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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第一章 天寿・そして再会~神界編~
4/84

神界の住人

※4/15 一部校正を行いました

 いやあ爽やかな朝だ、つっても、室内だからよくわからんけども。てか朝とか夜とかどうもなさげな感じがするんだよな。

 アズはまだ寝ているようだが、俺は別に寝てはいない。

 というよりもアレだ、眠くならない、ついでに疲れてもいないのが現状だ。どうにも精霊体というのはそういうものらしい。

 昨晩イロイロ聞いたので、そういうものだと割り切った。思考放棄するわけじゃないが、実際そうなのだから認める以外なかろうて。

 

 とりあえず「服を着る」ことを意識する。

 すると服を着てる感覚が得られる、ちなみに作務衣っぽい服だ。

 昨晩「脱いだ」感じ、この世界に来てからずっとこの服だったらしい、マッパじゃなかっただけよしとする。


 なんでも精霊体ってのはどんな服かイメージすることでそれらしい服装に変わるらしい。

 便利っちゃあ便利だけど、神界以外では存在をはっきり保つのは難しいそうだ。全く意味が分からんが、そういうものだということにする。

 ファジーなアズの説明だけで全てを理解しようと思うのがそもそもの誤りである。そう結論づけて、はっきりしないことは置いておく。

 今更何がどうあれ大したことじゃない。じっくり行こう。


 俺はベッドから起き上がると、部屋の雰囲気にマッチしない冷蔵庫(仮)を開けて、ペットボトル(仮)の水(仮)を取り出す。

 なんで全部(仮)なのかというと、地球のソレとは別物だと聞いたからだ。

 この神界にあるものは、基本的にアズが持つ「リソース」という権限で作られているそうな。

 だから今飲もうとしている水(仮)も、「リソースで作った水らしきもの」、というのが正しいらしい。

 実際飲んでみると、水としか言いようがないので、もう水でいいんじゃないかなと思うけど。


「夢とか幻とかっていうことはもう考えないようにしよう」


 とりあえず現実を認めるために、自分に言い聞かせてみる。

 あまりにもファンタジーなことだらけだが、今更疑うのも馬鹿らしい。

 加納善一は死んだ、それは自分がはっきり認識出来る。


 ここに来て、というか、精霊体になってからぼんやりと分かるのは、俺が数え切れないくらい転生を繰り返した、という事実。

 はっきりと覚えているのは加納善一の記憶だけなのだが、残滓とでも言うか、他にもおぼろげに覚えていることもある。

 具体的に何をした、という記憶があるわけではなく、そういうこともしていた、という認識がいくつかある、という程度なのだが。


 歴史的に古いものだけではなく、とてつもない未来らしき記憶がある、というのは、恐らく地球ではない異世界の記憶ではなかろうか。

 アズの言い方だと俺は地球で転生を繰り返していたことになるが、それは違う気がする。多分、そういう世界に転生したことがあるのだろう。

 生前、世界を見て回りたいという欲求や、学んだ覚えの無い知識があったのもその影響だったのだろう。

 とはいえ、やはり一番大きな影響は「自動翻訳」についてだな。異能扱いされた経験もあるし、トラブルに巻き込まれたこともあったけど、それを補って余りあるものだった。

 ただ、「自動翻訳」を他の記憶でも持っていたという感じはあんまりしない。持っていたかもしれないが、そこはもう分からないだろうな。


「んんぅ、ごめんなさぁい……」


 ベッドからアズの寝言が聞こえる。神族という習慣がどうなっているか知らないが、寝付いてからまだそれほど時間は経ってない。

 自分で目覚めることが出来ないということはないだろうから、時間に任せることにする。

 ここで起こすような野暮な真似はしない。


 そういえば彼女は俺に対して何を謝りたかったのだろうか。


 創造神になるはずだった、という説明は受けたが、そもそもそんなものになるつもりが無かったわけだし。

 俺の予定を狂わせてしまったことだけが理由なのだろうか?

