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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第四章 青年期 ~学園編~
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初日の終わり

ようやく初日が終わりました。

ここからはゼンのターンをメインにしつつ、ネリー達の学園生活模様などの話を混ぜながら、ゆったり更新していくことになると思います。


「危惧したほどでもなかった、かな。それなりに各部門は動けてるってことか」


「つい先ほどまでサリアは不眠不休で働いても終わりそうな気がしなかったのでございます」


「……」


 代行室に行ってみると、案の定というか何というか、マリスが青い顔で積み上げられていく書類の山を目の前にして、どうすればいいのか途方に暮れていた。

 で、今は死んでる。もちろん比喩だけど、精も根も尽きましたって感じで、なんか白くなってる。

 おかしいな。確かに量は多かったけど、大したものはなかったのに。


「レリック公。少々基準が高すぎると進言いたしますが」


「そうか?っていうか、そもそもサリアの選別がおかしい書類が多々混じってたんだが」


「サリアとて人の子でございます。申し訳ございませんが、部門長含め、まだ不慣れなのでございますよ」


 ちょっとムッと来たのか、普通に棘のある言葉で返してくるサリア。

 あいや、これは俺の失敗だ。


「すまん。別にサリアだけのせいじゃないわな。新体制がいきなり崩壊してんだからしゃーねえか」


「そう仰っていただければ幸いでございます」


 ふと外を見ると、もう暗くなっていた。

 結局午後はほとんど役場で過ごすハメになっちまったなぁ……。

 って、待て。今何時だ?


「22時でございますね」


「マジか。って、やばい。ネリー達のことほったらかしだった」


 確か入学式を終えたのが昼前くらいだった。

 それから特別寮に行って、自宅に[転移]で戻って……やべえ、結構な時間放置してんぞ。

 それを聞いて、サリアが密かに俺から距離を取り出した。


「……それは大変なことでございますね。あ、サリアはこれで失礼いたします。明日も早うございますので」


「おい。逃げるな、待てやコラ」


「それではレリック公、おやすみなさいませ」


 ネリーの怖さをよく知ってるサリアは即時撤退を決め込んだらしく、あっという間に代行室から消えてしまった。

 マリスは未だ白くなったままだし、仕方ない。


(ネリー、そっちはどんな感じだ?)


 あくまで自然な体を装って、ネリーに【思考対話】を飛ばす。


(世話が焼ける姫様たちではにゃいにゃ。むしろもう一人がちょっと委縮しちゃってるにゃ。ところでゼン様は何してたにゃ?)


 ちょっと間があって、返事が返ってきた。どうやら怒ってはいない様子、セーフ。


(あー、一度自宅に戻ったんだが、役場でトラブルがあってな。厳密にはトラブルが起こる前の処理が必要になったって感じだが)


(イストカレッジに戻ってたにゃ?ネリーも連れていって欲しかったにゃ)


(ん?何か用があったのか?)


(そういうわけじゃにゃいけど、ちょっと懐かれすぎて疲れたにゃ)


 そらまあ、半分は意図的なものですから。って思考に流したらいかんな。


(狙ってたにゃ?)


(正直に言えばそうなる)


 あっさり白状します。

 だって思考対話中だと、ちょっとでも考えたら察しちゃうんだもん。

 これがネリーだけならいいんだが、リリーナやフランもかなり怪しいんだよなあ。特にリリーナ。


(別に構わないのにゃ。なんかこの二人、面白いにゃ)


(せやろ?)


(でももう一人は、ある意味もっと面白いにゃ。まだ様子見だけど、ゼン様もきっと気に入ると思うにゃ)


 もう一人っていうと、あの子だよな。バミーラって子だ。


(もう寝ちゃってるけどにゃ。リリーナもフランも、まだまだお子様なのか、さっき寝ちゃったにゃ)


(生活サイクルは徹底させてたからな。まだ10歳だし、睡眠は大事)


(その理屈だとゼン様もそうだにゃ)


 ブーメランが刺さってしまった。確かにそうだ。

 リリーナとフランとの同居生活の時は「成長期じゃない」って言い訳含めて、夜間行動とかしてたけど、今は本来そうすべきじゃないんだよな。

 この体が成長ホルモンとか関係あるのかどうかはようわからんけど。


(てかネリーって、未だ背が伸びてるよな。15年くらいで止まるって聞いてたけど)


 そう、成長期といえばネリーのことも怪しい。

 体の一部が未だ成長しているのは、まあ、成長とは言わないかもしれないが、普通に身長も伸びている。

 俺の二期目の成長期をもってしても、追いつけるかどうか微妙だ。そもそも俺がどの程度まで身長が伸びるのか予想しかねるが。


(あまり大きくなりすぎるのも女として考えものだにゃ……でも、感じからすると、もうちょっと伸びそうな気はするにゃ)


(ネリーの勘?)


