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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第二章 幼年期 ~鬼才の片鱗編~
32/84

準備中

【物質変性】→【鉱石変質】に変更しました。

なんか色々ごっちゃになってました、すみません。

万物造成(デナレーション)】もなんかいい名前ないですかねぇ、四字漢字で。

 領主の館の使用人は、青ざめた表情で帰宅したギースを迎えた。

 使用人は何事かと尋ねたが、「大事無い」とギースは短く言うと、自身の部屋に篭ってしまった。

 結局夕食時まで出てくることはなく、それを不審に思ったダリルが使用人に問うと、戸惑いを隠さずこう答えた。


「何やらあったご様子ですが、詳しいことはお話なさりませんでした」


 どうやら使用人も詳しいことは知らないようで、直接たずねることにしたダリル。

 ギースの部屋を訪ねてみると、机に両肘を突き、頭を伏せて震えていた。


「ゼンという少女は、化け物だ。あれは子供などという存在ではない」


 何があったのか、と問いてみたところ、どうやら町でゾークを見かけたようだ。迂闊にも腕のことを尋ねようとしたところで、隣に居た少女から凄まじい威圧感を感じたという。

 ブラストタイガーからも感じ取り、自身を恐怖状態(テラー)に陥れたあの恐怖と同じものを。

 馬鹿なことを、とダリルは一蹴しかけたのだが、いくつか引っかかることがある。

 そも、ゼン・カノーというのは男子だと聞いている。美形だとは聞いたが。

 しかも何故腕のことを尋ねようと思ったのか。

 確かに見かけて声をかける、というのはおかしくはないのだが、腕のことをその場で尋ねるほど今のギースは軽率ではないはずだ。


「そもそも、何かされたのか?」

「……いえ、そういうわけでは」


 元々ギースは混乱まではしていない、ただブラストタイガーのことを思い出し、恐怖心に苛まれただけだ。

 ゼンが想定していた以上に、【威圧(プレッシャー)】の効果が現れただけのこと。

 ダリルが声をかけているうちに、顔色までは回復せずとも、話が出来る状態にはなっていた。


「心配をおかけしたのは申し訳ない。そう、ゾーク殿の腕なのですが、失ったはずの左腕がありまして、いや、あるように見えまして」

「錯覚、ではないのか?」

「申し訳ない、断言出来かねます。いや、確かにあったと思うのですが、いささか俺も動揺してしまって、ですな」


 今一つ要領を得ないギースの説明に、ダリルが不審に思う。


「いえ、そう、そうです。ゾーク殿が、地図が欲しい、と」

「言われてみれば、地図は渡しておらんな」


 地図は大陸地図・王国地図・フィナール領地図があるが、大陸地図以外は機密事項だ。

 しかし代官ともなれば、確かに必要なものではある。エドナに一任して「イストランド郡」を設定したが、フィナール領地図自体は渡す許可をしていない。

 王国地図は流石に渡せないにしろ、フィナール領を一部治めることになるのだから、領地図は渡しても問題はないだろう。


「それだけ、なのです、が」


 そう言って口を噤むギースに、ともあれ伝言は聞いたダリルは、今日は休むように伝えた。



「エドナ、すまないが今一度シャレット代官の元を訪ねてはくれぬか。フィナール領地図に、イストランド郡を書き込んだものを渡して欲しい」


 出仕してきたエドナにダリルからその旨が伝えられると、エドナは少々意外に思った。

 確かにシャレットは代官になったが、そこまで熱心だとも思っていなかった。

 イストランド郡をフィナール領に設定はしたものの、大まかな領地は伝えたつもりだ。他に郡を設定していない以上、ある程度は自身の裁量に委ねることになる。

 たとえそういう話が出てくるにしろ、自分の娘がシャレットの元に就いてからだと思った。


 いずれにせよ、ダリルから許可が出れば渡そうと思っていたものだ。それが早まっただけだとエドナは判断する。


「承りました。一度ご覧頂いているものですが、ご確認ください」

「うむ、私も覚えているから問題はない。確認の意味で今一度見ておこう」


 エドナは自身が写した領地図を差し出すと、ダリルが一瞥する。

 問題はないと判断したダリルが、その領地図通りに正式な領地図に線引きを行うと、それに領主印を押した。


「これで良いだろうか」

「問題ありません、正式なものとして認められるものかと」

「では、これをシャレット代官にエドナが届けるように。確認して来て欲しいことがある」

「何の確認でございましょうか?」

「2つある、1つはゾークの左腕について。もう一つはゼン・カノーという存在について、だ」



◆◆◆



 やっちまったかなー、とちょっとだけ思う。


「ゼンにどうしても会うって聞かないから、断れなくて。そもそもあなたが地図をくれ、なんて言うからよ?」


 言ったのは俺じゃないんだけどな、などと言っても仕方あるまい。

 そもそも最初から寄こせって話なんだけどな。

 仕方がないので、エドナたる、母さん曰く「女傑」に会うことなった。


 なんでも地図を届けに来たらしいのだが、父さんの義手と俺のことが気になって仕方がないらしい。

 それを母さんは俺に丸投げしてきたわけだ、両親ともども丸投げしすぎだろう。

 仕方がないので、工房作りに取り掛かっていた俺は、応接室で待つエドナに会いに行く。


 応接室に入ると、きっちり下座に座っている初老の女性を見た。元々髪質は青かったのだろうが、随分白髪が混じっている。

 立ち上がって来たので、先にご挨拶。


「ようこそいらっしゃいました。お初にお目にかかります、私がシャレットの息子であるゼンでございます」


 一礼して、相手の言葉を待つと、初老の女性は冷静に挨拶してきた。


「エドナ・ランドです。フィナール領の政務執行官を務めております」


 なるほど、「女傑」だ。

 【完全解析】は部屋に入った瞬間にかけてある。固有能力(ユニークスキル)は所持していないが、【交渉7】や【統率6】を始めとした汎用能力(スキル)の充実っぷりが凄まじい。

