機械仕掛ケノ月
「そのお月様は遥か昔、ある者の手によって作られたんだって。神様が創造した月に魅入られて何とか自分の物にできないかとね」
「でも月なんて手に入るわけないでしょう? その人考えがおかしいわ」
「あはは、確かに。そんなことは誰だって、馬鹿だって見ればすぐにわかるよね。あんな大きな物を手に入れるなんてできないって。頭ではわかっていた。でも気持ちをどうしても抑えることは出来なかったんだ。だから彼は悩んだ。悩んで悩んで考えて考えて…そして遂に答えを導き出した。それは実に単純明快な答えだった」
「その答えってまさか―――」
「そう、それがあの"月"さ。あの空に浮かぶ継ぎ接ぎだらけのお月様。神が創造した美しい月と比べれば見た目は滑稽だけど、実によく似ているだろう? 月としての機能も十二分に発揮している。彼も素晴らしいよね。まさかあんな物を一人で作り上げるなんて。大した者だよ。それほど月が欲しかったんだね」
「まぁそうね。でも話が繋がらないわ。だって月が欲しくて本物に似せた月を作ったのでしょう? どうして空に浮かべて自分の手の中に置かないの? それじゃあ意味がないじゃない」
「どうしてって? それは君が一番よく知っているじゃあないのか」
「えっ」
「実に長い道のりだったよ。まさか"あれ"を作り上げるのに7000年かかるとは思ってもみなかった。本当に作り上げたところでルナが地上に降臨するとは限らないからね」
「あなた何を言っているの? ちょっと休んだ方が―――」
「作り上げて3000年、事の真相を確かめるため遂に女神は降り立った。時間はかかったが計画通りだ。なぁそうだろう、ルナ? 君は偽物の自分の真実を突き止めるためここに来たのだろう」
「何を言っているのか理解できないわ。私明日早くから仕事なの、かえ―――」
「エデンに帰るなんて許さないよ、僕は今まで君のために、君だけのために生きて―――」
「ごめんなさい、私はあなたの物にはなれないの。私にはこの暗闇を照らし全ての生命の道しるべになる使命を果たさなければいけないの。あなたとの時間はとても楽しかったわ。さようなら」
***
その昔、世界には神様が創造した美しい月と魔物が創造した醜い機械仕掛けの月が浮かんでいた。
あれから100年経った今、夜空を照らすは美しい月のみである。