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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第三章 幼年期 ~迷いの森編~
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未来への布石

王都の話と帝都の話、一度にやりきるつもりだったんですが、この長さよ。

計画性がないと良く言われます!

 というわけで、帝都アルバニアの近くまでやって参りました。

 道中?すんごい楽させて貰いました。見える範囲に短距離転移。見える範囲に短距離転移。以下同文。ビバテレポート。ビバ瞬間移動。

 ただ、あれだ。ちょっと気持ち悪い。軽く酔ってる。

 転移の連続って、見える光景が次々にフラッシュバックしていく感覚なわけで。

 途中経過が色々省かれる瞬間移動の連続使用は、肉体的な負荷はないにせよ、精神的に来るものがある。魔力量は割とどうでもいい。

 術式行使が必要ない分手軽でいいけど、短距離転移を繰り返すのは今回だけにしよう。

 イメージだけで飛べるって楽だけど、連続使用は人のすることじゃないな!

 なお人は普通、自力で瞬間移動が可能な生物ではない模様。


「自力で走るほうが楽ですね」


 途中まではネリーと一緒に飛んでたんだが、俺以上に酔いが酷く、途中で断念した。

 流石に一瞬とは行かないが、それでも文字通り桁外れのステータスを持つネリーである。走っても十分速い。

 つーか軽く200km/hくらいは常時出てるんじゃないかな。本人曰くランニング程度らしい。本気で走ると周囲に衝撃が出るレベルだ。

 なるべく人が通らないような道を辿っているにも関わらずこの速度。しかも余裕。いやはや恐ろしい娘になったものだ。

 あ、俺に対する意見や批判は打ち切りました。


「ゼン様、楽しそうですね?」

「まあな。一日くらい観光しても罰はあたらんだろ」


 そう、帝王への謁見とか、そういうものより楽しみにしていることがある。

 旅行である!観光である!


 そんなにのんびりするわけにもいかんのだが、生前も色々なところに行くのは、俺の癖みたいなもんだった。

 趣味ではなく、癖である。放浪癖というか、どうにも一箇所に留まっているのが性に合わないのだ。

 転生してからは色々な事情もあって自粛しているのだが、学園を卒業したら思いっきり旅して回るつもりである。

 え?目的はどうするのかって?これも一つの手段なのだから必要なプロセスである。


 決して俺がやりたいだけではない。断じて否である!

 現在進行形で、異世界に来て初めての遠出にテンションが上がっていることは認めよう。


 遠目から見えた帝都アルバリアは、とにかくデカい。

 相当離れた距離からでも、帝都を囲う壁がどこまで続いているのか把握出来なかった。

 全景を見渡せるほどの視界が確保できなかったというだけの話なんだが。

 いずれにしても、この内側がどうなっているのか、楽しみである。



 開かれている門の前には、何やら銅札のようなものを掲げてフリーパスで入って行く人々と、並んで待っている人々がいる。

 ちなみに並んでいる方に俺達も並ぶ。多少の視線は感じるが、気にしない。

 あの銅札が通行許可書みたいなものの代わりになっているのだろう。どうも簡易な魔道具になっているようだ。

 門自体が相当デカく、少なくとも200人くらいは並んで入れそうな感じだ。何やら魔力を感じるので、何がしかの仕掛けをしているのだろう。大門と小門の二つに分かれており、大門側の人の行き来は相当ある。

 流石に日本の歩行者天国(ホコテン)並みとは行かないが、数十人が行き来して、馬車やら荷台やら行き交う様子は、何というか、ファンタジーしてる、って気分になれる。言ってる意味が自分でも分からん。

 年甲斐もなくテンションが上がっちゃっているが、仕方ないではないか。未知との出会いは、いつだって興奮するものなのだ。


「次の方!」


 おっと、ニヤニヤして眺めていたら俺達の順番が回っていたらしい。

 どうやら本来はここで入場税を払うようだが、どうしようか。


 帝国の使者から、招待状代わりの親書を2通預かっている。

 これを門番に手渡せば、そのまま城へ連れて行ってくれるらしいのだが……。

 うん、いいよね?ちょっとくらい、寄り道しても、いいよね?


