ゼンの異変と大陸西部
あらすじ:神獣を倒したぞ!幼年期完!
なおまだ続く模様。
※未だルビ無しスキルがあるのは仕様。
【思考対話】を終えたネリーは、一人、喜びの涙を浮かべていた。
ゼンに魔道具を贈られたあの日と同じ。
健在であること。帰還の日が近いこと。
目元を袖で拭うが、涙は溢れて止まらない。
あの日以上の歓喜を感じているネリーの感情が、止め処なく流れ続ける。
ゼンの目的と、その正体を教えてくれたこと。
ゾークやシャレットに対し、先立って知ってしまった罪悪感はある。
だがそれ以上に、自身を信頼し、最初に教える相手として、自分を選んでくれたことが嬉しかった。
世界の滅亡。
この世にいる人類の誰が信じようか。
それは事実なのだろう。だが、ネリーは思う。
ゼンがこの世に生まれた時点で、世界の滅亡など起こりえない、と。
「ふふ……ゼン様でも、分からないことがあるものですね」
泣きながら呟く声は、確信を持ったもの。
それが本当に訪れるものかどうか、確かめる術はない。確かめる必要もない。
その一点に置いて、主はそのことを信じさせる必要がないことを、分かっていない。
ゼン・カノーがそれをさせないのだから、そんなことは起こらない。
乱暴な理屈。だがネリーにとっては、真理。
狂信的とも言えるが、ゼンが産まれてから、ずっと共に在り続けたネリーは知っている。
ゼンの異質さ、異様さ、その異才。
神のような力を持ち。
神のような姿を持ち。
神のような物を作り出し。
神以外持ちようもないスキルを持つと知った。
最後は正しくない。何せよ自分こそ、そのスキルを受けた身であることは、既に知っていたこと、だ。
さほど信仰深くもないネリーからすれば、神たる存在がいようがいまいが関係ない。
自分が見てきたことを思い出し、ゼンの告白を受けた結論はただ一つ。
ゼンは神の使徒などではない。ゼンこそが神なのだと。
そうなると、眷属である自分こそが神の使徒ということになるのだろうか?
そこまで大それたことは流石に考えないが、割と近いところになる気がする。
客観的に考えて、SSクラスの冒険者を大きく上回り、特殊能力や固有能力を持つ、そんな自身のこと。
ありそうで笑えない、そう思って、笑う。
そんなことはどうでもいいのだ。ゼンもまた、そんなことに興味はないことを知っている。
ゼンが辿り着く未来。
それを共に見ることが出来る。その未来を共に創り上げることが出来る。
それだけで、ネリーは喜びに打ち震えた。
「ネリー、どうかしたの?」
いつの間にか部屋に入って来たシャレットが問いかける。
とはいえ、ネリーに何があったのか、大体のところは察している。
元々感情豊かな娘だったが、ゼンが不在になってからは、あまり感情を表に出さなくなった。
それだけ大人になったとも言えるが、それがこの有様だ。【半魔眼】で見るまでもない。
ゼンから魔道具を受け取った、あの時以来の喜びように、ゼン絡みで何かあったに違いないとシャレットは推測する。
「ゼン様が、近く、お戻りになるそうです」
「長かったわねぇ……そろそろ、とは聞いてたけどね。こっちから探しに行こうかと思ってたわ」
「それは代官のお仕事が面倒になっただけですよね?」
ネリーの鋭い切り返しに、シャレットは思わず視線を漂わせる。
実際その通りなのは否定しない。
「確かにゼン様も適当でいいと仰ってましたけど……」
「だって仕方ないじゃない。人が増えすぎて、もうフィナールの町より、イストランド郡に住んでる人の方が多いのよ?いくらでも仕事があって、景気は良さそうだけど、こんなところの代官なんて、私じゃ勤まらないわよ」
本音をぶっちゃけるシャレット。
ギースに請われ、代官を続けてはいるが、もう自分でやりくりするには限界が近い。
便宜上、シャレットの財産とされている金額も、もはや数える気が失せるほど溜まっている。
ゼンの指示で、貯めこむことなく使い続けるようにしているが、それ以上に返ってくる有様である。
「十分、勤まっている気がしますけど」
「勤めさせられてるだけよ」
「シャレット様が名代官でなければ、大半の領主は愚物でしょう」
ネリーの言葉が正しいかどうかはさておき、周囲の評価はそんなものである。
「代官って、こういうものだったかしら……私の知ってる代官って、ほとんど隠居してるだけだった気がするんだけど」
「ゼン様がいらっしゃいますから。それに、本来代官というのは、きちんと自分の領地を治めなければならないのですよ?」