(それもあるにゃ。けど、【百獣王化(ライガスチェンジ)】をした時くらいには伸びると思うにゃ。にゃんとにゃく)


 その勘、当たってると思う。


 実はラピュータを通してアインに聞いたのだが、変身系スキルというのは所持している本人の身体的成長にもある程度影響があるらしい。

 ある程度、というのは例えば【獣化】みたいな、「汎用変身スキル」とでも言うべきか、特定ではない何かに変身するものであればあまり影響はない。

 だが、俺の【大魔鬼化】やネリーの【百獣王化】は、それぞれ「デビモス」と「ライガス」を模した姿に変身する特有の変身スキルだ。

 あくまで模したものであって、外見上そのままに成長するわけではないのだが、最終的な容姿としてはこの「変身した時の姿」に近くなるようになっているらしい。

 変身した時にあまり姿が変わりすぎると、肉体に負担がかかりすぎるための処置であろう、というのがアインの見解だった。


 俺も【大魔鬼化】した姿が成長した先だとすれば、そんなに不満はない。なんだかんだでイケメンだし、180cmは確実に超えてたし。

 ネリーも多分それに近いくらいになるとすれば、それくらいはないと釣り合い取れないし。

 割と切実な願いだったりする。いや、俺は気にしないけど、ネリーの方が気にするかもしれないから。

 俺は気にしないけど。


 でも、念のために聞いてみる。


(ネリーからすると、俺ってどのくらいまで大きくなりそうだと思う?勘で)


(多分、ネリーと変わらないか、ちょっと高いくらいにはなると思うにゃ)


(そうか。だったら安心していいな)


 何故ネリーの勘なら安心なのか。

 それはネリーが洗礼の時に得た【直感】という固有能力(ユニークスキル)に起因する。ちうても元々ネリーの勘は外れないんだけど。



直感(フィーリング)

パッシブスキル

スキル所持者の予想、予感がより正確になる

この効果は所持者の精神力と魔力に依存する

更なる進化が可能



 スキル効果もその精度もまったくもってファジーなスキルだが、元々勘のいいネリーにはピンズドなスキルだと言える。

 ある意味エルの【予知】よりも頼りになるスキルだ。

 あくまで予想や予感の類であり、未来が見えるわけではないので用途は全く違うのだが、ある程度狙って発動させることが出来る分使い勝手はいいだろう。


(あと、学園内に怪しい奴がいる。パッと見では分からんレベルだと思うが、初対面、特に職員についてはちょっとだけ注意しといてくれ。「呪い」がかかっていた職員がいた)


(……やはり、ですか。私も上手く言えませんが、確かに違和感を感じる者が存在するようです)


 真面目な話になるとモードが切り替わるようだ。

 まあそれくらいはいいか、むしろ上手く切り替えるものだと感心する。


(あまり気負う必要はない。どうも元々「呪い」がかかっていたみたいで、効果もそこまで強くはないものだった。目的が俺たちとは限らん)


(承知しました)


(いや、だから気負う必要はないから。学園生活を楽しむ中で、ちょっとだけ注意を払うとか、その程度でいいよ)


(そう、ですか……わかったにゃ)


 そんな感じでそこそこにネリーとの【思考対話】を終え、そろそろ灰になりそうなマリスを抱えて自宅へ戻ることにした。

 あ、マリスの住まいはウチの屋敷だったりする。本人とヴィーからの強い要望なのであしからず。

 まあ他国の辺境だからね、他にどこに住まわせるんだって話だよね。



◆◆◆



「あの、ネリーさん……?」


 学園都市シェラハーの女子寮にて、【思考対話(テレフォン)】を終えたネリーに、恐る恐る、といった具合で話しかける子供が一人。


 彼女の名はバミーラ=クライズ。

 名前の一部に若干の誤りがあるものの、彼女の名はバミーラということに間違いはない。

 耳にかかる程度の青髪で、12歳という年齢相応の顔立ち……というより、この世界平均で言えばはっきり幼いと断言出来るだけに、ボーイッシュな髪型と相まって、見た目から性別の判断が付きにくい。