「すみませんが、入場税はおいくらでしょうか。初めてなもので」

「1人頭、銀貨10枚になります。冒険者や商人の方であれば、身分証を提出頂ければ、半額になります」

「いえ、特にありません。ではこれを」


 真面目そうな女性の門番に銀貨20枚を渡し、通してもらうことにする。

 通るだけで銀貨10枚というのは高いような気がするのだが、俺からすれば大した額でもない。

 ネリーが何か言いたそうだが気にしない。俺の冒険者ギルド用のステータスボードは、失効されちゃってるっぽいし。

 あ、でもアレだな。このまま通ると後でこの人が怒られたりするかもしれんな。


「あ、これを渡しておきます。後で開けてもらっていいですか?」

「見たところ……お手紙、ですか?」

「はい。私の知人から送られてきたのですが、門番の方にお渡ししておくようにと。知人へ到着を知らせるものだとか」


 俺が封筒を差し出すと、特に不審そうな様子も無く受け取ってくれる門番さん。

 ちょっとアレだ、取ってつけたような感じになっちゃったから、少しは気にするかと思ったんだが、納得してくれたようだ。


「なるほど。それでは後ほど確認しておきます。あなた方はどちらにいらっしゃるので?」

「知人に連絡が付けば、明日までにはこちらから出向くとお伝え願いますか?」

「分かりました。言伝としておきましょう」


 その場で一筆を書いて、同僚に手渡したところを見て満足。

 封筒に入れて分からなくしてあるけど、その中身は預かった親書である。

 もう一通は手元にあるし、確かに門番さんに渡したし、この人も職務を果たした。これでよし。


「悪戯も程々にされてはいかがですか?」

「何言ってんだ。俺はちゃんと手順を踏んだじゃないか。後回しにしてくれるようにはしたけど」


 小声でそんなことを話しつつ、帝都アルバニアに足を踏み入れた俺の視界に映るのは――。


 舗装された路面に広がる大通り。

 多種多様な人類種が行き来し、馬車や荷台がまとめて行き交う、活気溢れる街並み。

 そこかしこに立ち並ぶ店の数々。その建屋も平屋だけでなく、二階建て、三階建ても珍しくない。

 そして街中のどこから見ても見えるような高さの、いかにもな西洋風の城!


 うーん、グレイトッ!

 これぞファンタジー!異文化の香り!

 来た、来たぞ!俺が求める、未知なる光景が!


「これは、なかなか……壮観ですね」

「言っちゃ悪いけど、フィナールの町とは比べ物にならんなぁ」


 フィナールの町を初めて訪れた時はそれほどでもなかったが、流石帝都、スケールが違う。

 ネリーもちょっとわくわくしてきた?俺はもうしてる。

 これなら王都にも期待出来そうだ。通貨が同じなのかちょっと心配だったけど、問題ないみたいだし。


「さて、時間も限られてるし、色々冷やかしに行くかー!」


 そう気合を入れたのだが、残念無念、そうは問屋が卸さなかったようだ。


「お待ちくだされぇぇぇぇぇぇっ!」


 思ったよりも、門番さんのお仕事が早かったようで。

 親書をこっそり渡したのがバレたらしい。門の詰め所らしき場所から、大声を上げておっさんがこちらに向かって来た。

 どうやらネリーはあのおっさんのことを知っているらしい。


「確か、ノリス殿でしたか。帝王からの迎えが来てしまったようですね」

「ここで無視するのは流石に無いか。しゃーない、観光は後回しだな」


 上がったテンションが微妙に下がるのを感じつつ、青い顔をして追っかけてきたおっさんを待つのであった。



 このおっさん、ノリスというアルバリシア帝国の武官の一人らしい。

 千人隊長っていう肩書きが偉いのかどうかは分からんが、ネリーとは知己であるそうな。

 二人連れが手紙を残して門を通ったと聞き、詰め所に待機していたノリスが確認したところ、その中身が親書であったことにたまげたらしい。

 それで慌てて探しに向かおうとしたところ、ネリーを見つけた、と。

 俺もかなり目立つが、ネリーはそれ以上に目立つからな。背丈的な意味で。

 モデルか何か?ってくらいスタイルが良く、170cmを超える身長の猫人族女性は、相当いい意味で目立つ。

 あまり他の獣人族は見たことがないけど、猫人族の女性はやや小柄で、150cmあれば珍しいと言われているらしい。

 本人は自分の身長が高すぎることを少し気にしているようだけど、羨ましい人も多いんじゃないかな?

 俺とちょっと凹むくらい身長差が出来てしまったことは気にならないでもないけど、カッコいいタイプの女性ってのも、イイと思う。


「本来であればもっと上の者が出迎えるところなのですが、その、些か恐縮してしまいまして。私めに役目が回ってきてしまいました。本来であれば、フラン殿下の母君であられるセレス様もお出迎えに上がる予定だったのですが……」