「想像してたのと違いすぎるわ……あのユーリも、忙しくなってくると、本当に優秀だったと、見直したわ」
「どうしてもゼン様と比べてしまいますからね。仕方のないことです」
ゼンの知るところではないが、自由民というのは、難民とも呼べる存在である。
生活は貧しく、国民になるほどの税が納められず、壁に守られた街中に住むことすら出来ない。
カルローゼ王国やアルバリシア帝国が強国であるからこそ、町の外でも治安がある程度守られてはいるものの、小国に住む自由民は危険と隣り合わせである。
自由という聞こえはいいが、法に守られることもない。それが自由民という存在である。
国を亡くし、自由民となった、元フィナール領であるローランド共和国の人々が、発展目覚しいイストランド郡に住居を構えるのは当然の帰結。
それに加え、他国の自由民も、フィナール領やシャレットの名声で、イストランド郡に集まる。
ゼンの手により、生活の基盤といえるインフラ面や、食に飢えることがない豊かな土壌を持つ以上、人口を抱える十分な土台がそこにあるのだ。
本来全てを投げる予定で呼んだユーリは、これまた人手不足の領主、ギース・フィナールの補佐まで行っている。
代官として、流石にこの状況をのんびり見てるだけ、というわけにも行かず、シャレットもそれらしく仕事をするハメになっている、というのが現状である。
元々フィナール領に住んでいた人々はゼンの功績であることを知っているが、他領・他国から流れてきた人々からすれば、この地の繁栄をもたらしたのはシャレットだと思い込んでいる。
どこからどう見ても、シャレットは名代官であり、それが領主であるギース・フィナールの名声を高めるところまで繋がっている。
当のシャレットはげんなりしているし、ギースもまた非常に複雑な気分であるのだが。
「ゼンが帰ってくれば、マシになるかしらねぇ……でも、帰ってきたら今度は学園都市に行くのかしら?ネリーも当然ついていくのよね?」
「すぐに、というわけではないみたいですが。当然私もお傍に付かせていただくつもりです」
「入学したら、また数年はいなくなっちゃうのよね……」
「そこは、ゼン様にも考えがあるそうです。何でも、通学すれば問題ないとか……戻られましたら、いずれご説明があるかと思います」
「通学って……ここから?学園都市シェラハーに?」
カルローゼ王国からは遠国というほどでもないが、イストランド郡から学園都市シェラハーまで、最短でも馬で2日はかかる。
いくら超人じみたゼンとはいえ、自身の足で走って、などという距離ではないのは確かだ。
ネリーには何となく、ゼンの使う手段が読めているが。
「まずはお戻りになってから、ということで。色々とゼン様からお話することになりそうですし」
「色々、ね」
「はい、色々、です」
ネリーの言わんとすることを何となく察したシャレットは、一度目を瞑り、静かに天井を見上げるのであった。
◆◆◆
今回は前回より酷いな……あ、フラン、次持ってきて。
アレだ、こんなに食べたいと思ったのは久しぶりだ。初めて【一騎当千】を使った時とは比較にならないくらい食欲がある。
足りない。全ッ然足りない。
「リリーナが悲鳴を上げておるのだ。作ってる側が追いつかないのだ!」
と言われても、栄養が足りないのだから仕方ないではないか。
俺だってじっくり味わって食ってるぞ?美味いし。
でも足りないから仕方ない。食べる速度が変わらないだけだ。
自分で作ろうとしたら、今の俺じゃ、料理をする前に食材ごと食いそうな気がする。
「昨晩までのゼンとは大違いじゃてのう、どこに入っておるのかぇ?」
それは俺も疑問だけど、産まれた時からこうだったし、気にしてもしょうがない。
燃費が悪すぎる気がしてならんのだけど、今はとにかく栄養が必要なのだ。これは立派な医療行為である。
「医術の心得を持つ者が、三日前からおんしゃを見ておれば、医療行為としては大失格じゃ」
うん、そうかもね。
普通重体患者が三日後突然起きて、ひたすら飯を食うなんてしないよね。
でもそういう身体なんだから仕方ないじゃないか。
「おまたせ!っていうか、あと何人前作ればいいの?バランス良く作るのは、そろそろ限界なんだけど」
ありったけ食うに決まっているじゃないか。
どうせこの里はほとんど空っぽになるし、食料の備蓄は必要ないからな。
俺の[空間箱]にも、リリーナが作った野菜や、フランが狩って来た獣肉がある。
さあ、俺に飯を寄こしたまえ。あと20人分くらいは余裕でイケると思うぞ。
あ、たんぱく質多めでヨロシク。ちゃんと栄養素について教えたよね?
