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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第二章 幼年期 ~鬼才の片鱗編~
30/84

魔道具と廃鉱

 俺はレイスと名乗る狐人族の男性からおよそのあらましを聞いた。

 ネリーも涙を流して泣いている、父さんと母さんの付き合いは、俺より長い。

 当然かもしれない。俺とてそれなりに悲しいのだ。

 だがここで俺が悲しんだとして、両親が喜ぶとは思っていない。

 まあ詳しいことは落ち着いたら母さんにも尋ねるとしよう。


「まあ、色々あって疲れたでしょ。ネリー、母さんの補助についてあげて。父さんも休みなよ。今日は俺が夕食を作るから」

 詳しい話は後に、と告げると、レイスに一礼。

「レイスさん、父と母が大変お世話になりました。このご恩はまたいずれの機会に」

「い、いやいやいや、なんで君そんなに冷静なんすか!」

 ちょっとレイスがフリーズしてたが、俺が冷静では何かまずいことでもあるというのか。

 俺だって少しくらいは動揺したし。

 だが恩人にずっと立ち話させているのも悪い、それにこの人だってずっと同行してたのだ。


「慌てても手足は戻ってきませんから。レイスさんもお疲れでしょう。父と母は確かにこのゼンが預かりました。謹んでお礼申し上げます」

 俺もちょっと形式ばった感じになってしまった。

 慇懃すぎただろうか。

 挙動不審な動きをするレイスだったが、やがて頭を掻きながらこう言った。

「なんというかまあ、こんな娘さんがいたら、手足がなくなっても冷静なもんなんすかね……」


「別にゼンが居たからってワケでもねえけどな。俺がいなくても大して変わらねえだろうし」

「私たちはただの保護者だもん、この子は勝手に育つわよ」


「おぃィ?その辺にしてもらえませんかねぇ……ストレスがマッハなんですけど」

 何気に酷い言い草の両親である。

 その様子を見てネリーもどうやら立ち直ったようだ、涙を拭くと母さんを支える、っつーか持ち上げよった。

「ひとまずベッドに運ぶにゃ!」

「ちょっ、ネ「俺も寝る。ゼン、飯が出来たら起こせ」なんでいきなりいつもどおりなのよ!」

 ネリーはまだテンパってる感じだが、うん、平常運転だ。


 とりあえず頭を抱えているレイスに今日はここでお引取り願う。

 フィナールの町に住んでいる人なので、追加で聞きたいことがあれば、こちらから出向けばいいだろう。

 あ、娘ってのを訂正忘れてた、まあいいか。



 一ヶ月ほどネリーと完全に二人暮らしだったので、俺も色々最近は家事をやっている。

 料理については、出来上がったものをネリーに食べさせたら、凹まれてしまった。

「主人に完全に料理で敗北するにゃんて……」

 年季が違う、当然である。


 もっとも、味覚というのは人それぞれなので、完全に万人に好まれる味なんぞ存在しないのだ。