 職業(ジョブ)も「知識人」とある。固有職業(ユニークジョブ)でこういうものがあるのは知ってる。

 実際に相当の知識を持つ人なのだろう。汎用能力(スキル)の内訳も、政事に関わる身として、必要なものは大抵持ってる感じだ。

 パラメータ自体はほぼDまでだが、精神力だけはずば抜けて高い。208という数字は今まで【完全解析】で見た中では最高値だ。

 精神力というのは数字になってもピンと来ないのだが、とてつもなく優秀な政治家なのだろう。


 実に面倒な相手だ。


 エドナに上座を勧めると、割とあっさり移動してくれた。

 俺も声をかけながら対面に座る。

 どういう話が来ることやら、と思っていたのだが、なかなか何も聞いてこない。


 しばらく沈黙が続く。観察されているっぽいが、何も出ませんよ?

 エドナの表情からはまるで分からん、ポーカーフェイスだねぇ。


 やがてエドナが口を開いた。


「率直に尋ねますが、貴方はカノーたる人物の先祖返りであり、前世(きおく)持ちである、ということを認めますか?」


 何やら尋問されている感。

 でもその問いに対する回答は決まっている。


「私はそもそも先祖返りではありません。故にカノーたる人物は知りませんね」


 この問いについては、俺自身どこに行っても、いずれ聞かれる問いだ。

 なので【魔眼(アイズ)】持ち相手でも対応出来る答えを用意している。

 俺は先祖返りではない、これは確信を持って言えることだ。

 もし「カノー」という人物がこの世界に居たとしても、俺はそれを知らない。

 次の予想される問いにも、すんなり答えられる。


「では貴方は前世(きおく)持ちではないと?」

「記憶については、ある、とお答えします」

「それはカノーの前世(きおく)ではないと?」

「そうなります」


 これもまた、聞き方が悪い。

 「異世界」という発想がないと、前世=この世界で過ごした記憶、という解釈が出来るからだ。

 厳密に言えば、カノーという「精霊体」は一応この世界に存在した。ただし地上には存在しなかった、ということだ。

 神界で産まれる生命体なんぞおらんし、俺は「転生者」であり、「先祖返り」ではない。

 記憶があるというのは確かなことなので、そこを付けるかというのは、相手次第なのだが、称名(ミドルネーム)持ちは先祖返りという大前提がこの世界にはある。そこの理を覆すのは難しいことなのだ。


「……つまり貴方は、自分が先祖返りではないが、前世(きおく)はある、ということを言いたいのですか?そうなるとやはり「カノー」たる人物の先祖返りではありませんか?」