「フラン姫の母君ですか。私も少々、母君には申し上げたいことがあったのですが……」


 服装の趣味は絶対母親のせいだと思う。

 あと9歳の子供への教育も絶対間違ってるし。


「その、何時でも構わないということはお伝えしておりましたが、如何せん先触れが来たのがつい先ほどのことでして……」

「私たちの移動方法は少々特殊ですからね。一応、先触れを追い越さないように調整したつもりだったのですが、バタバタさせてしまったようで、申し訳ない」


 この先触れの使者は、厳密には俺が出したものではない。

 帝国から親書を渡しに来た使者に了解の返事を持たせて、そのまま帰したという方が正しい。

 一応「今日か明日」という日程で返答の手紙に書いておいたのだが、よく考えれば使者には「行く」としか返事をしなかったような気がする。

 手紙の中身を使者が覗くなんて真似はしないだろうし、十分な猶予は無かったかもしれんなぁ。


「ゼン殿が我らで推し量れるような人物でないことは、重々承知しておりますので……」


 どれだけ人外めいた評価をされているのか、気にならないでもないが、気にしてもしょうがない。

 それにしても、微妙に間が持たんなあ。

 豪勢な幌付き馬車に乗せられて、隣にネリーが座り、目の前にノリスがいるわけだが。


「城にはあとどれほどで到着するので?」

「急がせてはおりますが、あと3時間はかかるかと。帝国の賓客用の馬車ゆえに、優先して進めはするのですが……」


 うーん、3時間か……。

 乗り心地は悪くないんだけど、外が見えないんじゃ風景も楽しめないし。ヴリ羊の感触を楽しむのも飽きたし。

 ノリスもなんか怖がってるんだよなあ。居心地悪そうだ。ネリーは平常運転って感じだけど。


「少々作業していてもよろしいですか?手持ち無沙汰でして」

「私のことならばお構いなく……というより、何をされるのですか?」

「手慰み程度のことです。ネリー、何か編むか?」

「そうですね。この程度の揺れならば問題ありませんし、久しぶりに何か編みましょう」


 取り出したるは毛玉と編み棒。ちなみにこの毛玉、何気にヴリ羊のものだったりする。

 試してみたのだが、この羊のヴリテクト、毛を剃っても次から次へと生えてくる。【活身者】の効果なのだろうが、何とも便利な生き物であることだ。

 特に嫌がる素振りも見せないので、少しばかり拝借して、毛糸にしておいた。

 神獣の毛というのは何気にとんでもない素材な気はするが、身内で使う分にはいいだろう。


「枕にできるほどはまだ取ってないし、枕カバーにでもしてみるか……」


 ちくちくと編み物を始めた俺達のことを、ノリスが微妙な顔で見つめていたが、そこは完全にスルーすることにした。

 ノリスには悪いけど、ぶっちゃけ迎えには来てくれない方が、早く着いたと思うんだけどなあ。

 観光に時間を取りすぎたかもしんないけど。



◆◆



「ゼン、よく来たのだ!ネリー殿、ゼンには世話になったのだ!歓迎するぞ!」

「よう来られた。娘のこと、感謝するのじゃ。フランの母、セレス=アルバリシアである」


 城で俺達を迎えてくれたのは、フランとその母、セレスだった。

 こうして母子で並んでいると分かるのだが、明らかに親子だと納得出来る。

 非常に蠱惑的なセレスの肉体は、とても子持ちの母とは思えないもので、服装も、まあ、その、アレだ。

 フランの年齢を考えると、それなりの歳ではないかと思えるが、それでも30を過ぎているようには見えない。俺的には典型的な「いい女」と断言する。

 何というか、小一時間問い詰める気概で来たのだが、それよりも色々抑えるのに必死になる。

 だからネリーさん、背中を抉るのはやめてください。マジで痛いんですよ。


「ゼン・カノーと申します。この度はお招き頂き、光栄に存じます。こちらはネリー。私の従者でございます」

「ネリー=チシャでございます」


 ネリーがチシャという家名を持っていたことは知っていたが、俺の記憶ではそれを名乗ったことは無い。

 この場で「ネリー=チシャ」と名乗ったことに驚きはない。俺が彼女のステータスボードを作る際には既に家名が付いていた。

 彼女なりに思うところがあったのかどうかは知らない。俺としてはチシャ家を名乗ろうが名乗るまいが、ネリーには違いないからな。

 それを聞いたセレスが一つ首を傾げて見せたが、深く追求してくることはなかった。


「我が夫も、謁見の前に話がしたいそうじゃ。じゃが、旅の疲れもあろう、今宵は休まれてはどうじゃ?」


 少し考えたが、今後のスケジュールを考えると、今日のうちに話をしておいた方がいいだろう。

 首を振ってこう答える。


「明日の夕方にはここを発たねばなりません。今日出来ることは今日済ませてしまいましょう」

「むう、そうなのか……ゼンがそう言うのであれば仕方ないのだ。母上、妾は姉上を呼んで来るのだ」


 そう言ってパタパタと駆け出すフラン。

 姉上と言えば、今の帝国継承権一位、マリス=アルバリシアのことか。

 ヴィーとの約束もあるし、済ませられる予定は済ませちゃったほうがいいな。

 その姿を見送っていると、突然首筋にかけられた吐息に、ドキリとする。


「のう、ゼン殿」

「……何か?」


 身体を屈め、部位を強調するように俺と視線を合わせるソニア。

 きっついなこれ。反応するような身体でもないのが幸いと言うべきか。微妙に情けないと言うべきか。

 逆側にいるネリーさんの横腹に来るパンチが超痛いのも理由の一つだけども。頼むから拳で抉るのはやめてくれ、ダメージ入ってるから。普通に今治癒魔術使ってるから。


 しばらく視線を交わし――ソニアの眉が僅かに歪んだ。


「……ぬう」

「えっと、何か?」

「いや、フランのカラダはどうじゃった、と聞こうと思ったのじゃがのう……」