「お肉、どのくらい残ってるかなぁ……」
「燻製肉はそげん残っておら……ゼンよ、無言で生肉を渡されるのは、心に悪いぞえ?どっから出したかぇ?」
どこから?今はそんなこと、どうでもよろしい。
血抜きもバッチリ、熟成具合もいい感じの鹿肉を[空間箱]から取り出して、リリーナに渡す。
この森にいる獣は、どいつもこいつも美味い。いや、乱獲はしてないけど。
野生の獣として、肉が美味いのは欠点になりそうな気がしなくもないのだが、魔物でも肉は強い方が美味かったりするのだから、そういう世界だと割り切っている。
「うーん、単純にステーキでいい?味付けは、塩くらいしかもう残ってないんだけ……あ、このソースを使えってこと?」
うむ、おろし風味の玉ねぎソースだ。
少し鹿肉は癖があるからな。さっぱり気味に仕上げてくれたまえ。
案ずるな、調味料の類はどうしても作っておきたかったから、【五穀豊穣】をフルに使って、大量に仕込んでおいたのだ。
スキルの無駄使い?実験ですよ、実験。
「今更なのだが、ゼンの使う調味料は、どれも製法が検討もつかんのだ」
醤油も味噌もないからな。てか調味料っていう概念自体がそんなに発達してないし。
塩や胡椒はあるみたいだけど、今のところあるもので作れるとすれば、マヨネーズくらいなもんか。
あーでも、卵が結構貴重だし、保存する方法もなぁ……。大豆はあるから醤油や味噌は再現出来ると思うけど、細かい作り方は覚えてないし。
俺のはなんちゃって醤油味噌だもんな。
『これが貴殿の平時なのか?そろそろ、我に気付いて欲しいのだが』
もうちょっと待ってろ蛇の方のヴリテクト。
しかし蛇の姿だと、本当にいつの間に、って感じだな。サイズも普通の蛇と変わらんし。まさにスネーク。
今はそれより、健康を取り戻すためにも、今はひたすら飯を食うべし!
頭に乗せてる羊のヴリテクトの【活身者】も、頼りにしてるけどね。
俺の状態異常を治せるのはこいつだけっぽいし。
「とりあえず10枚!フランちゃん、取りに来て!」
「分かったのだ!」
給仕のような真似をさせてすまんな、フラン。もうちょい頼むわ。
ガルムやリュタンも何か言いたそうだけど、気にしないことにする。
『何といいやしょうか……』
『ダンナらしいとは思うけどねェ』
人間の欲は底がないが、食欲というのは生物に必須の欲である。
衣食足りて礼節を知る。
人として必要なものが足りないと、他のことまで気が回りませんよ、ってことだ。あれ?何か違ったっけ?
