ステータスとはなんぞ?
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「そういえばカノー様は始原の世界の出身でしたね、申し訳ございません、私の方が取り乱したようです」
やっぱり畏まった態度でラピュータが謝罪してくると、周りからも(ごめんなさい)と伝わってくる。
ここに来てから分からんことばっかりだな。しかしテレパスとはなんぞや?
「念話者というのは、我々の世界でもう存在しないはずの固有職業なのです。フェアリー族にしか伝わらず、私の知るところによれば継承者がいなくなったと聞きましたが……」
「ユニークジョブ?なんかゲームっぽくなってきたな」
聞くところによれば、精霊の意思を聞くことが出来る古代人がそう呼ばれたらしい。
精霊神ラピュータにも伝承でしか伝わっておらず、過去の精霊神はフェアリー族が務めていたそうだ。
ただ、精霊と人類の溝が深まった頃には、既に精霊の声を聞ける者はいなかったとのこと。
ラピュータ自身も、精霊と話せるわけではなく、おおよそのニュアンスが分かる、という程度でしかないようだ。
「精霊は本能的に対話を望む習性があります。カノー様に話が通じると思って、この子達が興奮したようです」
一番興奮してたのはラピュータなんじゃないかと思ったのだが、そこは置いておく。
「で、なんでカノー「様」なわけ?」
「精霊の言葉が分かる方に不敬など許されません!」
クワッと目を開いて顔を近づけてくるラピュータ。
かわいい、けど怖い。
「でも俺はテレパスなんかじゃないよ?」
「念話者でなくともそういったスキルはお持ちなんでしょう?」
「ナニソレ?」
意訳すれば、俺はそういう特別な能力を持っている、ということになる。
思い当たる節は……ああ、もしかしてアレか?自動翻訳か?
「やはりお持ちですか!この子達もカノー様の言葉が伝わるところを見ると、相当レアなスキルなのですね!?固有能力ですか?もしや特殊能力?」
「そんなこと言われても分からんのだが」
聞き覚えの無い単語ばっかりだ。
「ご自身のスキルですから、ご存知ないということは……もしや始原の世界には「ステータス」がないのですか?」
地位とか、名誉とか、そういう意味、じゃないよな。ゲーム的なアレのことだよな。
ファンタジーなのかゲームなのか……まあ何があっても今更驚かないが。
「無かったな。だから分からん」
ラピュータに絶句されてしまったが、知らんものは知らんのだよ。
(せけんしらず?)
そんな意思が飛んできた、泣きたい。
◆◆
「一度ご自身を鑑定されるべきです!精神体は本来ステータスを持ちませんが、カノー様ほど存在がはっきりしていればある程度分かるはずです!」
というラピュータの指摘を受け、魔術神の元へ向かうように言われた俺は、森を抜け更に歩く。
そもそもこの森は、ラピュータの「ルーム」だったそうで、多くの精霊が住み着いているのだとか。
「ルーム」というのは、自身のプライベートな空間のことであり、部屋に限った話ではないそうな。
その空間で自分のリソースを使って神は色々やるのだとか言われたが、ラピュータは森で精霊と戯れているだけらしい。
アズのドアや、シェラの扉は「ルーム」の入り口だったというわけか。
しかし精霊に魔術神の元へ行く道を作ってくれたのはいいものの、アズはその神さえ思い浮かべればその神の元へ行けると言っていたが。
もしかして、名前を知らないから行けないのだろうか?
少しばかり不安に思ったが、道はあるのだから迷うことはあるまい。
結構な時間歩いたところで、ようやく扉を発見出来た。
シェラの扉と似たようなデザインだが、ノッカーの意匠が違い、杖の形をしている。
とりあえず叩いてみると、「開いてるよー」と中から聞こえて来た。
入ってもいいのだろうか?