「ロクでもない母親だなおい」


 思わず本音が口に出てしまったのだが、ソニアは気にならないようだ。

 何やら嘆息しているが……。


「流石にその身体では、無いか」

「当たり前だ!10歳と9歳で何が起きるってんだよ!ってかアンタどんな教育娘にしてんだよ、こっちゃ大変だったんだぞ!」

「何も思わなかった、とは言わせんぞ?」

「そりゃまあ、って何言わせんだ。てかネリーさんそろそろ勘弁してください」


 痛いじゃ済まなくなってきたネリーのパンチに耐えるのがそろそろ限界だ。

 内臓に響くパンチ。ナイスレバーブロー。じゃなくて、また内部ダメージを抱えたら損傷中が悪化するかもしれないじゃないか。

 理解があるように見えて、そうでもないんだよな、ネリーってば。


「私は理解しておりますよ?ええ、私は分かってます、ゼン様のご趣味(ロリコン)のことは」

「心外だ!てかアレはもうそういう趣味じゃなくても!」

「ゼン様……自らお認めになっているような気がいたしますが」


 自爆したらしい。

 ネリーさん勘弁してくださいよ。

 誘導するのホントやめてください。


「愉快な主従じゃのう」

「元はといえばアンタが悪いような気がするんだけどな」

「ゼン様、他人のせいにしてはいけません」


 俺の味方がいないのは、いつものことらしい。

 そんな複雑な空気になったところで、フランが戻ってきた。

 ここでキョトンとした顔で「どうしたのだ?」とか言っちゃうフランって、リリーナと同じレベルで天然なんだよなぁ……フランかわいいよフラン。



 通された応接間のような場所で、帝王ヴィー・レス=アルバリシアが待っていた。

 その隣には、どこかおっとりとした、高校生くらいの女の子。恐らく、マリス=アルバリシアだろう。

 覚えがないのは、凛とした雰囲気のある人間族の女性。はて、これはどちら様なのかな?

 【完全解析】を使えば分かることなんだが、フェアリー族のパリィに看破されちゃったし、正面から使うのは極力避けるように心がけている。使う時は使うけどね。


 セレスに促され、帝王の前に着席する。ネリーも促されたのだが、着席することはなく、俺の後方に立つ。

 別に座ってもいいのだが……と視線を送っても無駄なようだ。ネリーなら仕方ないか。

 セレスとフランも着席したところで、ヴィーが口を開いた。


「俺がヴィーだ。こっちは妻のソニアと娘のマリス。まずは、世話になったな、ゼン・カノー」

「ゼンとお呼びください。先の戦で御息女をお守りすることは適いませんでしたが、最低限の責務が果たせたことに安堵しております」

「おめえに頼んだワケじゃねえからな。シャレット代官も関係ねぇ。しでかしたのはウチの馬鹿だからな」


 俺とバルドに直接の面識はない。ちょっと視線を合わせたことがある程度だ。

 ギースから異様に嫌われていたことだけは聞いている。


「バルド殿下におきましては、残念、としか……」

「愚息がご迷惑をおかけしたことを謝らねばならぬのは、こちらでしょう。フランのこと、ゼン殿には感謝してもしきりませんよ」


 フランの母はセレスだと聞いた。

 であれば、ソニアはバルドの母だったのだろうか?流石にそれを聞くのは憚られる。


「アレの墓には、家名も残してないがな」


 俺としては今更バルドに興味は無い。死人に口なし。


「率直に申し上げますが、バルド殿下につきましては、さしたる関心もございません。これからの話をするほうが建設的でございましょう」


 気を悪くするだろうか?とも思ったが、フランが少し視線を落としたくらいで、特に反応はない。

 ヴィーはむしろ機嫌をよくしたようで、ニヤリと笑う。


「過ぎちまったもんはしょうがねえよな。それにしても、ナリにしろ態度にしろ、聞いてた話とはちっと違う気がするが、猫被る必要はねぇぜ?」

「一国の王に対する礼、というものがございましょう」

「ここにいるのは帝王ヴィー・レス=アルバリシアじゃねえよ。ただのヴィーだ、気にすんな」


 ふむ。

 あまり堅苦しいことは嫌いなタイプらしい。

 【思考対話】ごしに少し話したことはあるし、フランからもそう聞いちゃいるが。


「その口調は、あまりゼンには似合わんのだ。らしくないのだ」

「らしい、らしくないの問題ではないような……」

「構いませんよ。こう言ってはなんですが、幼子のようなゼン殿から、そのような口ぶりの方が違和感を感じますね」

「そうじゃのう。似合うておらぬと断ずるわけではないが、無理する必要はなかろうて」


 何ともまあ、寛容なことで。

 あんまり遠慮するのも、良くないかな。


「じゃあ、失礼しますよ。まずは、会いに来るのが遅くなったことは申し訳ない。俺もそれなりにギリギリだったんでね」

「そこらはフランからも聞いてるからな。本当ならこっちから行かなきゃならねえくれぇだ」

「それから、先の<厄災級>の際には、色々行き違いがあったんだと思ってる。俺に帝国をどうこうしようって気は毛頭ない。こっちとしても、色々助かってるからね」

「流民のことか?」

「そう。返せと言われても困るけど」

「こっちも余裕があるわけじゃねぇからな。自由民がどこ行こうが知ったこっちゃねえし、うちでも抱えきれねぇ連中だったってこった。うちの部下にも文句は言わせねぇよ」


 そこのところは問題なし、と。

 んじゃ、次のステップだ。


「ヴィー殿は聞いてると思うけど、フィナール領とナジュール領に自治権が欲しい。当然カルローゼ王国に交渉するわけだけど、アルバリシア帝国もそれを認めて欲しい」

「それが今回の褒美ってことか?こっちにゃ直接関係ねぇことだし、今回のことがなくても認めない理由はねぇんだが。ゼンが領主になって独立すんのか?その後ろ盾が欲しいのか?」