とにかく今の俺には食が足りないのだ、話はそれからにしてもらおうか。
「ふう……美味かった。ごちそうさまでした」
「よう食うたのぅ。よう食えたのぅ……」
エルが軽く戦慄してる気がする。
うん、引くよね、コレ。
漫画じゃないんだから、って数の食器の皿が積みあがってることに今気付いた。
どんだけ食えるのこの身体。それなりの理由はあると思うけど。
でも肉付きはやっぱり戻らないのな。どこかの難民キャンプにいるような子供よりは、いくらかマシになったんだけどさ。
普通に考えたら、食ってすぐ戻るもんでもないけど、俺の体質とでもいうべきか、消化が異常に早いんだよな。
それでいて筋肉に反映される分が少ない。泣ける。
しっかし、これホントに大丈夫か?自分の身体だけど、腕とか何かの拍子に折れそうなくらい細いんだけど。
『して、身体の調子はどうだ?我が気付いた時より、顔色は随分と良くなったようだが』
「身体の調子ねぇ……感覚は取り戻せた気がするけど、全快とは言えないかな。元々の不調もあるし」
『そうか……貴殿には申し訳ないことをした』
「気にするな。いっぺん死んでみろとか、普通何かの冗談か、挑発にしか聞こえんだろうからな」
かつて魔術神が知らなかったように、同じ神族のヴリテクトも、自身のスキルを把握していなかった。
神族はステータスが見えなくなるっぽいし、そもそも唯一能力はステータスに反映されない。
神界にいた神々も、「何となくそういう力がある」という程度の認識なのだから、ヴリテクトが知らなかったのは不思議な話ではない。
しかも自身の死が前提の「復活スキル」なのだから、それに気付けるのは自分が死んだ時なわけで。
ただでさえ矛盾した存在の神族で、地上神というややこしい立場にいたヴリテクトのことだ。色々と覚悟があったのだろう。
強いていえば、ヴリテクトを神族にした存在が説明しなかったのが悪いとしか言いようがないが……そもそもどうやったら神になるのかなんて知らんしなぁ。
【世界之理】を知っているアズでも、「神様のなり方」なんて知らなかったし。いずれにせよ、過ぎたことはどうでもよろしい。
「というわけで、「西」を見に行きたい。案内してくれるか?」
『今の貴殿を連れていっていいものか、と思うのだが』
「必要なことだ。リリーナ達はここで出発の準備をしててくれ」
流石に反対なのか、リリーナもフランもエルも、ついでにガルムやリュタンまで不満そうだ。
いや、ガルムとリュタンは連れて行こうと思ってるんだが。
言葉では通じないと見たか、フランがどこからか姿見を持ってきた。
「ゼンといえど、その体で森の奥に行くのはならぬのだ!これを見れば分かるのだ!」
妙に姿見の出来がいいのは、エルフ独自の技術なのだろうか?
俺が知ってる鏡と遜色がない、いい出来だ。うむ、これが今の俺の姿か。
……これが今の俺の姿か?
思わず二度見してしまった。なんだこれ。
一応背中側も確認。うん、色々違う。
「いくらなんでも、ちょっと無謀じゃないかな?」
髪が白くなっていたのは分かってた。
けど、今は白というより、銀か?妙に艶のある黒から、輝きを放つ白に変わってる。
腰より下くらいまで伸びていた長さも、少し短くなったようだ。背中の中ごろ辺りに髪留めの位置が変わってる。
「髪飾りが落ちておったからの。わしが拾っておいたぞぇ」
「大事なものだから、それについては感謝するけど……思ってた以上にアレだな」
元々華奢な体つきをしてたんだが、なんか、ワンサイズ縮んだ?そのくらい違う。
あと耳が長くなった。ただでさえ小顔だったのが、更に小さくなって見えるのは、多分そのせい……だけじゃないな、明らかに前より小さい。
腕や足も、筋肉というものをおよそ感じさせない。骨だけ、って感じはしないけど、精巧な人形みたいになってる。
軽くその場で足踏みをしてみる。うん、軽いけど重いわ。ホント筋肉だけ持ってかれた感じ。こう、あれだな。
全体的に、間違いなく、縮んだ。
背が低くなった。
ありえないけど、本当にそうだ。おかしいとは思ってた、リリーナと視線がそんなに変わらない感じがしてたから。
顔の造り自体は変わらないけど、人間的に2~3歳分くらい幼くなった。そんな感じ。
あと、ステータスも酷かった。色々な意味で酷かった。
名前 ゼン・カノー/加納善一/?
年齢 10歳/154歳/?
種族 人類種エルフ族?/クォーターハイエルフ
(半精霊体半人類?/?)
職業 なし(インフィニティ)/?
称号 神滅者
状態 損傷中(超)・擬態中・治癒促進状態(特)
肉体と魂の不適合中・63%
リンク:ラピュータ/眷属:ネリー/契約:ヴリテクト(羊)
Lv:108
生命力:1220/48152
魔力量:13120531/13120531
筋力:21985 <512>
器用さ:23901 <256>
素早さ:20556 <256>
魔力:31021 <1024>
精神力:40383
運:∞
魅力:30131
経験値:?/?