 俺からしてみれば、自分で作るより、ネリーに作ってもらった方が気分的には良かったりするのだ。

 町の飲食店が「美味しくない」と思ったのは、多分味が薄いせいだろう。

 ネリーの作る料理は総じて味は濃い目だと思う、まあ俺としては丁度いいくらいだが。

 両親の好みがそうだったのかもしれないが、ネリーの好みが濃い目なんだろうな。


 そんなわけで、現在進行形で料理中である。

 疲労回復を促進するスタミナ料理にすることにする。

 ちょっとズルをして【五穀豊穣】や【錬金術】などを利用したマイ調味料を絶賛使用中である。

 このくらいは許されるだろう、どうやって作ったのか、などと今更言う人はここにはいない。

 卵や牛肉もどきのタフビーフ(デカい牛の魔物だった)をふんだんに利用し、タンパク質をガッチリ摂っていただく。

 ちなみにこの卵なのだが、俺も普段食する機会は少ない、鶏っぽい鳥の卵らしく「ファームバードの卵」というらしい。

 養鶏場がどこかにあるようだが、あるなら見てみたいものだ。

 普段食する機会が少ないのは、それなりに高級品だからだ、やはり家畜は少ないのか。


 道中で食に困る、ということは恐らくなかったとは思うが、タフな両親のことだ、多少疲れていてもガッツリ系メニューで問題はなかろう。

 とはいえ焼いたステーキなどにはさっぱり系おろし醤油をソースとして使う。

 醤油というか、醤油によく似た何か、なんだけどね。

 この世界ではまだ味噌が見当たらないので、仕方ない。

 無いという可能性はあるのだが、大豆はあるし、醤もあるので、作れなくはないだろう。

 自然に採れるもので生産に成功したら、広めてみるのもいいかもしれない。


 などと考えつつ、料理に励んでいると、ネリーがやってきた。

 母さんは落ち着いているらしく、ベッドで今は休んでいるとのこと。

 ゼンの手伝いでもしてきなさいと言われたらしい。

 おずおず、といった様子で近づいて来たネリーは俺に聞いてきた。


「ゼン様は、悲しくにゃいにゃ?」

 悲しい、か。まあ、悲しくないわけではない。

「俺も人の子だし、両親がああなったことはショックだ」


 だけど、失ったものは返ってこないことは、知っている。

 だからこそ、残ったものを喜び、大事にするのだ。


「けど、ああなってまで、父さんも母さんもここに帰ってきてくれた。俺はそのことを喜ぶ」


 純粋に喜べるわけでは、ない。

 特にこの世界では、四肢を欠損するというのは、大きなハンデになるだろう。

 ただし、俺としてはこれに対して無策でいるつもりもない。


「ネリーは悲しいかもしれない。俺も悲しくないなんてことはない。だけど、俺達が悲しむことは、父さんも母さんも喜ぶことじゃない。分かるよな?」

 ネリーは恥ずかしそうに下を向く。

「ゼン様はずるいにゃ、格好良すぎるのにゃ」

「まあ、前世(きおく)持ちだからな。ネリーほど生き死にの経験はしてないかもしれないが、父さん達もいつも通りみたいだし、それが演技かどうかは分からないけれど、俺達で本物にすればいいさ」