 うやむやにしていい話ではなさそうだし、いずれ聞いてみることにしよう。



◆◆



「困ったな……」


 興味本位で彼女の部屋から出てみると、辺りはやはり草原なわけで。

 そしていざ体を外に出したところ、ドアが閉まって開かなくなってしまった。

 ドアだけがポツンとそこにある、というシュールな光景であったが、このドアの先は彼女のプライベートな部分という扱いなのかもしれない。

 まあ起きて俺がいなければ探しにきてくれるだろうし、うろついてみることにする。


 30分ほど歩いただろうか。周囲の光景にさほど変化は無い。

 ただ、道らしきものに沿って歩いているので、迷っているという感覚は無い。

 目印になるようなものもないので、方向はよくわからない。元より方角なんぞわからんわけだが。

 太陽らしいものはあるが、それと同じものが3つあるという謎光景だ、単純に地球の法則は当てはまるまい。

 非常識、という言葉はもう俺の辞書から消してある、まあ元々無かった気もするけどな。


 そろそろ一度引き返そうか、と思い始めたその時、ふと振り返るとおかしなことに気づく。歩いてきた道がなくなっているのだ。

 元々歩くことに支障が出るような草原ではなかったが、道がなくなった、ということは、正しい方向に引き返すことが出来ない、ということ。

 軽率だったか?と考えてみたものの、そもそも疲労すらろくに感じない体だ。むしろ道があるということは、どこか行き先があるということだろう。

 道が消えた理由は置いといて、そのうちどこかに辿り着くだろうと楽観的に構えることにする。


 急ぐでもなく、慌てるでもなく、道に沿って歩みを進める。

 それから2時間くらい歩いただろうか、ようやく光景に変化が見えた。


「何かあるな……」


 道はまだ先があるようだが、何やら箱のようなものが見える。

 近づいてみると、そこにあったのは、郵便受けのようなものとその下の表札らしきもの。

 そしてその隣には、「扉」が存在した。これもまたアズのドアみたいなものなんだろうか?

 だとすれば、誰かが住んでいる、ということになるのだが、扉の後ろにはやはり何もない、扉があるだけだ。

 ノックすれば、中に伝わるだろうか?都合のいいことに、ノック用なのか分からないが、鳥の彫刻をしたドアノッカーらしきものがある。

 試しに、と叩いてみると、数秒後には扉が開かれた。


「……君は誰かね?」


 扉の向こうから、青い目の美女が俺に問いかけてきた。



「カノー君、か。にわかに信じ難いが、アズリンド様にそう説明されたのであれば、そうなのだろうな」


 とりあえず入りたまえ、と中に案内された俺が見た光景は、屋敷の玄関口だった。美女に連れられるままについて行くと、客間らしき場所へ辿り着き、勧められるままにソファに腰掛ける。

 テーブルを挟んで対面のソファに腰掛けた緑髪の美女は、白衣に似た服を着てるせいか、知的な印象を受ける。パッと見ではどう見ても人間なのだが、なんか耳が若干尖ってんだよな。ちょっと異世界感。

 俺も自分が何者なのか、まだ理解しきれているわけではないが、アズからの説明をかいつまんで話し、精霊体ということだけ理解してもらった。


「俺としても分からないことだらけなんだけどな。ところで貴女の名前をそろそろ伺いたいところだけど?」


 とりあえず目の前の人物の名前すら分からんというのは問題だ、恐らく神の一人なのだろうが。


「私の名はシェラ、この世界の神の一人だ。それほど長い付き合いにはならないかもしれんがな」


 どことなく影のある笑いを含めて彼女は名乗ってみせる。引っかかる物言いやなぁ。


「何か意味深だな。確かに転生するまでの間ってことになるから、それほど長くはならないだろうけど」

「その通りだが、それだけではないのだ。もしかして君はアズリンド様から聞いてないのか?」


 何を、と聞く前に、あっさりシェラは言葉を紡ぐ。


「この世界は滅びるのだよ。そして我々は消滅する、君もそうなるだろうな」



「穏やかな話じゃないな」


 アズからそういう話は聞いてない。転生前から滅びるとか、消滅とかって話を聞かされるとは思わなかった。

 いやテンプレ的に言えばそうなのかもしれないが、そんなところまでファンタジー要素はいらん。

 そもそも世界の滅びって何だ?定義すら分からんよ。


「消滅ってことは魂ごとなくなるのか?アズもそうなるのか?」

「前者はその通りだ。後者は違うな、アズリンド様は上級神だ。おそらく別の世界の世界神になるだろう」


 割と衝撃的なことを言われた気がするが、そうなのか、という単純な感想しか出なかった。

 現実感は無いにしろ、これが現実だということは認めている。だからこそ具体的な情報が無い以上、そう返答する以外にない。

 そこが逆にシェラは気になるようだ。


「なんだ、やはり知っていたのか?」

「初耳だけど、多分説明が省かれてるからな。それより客人が来たのに飲み物の一つも出さないのか?」

「……我々は神族だからそういう習慣は無い」


 呆れたように返事をするシェラ。

 確かに神に客をもてなせっていうのは無茶振りかもしれない。

 でもアズの様子を見る限りじゃ人間とあんま変わらない気がするし、目の前の美人も神族っつったって人型には違いないだろう。


「神だからって別に味覚とかないわけじゃないんだろ?今の俺とどう違うか知らないけど、少なくとも俺はあるみたいだし」

「なかなか面白いことを言う。だが、神族で食事を摂るのはせいぜいアズリンド様かヨシュアくらいなものだろう。そもそも精霊体では飲食の必要ないのでな」


 むう、それは楽しみを捨てている気がするが。

 俺も精霊体だが、神族ではない。その辺のニュアンスの違いか?