スキル
超越能力:【?】【唯我独尊(NEW!)】
唯一能力:【限界突破】【理外進化】【変化之理】【神化之法(NEW!)】【万夫不倒(NEW!)】
【魔力之祖(NEW!)】【?】【?】
特殊能力:【完全翻訳】【無限成長】【完全解析】【改良模倣】【次元干渉】
【天上書庫】【万物造成】【鉱石変質】【五穀豊穣】【精霊体化】
【大魔鬼化】【思考対話】【不撓不屈(NEW!)】【神威(NEW!)】【飛将軍(NEW!)】
固有能力:【成長促進】【精霊魔法】【召喚魔法】【成長指導】【擬態】【工程短縮】
【健康体】【空間魔法(NEW!)】【鼓舞(NEW!)】【闘気(NEW!)】【契約(NEW!)】
本当に酷い。どうしてこうなった。NEW!って何だよ!
色々やばい。いやマジで、笑えないから。生命力一つ取っても、最大値の3%くらいしかないとは。
スキルで消えたのは【一騎当千】と【魔素吸収】、それから【威圧】か。てっきり【大魔鬼化】は【魔鬼神化】に変わるものかと……いやいや。
そこじゃねーわ、なんなんだコレ、意味わからんぞ!
落ち着け俺。スキルのことは今はどうだっていいんだ。今の問題は、状態とパラメータだ。
理屈は分かる。限界値の大幅な低下の原因は、損傷中(超絶)って部分だろう。
魔力量が遂に8桁に突入してしまったのは知ってた。うん、そこは諦めてるからどうでもいいや。
契約:ヴリテクト(羊)の部分は……何となく分かるけど、俺が契約した覚えはない。
さては勝手にやりやがったな?確か、【契約】ってスキル持ってたし。
俺に不利益なものではないはずだ。そういう類のことが出来るものではなかったと思う。
一方的に利益だけ甘受することが、契約と呼べるのかどうかは、知らん。
今回は損傷中(超絶)の部分を【完全解析】さんが割と詳しく説明してくれた。一応成長してるのなコレ。やればできるこ。
損傷中(超)
一時的に生命力が著しく低下した瀕死状態
個体の特性により、補完のため身体退行中
状態レベル6/8
自然回復による生命力の回復が極めて低下する
使用可能な能力が極めて低下する
この状態は魔力による治癒を受け付けない
瀕死って。割と元気なんですけど?
確かに生命力がこれだけ下がれば、割合的には瀕死と言ってもいいけど、それでもリリーナやフランの並の生命力まで回復してるんですが、それは。
あと身体退行って、生物学的にありえんの?それって。
妙に数字が揃ってる割には、倍数で違うのもおかしいが……スキルのせい、だろうなあ。
色々突っ込みどころが多彩なわけだが、てか超ってなんだ。
治癒促進状態(特)
個体の持つ回復力が増幅した状態
契約:ヴリテクト(羊)による効果
状態レベル5/8
自然回復による生命力の回復が大幅に上昇する
損傷による痛みや制限を緩和する
なるほど、(特)の上が(超)なのか。
……なんかもうあれだな。まともに考えたら負けな気がしてきた。
今の俺の状態と、理屈は合いそうな気はするけど。うん、棚上げだな。そうしよう。いやー人体の神秘ってステキー。
現実逃避?いや、単なる諦観だね。
『我ならばいつでも構わん。守護結界こそ失ったが、我が眷属だけでも森は守れる。我が分体ならば貴殿をいずれ癒すであろう』
「それはまあ、そうなんだが……ってか、羊の方は連れてっていいのか?いや、いないとどうにも困ることになりそうだけど」
『分体もまた我である。だが分体に過ぎん、とも言える。変り種の家畜とでも思うがいい。我の体と異なり、分体はあまり高い知性を持たぬ』
なんとなく、蛇のヴリテクトが知的に感じる。呼び方も「貴殿」になってるし。
羊のヴリテクトは知性がゼロってわけじゃなさそうだけど、ペットみたいな扱いでいい、ってことかな?
『既に分体は貴殿と離れられんのだ。同化してしまっておるからな』
「は?」
え、どういうこと?怪しいところで、契約:ヴリテクト(羊)の部分をクローズアップしてみる。
契約:ヴリテクト(羊)
対象個体:ゼン・カノー
契約により、ヴリテクト(羊)は対象個体が全快するまで、【活身者】の効果により癒やし続ける
この契約により、ヴリテクト(羊)は対象個体から離れることが出来ない
対象個体の意志により、ヴリテクト(羊)は精霊体化することが可能
精霊体化している間は、契約による効果が(大)に低下する
この契約は対象個体が全快した際に更新される
えっと、つまり俺の治療が終わるまで、羊のヴリテクトは俺から離れられない。
んで、精霊体化が可能ってことは、妖精と同じように、他人の目を気にしなくてもいいってことか。
確かに俺に不都合な点はない。ないけど!
