じゃまだから…』とかヒドイ言い方されたらどうしよう(>_<)などなど頭の中をぐるぐる回っていた。
しばらくして勇気を出して扉をノックすると……し〜んとして誰もいないみたい。誰もいないのに緊張していた自分になんだか笑えた。。。
とりあえずまた生徒会室に戻って…一息して出発!!今度は部室前に到着して直ぐに扉をノックしてた。
そうしたら!!!………低めの声で彼が返事をするのが聞こえた。一気に心臓がドクドクいいだすのが分かった。
「どうぞぉ。」
「しっ失礼しまぁす。」
私は目を閉じて、深呼吸をして、恐る恐る扉を開けて入っていった。
「どうぞ…見ての通り汚い部屋ですが。」
最初私が心配していた予想とは180度反対の返答に驚いた。とっても優しい声で素敵な笑顔で話してくれた。
「あの〜。生徒会の者なんですが、放送部ってこちらでいいんですよねぇ。」
「はい。そうですよ。」
「えっと。。来学期の予餞会のお願いで来たんですが。」
当たり前だよ!ココが放送部だって表にも書いてあるのに!!!頭の中が真っ白になって何しゃべってるのか分からなくなるくらいだった。
だって目の前に彼がいて、しかも二人っきりだし!!当たり前なんだけど…彼は私を真っ直ぐ見てるし!
私のためだけに微笑みかけてくれてるなんて、もう死んでもいいくらいっていうかホントは死にたくないけど。。。う〜ん、どうしようもないくらい幸せな瞬間だった。
「大丈夫ですよ。怖がらなくても。まぁこちらにかけて下さい。お茶でもいれますね。」
「ありがとうございます。でも、おかまいなく…。この書類に詳しい事は書いてありますので、ご覧になって検討してから生徒会までご連絡ください。……じゃあ失礼しました。」
彼は立ち上がると2、3歩近寄り、傍のソファに右手を差し出し案内してくれた。
それがあまりにも自然なので危うく「ありがとうございます。では。。。」っと座ってしまいそうだった。もちろん彼を目の前にして喉もカラカラだったからお茶も欲しかったけどねぇ。
だけど、緊張のドキドキが聞こえてしまうんじゃないかな?とか、こんなシュチュエーションで話が出来るなんて!嬉しすぎて顔が真っ赤になってしまってるんじゃないかしら?とか
頭の中が酸欠状態みたいにクラクラしてきちゃって、ほんの1mくらい目の前にいる彼に書類を手渡して、慌ててでも極力失礼にならないように丁寧に断わると、いそいでペコリとお辞儀をして退室した。
部室の扉を閉めると手足が震えだすのが分かった。フラフラになりながら生徒会室に戻って、きちんと書類は手渡しした事を告げた。
恵が「大丈夫?菫、顔が赤いよ?熱でも出てきたんじゃない?今日はもう帰ってもいいよぉ。」と言ってくれたので、そのままフラフラと家に帰った。
家に帰っても、着替えもせずにヘナヘナとベッドに腰掛けると、またさっきの彼がフラッシュバックされてクラクラしてきた。
少し落ち着いてくると、なんであの時「じゃぁ一杯だけ。。。」とか言って頂いて来なかったのだろう?そうしたらもう少し長く話すことが出来たのに!!なんて思ったり・・・
でも、そんなずうずうしい子は嫌いかもしれないし良かったのかもしれない。なんて思い直したり・・・
真っ暗になっても部屋の電気をつけるのすら忘れてしまうくらい固まっていた。
実は。。。こんなふうに菫ちゃんも思っていたんです。っていうか菫ちゃんの方が先に速人くんを見つめていたんですねぇ。
やっぱり女の子目線は昔を思い出します。ハイ・・・遠〜い昔ですが。