「いや、本来はフィナール領だけでも良かったんだけど、俺が領地が持ちたいわけじゃない。あくまで王国領であることには変わらないし、フィナール伯とナジュール候にそのまま治めてもらう予定。これからの王国との交渉次第だけど」

「ゼン殿に利があるように思いませんが……」


 ソニアの疑問はもっともだろう。

 損得勘定で言えば、この時点では俺は何も得をしないし、ギースもナジュール候も取り立ててメリットはない。

 実際にはあるのだが、それを馬鹿正直に言う必要は無い。

 俺が本当に欲しいものはただ一つ。それをスムーズに行えるように手段を用意しているだけのことだ。


 帝王ヴィーにはもう一つお願いしたいことがある。

 国家というものは、他国が認めなければ成立しない。

 だからこそ、アルバリシア帝国という強国に、認めてもらう必要がある。


「いずれ時が来れば、俺は立つ。だけど、他国相手に戦争なんてしないし、独立する気もない。フィナール領やナジュール領を自分のものにするつもりもない」


 真意を図りかねたのか、ヴィーの表情が歪む。

 だがすぐにその歪みは笑みに変わった。俺の言っている意味が分かったのだろう。そういうことだ。


「どういう……いや……壁を越える、か?」

「そのつもり。今のところ、俺以外に行ける人はいないだろうけど、先があることは確認済だ。まだやるべきことがあるから、あと10年は先のことになるだろうけど」


 ヴィーの口元は笑ってはいるが、細めた目は笑っていない。

 恐らく理解したであろう、俺の目的。

 手段を目的と勘違いはしているだろうが、そこは訂正しなくてもいいことだ。


 世界の滅亡を避けるために、俺が考えた手段はいくつかある。

 原因が不明なままなので、合っているかどうかは分からない。それでも、推測出来ることはある。

 考えた手段は大別して、3つ。目的は、2つ。


 1つは生産力の向上。

 これは方針として合っているはずだ。母さんが代官になり、率先して「すぐ使える」程度の知識は広めてきた。

 それでいい方向に進んでいるというのだから、間違った手段は取っていないことが確定したと考える。

 産業革命のようなところまで進めるのは拙速だろうが、食糧事情の向上なくして、人口増加は有り得ない。


 1つは文明力の向上。

 生産力と重なるところがあるが、この世界は総じて非効率的だ。魔法も科学も中途半端、それが俺の出した結論。

 スキルなんてものがある世界ゆえに、個の力が強く、「平均化」が行われていないのだ。

 皆が皆、平等ではないことは知っている。それでも人は、生きていくために知るべきことは、もっと多い。


 最後は生存圏の拡大。

 今を生きる人類種がどれだけ知っているかは分からないが、迷いの森を境界にした大陸の東部は、狭い。

 人は知らないのだ。この大陸がどれだけ広いのか。生きるべき場所がもっとあることを。

 だからこそ俺は境界を越える。その地を人が住めるようにする。そのために必要なもの、それが「数」だ。


 大陸西部を見て分かったことがある。

 人が生きるにはあまりにも過酷――だが、生きられないかと言えば、否だ。

 時間はかかる。手間もかかる。

 だが最初のとっかかりさえあれば、人が住めるようにすることは、可能だ。

 俺には前世の、【天上書庫】の知識がある。【五穀豊穣】や【万物造成】、【鉱石変質】だってある。

 大陸もろとも創り変える……なんてことはしなくてもいい。生きられる環境を整え、その先に進めるだけの土台を用意出来れば十分だ。


 人がいないところに人は産まれない。当たり前だ、人は魔物とは違う。

 俺一人で西側を駆逐する。不可能なことではないと思うが、それだけでは駄目なのだ。

 人は希望なくして生きられない。向上心をなくせば、停滞を生む。

 だから俺が用意をするのだ。大陸西部という開拓地を。そのための力を。そのための集まりを。

 全部やり切るのは俺一代では不可能だろう。だが、楔は作る。何としてでも作ってみせる。


 全ては未来のために。決められた定めを砕くための矢を作り出す。【世界之理】を覆すために、俺の理を貫き通す。


 未来とは誰かによって作られるものではない。それが俺の理。

 どこかの神になんて、決めさせてやるものか。なあ、アズ。


「不遜は承知。だけど、これは俺の使命みたいなものだと思ってる。まだ具体的なプランはないし、唯我独尊を極めるつもりもないけどね」


 ふと思い出す。俺の超越能力(オーバースキル)にある、その単語のことを。