「……【契約】ってさ、その内容が果たされた時に更新されるものなのか?」
『うむ。我が知る【契約】であれば、その通りであろう。貴殿に不利益を被ることはないと思うが?』
ヴリテクト(羊)を【完全解析】して効果を確かめ……られない?
ついでにヴリテクト(蛇)もステータスが出てこない。あれ?
【完全解析】さん、ちょっと成長したと思ったらまた不具合ですか?
しまったなぁ、【契約】ってネリーの魔道具に使った[契約]と似たようなもんだと思ってスルーしてたわ。
これはヴリテクトに聞いても分からないだろうなあ。元々神族にはステータスが無いってのが、神の常識みたいだし。
あ、なんか【契約】って俺に追加されてたわ。これだけ一応確認しとこうか。
【契約】
発動能力
所持者と対象を契約により、内容に沿った強化、弱化、眷属化といった、多様な効果を及ぼす
契約可能な数は、所持者のレベルに依存する
定められる内容の範囲は所持者と対象の総合力に依存し、その範囲に及ぶ内容でなければならない
この効果は原則として両者の合意がなければ発動されない
例外的に一方的な譲与による契約時のみ、発動されることがある
契約が果たされた場合のみ、両者に新たな能力付与が行われ、新たな契約を結ぶことが可能
この効果は、契約内容に依存する
これは……どうなんだ?
確かに[契約]と似たような効果であることは間違いない。
明らかに違う点は、契約が果たされた場合、何らかのステータスが増加する、と思われる文面が入っているところだな。
簡単な【契約】ならあまり気にせず使えそうだし、いずれ試してみることにしよう。
「契約内容は割とハッキリしてるみたいだし、いずれ契約が果たされる時が来るってことは分かった。更新については、その時はその時で考えよう」
『うむ?契約内容まで分かるのか。貴殿が持つスキルか?我は【契約】したはいいものの、何を以て果たされるのか曖昧なことが多かったからな。羨ましい限りだ』
そこははっきりさせとこうよ!なんでそんなにファジーなんだよ!
でもそれは俺だから分かることでもあるんだよなぁ。
分かってたことではあるけど、持っている固有能力の効果が、自分では分からないことがある。
例えば【武士】や【闘気】なんかは、過去にも所持者がそれなりにいて、どういう効果なのかも伝わっている。
内容は伝わっているけど、有用性が伝わっていないのが、【念話】とかそういった類だろう。
【魔眼】が重宝されてるのに、母さんの【半魔眼】がそれほどでもなかったのも似たようなもので、効果もあやふやだから、そこまで強く勧誘も受けなかったんだろうな。
これが特殊能力だと、やっぱりその効果の強さ故か、かなり研究されるみたいだけど……。
タブ付きでない固有能力は、昔から存在していたとしても、その性質が正しく伝わっていない可能性があるなぁ。他にも不遇されてるスキルがあるのかもしれないな。
それはともかく、今西側を見に行くべきかどうか。
膨大なステータスの上昇、制限値の低下、ついでに損傷中による成長の退行。
少なくとも戦闘出来る体ではないだろう。
ヴリテクトも含め、周囲は俺の行動を止めるように説得しようとしている。
ここは素直に引き下がろう。
「分かったよ。「俺自身」は西側には行かない。ここに留まる。それでいいだろ?」
俺の言葉に安心したのか、リリーナから安堵の息が漏れた。
「ゼンならば懸命な判断をしてくれると信じていたのだ」
「わしも残りたいと思う者を説得せにゃならんでな。ゼンは出発まで休むがええ」
ステータスを見る限り、俺はまだ瀕死の状態から抜けていないのだ。
三日で1000ちょっとまでしか回復していないことを考えると、【活身者】の効果でも損傷中を癒す、というか緩和させるには、時間が必要だろう。
それでも現状を確認することは諦めていない。
「ヴリテクト、俺が行くことは諦めるが、ガルムとリュタン。それから――」
【天法術】を使い、視界共有が可能な俺の幻影を作り出す。
「俺の幻影を連れて、西側へ向かってくれ。本当はこの身体で確かめたいところだけど、妥協する。幻影を通して、現状を見ることくらいは出来るからな」
