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僕等と海  作者: 浜野唯夏
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海風に青春を乗せて

6年前の大震災。

たくさんの人やものを失いました。

それでも生き残った人たちは

悲しみながら、強くたくましく

生き抜いてきました。

コツ、コツ、コツ。


自分の足音が、波の音と混じりあう。


春の海風はまだ少し冷たくて、でも少し心地いい。


「また来ちゃったな……。」


六年ぐらい前は、ここに来ることさえもできなかったのに。


「明るくぅ~澄みわたる~海~とぉ~空~にぃ~♪」


波の音にのって、どこからか


聞き覚えのある歌声が聞こえてきた。


「かっちゃん」


「お、臆病お嬢さんのお出ましだ」


かっちゃん、つまり克海はそんな風に私をからかいながら、


海に向かって竿を降り下ろした。


「そんなんじゃないもん」


うそうそ、冗談だってと続けながら彼は竿を引き上げた。


「やった、大物」


バケツの中でピチピチと元気よく跳ねる魚は、


まるで彼のようだ。


「また今日も学校サボって…」


そう、克海は学校をサボって


毎日海で釣りばかりしている問題児だ。


「俺は今日の夕飯釣ってんの」


「へえ……。」


「お前こそまた来やがってこの暇人」


「暇人って何よ!?」


幼馴染みの克海と私はいつもこんな感じで、


端から見たらどうでもいいことで喧嘩が始まる。


でもいつもすぐに克海が折れて、あっという間に喧嘩は終わる。


「あ、そうだお前持ってく?」


彼はそう言いながら魚がいっぱいに入ったバケツを私に差し出した。


「え、ありがとう。………でもかっちゃんの分は?」


「ん、俺はまだ釣ってくから」


いつのまにか空は暗くなり、そろそろ星が出ようとしていた。


「じゃあ帰るね。今日はありがとう。」


彼は左手だけをこちらに向けて上げた。


まぁ、これもいつものことだ。


「明日は学校来いよー!」


私は段々と暗闇に埋もれていく彼の姿に向かって呼び掛けた。


「うっせー」


彼は首から上だけをこちらに向けて笑ってみせた。






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