 【完全解析】で内容を確認したが、よく分からなかった。

 きっと、多分、強力なスキルなんだろうが……この意味を知るのは、もっと後になってからなんだろうな。まず超越能力の意味が分からんし。



【唯我独尊】

全ての理は自身にある



 分かったことはこれだけだ。

 天上天下唯我独尊。本来の【唯我独尊】の意味を取り違えてる気がしなくもない。

 俺はお釈迦様じゃないんだけど。



◆◆



「ハハッ!いいぜ、オメーみたいな野心家は見たことねぇ、嫌いじゃねえ。シャレット代官の言う通り、テメーの欲は底なしだ!それをやる力もある、気に入ったぜ!」


 帝王ヴィーからは大層気に入られてしまったようだ。嫌われるよりは余程いいが、どこに琴線が触れたのやら。

 普通、欲が底なしとか言われると、好評価ではないと思うんだけど。

 その場に居た、アルバリシア帝一族の評価も高かったように思える。帝国人のお国柄、なんだろうか?


 時は既に翌日、ネリーを連れた俺は、謁見の間の控えにいる。

 あれから具体的な話はしていない。ただいくつか決まったことがある。


 一つは長女マリス=アルバリシアのことだ。

 彼女は一時フィナール領預かりということになる。これは前に約束したことであり、帝位第一席として相応しい能力を俺の元で身に付けるように、ということらしい。

 少し話をしてみた感じでは、ややおっとりとしたところはあるが、人格としてはなかなか見るべきところがあるように思える。自分から提案したことではあるのだが、本当に教育が必要なのかと思えるくらいだ。

 ところが、フランが「ゼンから学ぶべきことはたくさんあるのだ!」とか言っちゃったので、約束通り俺が教育係になることが決まってしまった。

 半年という期間で、どんなことを教えるかは未定。何とも行き当たりばったりな話だが、帝王ヴィー曰く、「ゼンと誼を通じること」に意味があるそうな。


 ついでに、というわけでもないだろうが、次男ローレンス=アルバリシアもこれに加わる。

 彼には教育というより、訓練を付けて欲しいというのがヴィーの要望だった。何でも、アルバリシア家の男として、強さが足りないとか。

 強さといっても色々あるし、王族自ら戦場に立つことはあっても、自分が戦うのはダメだろうと思ったりしたのだが、個の強さが最重視されるこの世界では仕方の無いことなのかもしれない。

 まだ直接会っていないのだが、マリスからすると、「大人しい子」ということらしい。

 ちなみに長女マリスは18歳、次男ローレンスは16歳。どちらも学園を卒業しており、年齢的には既に成人と見なされている。

 そんな二人が俺みたいな子供の言うことを聞いてくれるのだろうか。とは思うものの、マリスがそれなりに乗り気であったし、ヴィーからも「いつでも付き返してくれていい」と言われてしまっては、やるだけやってみるしかあるまい。


 もう一つ。俺の功績に対する褒賞についてだ。

 カルローゼ王国からは爵位を、という話はヴィーも既に知っており、アルバリシア帝国からも似たようなものが与えられるらしい。

 俺の手段を察したヴィーからすると、王国からだけ、というのは都合が悪い。

 実際にどうするかまでは決めていないが、カルローゼ王国公爵という肩書きを持った場合、帝国から何もなしとなると、「繋ぎ」が難しくなるという。

 なのでこれを機会に、名誉職のようなものを与えておいて、王国・帝国ともに繋ぎを持っておくべし、というのがヴィーの結論であり、カルローゼ国王ソルも内密に認めていることだとか。

 じゃあ実際、どんな肩書きが与えられるのかというと、ヴィーは不敵に笑い、「楽しみにしてろ」とか言ってた。


 うん、嫌な予感しかしない。


 それから、フィナール領およびナジュール領に対し、自治権が認められた際には、アルバリシア帝国側も大幅な関税緩和を行うことになるだろうとのことだ。

 アルバリシア帝国からすると、カルローゼ王国として隣接しているのはこの二つの領地であり、直接の取引相手はその二領だけでも十分である。

 そこら辺は敢えてナジュール領も取り込んだ俺の思惑が当たりそうな気配だが、上手く行くかどうかは王国と話してからだな。


「なんかワケがわからんうちに、肩書きだけ偉くなりそうなんだが……ネリーはどう思う?」

「シャレット様が代官になられた時は大層驚きましたが、今となりましては、他者がゼン様をどの程度評価しているのか、という目安に過ぎませんね。あまり意味はないことでしょうが、ご威光を高めるには都合がよろしいのでは?」


