専攻単位
気まぐれ更新。次回は未定です。
翌朝、朝食を摂った俺は、いくつかの言伝を記した後、学園都市シェラハーにある特別寮に戻ってきていた。
一応学園にはここから向かわないと、流石に不自然だろう。
その程度で不在を怪しまれないのが、今のところ唯一の首席である利点だな。
【空間魔法】というスキルで[転移]が可能なのかどうかは、俺以外には誰にも分からないことだ。
字面的に気付かれそうな気もするのだが、恐らくは「読めない」はずだ。
エルにも読めない、ネリーにも読めないとなれば、「口にしなければ意味が分からない」ものに見えていると考えて問題ない。
まあ、[転移]自体はしょっちゅう行っているし、実際俺が使えることを知っている人も少しは増えた。
彼ら・彼女らが周囲に漏らすかどうかはさておき、秘密はいつまでも秘密に出来るものでもない。
いずれは完全に表ざたになるだろうが、その正確な性能を知ることは叶わないだろう。
何せ俺もどの程度まで[転移]が可能なのか、しっかり把握出来ているとは言い難いわけで。
「っと、あんまり時間に余裕がないか」
生活魔法で確認した時刻はもうじき9時になろうとしている。
まだカリキュラムを組んでいない俺にはあまり関係がないのだが、基本的に学園の始業時刻は9時。
単位ごとの授業というか、1コマ何分、といった区切りは明確ではないようだが、原則はその時間からスタート、ということになっている。
無論特別なカリキュラムなどもあるため、必ずしもそうとは限らないのだが。
さて、俺が今急いでいる理由なのだが。
実は昨日、一つ約束をすっぽかしているのだ。
ネリーたちのことではない。入学式の後にプリシラから「単位のことで相談したいので、時間が出来たら学園長のところに顔を出して欲しい」と依頼されていたのだ。
厳密にはすっぽかしているわけではないので、あまり心配はしてないのだが……。
学園長が一晩中待ってたらどうしよう。
そんな心配があったため、朝一で学園長のところにお邪魔する予定だ。
感覚的にはあちらから無理強いをさせられるようなことはないように思えるが、はてさてどうなることか。
「やあやあやあっ!いい朝だねゼン・カノー君!つい先ほどまで夜中だった気がするが、気のせいだね!」
「それは待ってる途中で寝てたとか、そういう話じゃ……」
「いやあ、ゼン君の顔を見たら眠気も吹き飛んだよ!さあさあ、そこに座るといい。君の取得する単位について、じっくりと決めようじゃないか!」
まあだいたい想定通り。
強いて言えばプリシラの呆れた姿を見て、ホントに一日待ってたのな、という程度の感想だ。
寝てたんならセーフだろ、うん。
とりあえず勧められるままに座ってみたわけだが、さて。
単位について……というより、俺がこの学園で何をするか、だが。
「やろうと思っていることはいくつかありますけど、学園としては具体的にどんなことを俺に期待しているんですか?」
まずは擦り合わせからだ。
方針は決めている。イストランド群でやっていることを、そのまま広めるつもりでいる。
恐らく学園側としても求めているところは、同じところだろう。
アドルフが学園の要望を聞いてくれると聞き、鼻息荒く答えて来た。
「期待していることかね?それはもう、たくさんあるが……具体的に、と言ったね?ならば、最優先事項として、あのフィナール領の異常な生産力についてだね!」
「最優先がそれですか。ならばまずは安心して頂きたい、そこは俺も率先して広めたいと思っている部分なので。ただ、生産力、となるとちょっと曖昧ですね」
アドルフの言う生産力は具体的に何を指すのか。
単純に作物の質量だけならば、技術的なことを教えるだけで済む。
というより、カルローゼ王国には方法は伝わっているはずなのだが、技術の広まりを見せているのはせいぜいナジュール領くらいまで。
上手くいってないだけなのか、それとも方法に疑問があって採用されていないだけなのか、そこがちょっと分からない。
諜報部に探らせるにしても限界があるし、そもそもそれなりに形になってきたのはここ最近の話だ。ネリーの成果だな。
「実を言えば、ある程度の検証は済んでいるのだよ。カルローゼ王国からの依頼でね。我々としても検証に数年かかってしまったが……」
検証した結果があり、フィナール領というか、イストランド群という実例がある。