「私の名前はゼン。カノーというのは勝手に付いた名前です。カノーたる人物は知りません」

「その称名(ミドルネーム)が答えではないのですか?分からないというのであれば、それが答えになりますが」


 なるほど。

 俺はカノーを知らないが記憶はある、となると、証明出来る部分は「カノー」だけ、ということか。

 うんまあ、その理屈は正しいんだけどね。こういう時の引き合いにもなるんだよね、【魔眼】ってのは。


「可能であれば、【魔眼(アイズ)】を持つ人物を前にして宣言しましょう。私は先祖返りではありません、故にカノーという人物を知りません」


 しばしの静寂が訪れる。

 だったら何かという問いには答えられる、分かりません、と。

 記憶についても答えられる、誰かの記憶です、と。

 誰かとは誰かと聞かれれば、分かりません、だ。

 この問答は【魔眼】の前でも通用するものであり、極めて正しいのだ。


 今の俺を正しく評するのであれば、「カノーの魂」だったものが「転生」してきた存在、これが正式回答になる、と思う。

 というのも、これが正しいのかすら俺にもよく分からんことなのだ。【完全解析】でも俺のことは正確に解析出来ていない。

 精密な答えというのは有り得ても、正確な答えというのは恐らく「無い」のだ。


 というか、だ。


「率直に申し上げますが、何の御用でしょうか?私としては、無駄な問答なのですけどね」


 我ながらギリギリの発言だと思う。

 けども、本当に無駄なのだ。こういう問答で時間を使いたくない。

 特にこういう人を前に、無駄な問答で言質を取られるつもりもない。

 目の前の女傑は、先ほどからポーカーフェイスを僅かに崩している。

 無表情の中に感じる確かな「戸惑い」、そろそろ本題に入って欲しいんだがな……。


「無駄な問答、ですか。どうやら、その通りのようですね」


 まだ葛藤は見て取れるが、そこまでポーカーフェイスを貫ければ大したものだと思う。

 政治家たるもの、そう簡単に腹の内を見せることがないのは知ってる。


「ええ、ですから何の御用でしょうか、と。私を見に来られましたか?」

「正解です。貴方がどういう存在か、というものを見に来ました」

「最初からそう言って頂ければ、ありがたかったのですがね」


 皮肉の一つも言いたくなるものだ。

 初っ端から尋問姿勢で来られたら俺とて構えるわ。

 ただねー、もうちょっとまともな感じで来ないかなぁ。もう少しぶっちゃけたらどうかね。


「要するに私の善悪を見に来られたわけでしょう?少なくとも、私は「人類の味方」である、とお答えしておきますよ」


「人類、ですか」


 ふざけて言っているわけではない、額面通りに思っていることだ。


「そうですね、厳密に言えば「世界之味方(スーパーヒーロー)」ですかね?」


 わざと茶化すように伝えたそれこそが、俺にとって今この場に存在する真実。

 転生した大目的を忘れたりするものか。



◆◆



 あれからしばらくして、エドナは「フフッ」と笑ってみせた。

 演技だったかもしれないが、それからはいくつかのことを具体的に聞いてきた。

 畑のこと、義手と義足のこと、廃鉱のこと、ギースが感じたこと、だ。

 最後のはマジいらんかったわ、やっちまった。それが今回の来訪理由になったっぽいし。


 およそのことは話した、かいつまめば、腐葉土・魔道具・実験・一種の殺気、という感じに答えた。

 ちなみに「一種の殺気」の説明には、【威圧】を軽く一瞬だけ使った。それでも冷静さを失わなかったのだから、精神は極めてタフなのだろう。

 全て事実だが、全部話したわけではない。

 まあその辺りはエドナも察しただろう、ただ余計な介入はしないようにとだけ伝えた。

 それについてはどうもエドナも同感だったようだ。


「貴方という存在はフィナール領、強いては王国にとって大きく利に働くでしょうが、組させることは危ういものと評価します。ですから積極的な関与はしないように、主には伝えましょう」


 このエドナ評は俺も「そうでしょうね」と答えた。

 これは事実だと思うのだ。俺は自他共に認める危険物だと自覚している。

 イストランド郡は、言わば「実験地」にする気満々なわけで。

 上手く行ったら領主の手柄、外したら母さんの失策。それでいいんじゃないかな、なんて思ってる。

 少なからずエドナは俺に「期待」しているとのことだが、それに応えられるかは分からん。

 俺のこともそれなりに知ってもらうつもりだが、流れる情報が真実である必要は無いし、今のところは「英雄」である必要はまだ、ない。



「とりあえずはこれで大人しくしてもらうと助かるんだけどなぁ」

「エドナ女史のあんな顔、初めて見たわよ。何言ったの?」

「あんな顔って、ただ笑ってただけやん?」

「冷血女の微笑みなんて見たことないわよ」

「そうしている必要があったからじゃないかなぁ。そろそろ工房作りに戻りたいんだけど」

「そっちも大事だけどこっちも大事なのよね。あなたが村の人たちに伝えたんでしょ?何か要望があれば私に言えって。何人かもう来たわよ」

「ヒマじゃなくていいじゃないか、えーっと……。「金をくれ」、却下。「税下げて」、考慮。「農具新しくして」、条件付承諾。「街道整備」、考慮。「金貸して」、考慮……」

