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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第一章 天寿・そして再会~神界編~
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豊穣神ヨシュア

「はーい、アタシが豊穣神ヨシュ☆アでっす!」

「何か余計なものが混じった気がするぞ」


 神界での修行が始まったと言ったな、アレは嘘だ。


 ひとまずノートにこれからのことを書きとめた俺は、自分の「ルーム」から出ると、豊穣神ヨシュアに会いに行くことにした。

 思えば辿り着く、とかいうアバウトな説明を信じて、会いたいと願ってみると、目の前にとあるものが現れた。

 

 どう見てもビニールハウスです、本当にありがとうございました。


 意外と農業は進んでたりするのか?と思いきや、中に入ると外観にそぐわない凄まじい広さの空間が広がっていたわけで。

 黙って入るのはまずかったかなと思いつつ見渡してみると、「ザ・農婦」というカッコをした割と大柄な女性が鍬を振るっていた。

 入って来た俺を見つけたところで、冒頭に戻るわけだが、


「気にしちゃイケナイよー?それで、ごはんにする?畑にする?それとも、ア「言わせねえから」つれなーい!」


 何とも軽い豊穣神である。神の威厳なとありはしない。

 でもあれだな、正直これくらい軽い方が楽でいいわ。

 とりあえず、だ。


「とりあえずごはんにしよう」

「おっけー☆」


 若干イラッとするが、これくらい軽い方が楽でいいわ。イラッとするが。

 キラッ☆とか言い出したらぶっ飛ばそう。きっと神なら許され「ゆるされないよー!」チッ。

 別に殴りたいわけじゃないが、この感じは脱力感がひどいのだよ。


 案内された先は、これでもかという程積まれた米らしきものや、麦らしきもの。

 それに加えて野菜らしきもの、果物らしきもの。

 更には魚らしきものや肉の塊らしきものまで、ありとあらゆるジャンルの食料が積まれた倉庫のような場所だった。


「腐ったりはしないのか?」

「お肉やお魚はリソースだし、他も神界で作ったものだから全然イケるよー」


 何とも便利なものだ。保存する必要すらなしか。

 リソースってのは相当便利なようだ。


 そういえばヨシュアの服がここに入る前と違っていて、いつの間にやらワンピース姿になっていた。

 農婦姿だと分からなかったが、強烈なボディラインに加え、長い銀髪が麗しい碧眼の美女である。

 見た目と口調のギャップが相当アレなことを除けばかなりいい感じだ。

 ただ、半袖の白いワンピースから見える引き締まった腕に、何やら見慣れないモノが付いているのが気になる。


「……鱗?」


「欲情したー?」

「否定はしない」


 視線に気づかれたか、ニヤリと笑ってくる。誘われてるんだろうか?神族でもそういう欲求はあったりするのか?

 そういう視線ここではないからウェルカムだよー、とかぬかしてくる残念美女は置いといて、一通り倉庫を眺めていく。

 誘われるのは嫌いじゃないけど、アズに何か言われるのもアレだしな。


「単なる元人間ってわけじゃないのか」


 失礼かもしれないが、気になるものは気になる。


「アタシは元竜人だから、ただの人間ってわけじゃないかなー」


 竜人と来ましたか、エルフやらドワーフやら魔族やら、この世界はなかなか多彩な人種模様らしいな。

 この場合ドラゴニュートとでも言うんだろうか。その鱗は竜の名残なのかねえ?逆鱗とかあんのかな?

 などと思いつつ、キャベツらしきものを手に取って、何気なく【解析】を試みる。少しばかり疑問が付く説明が出た。


 神野菜(葉)

 神界で作られた野菜


 何のヒネリもない解析結果に首を捻る。せめて名前くらい無いのかね。

 こういう結果しか出てこないのだろうかと、次は肉の塊に手を伸ばし、【解析】。これはそれなりに出てきた。


 ジャイアントビーフの背ロース(偽)

 リソースで作られたジャイアントビーフの肉


 ふむ、今度は名前付きか。

 リソースで作ってあるからだろうか?