 俺は料理を作り終えると、食堂というか、台所の近くに料理を並べていく。

 最悪俺が食うとして、結構な量と品数を並べたわけだが、寝起きのはずの父さんはガッツリ食って行く。

 それよりは母さんも控えめであるが、これまた普段からするとかなり大量に摂っている様子だ。


「美味すぎるだろゼン!作り方まではわかんねーが、お前こんなにいいモン食ってたのか?」

「そうね、味付けも多様で、とても美味しいわ。ああ、母親の尊厳はどこへ行ったのかしら……」

「母さんから料理を振舞って貰った記憶は、俺にはないのだけど」

「ネリーが居るから仕方ないじゃない!」

「そんな逆ギレされても困りまんがな」


 無理して食べた、という感じはしないが、俺の普段食う量は残らなかった。

 まあいつもそれだけ食べなければいけないということは無いのだが、ネリーが食べる分までなくなってしまったので、少しばかり料理を追加することになった。

「詳しい話については、明日にしようか」

 という俺の意見は採用され、ネリー含む三人は部屋に戻って休むことにした。

 ネリーは母さんの部屋で寝るそうだ、夜中に色々あるかもしれないし、それがいいだろう。



 部屋に戻った俺は、今後のことを考える。

 まずは右足を失った母さんについてだ。

 冒険者としてやって行くのは難しいかもしれないが、義足を作ることは出来る。

 身体を詳しく診せてもらうことになるが、膝関節が残っていれば、木製で作ればさしあたり十分だろう。

 元々魔法使いでもあることから、日常生活レベルなら不自由なく、とまでは行かずとも、補助の必要はあまりなくなるだろう。


 問題は左腕を失った父さんだ。

 これもまた肘関節が残っているかどうか調べる必要があるのだが、中世ヨーロッパでは16世紀くらいには実用に耐え得る義手が存在している。

 義手や義足については、俺にも地球のノウハウがある、作ることは可能だ。

 とはいえ、精巧なギミックについて再現出来るほどの知識は無い、俺がやっていたのはもっと細胞レベルの、最先端医療での話である。

 腕の部分はともかく、手については不自由なくとは行かないだろうな。


 両方について言えるのだが、精密なものを作ろうとすれば、確実に超越技術(オーバーテクロノジー)レベルになってしまう、ということだ。

 材料についても恐らくほとんど入手出来ないだろう。

 木と鉄で作れる範囲、となると……ふむう。



 思い出されるのは、アインの研究室でのことだ。

 アインは所謂、錬金術としても禁呪と呼ばれそうな、「ホムンクルス」の製作を試みていた。

 ガダース・ヴァニス・シェラとの共同で作っていたそれであったが、結果としては、未だ「人工生命体」として完成を見ていない。

 一番のネックは「入魂」である。極めて人体に近い形は作れても、それを動かすための「脳」はあれど、魂はない。


 俺としてもそれを見たときは精巧な作りに感心はしたものの。

「これを動かすっつーか、自立行動させるのは無理だろう」

「カノー様もそう思うであるか」

 アインは「入魂」が出来ないと嘆いていたが、そういう問題でもない。

 そもそもモノを動かす、というのは難しいことなのだ、段階をいくつ飛ばしているか分かったもんじゃない。


「完全育成型プログラムを積んだロボットにしても最低限の自立プログラムを組んでないと動くことすら出来んからな。魔術ってのは便利だが、そこまで万能かって言われるとなあ」

「何を言っているのかさっぱりである」

「要するに、「人工生命体」なんて作ろうと思ったら、いきなり人体ベースで始めるのがそもそもの間違いだってこった。仮にこれに魂が宿っても、動かせるかどうかはかなり疑問だな」


 人体のそれに近い作りはしている、だが近いだけだ。

 魔術回路をふんだんに仕込み、それっぽく仕上がりつつはあるが、操り人形にもならんだろうと思えた。

 神の暇つぶし程度としてはよく作られちゃいるんだろうが、いくら魔術たるものでも、「歩く」などといった一つの動作でどれほどの術式を施せばいいものか分かったものではない。


「まあ人形としちゃ、よく出来てる。でもそれだけだ」

「ぐぬぬ……しかし、可能性は」

「今のところ、望み薄だな。夢物語と言ってもいい。人造で人類のような複雑な生命体を作るのは、やっぱどっかに無理があんだよ」

 可能性がゼロと言い切ることはしないが、どんなに複雑な魔術を施しても、ロボットのような人工知能にするには、もっと簡略化したものからスタートしないと無理だろう。


「アインが作りたいものに近いものは俺も製作に付き合ったことはある。だけどいきなり人類ってのはどう考えたって無理だ。まあこの研究が無駄とは言わないけどな、これだけ精巧な作りなら、部分としては使い道があるかもしれん」

 例えばそう、四肢を欠損した人類を補佐するような……。



「流石にアレは無理、か」

 この世界の素材だけでホムンクルスの手足を作るとなると、材料は【鉱石変成】で作り出すしかあるまい。

 皮膚は【万物造成】で培養液を作れば、いけるかもしれない。

 ただ部位を繋ぐにしても、筋肉がなあ。

 神経については魔道具で……ん?