「判断早いわね……」

「ほとんどが「考えておく」ってレベルだけどね。実務出来る人がいないから人手不足もいいとこだよ。ほとんど「考えとく」っつったんでしょ?」

「そう答えるしかないじゃない?」

「責任者は母さんなんだけどねぇ」


 まあまともな要望が来るとは全く思ってなかった。ただ農具についてはゴーサインを出してもいいだろう。

 青銅製、下手すれば木製の農具を使っている人もいることだし、そこは「開発奨励」の一策としてアリだ。

 一年間貸与して開発する代わりに、一年後自前の農具を用意するか、貸与中の農具の買取、とかそんな感じかな。

 鉄は今のところ余ってるし、釘の金型を用意すれば、1500人分とまでは行かずとも、500人分くらいなら作れるだろう。

 これについては【鉱石変質】を使う必要はない、というか使わない。

 【鉱石変質(フリーマテリアル)】と【万物造成(デナレーション)】は身内限定品のみ使用すると決めている。

 この地上に存在しないものを創り出すのは、危険だと思うのだ。



 さて、ようやく工房作りの再開である。

 もう流石に邪魔は入らないと思う、ここからは一直線だ。


 まずは工房の設置場所、これは屋敷の裏に作ると決めている、遠いと管理が出来ないかもしれんし。

 また、実験用畑も工房の敷地に入れるつもりだ、なので敷地はかなり広がるだろう。

 工房というか、もはや研究所になる可能性大である。敷地の囲いは頑強に作り、なおかつ結界術式を施す予定だ。

 出入り口は屋敷の裏庭からのみ設置するつもりでいる。

 普通、1人ないし、ネリーを含めたところで2人でやれる作業ではないのだが、少なくともあと6年はここにいるのだから、割とマジメに作る。

 ただ優先事項があるため、いずれ研究所に入る予定の工房作りからだ。


 今回の義手・義足に必要なものは、2000度を超えるレベルで耐え得る炉、ガダースミスリル、適当命名でガダリル製の鍛冶道具。ここまでが鍛冶のこと。

 もう一つは錬金術。ブラストタイガーの筋肉を使用して、人工筋肉と人工神経を作り、術式を施すための精密器具、圧縮なども出来る錬金術道具だ。

 フラスコや試験管なんかも強化製ガラスで作る。皮膚の培養液を作って、父さんと母さんの人工皮膚も作る。

 鍛冶で見た目のガワを作り、内部の骨も作る、関節部分もだ。そこに人工筋肉と人工神経を埋めて、繋ぐ。

 最終的にはまず間違いなく神具になるだろうが、父さんと母さんに「所有者」になってもらえば、問題はない。

 それでいずれは神具が肉体の一部になるだろう、多分今より相当パワーアップすることになるだろうな。


 俺としても初めての試みであり、上手く行くか、と聞かれれば「100%ではない」と答えるほかない。

 少なくともやろうとしていることは人の所業を超えるものだろうと思う。

 やりたいことはやる、最初から成功しなくてもいい。

 本来なら3ヶ月程度でやれることではないが、その時間全てをつぎ込めば、あるいは、と思う。


 魔術と錬金術に、地球での科学知識をつぎ込み、人の手には確実に余るものを作ろうとしている。その自覚はある。だが――。


 俺が創造神とかいうものなら、この程度「創造」出来ずに、何が創造神だってんだ。



「ネリー、どうだ?だいぶ慣れたか?」

「あ、ゼン様。はい、あとは囲っていくだけなので」


 ネリーにはとりあえずの敷地をレンガで囲ってもらっているところだ。

 それほど高度なことはさせられないが、ネリーは器用で、物覚えもいい。

 戦闘面や生活面だけではなく、技術面や知識面でも教えれば頼りになるだろう。


「今更だが、ネリーをこき使うのは確定事項だ、頼むぞ」

「お任せ下さい、このネリーはゼン様の手足同様。主の意のままに」


 いつかネリーには何かしら報いてやれればいいんだけどな。



◆◆



 1週間ほどで、仮の工房を建築した。

 あくまで仮のものだ、周囲の目から作業が見えなければいい。実際石材と木材の簡素な作りにした。

 ネリーも敷地を半分程度レンガ積みが出来たようだ、セドン商店にレンガの追加注文が必要かもしれない。

 自分で作ってもいいが、レンガの材料集めが面倒だ。道具袋を貸りて、ネリーに町に向かってもらうか。

 母さんから支度金の一部は俺が預かっている、白銀貨3枚分は俺の権限だ、全部渡そうとしてきたので、それは却下した。

 本気で丸投げする気満々であった、頼むよ母さん、マジで。


 仮工房で【鉱石変質】を利用して、炉と金床と槌のグレードアップを繰り返していると、やけに工程が早くなったのに気づいた。

 金属の融解や冷却なんかが妙に早く、形状作りも早く正確になっている。

 この感じは見たことがあるので、何となく察しはついた。

 ステータスを確認すると、どうやらガダースの固有能力(ユニークスキル)である【工程短縮(ワークカット)】を身に付けたようだ。

 【完全解析】の説明は、こうある。


工程短縮(ワークカット)

能動能力(パッシブスキル)