 名誉に意味はないけど、もらえるならもらっておけ、ということらしい。

 ネリーの言葉にも一理ある。肩書きというのは箔を付けるには都合がいい。

 中身がどうあろうと、権威を持つ意味は大きい。その辺りはこの世界でも変わりがないようだ。


 そのまま待つこと数十分、役人らしき人物が出番を告げに来た。

 こちらの作法は良く知らないのだが、帝国民でもなければ王国民でもない俺は、そこまで畏まる必要もないとのこと。

 是非に、ということもあり、ネリーを伴っての入場となった。



「此度の件、ゼン・カノーに感謝しよう。ネリー=チシャも先の戦は見事だった。俺は直接見てないが、大したもんだって聞いたぜ」


 玉座に足を組み、どこかの聖帝様を思い出すポーズを取りながら語る帝王。

 どこかの漫画で見たような光景だが、よく似合う。

 俺の両脇を固めるように、武官文官が並ぶ様は、なかなか壮観である。

 不思議と侮るような視線は感じない。普通、俺みたいな子供がこんな場所に立つことはないと思うんだが。


「では、褒賞を申し渡す!自由民ゼン・カノー、前へ!」


 ソニアの凛とした声に呼応し、一歩二歩と踏み出す。

 一応段取りとしては、彼女から感状を受け取る、ということになっているのだが、何が書かれているものやら。


「貴公を、帝国第一席マリス=アルバリシア、及び帝国第三席ローレンス=アルバリシアの教育係に任ずる!」


 そこまではいい。てかそれは褒賞になってないだろ、仕事が増えるだけだ。


「この任を持ち、先の功績と合わせ、貴公をアルバリシア帝国において、「征西帝」と認めるものとする!返答や如何に!」


 ……えっと。

 イマイチ、価値が分かりません。


 周囲の盛り上がり具合が半端ではない。怒号のような歓声が聞こえる。

 見知った顔だとフランは満面の笑みだし、ノリスは号泣してるし、セレスは……あれは絶対楽しんでる、間違いない。

 ヴィーに目線をやると、貰っとけ、みたいな顔してるし。仕方ない、とりあえず受け取っておこう。


「確かに、賜りました」


 感状を受け取り、内容を確認……うん、とんでもないものを受け取ったらしいね、コレ。

 しかもまだ続きがあるらしく、俺が下がったところで、「続けて!」とソニアの声が響き渡る。


「ゼン・カノー征西帝の家臣、Aクラス冒険者ネリー=チシャ、前へ!」


 この展開は聞いてなかった。ネリーと顔を見合わせるが、やはり聞いていなかったようだ。

 てか家臣って。俺家名すら持ってないんですけど。カノーは家名じゃないし。

 まあ悪いことにはならんだろうと、ネリーを促す。


「先の戦ぶり見事なり!その武勲誉れ高きものとして、貴公をアルバリシア帝国において、「征西将」と認めるものとする!返答や如何に!」


 えっと、俺の手元にある感状と似たようなもんとして、「将」か……うん、何気にネリーもすごいんじゃない?

 名誉的な意味が強いんだろうけど、貰って損をするようなものでもないだろう。

 困ったように俺の方を見てきたので、頷いておく。


「では、頂きます」


 割と適当な返事をしつつ感状を受け取ってたが、問題は無いらしい。

 受け取ったネリーが、そのまま俺のところまで下がると、まだ続きがあるようで。

 ヴィーがニタリと笑っている。フランとセレスも笑っている。

 もうおなかいっぱいです、はい。


「帝王ヴィーの名において、征西帝ゼン・カノーは俺の盟友として認める!その証として、帝国第二席、フラン・ニス=アルバリシアとの婚儀を約束しよう!」


 ここで一番の盛り上がりを見せる周囲。

 うーわー、俺の意思がこれっぽっちも入ってねぇし。

 や、前者は有り難いけど、後者は前もって俺に伝えとけよ。

 フランが超嬉しそうだけど、このタイミングで婚約発表とかされると、王国で物凄くやり辛いんだが。

 これじゃネリーも大層不機嫌に……ってあれ、そうでもないな。むしろ当然、みたいな顔してる。ちょっとドヤ顔気味である。珍しい。

 後から聞いてみたら、納得出来るような、出来ないような。そんな理由だった。そういう捉え方するんだな……。


「征西帝ゼン・カノー、征西将ネリー=チシャの活躍に期待する。皆、称えよ!」


 ソニアの締めを待つことなく、「征西帝」コールや「征西将」コールが続いてる。ノリいいなお前ら!

 まあ、なんだ。うん。


 アルバリシア帝国内限定だけど、俺、帝王らしいよ?


 や、限定ってのはちょっとおかしいかな。少なくとも帝国は、俺を「そういう」存在であると見るとでも言うべきか。

 いやコレ本当にどうしようか。俺に損はないけど、アルバリシア帝国としては、どうなの?