 ネックは筋肉と神経、か。


 [空間箱]からブロックガンを取り出す。

 地上にあってはならない武器、それが「神具」。

 何故神具が地上にあってはならないか、理由は「大きな力でありすぎる」からだ。


 ブロックガンは神具でもかなり特殊なものに入る。

 銃という未知のカテゴリと、特別な材質で出来たがゆえに神具になったものの、純粋な武器としての性能はそれほどでもない。

 消耗品である弾丸は、一定の形状でなければ撃ち出せないし、無限弾数を誇るわけではないのだ。

 この銃が神具たる所以は、どんな仕組みの弾丸であろうと、少量の魔力で撃ち出せるという点にある。

 「デスハチェット」のように何でも斬れたり、「ピッケルハマー」のように何でも壊せたりするわけではないのだ。

 神鋼製の弾丸や、最高級の火法術を込めた弾丸ですら、音速を超えた速度で撃ち出せる、それがブロックガンの性能である。


 もっとも、神具が地上にあってはならない理由は他にもある、所有者制限による、他者の使用を禁ずる阻害効果。

 ブロックガンの場合、持つ事自体は可能だが、トリガーが引けなくなっている。

その機能については失われていない、所有権は「ゼン・カノー」になった今でも俺にある。


 問題はあるだろう。

 ただ、手足を失った両親を元に戻したいという気持ちはある。

 打算的なところも無いとは言えない、やはり両親が持つ他者への影響力はかなり大きいと思われる。

 だからこそ、というのも、あるにはあるのだが。


 ちなみに、完全回復薬(エリクサー)を作るという方法も考えたが、これは神界にしかない「神木」を材料にする必要がある。

 完全回復薬というのは、本当にそのまんまで、生きてさえいればどうにかなるアインの【再生(リカバリー)】と同レベルのシロモノだ。

 だが、その「神木」は植物ではない、何気に「神族」に属する生命体だったりする。

 これといった意志も発しないし、俺からすれば植物なのだが、これを【万物造成】で再現することは不可能のようだ。

 とても良く似た何かは作れなくも無いのだが、回復薬というよりは超劇薬なのであまりにも危険だろう、却下だ。



◆◆



「とりあえず、こんなもんでどうかな」

「ちょっと不安定だけど、何とかなりそうね。冒険者としては無理だけど、慣れれば歩くくらいは問題ないかしら」

 父さんと母さんの状態を確認した俺は、早速母さんの義足から作り出した。

 どちらも肘・膝の関節より下の部分が欠損部位になるようで、これなら十分いけると判断して、早速木材を削って義足を作る。

 それほど精巧なものではない、両足のバランスを考慮してやや太めに作っただけだ、断面部分に極力形を合わせて削った。

 ただ少しばかり術式を施してあり、布石にしてある。

 布石というのは、これが俺の作る「義足」の完成形ではないからだ。


「義足、って言ったかしら。木の棒で補助している人を見たことあるけど、思ったより違和感が少ないわね」

「母さん、それ魔道具だから。魔力を流してみると効果が出るかも」

「えっ……えっ?なにこれ!?」

 言われて流してみたのだろう、恐らくはとても不思議な感じがするはずだ。

 そこにあるのは簡素な木製の義足、しかし母さんは「感覚」があるように感じるだろう。


「なにこれ?確かに木なんだけど、自分の足みたいな感覚がする!絶対私の足じゃないってことは分かるし、足が動くわけじゃないんだけど」

「本当に木製であることは確かだから、普通に壊れたりするけどね。歩くくらいなら魔力を流せば問題ないと思うよ」

 それを聞いて喜ぶ母さんだが、ちょこっと肩を落とした。問題に気づいたかな?