所持者による生産活動における一連の工程を短縮する

この効果は所持者の経験の範囲で発動する

効果は器用さと熟練度に比例する


 およそガダースから聞いた内容通りだ。

 このタイミングで入手するとは思わなかったが、スキル獲得の下地はあったのかもしれない。

 神界で散々モノ作りはしてきたし、スキルというものについては俺も一つの結論を出している。

 しいて言えば、まさかのパッシブ効果といったところか。てっきりアクティブなものだと思ってたわ。

 これについては【擬態】で隠す必要はないだろう、後天的に身に付ける可能性はあるものだし、ガダースも生前から所持していたスキルだ。

 自分から教えるつもりもないが、知られて困るというものでもない、むしろ職人を招く時なんかにはプラスになりえる。

 便利なスキルだが、義手と義足作りに発動はしないだろうな、と思っていた。


 さて、道具類のグレードアップ作業は順調だ。

 鋼鉄製からチタン製、チタン製からアルミス製、アルミス製からジルコニア製、といった順番を繰り返している。

 ちなみにアルミス製というのは合金の一つなのだが、非常に軽く、耐熱に優れた合金である。

 いわゆるアルミニウムと似たようなものだが、劣化ガダリル製とでも言うか、神界で俺が作った道具のメイン金属でもあったりする。

 ガダリルは俺には使えなかったのだが。


 ここらで炉も作り変える、もうレンガでは限界だ。

 用意したのは黒鉄鉱、ちょっと特殊な方法で炉に必要な分を廃鉱から削り取ってきたものだ。

 加工はまだしていない、これを金属化するには3000度レベルの熱が要るだろう。

 とりあえずのレンガの代わりの炉を囲うために、黒鉄鉱の鉱脈の一部をそのまま持ってきたわけだ。


 実際に上手く行くかは実験みたいなものだったのだが、炉としては成り立ったようだ。

 火法術を解除して、一段階炎を引き上げる。

 普通、火と言えば赤く見えるもので、出所が青いものである。

 火の熱というのは、ほとんど地球と変わりはないのだが、それはあくまで「普通」のものだ。

 俺が今から【精霊魔法(エレメントマジック)】で作り出す火は、青炎、とされている、普通の火よりもさらに熱の高い火。

 属性が火である妖精は何人かいる、という話をしたが、青炎を扱う妖精がいるのだ。

 実のところ更に上の熱量を作り出すことが出来るのだが、それはまたいずれ。


 妖精を身に纏った状態で、再度火法術で炉に火を入れる。

 こうすることにより火法術で作り出す火力を上げられるのだ。

 魔力量の消費が格段に上がる方法なのだが、人外級に魔力が上がったとはいえ、出力は魔術神(ヴァニス)の足元にも及ばない。

 そこを妖精の力で補っている、というわけだ。

 【精霊魔法】の使い方は、多種多様というより、無限のそれに近いものがある。使いこなせるかどうかはまた別の話だが。


 そういうわけで、【鉱石変質】を利用しまくったガダリル製の道具を一通り揃えたのが、母さんの代官就任から1ヶ月が過ぎたところ。

 これからが本番だ。



◆◆



「とりあえず現状はこんな感じ。さてどこから手を付けますか?」

「こんな感じ、って言われても……シャレット、あなたの息子さんどうなってんの?頭ぶっ飛んでるんじゃない?」

「ぶっ飛んでるのは間違いないわね、ほとんどゼンに任せてあるし、あとはユーリに任せるわ」


 さて、何をしているかと言えば、母さんにお願いしていた人材が到着したので、顔合わせである。

 その名もユーキリス・ランド、通称ユーリと呼ばれる、あのエドナ・ランドの娘であるそうな。

 学園時代の友人という話で、この地に拠点を構えたのも、ユーリの伝手であったようだ。

 ステータス的には、母親エドナより平均してパラメータは高いが、特別に高いかというとそれほどでもない。平均してDレベルだ。

 持ってる汎用能力(スキル)もエドナと似たような感じだが、スキルレベル的には2~3ほど落ちる感じで、まあ、普通の文官並み、といったところではなかろうか。

 ただ多才であることは確かなようで、ある程度の戦闘まで可能なオールマイティな人材と言える、こういう人が欲しかった。


「母さんからとんでもない子供がいるとは聞いてたけどー、ホントゼン君ってどうなってんの?」


 ユーリとの初対面の際には、なんか色々と驚きを通り越した感じで、諦観、といった具合だった。

 息子がいるというのも驚いたし、母親には覚悟しろと言われたし、シャレットは義足だし、息子は3歳にも男の子にも見えないし、ってか絶対3歳じゃないでしょ?

 とまあ、こんなところだ。なんかケチつけられてる気がしたが、まあいいや。


 ちなみに「ユーリって呼んでねー、堅苦しいのはめんどいしー」と言われた。

 軽さ的には母さんより上っぽい。なんというか、ゆるい。


「まあ、それはいいっしょ。ユーリさんはどこからやるつもり?」

「あたしも来る前は色々考えてたんだけどー、やるつもりだったこともう終わってるしー。てか通り過ぎてるし。なんなのこれ?あたしホントにいる?」

「いやいないとホントに困るし。俺も政務のプロじゃないし」


 付き合ってらんないし、ちょっと移りそうになってるし。

 まあ実際、やるつもりだったことというのは察しがつく、領地に住む人々の確認だろう。

 貰った領地図の縮尺が分からなかったのだが、フィナール領イストランド郡というのは、やはり広大であるように思う。

 代官一人置いたところでどうにかなるものではないだろう、本当に租税地という扱いでしかない。


 フィナール領とはどの程度の広さか、といえば、日本の九州くらいはあるのではなかろうか、というのが大雑把な俺の測量結果だ。

 地上というか、この星は地球のそれよりは小さいので、アクイリック的に言えば、十分小国クラスの広さである。

 むしろフィナールの町のおよそ3~4万人という数は少なすぎるのではなかろうか。

 その中で母さんが与えられたイストランド郡は、言ってみれば大分県くらいある、広すぎるだろ、いやマジで。


 で、イストランド郡にいくつ村があって、村人が何人住んでいるか、これは調べが付いた。

 イストランド郡には少なくとも町は存在しないが、思ったより集落とも村とも取れる人の集まりがある感じだ。

 点々と村がある感じで、郡民、というカテゴリで言えば、およそ4000人程度、郡の広さを考えれば少なすぎるだろ。

 街道のことも考えれば、現状は極めて効率が悪い、と言わざるを得ない。

 町と町を繋ぐ、大街道のようなものはあるのだが、そこから枝分かれしていくと、整備が行き届いてないのも把握済だ。

 フィナール領の発展は南北から進んでおり、その中央がフィナールの町である、という背景はあるにせよ、イストランド郡は「手付かずの開拓地」というのがしっくり来るところだろう。


 とまあ、そんな感じに妖精に調査を依頼しつつ集めたのは、戸籍みたいなものだ。

 そんな精密なものではない、村や集落を回っている間に名前と年齢だけ聞き取りをした。見ただけで【完全解析】でも分かるのだが、こういうことをしているというポーズは必要だ。