お邪魔します、と言いながら扉を押してみるが、開かない。引いてみても開かない。まさかのスライド式と考えても開かない。
うむむ、じゃあ下から行ってみるか、と扉を持ち上げてみる。
「あら、よく分かったね」
まさかのシャッター式であり、自分で開けずに三角帽子を被った少女がそこに居た。
「この扉をヒント無しで開けられる人は少ないんだけどね、柔軟な思考が出来る人は好ましいよ。アズリンド様と同郷というのは寂しいけれど」
「地球育ちだと問題あるのか?」
「魔力がない世界だからね、あまりボクと接点がないんだ」
魔術神、という名前からして、そういうのもあるんだなとは思ってはいたものの、やっぱりそういうのがある世界なんだな。
「ボクの名前はヴァニス、歴代最強の魔王と呼ばれてたこともあるんだよ」
魔王と来たか、じゃあ勇者とかもいたりすんのかな。
「アズリンド様にも誤解されたけど、元魔族の王というだけだからね。別に世界を支配したりはしてないよ」
思考が読まれた。いや、発想がアズと同じだったということだろう。
しかし見た目は14~5歳くらいだし、「魔王」という二つ名はまるで似合わないな。
もう少しフリフリの服でも着て、魔法少女、とでも付けた方が――。
「すごく失礼なことを考えているよね?」
「滅相もございません」
怒らせるとマズいタイプと見た。魔法に関しては色々知りたいところだけど、まずはラピュータに言われたことを聞いてみよう。
「ステータスを知りたい?そういえばアズリンド様もご存知なかったね、でもキミじゃステータスを自力で開けないんじゃないかな?」
「ステータスって魔法なのか?」
「魔法というか、魔術というか…こっちの世界では赤子でも出来ることだから、説明は難しいね。ただ魔力を持たないものにはステータスがそもそも存在しない、というのがボクの仮説だし、アインもそう言ってたけど」
魔力があれば使えるもの、という認識か。
こっちの世界の住人なら教えられなくても出来ることなんだな。
でもステータスってのが能力評価だとすると、それを客観的評価出来るってすごくない?
まあそれだけで人の優劣が決まることはないと思うのだけど。
「逆に言えば、魔力を持たない生物がいない、ということか?」
「全ての生物が持っている、とは断言出来かねるけど、全く持っていない、ということはまずないかな」
若干がっかりだ、魔法使ってみたかったのに。
あ、でも転生したら魔力があったりするのかな。
「アズリンド様も魔力ゼロだったし、キミもそうだと思うけど、一応[鑑定]をかけてみてもいい?」
「いいけど、わざわざ聞かなきゃいかんことなのか?」
「自分の能力を好んで他人に知られたい人は、そもそも能力を隠しているか、自信過剰な人だけだと思うけどね」
「なるほど、そういう魔法なんだな」
否定も肯定もせず、ヴァニスは何やらブツブツと言い出す。
「この世の標をここに紡ぐ、彼の者の資質を示せ、[鑑定]!」
何かの力が俺に及んだ、そんな気がした。
◆◆
「素晴らしい、素晴らしいよキミ!一体何者なんだい!ああ、キミは実に面白い、愉快すぎる!」
「何が愉快なのか説明して欲しい件。1人ではしゃがれても困るがな」
ヴァニスはあれからたっぷり5分ほど硬直してしまった。
そして口の両端を吊り上げると、ケタケタと笑い出した。
「ああ、説明しようじゃないか。だがしかし、待ちたまえ!キミは自分のステータスを知ることが出来る!」
そう言うと、ヴァニスは紙を俺に差し出す。
ごく普通の……とは言いにくいかな、ちょっと変わった紙質をしてる。カーボン紙とか、そんな感じ。
「この紙を持って、キミの固有能力を使いたまえ!スキルは口にすれば発動するはずだ!対象は自分自身!さあ【解析】と口にするがいい!」
アナライズ、ねえ…。
対象は俺をイメージ…鏡か何か見ながらじゃないと難しいな。
「鏡とかある?なんかやりづらいんだけど」
どうやりづらいか、自分でもよく分からないが、なんかそんな気がする。
ヴァニスはうんうんとしきりに納得しつつ、どこからか2メートルくらいありそうな姿見用の鏡を取り出した。
どっから出した、魔法か何かか?そういえば俺の顔、今どうなってるのかな?