「でもずっと流しているってのは無理よね……」

 ご名答である、でもそうじゃあないんだなあ。

 俺は人差し指を目の前で振ってから告げる。

「必要な魔力はごくごく少量、だから母さんが流す魔力を制限することで、その感覚は維持出来るよ」


 布石、というのがこの術式だ。

 肉体と魔道具との接合部分に、錬金術で作り出した薬品を使用した、かなり強固な接着剤のようなものである。

 ただし魔力を込めて術式も施してある、これによって魔力と魔道具が擬似的に神経が繋がるようになっている。

 接続したのは木製の義足、ということは間違いないのだが、感覚としては、「自分の足が木になっている」という感触になるはずだ。

 付与した術式は、水法術に[融合]というものがあり、普段は使いどころが少ない術式なのだが、繋げたものに擬似神経を通すことが出来る。

 擬似的に繋がるだけなので、この時点ではさほど意味がないのだが、起動式がとても軽いのがポイントである。

 魔道具側にも[融合]をかけておくとあらふしぎ、ほとんど「合体」だったりする。

 しかしまあ、あくまで繋がっているだけであって、木製の義足自体はちょっとした[強化]を施しているだけだ。

 これを今義足として使ってもらっているのは、あくまで「ごくごく少量」の魔力を流す練習をしてもらうためである。


「それが完成品ってわけじゃないから、最低限その感覚を維持するにはどれだけ流せばいいか、という感じを掴んでおいて。あくまで繋ぎの義足だから」

「これが繋ぎ、ってことに驚く必要はなさそうね、何かまたとんでもないもの作り出すんでしょ?」

 だいぶ母さんも慣れてきたようだ。

 こっちの魔道具のレベルは知らんけど、「ブロックガン」が銀貨2枚で投売りされてる世界だ。

 いわゆる「魔石」に込められた魔力を使った強化くらいだったりするのではなかろうか。


「ゾークの分も、あるのかしら?」

「それなんだけど、父さんにはちょっと待ってもらうことになるかな。義足は最低支えられればいいけど、義手はあればいいってもんじゃないし。繋ぎの義手を作るにしろ、炉が欲しいから、どこに作っていいか聞こうかと」