 あらかじめ父さんに巡回して欲しいルートを伝えて、俺かネリーが聞き取りに行くことを伝えておく、という流れでやっていった。

 実のところ全員分書き留められたわけではないのだが、精査する必要まではない、あくまで現状確認だ。

 領地は広いが人は少ない、移動出来る距離も常人とは桁外れの俺とネリーだからこそ、そこまで時間がかからなかったといえる。


「てかホントどうしよっかー、そもそも人も少なすぎるし」

「まずその人を集めて一箇所に住まわせる、ってところから始めたいんだけどね。領民の安全確保が第一なんだから」


 大街道に面して住んでいる人数はおよそ半数、残りは山奥、とまでは言わずとも街道から外れているところもある。

 とてもではないが、安全を確保出来るとは言い難い。

 となると、まずやるべきことはある程度絞られてくるのだが……。


「人手足りなすぎー。もうほっといてもいいんじゃないかな」

「ですよねー。ってほっとくわけにはいかんでしょ。とりあえず住むところを提供するところからですかねえ」


 まず考えたのは、村や集落から移住してもらう、ということだ。

 ただ「動け」と言って済むものではない、当然相応の住居なりある程度の畑なりが必要だろう。

 それをやる労働力については、フィナールの町の農業ギルドだったり、あるいは職人街に住む大工を連れてくるなりすればいいだろう。

 この場合「人手」というのはそれを統率する人材のことだ。

 母さんにもある程度やってもらうとしても、ユーリ一人では限界がある、というわけで。


「ユーリさんに年間金貨500枚分の権限あげるんで、それで人材確保してくれません?」

「ふぁっ!?」


 文官1人につきいくら払うかは知らないが、ユーリに丸投げすることに決めた。


「ちなみにユーリさんの年俸は金貨80枚、月に金貨5枚、半年に1度ボーナスとして別途10枚ということで、どうですかね」

「多すぎない!?」

「まだまだ上がるんじゃないかなあ、母さんに代官なんて出来るわけないし、実質ユーリさんは執政官というより、代官代行ってことになるだろうし」


 見込み税収は年金貨4000枚、これはまあ別途調整するとしても、基本的に母さんの手元に直接入ってくる額がそれだ。白銀貨40枚分だ、ボロい。

 まあ全額懐ってワケにはいかんだろう、当たり前だがちゃんと統治に使う。

 普通ここからフィナール領、ないしカルローゼ王国に払う金額がありそうなもんだが、本当に純粋に全部母さんのところに行くようだ。

 租税地にも程があんだろうが、どうなってんだよ。と思ったが王国はちゃんと直轄地があって、そこの税収は2桁は違うようだ、そりゃそうだろうな。

 ユーリさんへの年俸は俺と母さんで決めたものだ、母さんが「月に金貨10枚」と言ってきたので、少しばかり修正した結果だ。

 収入のうち、人件費として計上する金額はおよそ20%程度、ということで考えてみた結果、ユーリにそういう権限を投げたわけだ。

 あと300枚ほど余裕はあるが、これはまた別に使うことがある。


「あと、ユーリさんには年間金貨200枚の使途不問金をあげますんで。これはユーリさんが自由に使っていいんで、使うものなり人手なりお好きにどうぞ」

「明日を生きる銀貨1枚を求めていたあたしとしては、桁が違いすぎるんだけどー?てか何人文官雇うつもりなのよぅ」

「人間慣れればどうにかなる。何人文官雇えるかは知らん!ま、郡役場ってところかな?規模も小さいし10人くらいいればいいんじゃない?」

「10人だとすれば、年俸金貨50枚……やっぱ多すぎるよぅ、倍は雇えるよ?」

「いやだから任せるって言ってるじゃん。俺もそこまで気を使う範囲にならんよ」


 ざっくり考えれば、文官の月給は金貨4枚くらい。これが高いか安いかで言えば、まあ高い部類に入るのだろう。

 ただそれくらい払わないと、使える人材は確保出来んだろう、だから丸投げした次第である。


「まあ今すぐ集めろって話じゃないから、とりあえず当面の計画案をよろしく。当面の方針は「安全確保」、そこを踏まえてとりあえず3ヶ年計画と1年計画まででいいや。1ヶ月以内でまとめるだけまとめてね」

「えぇぇ……シャレット、この子、容赦ないんだけどー?」

「まあ、ゼンだしね。私も付き合ってあげるから、って言っても、ほとんどユーリ任せになると思うけど」



◆◆



 そんなことがありながらも、準備は完了したということで、早速義足作成に取り掛かった。

 父さんには悪いんだけど、義足の方がいくらか作りが楽だからだ。

 ノウハウも無駄にはならないし、簡単な方から作るべきだろう。

 それに使い勝手を確かめてもらうのにも、母さんの方がいくらかまともな回答が望めるということもある。

 父さんの直感的な感想も無駄にはならないと思うが。


 まずは試作品ということからスタートする。最初から完成品は都合が良すぎる。

 単純に片足だけパワーアップしても仕方がないのだが、最終的には肉体全体に強化が行き渡るようになる。

 最初は少しばかりピーキーな義足ということになるだろう。

 さて、どう作るかは前述の通りなのだが、どういった合金が一番身体に馴染みやすいか、ということは知っておきたい。完成品に使うものは決定しているのだが、合金として使う可能性もある。