なら俺から改めて教えることはそう多くはないのだが。
「なら、それを広めればいい話では?技術的には難しいものではないでしょう。腐葉土は場所によりますが、堆肥は作ろうと思えば大抵のところで作れます」
「そこなのだよ、ゼン君」
俺の言葉を遮るように、アドルフが言う。
「腐葉土も堆肥も、我々にとっては未知なる技術。その効果は劇的ではあるが、効能が一定とは限らない。学園都市として、各国に自信を持って提供するには、確固たる製造方法と運用方法を確立させねばならないのだよ。その点、フィナール領は時代の最先端を行くどころか、その更に先にいるものだと認識しているのだが、どうかね?」
ふむ。一理ある。
というより、普通に話が出来るのな、この人。
などと失礼なことも考えつつ、整理してみる。
「つまりは、学園としてもその二点の有用性は理解しているけども、売り込む段階に至れるほどの手応えはない、と。その確証を得るために、俺に協力を依頼したい、ということでいいですかね?」
「もう少し踏み込ませてもらえれば、その知識の出所と理論についても知りたいと思っている。昨日まではゼン君の母君でいらっしゃるシャレット代官に尋ねるべきと考えていたのだが、違うのだろう?」
ま、昨日の入学式でも自分で言ったしな。プリシラからも話は聞いただろう。
「学園長のお察しの通り。フィナール領というか、イストランド群については、大概俺が知識の出所ってことで間違いないですよ」
「やはりか!前世持ちの先祖返りということだね!?」
「そこは誤解がありますけどね。前世の記憶は持ち合わせてはいますけど、俺は先祖返りじゃないもんで。ああ、この話は不毛なので質問は受け付けないし、説明する気もない。重要なのはそこじゃないし、大多数から誤解されてても俺は困らない。使える知識を持っているという事実だけで済ませて欲しい」
先祖返り云々のループは飽きたので、予め釘を刺しておく。
勝手に先祖返り認定をされる分には問題ないけども、俺がそれを認めるわけにはいかない。
【天上書庫】や神界での情報から推測は可能だが、この世界の歴史について問われても、答えようがない。
ちょっと強めに言ったこともあり、アドルフが「う、うむ……」と濁しているが、俺の前世について聞きたかったのかもしれない。
「では、ゼン・カノー様は農業系の単位を取っていただく、ということでよろしいでしょうか?」
取りなすようにプリシラが告げて来たので、俺からも確認しておく。
「その農業系単位というのは、いくつあるんですかね?農業クラスのカリキュラムは見たんですけど、総合的なものしか書かれてなかったもので」
農業に3年間従事する。
といっても、農業と一括りにはしているが、主だったところで言っても穀物やら野菜やら色々ある。
種類にしても、畑や果樹園みたいなものから、幅広く取れば畜産だって農業の一つだ。
一応繊維とかそういった類も農業と言える。
ってか、今更だけどイストランド群でやってる農業、幅広いな!最近綿花まで手を出してるところだし。
しかし、プリシラからの返事は、あまり芳しいものではなかった。
「この学園の単位で言えば、[農業]と[畜産]……近いもので[薬学]でしょうか?薬草の類も農業の一つと言えるかと」
「……そんなもん?ひとえに農業つっても、専門性が求められるものは多いと思うんだけど」
「基本的な部分を抑えておけば、大抵の作物は育てられるかと思いますが?」
首を傾げながら答えるプリシラに、なんともアバウトな考え方を伝えられ、内心嘆息する。
こういうところ、やっぱり非効率なんだよなあ。汎用性を求めるがために、専門性を犠牲にしているというか。
幅広すぎなくらい手を付けている俺が言えるこっちゃないし、考え方が間違っているとも言いにくいんだけど。
そうせざるをえない理由も、分からなくもないし。
しかし、物事の効率化に専門家は必須なのだ。
皆で同じことをやって行くこと自体は悪いことじゃない。でもそれだけじゃ、発展は望めない。
それをどう説明すればいいものかと考えていると、アドルフがこんなことを言った。
「腐葉土と堆肥により畑から作物が多く取れるのだから、ゼン君に実際の農作業をさせるつもりはないが」
……それだと運用方法は教えられないし。