 そのうえ130センチにも満たない身長、細い体型ともなれば猶更である。


 とはいえ、彼女は純正な鬼人族であるため、やむを得ない部分も多大にある。

 鬼人族は人間族以上に成長がゆっくりで、おおむね16~18歳前後で成長を終える人間族に対し、鬼人族は20代半ばまで続く。

 といっても、魔人族ほどの多様さはないが、個体差が出やすい、というより出すぎな種族であり、人 間とほぼ変わらない者もいれば、本当に鬼のような姿に成長する者もいる。

 同じく鬼人族のハーフであるフィナール領の冒険者ギルド長、ナハトが前者であり、ブロディスやノーマンが後者である。彼女は前者に近い。


 その彼女の特徴的な部分は、ネリーがゼン好みだと誤解しそうなロリータ風味……ではなく。

 その短い髪にも埋もれてしまいそうではあるが、はっきりと分かる前頭部からの二本の角。

 加えて、色が揃っていない左右の瞳。青目と赤目のオッドアイである。


「もっと気楽に呼べばいいにゃ。ネリー姉さまと呼ぶにゃ」


「何気にランクが上がってますよそれ!?」


「ネリーは構わないにゃ。だからバミーラも姉と思うにゃ」


「いやこっちが構うんですってば……」


 バミーラの本当に疲れた声に、本当にいじり甲斐があるものだとネリーは思う。

 それにしても、バミーラはもう寝ていたと思っていたのだが、いつから居たのだろうか。

 気配を消していたのか、それとも気遣っていただけなのか。不明だが、恐らくは前者だろうとネリーは推測する。


 リリーナは真面目だが茶目っ気も持ち合わせており、フランは天然。

 色々と腹を割って話をした結果、ネリーもこの二人は「合格」であるという判定を下した。何に対してとは言わないが。

 しかしながら、最初から「姉」と呼んでくるような慕われっぷりと、本人たちの性格からして、いじり甲斐があるとは言えない。

 むしろいじられている感じがするのだが、嫌悪するような類のものではなく、純粋な好意であることには気づいている。

 同じ()として距離感はかなり詰まったし、ものの考え方とでも言うべきか、ネリーの主であるゼンからの影響も相当あるようで、共感が沸く相手ではある。


 色々決着が付いていない話もあるが、それでもゼンを「共有」するに値する娘たちである。

 それがネリーの二人に対する今の評価だ。あくまで今の評価であり、多少下がることはあるかもしれないが、基本的には上がっていくだろうとネリーの【直感】が告げていた。


「ところで、どうしたにゃ?もう寝てると思ってたにゃ」


 さて、このバミーラについてだが、勘や人物評価に長けたネリーにしても、未だ評価しかねる部分は多大にある。それでも「面白い」という評価を付けられるだけの娘であることは間違いない。