 あ、でも、そう都合が悪いことでもなかったりする、のか?豪快にハメられたのは、俺の方だったりしないかな、コレ。それでも俺にとって、都合が悪いことにはならんと思うけど。



◆◆



「ここが俺の執務室。フィナール領イストランド郡、イストカレッジの村役場……そろそろ村って言うには規模がデカい気がしてならんけど、付けた名前がアレだからなぁ」

「えっ、えっ、えっ?」

「ななななな、な、なんなんですこれ!?」


 ネリーに加えて、マリス、ローレンスことローレを連れて、さっくり転移。

 このまま連れてけと言ったのはヴィーだから問題あるまい。二人とも超テンパってるけど。

 しっかしローレは色白でショタ受けしそうだなぁ。今の俺が言うのもアレだが。


 この二人、まだ少し話した程度だが、帝王ヴィーが帝位に相応しくないと思ってる理由が分からんでもない。

 あの帝国人連中を見た感じ、その帝位に就くとなると、ちょっと頼りないかもしれない。性格とか、そういう類の意味で。

 二人とも教養はあるんだが、特にローレには足りないものが多いように思う。

 見た目で損してる部分はある、それは俺も同じだから良く分かるけど、それだけでヴィーも席次を第二席に繰上げしなかったわけではないだろう。他にもそれなりに理由がある。

 マリスに教えられることはそんなにあるとは思えないが、ローレを鍛えることはそんなに難しくないな。ローレについてはハードな路線で行こう。


「俺これから王都に行かなきゃいけないし、君たち連れてわざわざ歩いて帰ってる暇はないからね。動揺するのは分かるけど、しばらくここに滞在しといて」

「ゼン様、すぐに発たれますか?」

「その前に、一応母さんには報告しとこうか。代官室かな?」


 絶賛混乱中の二人をネリーが抱えるようにして移動。

 母さんの執務室の前で適当にノックして、さっさと入る。


「母さん、入るよ」

「あら、ゼン。いつ帰ってきたの?」


 何やら書類を見つめながら紅茶を片手にくつろぎモード。

 これでも仕事してる部類だけどね、母さんの場合。

 一日で帝都から戻ってきたことについて、今更驚きもしない。こういうことも出来るとは伝えてあるし。


「ついさっき。こちら、マリス=アルバリシア姫と、ローレンス=アルバリシア王子。で、なんか、アルバリシア帝王から、爵位みたいなもん貰ってきた」

「アルバリシア帝国の爵位?あそこ、貴族制だったかしら?」

「いや、「征西帝」っていう、爵位というか……官位みたいなもん?あと、フランとの婚約が正式発表になった」


 それを聞いた母さんがカップを取り落とした。そんなに驚くことだろうか?

 あ、母さんはまだ、俺がカルローゼ王国から名誉公爵とかいうふざけた叙爵の内定がされてるのって、知らないんだっけ。

 それを先に聞いてたから、俺もそんなに取り乱したりしなかったってのはあるけど。


「私でも、とんでもないことって、分かるのだけど。あ、フランのことはいいわ。分かってたし」

「まぁ、そうだろうね。今のところ、そんなに意味は無いんだけど」

「私も「征西将」というものを頂きました。やはり意味は無いように思えますが、あの帝王はなかなか分かってますね」


 征西帝と征西将。


 征西帝とは、アルバリシア帝が認める帝王であり、この位を持つ者は自分と同位であること。

 その者が切り取った領地は、アルバリシア帝国が同位の国家であると認める。


 征西将とは、征西帝の直臣であり、征西帝を持つ者以外の命に従う必要はない、将としての最高格の位。

 アルバリシア帝国の軍事権を持つわけではないが、帝国内では一人の将軍として認める。


 感状の内容と、後で聞いたその意味を合わせると、こういうことものであるらしい。

 アレだな。古代中国の「王」とか「公」とか、そういった類のものと考えればいいだろう。帝と同格ってのは、聞いたこと無いけど。

 征西将も似たようなもんだけど、これは名誉的な意味合いの方が強いだろう。

 ネリーが上機嫌なのは、「俺の直臣」であることを認められたことと、自分が何かしらの名誉を与えられたことに対する、単純な喜びであるようだ。

 さほど名誉に執着はないにせよ、誰かに認められるってのは、割と嬉しいもんだよな。


 ちなみに「征西」という部分が、言外に名誉職であることを指している。

 捉え方にもよるだろうが帝国の西部は迷いの森なわけで、そこに切り取るべき他国領地などありはしない。そこが世界の壁なのだから。

 ヴィーは名誉職として与えたつもりはないだろう。その辺微妙に上手いことハメられた気がしなくもない。フランのことも含めて。

 悪い気はしないけどね。


「じゃあ、この二人のことはよろしく。明々後日には帰ってくるから、それまで面倒見てて」

「……カルローゼ王国からも、とんでもないものを貰ってくるんでしょうね。後で説明してよね?」


 流石母さん、立ち直りも早い。

 色々な事情を二人に話すのは、カルローゼ王国への訪問が済んでからだな。


「それじゃ、行ってきます」

「シャレット様、よろしくお願いします」


 ネリーがマリスとローレを押し付けるように、母さんに引き渡す。

 さっさと出発しますかね。王都はちょっと遠いし、今日中の到着は厳しいかもしれん。

 ま、明後日に辿り着ければいいし。気楽に行こう。

 俺も色々諦めた。然るべき時に流されるよりは、それを捉えて自分がどうするかだ。同じ轍は踏まん。


「えっ?ええー!?」

「えっと、えっと、えっと……」

「気を……つける相手がいないわね。無理しないようにね?さて、何を話せばいいものかしら……」


 未だテンパっている二人をどうしたものかと悩む母さんの言葉を受け、俺達は王都に向けて出発するのであった。

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