今使える出力で作り出せる幻影では、戦闘力までは期待出来ないが、万が一やられても惜しくはない。
幻影がやられると、俺にも多少ダメージが来るのだが、生命力が下がっているとはいえ、そこまで大きなダメージを食らうことはない。
視界共有もしなければ、術者本人は無傷で済むんだけど、それもしなかったら意味がないしな。
【闇法術】でも幻影を作り出せるのだが、少し勝手が違う。
いずれの場合も、共有部分を増やすにはその分魔力が必要になるし、消費する魔力量も増える。魔力量の消費については俺にとってリスクでも何でもないが、共有部分を増やせば増やすほど、術者への負担が増すというリスクは、今の俺には犯せないところになるだろう。
『それならば承ろう。貴殿の幻影を西側に案内し、そこで見たものは、貴殿にも伝わるであろうからな』
数日後、ヴリテクト達が森の西側に到着した。
その間にエルフ族やフェアリー族の移動について調整したり、リリーナやフランと戻った時の注意点など話したり、という準備を行っていた。
なお、この時にリュタンから、『アタイらに【思考対話】を使えば良かったんじゃないのかい?』と言われて、かなり凹んだ。
はよ言えや。
◆◆
森の西端に辿り着き、そこで見た光景は、俺が想定していたものの中でも、かなり悪い部類に入るだろう。
草木一つなく、延々と続く荒野。
小さな川はあるが、その水質は見ただけでも明らかに人が受け付けるようなものではないことが分かる。
幻影では感じられないが、ガルムやリュタンの不快そうな様子を見ると、空気も悪いのだろう。
森から出てすぐの場所には、人が住んでいたらしき形跡も残っているが、風化してしまっており、触れるだけで崩れ落ちそうな壁がポツポツと見つかる程度だ。
この地から人がいなくなり、どれだけの年月が経ってしまっていることか。
跡地を調べてみればある程度分かるとは思うが、知ったところであまり意味はないかもしれない。
見た範囲で分かることは、少なくとも真っ当な人類種が住める土地ではない、ということだけ。
あくまで見ただけのことで、詳しいことは調べてみないと分からない。どうも、「汚染」された土地である、といったところだろうか。
見える範囲には、山もあるし川もある。山といっても、木らしきものがあるかな?という程度の高台にしか見えんのだが。
今のところ、人が住める環境ではない、という評価でいいだろう。今のところは。
ここに来るまでに、何度か魔物に襲われた。散発的な攻撃だったけど、ホウセンにして「上級」クラスの個体も見かけた。
つまり、今の人類種からすると、「S級」という強さの魔物。<災害級>と呼べるものかどうかは、少し悩ましい。
サイズ自体はそう大きいものではなく、群れとも言えない数であったことが理由なのだが、少なくともブラストタイガーよりは強かった。
魔物の強さというのは、「上級」といってもピンキリであり、一概にどのくらい、というのは説明しにくい。
とりあえず「特級」は見当たらなかったが……いずれ相対することになるんだろうな。
『これ以上進むと魔物の領域に入り込むことになる。我とておいそれと踏み込めぬ領域ゆえ、ここまでになされよ』
ヴリテクトの説明によると、昔はこれよりもう少し先まで森の加護が受けられるラインになっていたそうだが、最近はここまで踏み込まれてしまっているという。
その「もう少し」とか、「昔」とか「最近」ってのが、相当アバウトな気がするけど。
『我が新生した折にも、少しばかり森の領域が狭まったようだ。我の結界と、眷属らの力でも、いつまでも防ぎきれるものではなかろうな』
悲観的な見方、というよりは、冷静な分析の結果といったところだろう。
それに「いつまでも」という言い方はしているものの、少なくとも数十年単位ならば、十分抑えられるらしい。
ただし、今まで極力防いできた、東部――今の人類領への魔物の侵入は、より増えるだろう、というのがヴリテクトの予想だ。
元々<災害級>や<厄災級>といった、人類種にとって大きな脅威の魔物は、西部から侵入を許してしまった存在であることも多い、という事実をここで知ることになった。
魔素がそこに存在する以上、魔物の発生はどうしても避けられないものではある。