「いや、その……なんか、ネリーさんが、心にあらずって感じだったので、気になっちゃって」


「リリーナもフランも姉と呼ぶのだからバミーラもそう呼べばいいにゃ」


「だから、その、こ、心の準備が」


「ちなみにたまにそういう時があるにゃ。気にしなくていいにゃ」


「姉とかの話はどこに行ったんですか!?」


「どうしても姉と呼びたいなら素直に呼ぶにゃ」


「いや、違……ってああ、んもう……」


 面白い子だにゃー。


 ころころと表情を変えて狼狽するバミーラと、表情一つ変えず話を前後させて翻弄するネリー。

 そんな彼女の影響をモロに受けたのがサリアであるのだが、この場ではさておき。


 成績順位八席、事実上ネリーたちが同率首位で三人並んでいるため、女生徒としては次席レベル、というこの娘に対し、確信に近い疑問を抱いていた。


 一つはその八席という順位そのもの。

 提出されたステータスボードで順位を決めるのならば、この娘はそれ相応のステータスを持っているということになる。

 その強さや能力は、自分たちには遠く及ばないにせよ、冒険者のクラスで言えばCからB程度のものは持っているはずだ。

 だが、そのくらいの力であれば、対面してみれば何となくは力量も察せる。[鑑定]が使えるわけでもないが、彼女にはその程度を察する能力はある。


 それが全く感じられない。つまりは、彼女は普通の子供そのものと何ら変わりがない、というのがネリーの結論であり、疑問。


 もう一つが、「その程度」のステータスにしか感じられないのに、技量(・・)は自分と同格以上に感じられるということ。

 つまりは、バミーラという少女が並々ならぬ研鑽を積んできた、「努力をしてきた者」である証左だとネリーの勘は告げている。

 少なくとも何かしらの戦闘技術を身につけており、条件次第では瞬殺とは行かないかもしれない、という程度には評価している。


 この疑問は矛盾している。

 確かに、高いステータスを持っていることと、高い技量を持っていることは、必ずしも両立するとは限らない。

 だが高い技量を持っており、同年代の子供程度の強さしか感じられない、というのはおかしな話である。


 例えばの話、彼女の資質、つまりは成長値のことだが、それが著しく低いものであるとすれば、有り得ない話ではない。

 しかし、ステータスは日々の訓練でも伸びるものだ。

 彼女の手から感じられた、ごつごつした感触。目立った外傷はないものの、節々に見える傷跡。

 それらをもって、ネリーは相当の努力をバミーラから感じていた。


「気が向いた時で構わにゃいけど……」


「あ、え、姉の話ですか?」


 今のところは、深く追求するつもりはない。

 しかし、こんな面白い人材(・・)はそういない、だから(ゼン)にも報告した。


 彼女に課された学園内での仕事の一つに、人材の確保というものがある。

 バミーラの身の上話も聞いたところ、クライズという姓はあれど、諸事情で家名を許されているだけであるとのこと。

 事情もあり、むしろ勘当されているも同然であるということ。

 つまるところ、彼女はせいぜい「クライズ王国民」というだけであって、極めてフリーに近い立場にいる。

 となれば、いずれは(ゼン)に会わせてみようと思っている。彼女を部下に推挙するのは勿論のこと、(めかけ)にでもしてみてはどうか、とも考えている。

 ネリーの中ではゼンの好みと一致していると思っているし、確信している「ある部分」について、恐らくだが、ゼンならば何かしら解決策を持っているのではないかと予想もしている。


 その前に、聞いておくべきことがある。

 確信に近い疑問、その確信に至っている部分。


「先祖返りなのを隠してるのは、何か理由があるにゃ?」



◆◆◆



 自分で作って自分で食べる飯というのは、実際の味云々よりも、虚しさというものがあるもので……。

 これが誰かと食べる分にはいいんだが、一人で作って一人で食べる、ってのは結構寂しいんだよな。


「というわけで、マリスの分も作ってみた」


「ゼン、私の分は?」


 知らない間に先に帰宅していた母さんがそんなことを言ってきた。

 そんなん知らんし。てか先に食ってると思ってたよ。

 ちなみに父さんは入れ替わりで出て行った。夜勤的なものらしい。

 今度何種類か、回復薬(ポーション)を用意してあげよう。生命力とか魔力量とかそういうポーションじゃなくて、栄養ドリンク的な回復薬(ポーション)を。


「まあ量はあるし、食べたければ食べればいいんじゃね。時間帯を考えると、抑え気味にしといた方がいいとは思うけど」


「それはそうだけど、エル様からは妊娠中こそ栄養はしっかりと、って言われてるのよね」


 母さんは魔人族とエルフ族のハーフだから、人体構造的には人間と異なる可能性があるわけだけども、本来寝る前にガッツリ食べるというのはよろしくない。

 たとえ妊娠中であってもそうだと思うのだが、俺自身は当然妊娠した経験なんてありはしないので、よく分からん。

 ただ、ある程度は構わないだろうとは思う。妊娠中の女性ってのは、多い人だと一日に六食とか摂るらしいし。


「だったらいいんじゃね。ま、肉類はほどほどに」


 あまりコレステロールの高いものはどうかと思うが、ハーフといえどエルフはエルフ。ならばエルの助言に従うのは間違いではないだろう。

 さて、一人寂しい食卓ではないことだし、食うか。


「……その前に、よろしいでしょうか?」


 自宅に戻ってようやく灰になったマリスが立ち直り、何やら質問があるようだ。

 心なしか呆然としている気がするが、はて?