しかしこの分だと、腐葉土と堆肥は万能、みたいに考えてる可能性大だな。
色々と見通しを甘く見てたかもしれんなあ。
この場にいるのは学園のトップとその娘、か。確認しておこう。
「俺の単位の話の前に、いくつか質問をさせてくれ」
◆◆
結局、少なくとも[農業]の単位を取ることは決めたのだが、それに付随して一つの提案を行った。
学園で定めている単位以外に、俺が提供する技術や知識の対価として、相応の単位を取得したものと認める、ということになった。
それ以外は宣言通り、直接の対価を求めるつもりはない。
ただし、学園都市として公布するのはいいが、提供元に俺の名前、つまりは「学園都市所属:ゼン・カノー=レリック」が発案者であることを明記すること、という条件はつけた。
これも宣言通りのことなので、すんなり飲んでくれた。学園としては在籍する生徒の研究成果、ということで面目は果たされるのだろう。
「ひとまず前準備はこれでよし、と。しかし予想通りというか、なんというか。あの二人はどちらかというと運営側ではあるだろうけど……」
今やっているのは、研究用として使われている畑の整備だ。
土の質としてはそれなりで、【完全解析】でもCというまずまずの評価。
イストランド群の平均がだいたいBくらいなので、ちょっと落ちる程度だろう。
今の世界水準からすると、Cでも十分いい畑の部類に入るんじゃないかな。
「あの二人って誰のことさね?」
「独り言だから気にしないで。ああ、そこから先は俺がやる。ここより手前をドムさんが準備してくれるかな」
早速土いじりを始めることにした俺に、アドルフから助手を付けられた。
小柄でずんぐりとした体格ながら、結構なガチムチ系のドワーフ族のドムさん。本名はドムダヴィリ……なんだっけ?なんかそんな感じの名前だ。フィナール領のデルもそうだが、なんでドワーフ族ってのは名前が長いんだ。
最初はなんで畑を耕すのにドワーフ族?と思ったりもしたのだが、このちっちゃいおっさん、随分と手際がいい。
ちょっと聞いてみると、鍛冶やら炭鉱やらばかりしてそうなイメージと違い、ドワーフだからといって農作業をしないということはないという。そりゃそうか。
その中でも、このドムさんはプロの農士とでも呼べばいいのか、畑作業ならお手の物だそうだ。
あまり厳密には測っていないが、半アール程度を1区画としていくつか区切りを入れて、そこをドムさんに手入れしてもらうことにした。
「主席さんってのはえれえもんだのぅ。農作業に魔法を使うんか」
「俺からするとドムさんの手際が良すぎるんだけど」
「そらぁ、おらは農者さね。元々手入れは十分しとったし、使えるようにするだけなら、片手間で終わるさね」
ヘクタール単位の広さがある畑を区画にしていく作業を土法術と水法術でさっくり済ませていく。
既に作物が植わっている部分を除き、区画を次々にしていく最中でドムさんを見ると、鍬を使って絶妙な具合に畑を耕していた。
流石に手作業なので俺の区画の出来上がりの方が早いが、区画を作り終えたらあとはドムさん任せでもそこまで時間はかかるまい。
「っていうか、魔法で畑って作らないもんなの?俺の地元じゃ不思議がられたことはないんだけど」
「そこそこの土魔法士なら地ならしくらいは出来るさね。駆け出しの水魔法士なら地面を濡らすくれぇは出来るさね。でも主席さんみてえに、両方それくらい使えて丁寧な畑なんて作れる奴なら、そもそも農作業やらやらんと思うがね?」
「俺の母さんは風と水が同じくらい使えたけど……」
「SSクラス冒険者を基準にされても困るさね。それに、畑っちうもんはそんな簡単でも……って、主席さんはその辺よう分かっとるみてえだから、よう言わんさね。ただ、主席さんみてえなことが出来る魔法士なら、っちう話さね」
うーん、納得は出来るけど……やっぱり魔術と魔法は違うんだよなあ。
本来魔法の方が応用性は高そうなんだけど、魔力量の消費効率を考えると、畑作業みたいな単純作業に魔法なんて使っていられないってことか。
生きるために魔法を使う、という観点からすれば、戦闘以外にも色々可能性がありそうなもんなんだがなあ。
2時間程ドムさんと雑談しながら作業をして、数十の区画を作り出した。
実はこんなに時間をかける必要はないのだが、こんなところで全力を出す意味もなければ、今日中にやらなければならないってこともない。