 ついでに言うと、父さんは肘こそあるが、治癒した跡がボロボロだ。

 そこも考慮して作る必要があるが、ぶっちゃけもう一度綺麗に斬らせてもらおうかと思っている。

 切断面が綺麗な母さんはさほど接着にも苦労しなかったが、父さんの義手はちょっと手術から必要そうだ。

 この辺りは父さんにも承知してもらっているところだ。


「工房については、村のどこに何を作ってもいいって言われたわ、ちょっと、期待させてもらおうかしらね」

「あとは仕上げをご覧じろ、ってね」

 早速工房立地を考えつつ外に向かおう、とする前に思い出した。


「そういえば、ここの東に廃鉱があるって聞いたんだけど、そこって勝手に何か掘ったりしてもいいのかな?」




「廃鉱で誰が何を掘ろうが勝手よ、だから廃鉱って言うんだから」

 というのは母さん談だ、まあそれもそうだが、所有権が本当にアバウトな世界だなぁ。

 そもそも土地に所有権なんて無い、というのであれば、それは正しいような気がせんでもないけどね。

 地上が誰のものか、なんてのは哲学的な回答になりかねないし、ただの線引きってことか。


 母さんは割とすぐ必要な魔力を調整出来た様で、家の中なら問題なく動ける程度になるまで早かった。

 【魔力操作6】が関係してるのかな?いずれにせよ父さんは苦労すると思うけど。

 さて、俺はネリーに廃鉱の場所を尋ねると、炉の形に一先ずレンガを積んだ、建物は後回しだ。

 ネリーにレンガの積み方を教えつつ、囲みがほどほどに出来たところで、組み方だけ伝えると、レンガを大量に取り出して、およその高さを指定した。

 仕上げはもちろん自分でするが、今回のレンガ炉はさほど長く使うものではない、鉄の融解だけ出来れば十分だろう。

 実際のところ何かが掘れるとは思っていない、痕跡くらいは分かるだろうという気持ちで廃鉱へ向かう。


 【鉱石変質】を使うのはほとんど確定しているが、この世界にあるもので作れるにこしたことはない。

 もしかしたら廃鉱になった理由が、「掘れる鉱石がなくなった」ではなくて、「使える鉱石がなくなった」というものかもしれないからだ。

 町で買った金床は鉄製が最高だった、あの店での最高級品を買ったつもりだが、金床も槌も鉄製が最高となれば、加工出来る鉱石も限られてくる。

 となると、まだ使える鉱石が眠っていたりしないだろうか、という考えもあっての行動だ。


 山はあることは見えていたものの、実際どこが鉱山の入り口になるのか探すのに手間取ったりしたが、ネリーから聞いていたとおりの場所にあった。

 確かに廃鉱らしく、立ち入り禁止にはなっていないが、人一人として見当たらない。

 坑道に入ってみると、EからD級の魔物がそこそこいた、まああくまでそこそこだ、大した数ではない。

 適当に買ってもらった槍で屠りながら先に進むと、それなりに広い空間に出た。

 おそらくはここで作業をしていたのだろう。


 痕跡自体は割とすぐ見つかった、鉄鉱石や砂鉄といった、鉄関係の鉱山だったのだろう。

 あらかた掘りつくされているのは確かのようで、鉄鉱石自体はほとんど見当たらなかった、砂鉄はそこそこまだ取れる感じなのだが。


 ただ、どうも俺の予想は正しかったようで、ミスリルの材料になる「白鉱」の塊を発見した。

 明らかに「不要なもの」扱いだ、そこら辺に散らばっているし、これは「使える鉱石」ではないのだろう。

 不審な点は、ミスリル製武器というものはあるのに、何故「白鉱」の鉱石である白鉱石がここに散らばっているか、という点だ。

 可能性は二つ、ミスリルの製法が異なるか、ガダースの言う「ミスリル」とこの世界の「ミスリル」が異なるものであるか、だ。


 ミスリル製の剣は、父さんが所持していた。

 曰く、「切れ味はいいんだが、強度がなぁ……」という評価で、俺の解析でも知ってるミスリル製とは思えないほど強度が低かった。

 ただし切れ味がいいというのは本当だ、トータルで言えば、ミスリル製であることは確かだろう。

 鉄と白銀で作られた剣は、性能はいいが使い手を選ぶというピーキー仕様であるようだ。

 白銀を使われることから高価なものであり、見た目もいいから、「聖なるもの」とされているそうな。

 これまたファンタジーなことで、などと思ったものだが、ミスリルってそんな感じといえば、そうなんかな?


