第10話:モヤモヤの謎
上手く表現出来ない自分がはがゆいですが…速人も乙女心を分かってほしいです。再び船橋先輩登場です。
『 近づくようで 離れてくようで
キミの笑顔は 心を温かくし癒される そして 全てのパワーになる
キミの言葉は 春の風のように爽やかで 僕の全てを包み込むようだ
キミのすべてを守りたくて 壊さないように 大切に思っている
いつになったら 本当の心を見せてくれるのだろう
疑問はいつまでも尽きないが 考えるのは もう よそう
離れているようで 近づいてくる
子猫から大人になったばかりの猫のようで
戯れているのか いつも 僕の手をすり抜けては
絡み付くように すり寄ってくる
キミの笑顔を絶やしたくないから 明日も一緒に歩いてゆこう』
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彼女はいとも簡単に…いや分かっているはずだ、大変だということを。
僕のうぬぼれなのだろうか?彼女は僕の為を思っての決断だったのだろう。
来月早々にある、生徒会役員選挙の”生徒会長に立候補する”というのだ。
僕の為というのは、他でもない僕が考え続けている事。”放送部と生徒会”のあり方についての構想だ。
しかし、そう上手くいくかはやってみないと分からない。
しばらくすると、彼女は生徒会役員選挙の準備と自分自身の立候補者としての行動とで忙しくなっていった。
僕もしばらく親身になって勉強していなかったツケがきていたので、図書室に籠るようになっていた。
帰りは今までとは逆に、彼女の方から図書室にやってくる。……今度は僕が身支度をする。
会話はいつもと同じだが、発するのも逆で
「お待たせ。」
「じゃあ、帰ろう♪」
また時には
「ごめんなさい。今日は長くかかりそうだから、いいよ〜先に帰っても…」
っと、言いに来る事もあるが、もちろん僕は帰ったりしない。
そんな時は、一緒に部室と生徒会室のある2階へ下りてゆく。
僕はそのまま放送部の部室に籠って続きをやりながら、彼女を待っている。
そして連休もお互いの予定がズレて、1日しかたっぷり会えずに終わった。
それも映画を観に行き…お店をフラフラと見て歩き…っとフツーの休日って感じだった。
いよいよ選挙が行われた。
普段の人望や人徳のある彼女だから、圧勝で当選!!!
当然のようだが嬉しい。良かった。やったぁ!これでやっとまた今までのような楽しい日々が待っている!!っと思っていた。
しかし、何かシックリこない何かがある。
楽しかった毎日に慣れすぎてしまったのだろうか?
だとしたら贅沢な悩みだなぁっと怒られるに違いない。
それとも、慣れない"優しい僕"を続け過ぎて少々疲れてしまったのか?
っとしたら、嘘の僕を演じていた事になってしまう。。。
そんな自問自答的な日が数日過ぎて…自分自身に苛立ち、それが顔にも出始めていたのかもしれない。っと思っていた矢先の出来事だ。
移動教室で音楽室から教室へ帰る途中、渡り廊下でまるで待ち伏せしているように立っている人がいた。一つ年上のわりに小柄で、見るからに優等生タイプのその人は…前生徒会長の船橋先輩だ。
『最近、引き継ぎで塚本さんと話していて何となく元気がないんだ。
初めは疲れているだけかと思ったが、今ハッキリ分かったよ。
今のお前のその表情じゃあムリもない、半年前以上の【氷りの速人】に戻っているからなぁ。
怖がって誰も近寄っては来るまい。
ましてや、慣れない会長の仕事で疲れている塚本さんなんて可哀想だ。
今では自分自身を後悔しているよ。なぜあの時もっと喰らいついていかなかったんだろう。ってなぁ。
まぁこれからお前は心配するな。俺が塚本さんを守ってあげるからな!』
そういうと船橋先輩は走り去るようにいってしまった。
声を掛けるもなく、いきなり話しかけてくる?というか、いきなり感情をぶつけてくるあたりは前回と同じだな。
しかし、指摘された内容は悔しかったが、自問自答のモヤモヤした何かを的確に核心をついている言葉だっただけに、僕は呆然としたまま立ち尽くしていた。
チャイムが鳴り響き我に返り、慌てて教室までダッシュした。
その日の放課後は、部室ではなく直接彼女の教室へ向かった。
それもただ早く顔を見たくて、早く謝りたくて、早く!早く!と気持ちばかりが先へ行っていた。僕は会って何を話すかなんて考えていなかった。
たぶん恐らく船橋先輩の一言が頭をめぐっていたから、今日は生徒会室に行かせたくなかった。
彼女の教室へ着くと、目で探すよりも口の方が先に言葉にしていた。
「すみれ〜!すみれ〜!!」
当たり前だが、一瞬にして皆が振り返るほどだった。
彼女は窓際の真ん中ほどの席で、帰り支度をしている手をそのままにこちらを向いていた。
その表情は驚きとも悦びとも悲しみとも何とでもとれる様な複雑な視線で、じっと僕を見つめていた。
彼女だけがくっきりと…はっきりとしていて、周りの景色なんて見えてなかった。
教室の出入口と窓際までの距離がもどかしくて、はがゆくて、足が勝手に走り出していた。
そして、左手に彼女のカバン。右手は彼女の左手を取ると、今来た方向に走り出した。
「とにかく行こう!」
「えっ?なっ何?どうしたの?」
僕の中でも何が何だかわからなかった。
だけど、誰かに彼女を奪われるのが嫌だった。モヤモヤしてる何かが嫌だった。もうこれ以上距離を感じるのが嫌だった。
彼女を離したくなかった。
とにかく誰もいないところへ行き、彼女に伝えたい!きちんと話したい!謝りたい。っと思いながら走るうちに…知らず知らずのうちに、屋上へ向かっていた。
屋上に着くと、僕の特等席へ連れて行った。最近はあまり来ないが、時々考え事をする時にくる場所だ。風があまり来なくて…日だまりになって…眺めがいい。右側は主にコンクリート・ジャングルだが…左側は近所にある大学の森や寺社仏閣を守るように緑が囲んでいる。
二人とも走り続けて呼吸が早い。だけど息を切らしながらも、先に切り出したのは彼女だった。
「…ねぇ、……どっ…どうした…の?急に…」
「…ごめん。今まで…ずっと…ずっと、ごめんな。気づいてやれなくて。でも、大切なんだ。だから…だからごめんな。」
だんだん息も落ち着いてきたが、全然頭の中がまとまらなくて…きっと彼女の頭の中も
「?」が巡っていたに違いない。
「えっ?何が?どうしたのよぉ。速人らしくないよぉ全然分からないよぉ。」
「キミが、すみれが大変な時に全然気遣ってやれなくて、寂しい想いさせちゃって、ホントすまなかった。」
それでも彼女はピンときていない様で、目を丸くしていたかと思うと…いきなり笑いだした。しかも涙を流しながら、お腹を抱えて笑いが止まらないほどだった。
今度は、僕の方が目を丸くしてしまった。
色々悩んで…船橋先輩には宣戦布告のような事を言われ…
日頃頭を下げない僕が、仮にも【氷りの速人】とも呼ばれる僕が謝ったのに!!……笑われた。
なんだったんだ!今までの違和感は!!!!!
今までのモヤモヤや悩んだ事。
船橋先輩にいきなり言われた事。などなど話だしたらたくさん出てきた。
そして全て話終えると彼女は優しく微笑みゆっくり一言いった…
『ありがとう。。速人。』
なんとか10話まできました。感想聞かせていただけたら嬉しいです。