ドムさんも10区画程度の作業が済んだようなので、ここらで開墾作業は一段落とする。
ちなみにドムさんは畝まで作ろうとしていたので、それは止めた。まだその段階ではないからだ。
「俺の中では、これで畑の最低限の準備は済んだと思うんだけど、ドムさんならこれから作物を育てるとして、どうしてる?」
「どうって……畝を作って種を撒くか、苗を植えるかくらいさね?」
「まあそうだよね。元々の土壌も悪くはないし、それでも育つことは育つんだろうけど……地元ではもうちょっと手順があるんだわ」
既にフィナール領で実績を残しているので、今更実験をする意味は薄いのだが、作った区画ごとにいくつかパターンを分ける。
まず、植えるのは大根。厳密には大根じゃないけど、ほとんど同じものだから大根と呼ぶ。
そして区画ごとに土壌を変える。どれくらい手を加えるか、それによってどう育つかの対比のためだ。要は実験証明だな。
「というわけで、1区画ずつ、色々手を入れてから植えてみよう。何も手を加えない区画は1つ作るけど」
「腐葉土と堆肥、っちゅうやつさね?話は聞いとるがね」
「それだけじゃないけどね。作物によってベストな配合ってのは変わってきたりするし。他にもちょっと他所から土を持ってきて混ぜてみたりしようと思ってる」
魔道具から取り出すように見せかけつつ、[空間箱]から袋詰めした腐葉土・堆肥・石灰。それから「迷いの森」の土。
連作の仕組みや輪作のことまで教えるつもりだが、今回はそこまでやらない。
植えるのが大根だってこともあるが、感覚的にでも土壌のことを理解してもらうことが先決だ。
「んでまあ、ドムさんなら分かってくれそうなんだけど、作物がよく育つためには、その畑が元気かどうかって大事なことだよね?」
「そりゃそうさね。土地がありゃモノが育つってもんでもないさね。土地に種を撒くだけで作物が出来るなら苦労しないさね」
「だよね。だから畑っていう、作物が育ちやすい環境を作るわけ。で、その畑の質って、その土地ごとに違うよね?」
「そうさね。気候とかも関係すると思うさね。寒すぎても暑すぎてもよくないさね。だいたい草がよく生えるところは、いい畑になるさね」
「草も植物だからその理屈は合ってる。だから作物を作るに適した土地ってのは、土が元気だってことなんだわ」
俺の理屈にドムさんが少し考え込む。
理解できない、というより、俺の言葉選びが悪かったのかもしれない。
「土が元気、っちうのがようわからんさね。土は土さね?確かに土がなけりゃモノは育たんがね、土を枯らさなけりゃだいたいモノは育つさね」
ドムさんの言葉は簡潔ながら正しい。ただ、それだけでは土地が痩せるばかりになる。
人工的に育てるのだから作物と呼ぶのであり、自然のサイクルに合っているかどうかはまた別の話だ。
これまでは畑が痩せても、干ばつするようなところまで行かなかった理由は、それなりの推測は立てている。
ただこれに関しては、この学園で話すつもりはないので、置いておく。
さてどう説明したらいいものかと思ったが、やはりここは生物のサイクルについて理解してもらう他あるまい。
「別に作物に限った話ではないんだけど、だいたい人って食べないと生きていけないよね?でも土を食べても何にもならないよね」
「そらそうさね」
「だから土でモノを作って、それを食べるわけだ。でもこの大根で言えば、この種が育って出来上がったものが大根だよね?あくまで今の段階では種であって、別に特別腹が膨れたりするわけでもないよね」
「難しい話になってきたさね」
この時点で難しいと言われると困るんだが。
とはいえこの辺を「だいたい精霊のおかげ」で済まされる世界でもあるわけで。
科学というのは土台がねえと本当に広めづらい。結果で示すしかないのだ。
とはいえ、最低限の知識がなければ正しく扱えない。
ドムさんが熟練の農作業従事者であることと、この学園に長く務めてきた人であることを踏まえて、もう少し頑張ってみることにする。
「まあまあ、最後まで聞いてよ。じゃあこの種を育てるにはどうしたらいい?」
「それこそ畑に植えてちっと世話してやればいい話さね」
「そう。じゃあ畑には何がある?」
「何って…土さね?あとは水とお日さんがありゃええがね」