 決定的に違う点は、やはり製法だろう。

 鉄と白銀で作られている、という点は【完全解析】でも確認できたことで、なおかつ「ミスリル製の長剣」であったのも事実だ。

 品質の違いについてはそもそも生産神(ガダース)が作ったものとこちらのものを比較する方が間違っているため、そこは問題ではない。

 魔物のコアを魔石と評して魔道具の材質にしたりしていることから、どうにも「魔力の伝導性」というものを軽視しているようだ。

 白鉱は単体でインゴッドにしても、大した意味はない、銅にすら劣ると思われる。

 ただ優れた魔力の伝導性を持つため、魔力を放出するタイプの金属製魔道具を製作するのであれば、合金化したい鉱石の一つだ。


 しかしまあ俺にとっては有用でも、今の地上で有用かどうかは別の話、というのは回復薬(ポーション)を作った時から知っていることだ。

 雑草とされている草が、何気に調合することで回復薬(ポーション)の材料になる草だったりしたし、ネリーも?マークだった。

 製法が失われるということはあってはならないものなのだが、この件についてはじっくりやるしかないだろう。


 そもそも俺が師事した相手は、神なのだ。

 それをベースに色々と分析して、【完全解析】を使って効果を確認してきたのは、俺自身なのだ。

 魔術のおかげで[分解]や[抽出]が出来るという点も凄まじいアドバンテージではあるが、俺が作った回復薬(ポーション)は、作り方さえマスターすれば、普通に作れる。

 自慢ではないが、同じ材料と道具で作る回復薬(ポーション)なら、俺の右手に出る者はいないと思うけど。


 廃鉱だから期待はしてなかったが、白鉱だけでなく、どうも白石・黒石といった、これまた魔道具専門のようなものも掘れる感じだ。

 合金化するのはそれ相応の技術が必要とはいえ、各属性石というか、特定の属性に偏った鉱石も放置されている。

 多分掘ってる側からすると、「ただの石」だったんだろうなあ、気持ちは分かるけど。

 他にも色々と成分を含むものがありそうだ、金や銀は無いにしろ、想像以上にここは美味しい。

 本来の目的を忘れそうになるが、来た甲斐はあった、ステンレス製なんかも作って問題はないだろう。

 というか俺が合金した「ミニッツ鋼」もあとはダマスカスがあれば、といった感じだ。

 てか普通に「神具」が作れそうな件についてガダースに問い詰めねばなるまい、生きてた頃と事情が違うのかもしれんけども。


 しかしどうにも鉱脈というか、まだ底の方に何かありそうな感じがする。

 さすがに手持ちのピッケルやシャベルで掘り進める気持ちにはならないが、土質調査という意味で、少しばかり穴を掘らせてもらうとしよう。

 土魔術で50センチ四方くらいの穴をZ軸に向けて、100メートルくらい掘ってみる、これくらいで山崩れは起きないだろう、多分。

 だが行使はしたものの、発動はしなかった。

 ということは、100メートルの間に「土ではない何か」と当たった可能性が高い。

 つまり、何かしらの鉱脈か、あるいはとてつもなく硬い何かがこの下にある、ということだろう。

 となれば、ここは【精霊魔法】の出番だ。


 明確なイメージを伴い、妖精にお願いをする、イメージするのは「ドリル」だ。

 俺に入って来た妖精の力をそれぞれに変えて、右腕に集中させる。

 出力は控えめだ、土ではない何かまで削り取る可能性がある。

 目に見えない何かの力が宿った右腕は、俺の想像通りの形をしているらしい。

 何かを願うまでもなく、ただ制御するだけの右腕は、触れようとする土を凄まじい勢いで削り取る。


 ドリルを回す力は風の妖精の力だが、この形状を担うのは無属性の妖精達。

 螺旋の力は限りなく下方向へと突き進む、自身の身体から範囲は広げていない。

 ただ光は届かなくなると思われるので、自身に光の妖精を取り込んで視界を確保しておくのも忘れない。

 掘り進められる土は[空間箱]の中に一度保管しておく、埋めなおす時にまた使えばいい。

 相当な勢いで掘り進む先に、やがて「それ」を発見した。


「ビンゴだ、黒鉄鉱の鉱脈とは、ツイてるじゃないか」


 思わず内心ガッツポーズを取って、一度【精霊魔法】を解除した。

 黒鉄鉱は、とてもじゃないが持ってるピッケルで掘れるものでもなければ、ピッケルを振るうスペースもない。

 まさかこんなものが出てくるとはちょっと想定していなかった。

 鉱脈自体の大きさも不明だしなぁ……【完全解析】で大きさ判定イケるだろうか?と思ったが、無理っぽい。

 ただこの鉱脈、単純に黒鉄鉱だけの鉱脈ではなさそうだ、間違いなく視界に入るのは黒鉄鉱なのだが、成分的に微妙に違う気がする。


 詳細を知るべく【完全解析】の成分分析結果を広げて確認を試みると、やはり知っている黒鉄鉱の成分と違う。

 黒鉄鉱は地上でも掘れると聞いていたが、神界にしかないと聞いていた成分が混じっているようなのだ。

 ヒヒイロカネにしても今はないと言っていた、翻って考えれば「あった」ということだ。

 となると、これが今の地上の標準なのだろうか?