 ブラストタイガーの筋肉を擬似筋肉として使うのは決定事項であり、多少使い減らしても全く問題がないほど量もあることだし、いくつか種類を作ってみることにする。


 足首から下、すなわち「足」の部分がややこしい関節部分になるのだが、骨のパーツの形取りはおよそ完成している。

 金型は作ってない、オーダーメイド品だし。

 参考にしたのは母さんの左足だ、あんま違いがあるとおかしなことになる。

 いわゆる「アキレス腱」みたいな、「腱」については、全く考慮していない。

 理由はある、少なくともこの義足部分については、「斬ることはおろか、傷すらまともにつけられない」ものにするからだ。

 骨は金属製、筋肉はブラストタイガー製、で作るわけだが、それをさらに金属で覆い、人工皮膚で仕上げる。

 基本的に本来人間が持つような弱点を設定するつもりは全くない。

 元より精巧に作った義足だろうが、そんな弱点はないわけだしな。


 試作品では人工皮膚までは取り付けない、ガワが完全に金属のそれにはなるが、あくまで試作だ。

 およそ2週間ほどかけて、いくつかの神具級義足が完成した。まだ神具としては作っていない、神具にする方法はいくらでもあるのだが。


「これが義足ですか、ほとんど形が人間の足と変わりませんね」

「皮膚を取り付ければ、実際にそうなる。まあここまで精巧なものは、世界で俺しか作れんだろうな」

「さすがゼン様ですね」


 顔を出したネリーが感想を述べたが、今更ネリーも驚きはしない、何作っても「ゼン様ですから」で済みそうな感じだ。

 それはそれで大丈夫なのかと思うが、俺としても今更だ。

 早速母さんに工房に来てもらうと、感覚を試してもらうことにした。


「……ええ、まあ、ゼンですものね。うん、大丈夫。私はまだやれるわ」


 いくつかの義足を見せて、母さんが自分に言い聞かせるように呟く。

 冷静に考えて、義足を知らん人からすれば、足だけ何本か見せられてるようなもんだろう。そう考えると気持ち悪いかもしれん。

 母さんが付けていた木製の義足を取り外し、やはり同じような術式を施してから、義足を取り付ける。

 何やら確かめるように、母さんは義足を動かし出すが、あまり心地よいものではなさそうだ。


「えっと、そうね、うん。自分の足だけど、自分のものじゃないっていうか」


 まあ、そりゃそうだろう。

 とりあえず実際に思い通り動かせているかどうかを確認したいだけだ。


「そう、ね……とりあえず、歩くことは難しくないわね。正直これだけでも十分すぎるのだけれど」

「それはそうかもしれないけど、これも試作品だからね」

「これも試作品なのね……もう足が生えてくる、って思ったほうがいいのかしら?」

「そうはならないけど、結果的にそうなると思っていい」


 何がなんだか分からない、と母さん。

 うんまあ、生えてくるとまではいかない、擬似神経を使っているから多少の感覚はあっても、痛覚やらは相当鈍いだろう。

 まあ、今のところ、だけども。


 とりあえず試作した義足は一通り試してもらった、そのうち「強いて言えば」という1つをベースにすることにする。


「じゃあ、今日からこれを付けてもらうことにしよう。少し目立つから、丈の長いものを着て。母さんの肌の色に塗っておくから」

「慣れたらそれで、元通りになれそうな気がするのだけど……」


 うん、多分実際そうだと思うけど、俺は妥協するつもりないよ?


「多分しばらくの間は、力の扱い方に苦労する。ちょっと試そうか?」


 そう言って俺は使い古しの鉄の金床を取り出すと、母さんの前に置く。

 実際どういうことなのか、試してもらった方が早い。


「これを、義足で「思いっきり」踏んでみて?蹴ったらどこ行くか分かんないから」


 普通、こんなもの蹴ったり踏んだりしたところで、どうにかなることはない。200キロ近い鉄の塊なわけだし。

 ちなみに敷物にはガダリル製のプレートを敷いてある。まあ、プレートごと、ということにはなるまい。

 母さんは困惑しつつ、俺の言った通り、「思いっきり」金床を踏みつける。

 予想通り、パッキーン。


「はぁ?」


 金床が「粉砕」され、周囲に鉄の塊が飛び散りました。一部俺に当たった、痛い。目とかに刺さんなくて良かったわ。


「なあにこれ?」


 若干幼児退行を起こしている気がする母さんだが、俺としては想定の範囲の結果だ。

 凹むくらいだと思ってたのも事実なので、破壊されたこと自体は驚きだが、ありえるとは思っていた。うん、あるある。


「まあ、こういうものだから。多分走ろうと思えば走れるし、ジャンプだって出来ると思うけど、両足の力の違いに注意してね」


 何も考えずに走り出したら、まず義足側で蹴り出したところでコケる。

 いや、コケるというか、特殊な走りになるだろうな、片足だけ異様に跳べるわけだから。


「左右のバランスの違いに、今のうちから慣れといてね。いくつか試してもらうつもりだけど、「完成品」はまあ、ちょっと違うかな。今のうちに色々慣れといてね」



◆◆◆



「結論から申し上げますと、冒険者ゾーク殿の腕は、その子ゼンが作った「義手」たるものであり、精巧な動きは出来ずとも、ものを掴む、取るという程度は行えるもの、という話でした」