「色々とおかしな一日ではありましたし、私も大変なところに来てしまったのではないかと思ったものですが、それは構わないのですわ。ですけれども、この食事の量は一体どういうことでしょうか?」


 あ、そうか。マリスは俺の成長期の食事量なんて知らないんだ。


 一本につき400gはあるフランスパンもどきが10本。

 小分けにしても50人分くらいはあるサラダの超特盛。

 この二つはイストランド群産であり、これだけの量となると結構なお値段だったりするが、ここは産地だからあんまり関係ない。


 鶏もどきの鳥系魔物の丸焼きが丸々5羽分に、業務用並の寸胴鍋にたっぷり入ったスープ。

 ミネラル分として海の素材も使いたいところだが、生憎この辺りで海産物は手に入らない。ていうか海産物ってこっちではほとんど見たことない、塩くらいはあるんだが。

 なので、スープに豆を大量に使ってみてたりする。まあ厳密にはミネラル豊富なのって納豆なんだけど。


 恐らく総重量は5kgを軽く超え、カロリー計算なんてしたら大変な数字になること間違いなし。

 加えて水代わりに胃腸の働きを良くする飲料を気休め程度に用意。こちらも栄養度の高い回復薬(ポーション)もどきだったりする。


「もしやこれから御来客でも?いえ、ですが、時間も時間ですし、これほどの量を食べる程の御来客があるかとも思えませんわ」


「マリスの前に、皿、置いてあるだろ?マリスが食べられる、というか食べようと思う分だけ取ってくれればいいよ。それなりに空腹だろ?」


「それはそうですが……元々私はそれほど食べられませんわ」


「明日のこともあるから、食える程度には食っとけ。母さんは……もう自分の分は確保済か」


「このくらいで十分よ」


 問答はもうしたくないので、未だ困惑しているマリスに一言。


「アレだ。これ、全部俺が食うから」


「は?」


 では、手を合わせて、頂きます、と。



「ごちそうさまでしたっと。ちょっと物足りないけど、もう遅いしこんなもんか」


「朝食は私も手伝うわよ。せいぜい肉の処理とパンを買ってくるくらいなものだけれど」


 食事所要時間、30分也。

 もちろん丸飲みなんてしていない、ちゃんと味わって食っている。

 早食いしてる自覚はあるが、流石に二期目の成長期ともなれば慣れたものだ。

 多少量が増えたところで何も問題ない。ってか足りないんだが、あとは寝るだけだし、こんなもんで済ませとくべきだろう。


「け、健啖家で、いらっしゃいますのね」


 マリスが思いっきり引いてるが、ちゃんと食ったか?