だが、そこまで成長する魔素を生まれ持った魔物は、東部ではそうそう生まれるものではない。何かしらの方法で西部から生まれた魔物が、東部に現れていたのではないか、というヴリテクトの論に、頷ける部分はある。
迷いの森の結界や、神獣ヴリテクトの力を以てしても、100%遮断することは不可能であった、ということだ。
それでも99%近く仕事を果たしていたことに、俺としては賞賛以外の感想は持ち得ない。神様してたんだなぁ、ヴリテクトって。
『アタイらも加勢した方が良さそうだねェ』
『お嬢をお守りするのがあっしらの役目になりやすが……旦那、どうしやしょう?』
『そうだなぁ、俺もそうする方がいいとは思うんだが』
ガルムとリュタンを森の守護のために残す。
蛇として再誕したヴリテクトは、ステータスが確認出来なかったにせよ、弱体化していることは間違いない。
本人は十分な力を持っているとは言うものの、戦力の低下は不安材料だ。
その点をカバーするためにも、取り得る選択肢の一つではある。
半分だけとはいえ、この2匹も神族なのだから、防衛戦力としては申し分ない。
『あの二人がどう思うか次第なんだよなぁ』
残したほうが不安材料は少ない。それは間違いない。
それに[三頭犬]や[大戦猫]の見た目を考えると、それぞれの国に戻った時の反応も気になる。
だとすれば、リリーナやフランには悪いけど、連れて行くよりは残したほうがお互いのためか……。
『ガルム殿やリュタン殿であれば、分霊を作ることは可能ではないか?我としても、お二方が森の守護に当たってくれるのであれば、これほど心強いことはない』
『そいつぁ……』
『アタイら、精霊だったねェ』
いやいやいや、何か納得してるけど、俺置いてけぼりだから。
俺が何か忘れてるのか?
『ダンナ、アタイらは「個」を持ったけど、それでも精霊には違いないのさ』
『ペット扱いはちょいと困りやすが、ちっとくらい力を分けても、大したこっちゃねぇでさぁ。見た目もちょちょいと変えちまえば、ただの犬猫になっちまいますし』
そう言って現れたのは、肩に乗りそうなサイズの子犬と子猫。
うん、普通だ。
てか可愛いな!
犬の方は、体の色こそ元々のガルム黒い毛並みと変わりがないが、頭は1つ。
サイズの割には首が長めで、その辺りに[三頭犬]の面影がなくはないが……なんつったかな、テリア種だっけ?
いかにも賢そうで、成長したら狩猟犬とかになりそう。子犬だけどスマートだし。
猫の方は、リュタンみたいなニコイチじゃなくて、白黒の縞々模様。
なんだっけ、こういう猫。アメショー?パッと見、いかにも愛玩用、って感じがする。
でも赤目がやけに鋭く見えて、足の爪も長い。猫パンチで皮膚がザックリ切れそうな気がしてならん。可愛いけど。
『【念話】は出来ないけど、嬢ちゃんと意思疎通くらいは出来るハズだよ』
『こいつらもあっしらには違ぇねぇですぜ』
思えば「名付け」をしたから、もう「個」としか俺は見てなかったわけだけど、元が精霊だからこういうことが出来てもおかしくはないんだよな。
色々仕様を忘れているのは俺の方だったらしい。
『ぶっちゃけお前らが精霊だって意味を忘れてた。こういうことも出来たんだな』
『貴殿の力によるところも大きいと思うがな。我に近いところまで位を引き上げたのは、貴殿であろう?』
『引き上げたっていうか、上がっちゃったっていうか……』
名前を付けたら半神半精になっただけなんだけど。とは言いにくい。
ヴリテクトは正真正銘神だけど、ガルムとリュタンはなんちゃって半神なんだよなぁ……別に怒ったりはしてないみたいだけど。
ともあれ、これで二人には納得してもらうことにしよう。
いずれこの地に、もう一度調査に訪れる必要があるだろうが、とりあえずの現状確認は終えた。
確かに西側の状況は良くない。だが、手に負えないほどでもない。「手遅れ」ではないはずだ。
さて、やるべき事は全て終えた。
そんじゃ、帰りますか!
スキルが増えた理由?一応人の身に神を降ろしたことになるわけですからねぇ。
まあゼンのステータスを一度載せておこうと思っただけだったりします。既に数値の意味がほとんどありませんけど。