「大正解。じゃあこの種が人と同じだとすると、土は何になると思う?」
厳密には水と光さえあれば大抵の植物は育つわけだが、光合成の理屈まで説明するのは面倒だし、土から栄養を摂っているのは確かだ。
だからここは土=栄養という認識を持ってもらう。
「……ふむー。わからんさね」
しばらく考え込んだドムさんの答えに苦笑する。
まぁしゃあないか。あとは結果で理解してもらった方が早いわな。
「あくまで理屈の話だから知らなくてもいいことなんだけどね。じゃ、この袋の中身を、畑に混ぜ込んでいこーか」
◆◆
まだ日は高いが、朝から作業を続けてきたこともあり、15時過ぎには農作業を切り上げた。
結局種を植えなかったことにドムさんが首を傾げていたが、土壌改良というのはすぐに出来ることでもない。
本来ならもっと長い時間をかけて土づくりを行うべきなのだが、平行作業で徹底的に土壌改良をする区画を作ればいいだろう。
大根の種自体はこの世界のごく一般的なものなので、短時間ではあまり劇的な効果は期待出来ないが、少なくとも収穫量に差が出ればいいかな、と思っている。
ドムさんに「お疲れさま」と告げて、学園から寮に戻りながら考える。
そういえば昼飯食ってないな、とかどうでもいいことを脇によけ、アドルフとプリシラのことだ。
とりあえず確認した中では、あの二人はステータスに異常な点はなく、純粋に学園の運営者として存在しているのは間違いない。
だから敵ではない、と結論付けるのは早計だとしても、少なくとも悪意があるわけではなさそうだ。
少なくとも俺が残す実績に対して、「異端」という理由で跳ねられることは、あの二人に関しては問題ない。
たが、教授や研究員などの教育・研究に携わっている人物に関してはどうだろうか。とりあえずドムさんに関しては受け入れられそうな手ごたえはあったが……。
「お待ちしてましたにゃ。何かあったにゃ?」
「ん……?ネリー?」
それなりの速さで歩いていたからか、気づけば寮の屋敷の前まで戻ってきていて、ネリーが待っていた。
思考にふけっていたせいか、声をかけられるまで気づかなかった。いかんな、学園都市はホームとは呼び難いのに。
「っていうかネリーはここに入れるのか?なんか、特別な奴にしか与えられないって聞いたけど」
「一度ルーフェウスって人に声かけられたにゃ。でもネリーのことを知ってたみたいにゃ。ゼン様に会いに行くって伝えたら、ここに案内してくれたにゃ。ネリーだけじゃなくて、従者っぽい人とかは入れるみたいにゃーね」
「それもそうだわな。まだここの敷地に住んでる他の奴に会ったことはないけど、連れくらいはいるだろうし」
ていうか工房がある時点で、一人で住む前提ではないような気がしてきた。屋敷も結構な広さがあったし。
その辺の説明を聞くのをすっかり忘れてたな。まあ、仮にそうだとしても、ここに誰かを住まわせることはないだろうけども。
強いて言えばネリー達の集団生活が終わってから……って、ネリーはともかくリリーナとフランはダメだろ、常識的に考えて。
「リリーナはちょっと早いかもしんにゃいけど、フランならアリだと思うにゃ。サリアが言うには、吸精族は生まれた頃から子供が産めるらしいにゃ」
「人の心を読むんじゃない。っていうか大国の姫として、婚約者とはいえ男と同じ屋敷に住むのはどうかという話で」
「それをゼン様が言うのはナシにゃ」
ブーメランですんませんでした。
9歳ならセーフということにしてくれませんかね……。
無駄に心に傷を負っていると、ネリーが屈んで下から見つめるように聞いてくる。
「で、何考えてたにゃ?」
なんというか、ネリーの服装って、結構胸元とかよく見えるんだよね。屈まれて下から覗き込まれると、色々来るものがある。
かといって目を逸らすのは何か負けた気分だし、ネリーにはそんなつもりは……あるな、これ。目が笑ってやがる。
あー早く何とかならねーかな、俺の息子。
つっても、別にやらしいことを今考えていたわけでもないので、ネリーの肩をポンと叩く。
「ま、立ち話もなんだし、そっちの話も聞きたいから、「中」で話そうか」
少し残念そうな顔をしたネリーだが、俺の言葉の意味を正しく受け取ったらしい。
そのまま促されるようにネリーを連れて屋敷に入り、入口を閉め、[転移]でイストランド群の自宅へと帰還した。