 となるとこっちの魚は……。


 イエローテイル(偽)

 リソースで作られたイエローテイル


 イエローテイルって確かブリだよな?

 見た感じ30センチくらいの大きさなんだが。

 そんなサイズには見えないというか、むしろコレがブリだとするとハマチはこの半分か?

 まあハマチがあるかどうかすら知らんけども。


「ねえねえ」


 そんな感じで【解析】を繰り返していると、ヨシュアから肩を叩かれる。


「さっきからスキル発動してるみたいだけど、それってアタシにも効く?」

「試してみないと分からんなぁ」


 ヴァニスは神相手に[鑑定]はそもそも効かないとか言ってたが、【解析】はどうなのだろう?

 っていうかスキルを使っていたのが分かるのか?


「そんなに一つ一つじっと見てたら、何かしてるのかな?くらいアタシだって分かるよー」


 発動が分かるというより、俺が分かりやすかっただけか。


「試してみていいなら、使って見るけど」

「いいよー☆」


 イラッとしながら、【解析】をヨシュアに対して使ってみる。


名前 ヨシュア(ヨシュア・ディ・ロジア)

種族 神族第二級中級神(竜人族)

職業 アクイリック界豊穣神(農業王)

称号 雷の化身(恵みの礎)


 視界に浮かんだ情報はこれだけ。

 なんか変な感じだな、ステータスが無いというよりも、これは情報不足って感じがする。やっぱり【解析】じゃこのくらいまでしか見られない、ということか。

 あるいは数値的なステータスが本当に存在しないのか。少々悩ましいところだ。


「ステータス見れた?」

「名前、種族、職業、称号、これだけは分かった」

「へー、そこまで分かるんだ?それすっごいねー!アタシらはステータスすら開けないから、「今日からアナタは豊穣神です」って言われただけで、自分じゃわかんないんだけどー」


 それもまたおかしな話だな。そもそも誰から言われたのやら。

 って、多分当時の世界神なんだろうな。


「職業のところにはアクイリック界豊穣神って書いてあるぞ、ちなみに農業王とも書いてある」

「マジで!?え、なんで農業王って出てんの!?」


 あ、そっちに食いつくの?


「いや、(農業王)みたいなこと書いてあるんだわ、もしかして生前の職業か何か?名前にも(ヨシュア・ディ・ロジア)になってるけど」

「うっそ、それちょっと性能ぶっ壊れてるんじゃないの!?もしかして称号もオカシイこと書いてたりすんの!?」

「雷の化身、(恵みのいs「ストップ、ストーップ、それ以上なし!」って、知られちゃやっぱマズかったか?」


 顔を真っ赤にしてヨシュアが止めてきた。


「ちょ、ちょっと困るっていうか、ものすごく恥ずかしい!それナシで!忘れて!」

「忘れられるか分からんが、他人には口にしないことを約束しよう」


 どこに羞恥心を感じるポイントがあったのかは不明だが、本人が恥ずかしいというのであればやめておこう。

 やはり【解析】は他人に軽々しく使うものではないようだ。

 レディの過去を覗くなんてマジ信じらんないとか言っているが、使えって言ったのはお前やからな?



 ありえないありえないとブツブツ言い出したヨシュアはほっといて、人参らしきモノやら、トマトらしきモノを【解析】してみるも、神野菜(根)とか、神野菜(実)とかしか出てこない。