 ゾーク達の屋敷から戻ったエドナは、主ダリルに報告を行っていた。


「義手、か。やはり俺の見たものは錯覚などではなかったか」


 同席したギースは、「見間違い」ではないということを確認した。

 しかしあの子供がそのようなものを作るとは、と考えたところで首を振る。化け物が何を作っても不思議ではない、と。

 ダリルはゾークの義手を見ていない、しかしエドナの説明により一応の納得はした。

 ただし、ゼンに対しては、警戒を強めた。


「して、ゼン・カノーとは、いかなる人物であったか?」


 ダリルの問いに、エドナはこう答える。


「ギース様にして「化け物」とするのは、あながち間違いではないでしょう。ただギース様がそう感じたのは、彼が子供だった、ということです」

「どういう意味だ?」


 ギースが問いかけると、エドナは苦笑気味に言う。


「両親を思う気持ちが、ギース様に少しばかり向いてしまったようです。彼は強い感情を持つ事で、それが相手に伝わってしまうようで。【念話(テレパシー)】の副次効果なのでしょう。私もその時の感情というものを体験しましたが、平静を保てていたのか、分かりませんでした。あれを感じたギース様が「化け物」と評するのは、当然かと思われます」


「なるほどのう、仇としてギースが見られてしまったか」

「そういえばゼン・カノーは固有能力(ユニークスキル)持ちだったな、その効果、か。なるほど、少なからず奴にとっては俺は憎む対象になるかもしれん。正直、あまり関わりたい相手ではないな」


 実のところエドナの推測は、当たってるようで当たっていないのだが、間違っているわけでもない。

 【念話(テレパシー)】と【威圧(プレッシャー)】を持つゼンだからこそ出来る芸当である。


「基本的には、無害。と評していい人物です、少なくとも何かしらの野心は持たぬものかと思われます。ただし、何かしらの関与については避けることが賢明かと」


 エドナによるゼンの評価は極めて高い、少なくとも自分が評することは不可能だと断じた。

 その中で出てきた答えが、「関わらない限りは無害」というものだ。

 少なくとも人間性については全く問題ない。前世(きおく)持ちにありがちな歪みもまるで感じさせない。


「無害、か。先祖返り、前世(きおく)持ちにして、そういう存在は有り得るのだろうか?往々にして、前世持ちは何かしらの問題を抱えるものだが」


 ダリルはエドナの意見については全面的に信用しているが、ことゼン・カノーをそのように評していいものか、悩ましい。


「俺としては、アレを無害と呼ぶのは、少し抵抗があるが」

「基本的に極めて冷静な性格の持ち主です。少なくとも3歳の子供が持つ精神性ではありませんが、前世からそのような性格だったのでしょう」


 ギースの懸念はダリルも同感なのだが、エドナの意見は変わらないように思う。

 それならば、相応の知識なり技術なりを持つ人物だ、ダリルとしてはそのような人材を逃がすには惜しいのだが。

 思惑が顔に出たのか、エドナが首を振って、告げる。


「関与すべきではないとしたのは、ゼン・カノーたる人物は、特定の何かに組することを嫌うためです。両親に似た気質が感じられます」

「両親の教育の賜物か、あるいは前世によるものか。そういうことか」


 ギースの配下に置ければ、と思ったダリルだが、断念せざるをえまいと考えた。

 エドナの後継、とまでは言わずとも、あるいはと思ったのだが。

 だがそのギースにして「関わりたくない」と言うのであれば、いずれにせよ難しい。



「いずれにせよ、イストランド郡はシャレット代官により発展する可能性が高いものと思われます。ともすればこのフィナール領の発展に繋がるでしょう。結果的にそうなれば、問題はありません」


 というエドナの結論により、ダリルはゼン・カノー及びイストランド郡に対しては静観を決めた。

 この方針はギースも引き継ぐように、と告げると、ギースも是と答えた。


「俺とて虎の尾はもう踏みたくはない」


 ギースにとって、ゼンは恩人の子であり、恐怖の対象である。

 自ら関わることはないだろう、あるとすれば自分が領主を継いだ時だろうか。

 その時を思うといつまでも苦手ではいられまいが、冷静な性格の持ち主、という点を信じる以外あるまい。


(まあ、ナイルには何も出来まいが)


 この場にいない弟を少し心配に思うが、ナイルは自分の町の統治で精一杯だ。

 いずれ方針を伝える機会はあるだろう、それよりは自分のことを考えるべきか、とギースは一つため息を吐いた。

次は4/3 12:00かな?

ちなみに広さやら人口やらの話は、あまり突っ込まない方向で、私もこの辺りについて深く掘り下げる予定はしばらくありませんので、適当に流す感じで。

カルローゼ王国民の平均年収は金貨20枚強、開拓民で12~3枚ほど。

ユーリの年棒80枚は、エドナのやや上を行きます。

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