「早くしたまえ!」
せっかちな奴め。
まあ、パッと見で若返ってるな。30歳くらいって言ってたアズの言うとおりだ。
と納得したところで試してみる、えーと、対象は俺、対象は俺……イメージが大事、なのか?まあやってみよう。
「えーっと、【解析】」
次の瞬間、持っていた紙にビッシリと文字が並んでいた。
というか、俺の視界にその内容が入ってきた。
名前 加納善一(仮)
種族 半精霊種精神体/?
職業 なし【インフィニティ】
称号 運命超越者
Lv:1
生命力:0/0 (?)
魔力量:12/12(?)
筋力:153(18)
器用さ:122(19)
素早さ:101(18)
魔力:28 (18)
精神力:298(20)
運:∞ (∞)
魅力:258(18)
経験値:?/10
スキル
????:【?】
唯一能力:【限界突破】【?】【?】【?】
特殊能力:【完全翻訳】【無限成長】【?】
固有能力:【解析】【模倣】【成長促進】【念話】
汎用能力:・・・
なんだこれは?
これがステータス?
意味がよくわからn「予想以上だよキミ!」って、紙ひったくられた。まあ紙は見なくても俺の視界に内容は映ってるけど。
これって多分、自分の視界にしか本当は映らないんだろうな。それを他人に見せるために、この紙を持たせた、ってことなんだろうな、多分。
「すごい!すごいよキミ!やっぱり読めない文字が多いけど、これほど詳細なステータスはあり得ない!」
ヴァニスがめっちゃ興奮してる。何が凄いのかkwsk。
それに読めない文字か、俺も紙の方は読めんのよな、ただ一部ステータスやスキルは「漢字」で書いてあるからそこだけ分かるわ。
「いいかい、これが私が確認したステータスだ!キミのと見比べたまえ!」
紙を突き出してきた、文字が読めねー!
ただ、俺の作り出した紙と比べて項目が少ない気がする、数字らしきものもないな。
あ、今視界からステータスが消えた。そんなに長くは映らないのかな。
「本来のステータスボードはこのように大よそのランクにしかならんのだ!項目も5種類に過ぎず、特殊能力までしか分からないようになっている!特殊能力以上など存在せんのだよ!神族専用でそれ以上のものはあるがな!そもそも汎用能力などと聞いたことも無いよ!」
だから読めないっつってんだろ、と毒づくもヴァニスは続ける。
この世界のステータスは5つしかなく、筋力・器用さ・素早さ・魔力・精神力だけしか分からないそうだ。
ヴァニスの[鑑定]によると、こんな感じになるらしい。
ゼンイチ・カノー 運命破壊者
筋力:C
器用さ:C
素早さ:D
魔力:F
精神力:S
スキル:【完全翻訳】【無限成長】
【解析】【模倣】【成長促進】【念話】
といった具合らしい。
高いのか低いのか分からないが、ヴァニスの説明によれば、一般人がF~E、兵士でもDあれば十分で、Cというのは中々に高いようだ。
Sともなると、最高級であり、今の地上では一部の高位の冒険者や魔術師しかいないだろう、といったものらしい。
ちなみにスキルは一つ持っていれば神童扱いらしい、このまま転生出来るかまだ不明だけど。
六個持ってる俺スゲー、と思ったけど、パッと見る限りではアクティブスキルは【解析】と【念話】かな?あとはパッシブスキルのような気がする。
スキルに【解析】をかければ詳細についても分かるかもしれんな、試してみるか。
まあ、色々言いたいことはあるけど。
「称号の訳が合わない件について」
破壊者と超越者は響きが違いすぎるだろ。
正しい称号は俺の【解析】の方だろうな、多分。
あ、でも運命論者じゃないし。運命を変えたいわけだから、そんなに間違ってもいないのか。
ステータスの詳細については別話にて。