 まあここまで来れば、神野菜としか出てこない理由は察しがつく。

 俺はキュウリのようなものを手に取ると、ヨシュアに尋ねる。


「なあ、これなんて名前だ?」

「乙女の秘密を勝手に見る男の…ん?野菜じゃん?」

「だから、なんて名前の野菜なんだ?」

「野菜は野菜でしょ?」


 結論、そもそも名前が無い。


「そもそもアタシのスキルで作った種を植えて収穫してるだけだから、名前なんていちいち付けないわよ。食べるのアタシだけだし」

「そういうスキルなのか?」

「うん、【種子創造(クリエイトシード)】っていうんだけどね。こんな野菜が欲しい、って思って使うと、種がいくつか出て来るんだよー」


 それを植えるのー、と胸を張って答えるヨシュア。


「全部種なの?」

「種以外から野菜は出来ないでしょ?」


 それなんかおかしくね?海藻とかどうなってるんだよ。


「……花とかもそうなのか?」


 被子植物とかそういう扱いはどうなってるんだ。


「魔植物とかじゃない限りは、植物は全部種から出来るよ?」


 既に俺の植物知識は役に立たない気がしてきた。

 てか種からしか植物が生えないのは世界の在り方として問題があるんじゃね?

 そもそもなんだよ魔植物って。


「魔植物ってなんぞ?」

「んー、魔素が濃い土地に生えるんだけどね。美味しいのもあるんだけど、襲ってきたりするから危ないのー」

「それは魔物じゃないのか?」

「魔物は魔物だけど魔植物は魔植物だよー?」


 何がどう違うんだよソレは。


「魔植物は魔力が強い植物のことで、みんな悪い子ってわけじゃないよー?」


 もう少し具体的に、と説明を促すと、魔植物というのは普通の植物とは全く異なる体系の植物らしい。

 共通している点は、「魔素」が濃い土地に生えることと、専用の種が無いということ。

 凶悪な魔植物も存在はするものの、大抵の魔植物は価値が高く、薬の材料になったり、高い栄養価だったりするようだ。

 ただ、生物が多く住むところには生えにくいらしく、人類では高価に取引されているようだ。

 ちなみに「魔素」については「魔素は魔素だよー」という返事だったので諦めた。


 うーん、何かこの世界の修正点が見つかった気がする。

 というのも、「植物は全部種から出来る」として、じゃあその種を誰が植えるのか、という話だ。

 蒲公英みたいに種子が飛ぶのであればともかく、そうでなければ今頃荒野だらけになっていてもおかしくはない。


 「そんなことにはなってないよ?」という豊穣神様のありがたいお言葉はあるものの、シェラやアインと知識のすり合わせが必要な点として、心に留めておこう。

 一応、ヨシュアのスキルで作った種は地上に蒔くことが可能か聞いてみると、「そういう種を作ろうと思えば」可能ではあるらしい。

 実際豊穣神の仕事には、スキルで作った種を地上に蒔く、というものもあるらしい。

 現在は世界の放棄が決定しているため、そういったことはしていないのだそうだ。

 

 種を蒔く、か。ある意味分かりやすい「神の仕事」だな。

 魔植物は何かヒントになる気がするんだがなぁ。



「よし、難しい話はひとまず終わろう」

「ごはんにする?アタシが作ろっか?」


 自分で作るにしても、野菜1つ取っても味が全く分からないのではどうしようもない。

 素直にヨシュアに頼むことにして、料理をしている光景を見学させてもらうことにする。

 これも魔法で一発ツモ!とかだと笑えないと思ったが、料理はちゃんと料理をするそうだ。


 ヨシュアがどこからかザルを取り出すと、結構な種類の食材を選んではザルに入れていく。


「歓迎祝いに腕を振るってあげる☆」


 ありがたいが、やはりイラッとしたので、ヨシュアの背中にうっすら指を這わせると、「ひぇあああぁ」という悲鳴があがる。

 ザルを取り落としはしなかったが、振り向きビンタ食らった。どうやら逆鱗に触れてしまったのだろう、多分。

 超痛いんですけど、パワーありすぎじゃない?吹っ飛ぶかと思ったわ。


 キッチンというより、厨房という方がしっくりくる立派な設備をした部屋へ入ると、ヨシュアは手際よく準備を始める。

 調理器具をいくつか見せてもらったが、地球のそれと大差ないように見える。


 変わっているところ、となると、コンロもどきがしっかり存在することだろう。火種というより、火花レベルの魔法を使って、コンロもどきに火をつけると、割と力強く火が上がる。