「私は今いる神で最も長くここにいるが、飲み物を出せ、などと言った者は初めてだな」


 精霊体も神族もそこらへんは考え物だな。

 しかし今また新しい疑問ワードが出た気がするぞ。


「世界神、って最初からいるもんじゃないのか?今の感じだと、シェラが一番古株みたいだけど」

「その通り。アズリンド様が来られたのはごく最近だ」


 ごく最近、って言われてもな。

 確かアズは俺との出会いを「とても昔」と言っていた。てっきり最初からアズがこの世界の世界神なんだと思ってたけど。


「具体的に何年とかって分かるか?」


 シェラは少し考え込むと、首を振る。


「そもそも神界では日が落ちん。何を持って何年とすれば良いのかわからん」


 それもどうなんだろうか。っていうか、やっぱ神界には「夜」がないんだな。

 だったら時間の感覚は確実に狂うだろうなあ。


「アズなら時計くらい作りそうなもんだが」

「時計、とはなんだ?」


 そこからか。時間の概念くらいは分かってくれるだろうか?

 作りそうなもんとは言ったが、確かに無いもんは無いとするしかないのか?いや、ここは頑張ってみよう。


「日が落ちる、ということが分かるのであれば、一日という単位は分かるよな?ああ、馬鹿にしてるわけではなくて、こっちの世界に来て何も分からんから常識外れなことを言っても気を悪くするなよ?」


 そこは納得がいくのか、シェラは素直に頷く。


「私も神になったとはいえ元々エルフだったからな、人類の営みが分からんわけではない。種族が変われば常識も違うのは当然だ、互いの知識のすり合わせは必要だ」


 エルフ、ね。俺の知ってるエルフなんだろうか?まあ元人類である、という点は間違いないだろう。

 耳長いけど美人だし、ちょっと寂しい部分はあるけど、何も問題は無い。


「時計、と言っても色々あるんだが」


 そもそも一日が24時間なのかすら疑わしいが、少なくとも昼と夜があるのであれば何とか説明はつくだろうか?

 しかし時計の説明をするには何か基準がないと話しづらい。


「最も原始的な時計で言えば、腹時計になるんだが、種族が違うとまた違うかもしれんし。日時計もアテになりそうにないし。そうだな、照明は何を使ってた?」

「私がエルフだった頃は光の精霊に助けてもらっていたな」


 蝋燭とか油とかが出てくると思ったら、ファンタジーすぎる回答に頭を抱えたくなる。蝋燭1本分とかの単位を基準にしようと思ったのに。

 でも考えてみれば、全ての蝋燭が同じ長さじゃないと基準にならんか。

 それに時差とか季節とかの要因もあるし、単純に時間を計る、という線から探っていくか。


「よし、まずは実際にどうすれば時間を計れるか、ということから説明しよう」


 話が盛大にズレていく自覚もなく、時間を計るにはどうすればいいか、ということを話し込むこと数時間……。



◆◆◆



 アズリンドが目を覚ますと、そこに善一がいないことにパニックになりかけた。

 しかしアズリンドは、善一の「じっとしてると落ち着かない」という習性を知っている。

 それに善一の魂は気配として非常に分かりやすく、どこにいるのかすぐに把握することが出来た。


 アズリンドは神界ならどこにでも瞬時に行くことが可能。シェラの扉の前に即座に現れる。

 適当にノッカーを叩いてみるが返事はない、入れるか微妙だったが、すんなり入れた。

 そこでは、中級神三人と善一が、何やら夢中で何かを作っている光景がアズリンドの目の前にあった。


「何やってるんですか善一さん……」

「え、いや、そこにいるアインとガダースに協力してもらって砂時計を作ってるんだが」


 お前は何を言っているんだと善一なら返すところではないのか。


「カノーよ、分量は3通りで良いのであるか?」

「カノー!砂時計の器はキッチリ作ったぞ!後は落ちていく量を計算してもらえばあとは細工するだけだ!」

「そこは私に任せて貰おう、カノーの脈が70回反応したら、「1分」なのだな?」

「精霊体なのに脈が測れるってのは不思議だけど、とりあえずのものだから基準としては問題ないだろう」


 ヒートアップしている四人の話に入れる雰囲気ではない。

 少なくとも三人が意欲的な姿勢を見せるのは久しぶりな気がする。

 邪魔するのも良くないと思い、アズリンドはその場で待つことにした。


(……とてもじゃないけど、砂時計なんてリソースで作れる、なんて言えない……)


 世界神として情けなく思う反面、中級神に新たな刺激を与える存在にあっさりなってしまう善一をとても心強く思った。


 そして、もしかしたら。


 彼なら、この世界を何とかしてくれるかもしれない、という淡い希望を持ち始めた。

時計のくだりは割とどうでもいいんですけどね。

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