「あー、マリス。俺今成長期なんよ。だからガッツリ食べないといかんのよね」


「限度があるのではないですか!?」


「つっても前の成長期でもこの半分くらいは食ってたからなー。どうも感覚からすると、これくらいは食べないとダメっぽいんだわ」


 一期目の成長期には流石に有り得んと思ったものだが、二期目ともなれば、これくらいが必要だとなんとなく分かってしまう。

 あとは俺が健康になった、ということも少なからず関与しているのだろう。

 不健康というのかどうかは微妙だが、損傷中という状態が長く続いた反動か、以前にも増してよく食えるようになった。

 少し試してみたのだが、一日くらい何も口にせずとも、この体、何ら問題なく動けるようになっている。空腹感というのも実はあんまりない。

 逆に言えば、空腹感を感じる時が危険なのだろう。【一騎当千】で試したアレだ。


「自分の体のことではあるけど、俺にもよう分からん部分は多い。でもなんというか、どうも俺の体、バッテリーみたいなもんがあるんじゃないかと思ってる」


「ばってりー?」


 ああ、やっぱ通じないか。


「魔人族にいないかな?こういう、いわゆる「食い溜め」みたいなことが出来る種族って」


「……ああ、体内魔石のことですわね?」


 体内魔石というのは、一部の種族が持つ実際の体の器官である。

 実際この呼び名が正しいのかどうかはさておき、体内に魔力やら体力やらの色々なエネルギーを貯めておける器官のことで、遺体などから実在することが判明済みである。

 この器官を持つ種族は、本来人間の機能として持ちえない「食い溜め」を正しく行える。


「ですが、ゼン様はそのようにはお見受け出来ませんけれど……?」


 実際にこの器官を持っている種族を見たことがあるわけではないが、マリスの言う通り、俺は普通の人「っぽく」見えるだろう。


 単純に、すこく単純に言えばだが、その器官を持ち合わせているがために、デブが多いのだ。


 正しくは、太ったり痩せたりすることが多い、というのが正しいのだろう。ラクダのコブみたいなもんだ。

 本来必要な量より過剰に摂取出来るがために、つい食いすぎる……というより、本能的なものだろう。

 それと比べると、俺は全くそうは見えない。というか、この部分は確実に異常である。


「そうだろうな。実際見た目からは分かんないだろうし、俺もここにあるとか具体的なこと言えないし。ただ、そうじゃないと説明が付かないことが多くてな?この体でこの量が入るほど、胃がデカいわけがないんだよ」


「そういえば、ゼンのお腹がぽっこりしてるところなんて、見たことないわね」


 母さんの言う通り、俺は食えるだけ食っても、見た目が変わらない。

 もう食えないってくらい食い切っても、だ。

 となると、質量保存の法則なんてものを完全に無視した器官が、俺の体内にあるものと考えていいだろう。


「なんだか女性から凄く嫉妬を受けそうですわね……実際に目にした私としては、全くそうは思えませんけど」


「つっても、そういう器官が仮にあるとして、実際どんだけ溜まってるのかとか全く分からんけどな。ただ俺の場合、成長期になると極端にエネルギーを欲する感覚なんだよ。最初がそうだったし……ってか、最初は食わされてる感半端なかったけどな」


 そう言うと母さんが目を逸らした。

 ネリーに食わせろって言ったのは母さんだったのか……いや、ネリー自身もそういう思考だったけどさ。あと、父さんもな。


 実際どの程度まで体の成長に影響があるかは分からない。

 けども、食わなきゃ成長もしないのだ。これは真理である。

 俺の体内がどうなっていようとも、栄養がなければ人は大きくはならないのだ。

 それも踏まえて、俺の異常な成長期を加味した、「急成長」をするためのブースターみたいなものなんだろう、なんて感じに認識してる。


「だからまあ、弟か妹か分からんけど、俺が異常なだけってことで、生まれたら加減してあげてね?」


「そう、ね。ゼンが全く手がかからなかったものだから、あまり子育てに自信がないのだけれど」


 そう言って優しく自分のお腹を撫でる母さん。

 まだそうはっきりと分かるものでもないのだが、確かにお腹は膨らんできているように見える。

 俺がこんなんだったからなあ、二人目と言っても、初産に近い感覚なのかもわからんね。



 その後は「明日からが本番だから」とマリスに告げて、顔色を青くしていたが、あれくらいならどうとでもなる。

 現状に対して根本的な解決策はない。

 ただ、スミヨン辺りに権限を振れば、いくらかマシになるだろう。

 この際スミヨンは昇進させようかな?副役場長とか……いや、新体制になったばっかりだし、ちょっと相談してからにするか。



 一人、寝る前に食器を洗いながら、考える。


 弟か、妹か。


 実は、俺は知っている。

 知るべきか知らざるべきか、悩んだのだが、母さんに【完全解析】を使った結果だ。

 知りたいのは母さんの状態に異常がないかどうかだけで、産まれて来る兄妹(・・)の性別を調べるつもりはなかったのだが……。


 女の子なら、色々加減してくれるだろうさ。楽しみにしてるぞ、まだ見ぬ妹よ。


 少し、気になる点はあるんだけど、な。

ゼンのスキルコーナー


絶倫(ソコナシ)

パッシブスキル

所持者と対象の精力回復力と、行為後の休息中の自然回復力が向上する。

所持者への効果は所持者の精神力とレベルに依存する。

対象への効果は対象の精神力と生命力に依存する。


まあ、用途はお察し。

今のところは役に立ちません。ゼン君がまだ未精通なもんで。

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