 それをつまみのようなもので調節しているようだ。


 尋ねてみると、特別な器具というわけではなく、この世界ではごく一般的なものであるとのこと。

 誰でも作れるというわけではないにしろ、鉱石類を直接扱えるようなレベルの職人であれば、さほど苦労せず作れるらしい。


「アタシもあんまり詳しいわけじゃないけど」


 一応この器具、魔力を使って使用するものだそうな。

 普通ガスなり何なりエネルギー源が存在しそうなものだが、この器具は周りの「魔素」を集めて火力調節をするものらしい。

 酸素じゃないの?と思ったが、そこは首を傾げられてしまった。

 これもシェラに聞かないとダメっぽいなあ、ガダースやアイン、ヴァニス辺りにも尋ねてみるか。



「美味いなー、なんでコレみんな食べようとしないわけ?」

「アタシもよくわかんないなー、神族は食べても食べなくても変わんないけど、一つの娯楽じゃん?」

「食事をそう捉えられる神は好ましいと思うわ、シェラに客人に茶でも出せつったら変な顔されたし」

「神相手にそんな態度が取れるゼンちゃんイケメンね!」

「そんなに褒めるなよ」


 まあ、褒めてないんだろうけど。

 しかしなしてヨシュアさんJK風なん?まあ、若さ的にはアリだろうけど、ちょっとばかり美人すぎる気がすんねんけど。

 俺の【完全翻訳】が、時としておかしな喋りに聞こえるのは、生前もよくあったことなんだけどさ。


 それはともかく実に美味い、いくらでも食べられそうだ。ってか実際いくらでも食べられるような気がするけど。

 何しろ満腹感ってものは存在しないわけで、ちゃんとこの体人間の脳になってんの?と疑問に思うほどだ。

 そういう神経まではさすがに仮の精霊体じゃ無理なのかな。

 食べることに集中するだけでなく、この肉は何かとか、この野菜の調理法は、とか、色々尋ねてみる。

 料理の話が出来て嬉しいのか、ヨシュアも「舌好調」といった感じだ。


 料理の腕もいいのだろうが、素材そのものが相当美味である。

 正直それほど凝った料理ではなかったように見えたし、神野菜というのは相当美味な品種なのだろうと思う。

 見た目から想像した味とは、ある意味予想通りに、若干どれもズレていたが。

 サラダのレタスもどきを食したら、食感がキャベツだった。人参もどきを食したら妙に酸味が強かった。

 そんな程度のズレで収まってはいるのだが、一部例外もある。


「イチゴが辛いというのは反則だ……」


 焼いた肉の上にイチゴが少数盛ってあり、それを潰して食べるように言われた時は流石に抵抗があったのだが、このイチゴ、まさかの辛味であった。

 食した感覚は辛味大根おろしステーキ、といったところだろうか。

 神野菜というのはどれもこれもそうなのかと思ったが、小麦もどきを加工したパンは正しくパンであり、美味だった。

 米もリゾット風に食したのだが、概ね知っている米の味だった。

 インティカ種なのはやや残念だが、そもそも日本以外に居た時期の方が長いのである、不都合は全くない。


 麦も米も分類は「野菜」に入ると思われるが、ここはヨシュアも単純にそういう種を植えた結果だそうな。主食が穀物なのは変わらないようで、ある意味一安心といったところだろうか。

 転生後は地上の食材になるだろうから、こっちの世界の味に慣れるという意味では、リソースで作った肉や魚の方が向いてるかもしれないな。

 でも神野菜が美味であることは確かなので、神界にいるうちにたっぷり味わって、自分なりの調理方法を研究することにしよう。


「美味いモノを食うのは、人を幸せにするよな」


「神も幸せになれると思うんだよねー」


 ヨシュアが睡眠を取るリズムを早い段階で調査して、睡眠妨害だけは避けることを条件に、毎日通うことを約束した。

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