 そもそも俺が知る黒鉄鉱の成分は神界のものだから、地上で違いがあってもおかしくはないのだが。

 いずれにせよ今すぐこの場で掘り尽くすことは不可能と判断、だいぶ掘った穴から出るべく【一騎当千】を使用した超人ジャンプで穴から出ることにした。



 掘った土を[空間箱]から出して、穴を一応埋めておいた、まあ一度掘った後だからバレバレですけども。

 硬い土を掘り返したワケだから当然余るワケだが、成分を色々解析してみるのもいいだろう、一部は持ち帰る。

 座標をマーキングして[転移]で戻ると、屋敷の敷地の裏でネリーがレンガを積み上げていた、もうそろそろ出来上がりだな。


「ゼン様、お帰りなさいませ。何かいいものありました?」

 俺に気づいたらしい、作業の手を止めてネリーが聞いてきた。

 ついでだし聞いてみるか。

「ネリーにとって、「強い武器」といえば、何製だ?」

「強い武器、ですか?私にとっては硬ければ何でもいいのですけど……」

 うーん、と考え込むネリー、そういえば格闘家だった。


「聞き方を変えよう、強い剣と言えば何で出来た剣になる?」

「強い剣、ですか。よく斬れるとなるとやはりミスリルだと思いますが、一般的には鋼鉄製ではないでしょうか?魔道具になると材質がちょっと分かりませんけど」

「鋼鉄製か、はがねのけん、ってとこかね」

 まあそんなところだろう、やはり黒鉄鉱は加工出来ないと見るべきか。

黒鋼(クロガネ)製とか、聞いたことないか?」


 黒鋼、というのは黒鉄鉱をベースにした鋼であり、鉄鉱をベースにした鋼と似たような製法で作られる。

 鋼鉄製の完全互換ともいえる存在で、黒鋼製と呼ばれる武器は、極めて高い強度を誇る。

 ただその分鋼鉄より重量もあり、俺自身も扱ったことはない、神界ではステータスが不足していたのだ。

 ガダース曰く、「少なくとも腕力A」というのが基準で、この世界で製法を広めても、扱える職人は少ないだろう。

 融解温度も高く、完全に溶かすには普通の火ではまず不可能、レンガ炉の耐久温度では柔らかくにすらなりそうにない。


「うーん、全然聞いたことないですね。ダマスカス鋼とかなら御伽噺で出てくる金属として聞いたことありますけど」

「ダマスカス鋼が何かの材料だったのか?」

「魔剣と言われた武器がダマスカスっていう鉱石から出来たそうです。ただ、今もダマスカスと呼ばれる鉱石はあるらしいんですけど」

「けど?」

「掘れないらしいです、魔法でも魔道具でも歯が立たないとかで。だからダマスカス鉱脈に当たったら、採掘はそこで諦めるそうですね。あの廃鉱もそうみたいです、仮に掘れても何にも使えませんし」


 あの廃鉱にはダマスカスもあるのか、正しく宝の山だな。

 しかし黒鉄鉱の近くにダマスカスがあるってことなのかねぇ、とすればあの黒鉄鉱の微妙な成分の違いもその辺にあるかもしれん。

 ダマスカスが掘れなくなった理由は不明だが、掘れない理由は分かる。

 魔法抵抗が極めて高いダマスカスに魔法なんて通じるこたぁないだろうし、強度としても鋼製くらいじゃ厳しい、ガダースミスリルレベルが必要だ。

 ってーことは、ガダースミスリルの「強度B」以上のものは、少なくとも古代道具(アーティファクト)くらいしかないってことか。


 しかし本当に神具が作れそうだ。

 まぁ、作るつもりなんだが。


◆◆


 炉の仕上がりは上々、なかなかいいじゃない。

 レンガ3トンは多すぎたけど工房を作るときにでも使えばいい。

 一緒に買った鉄もあるし、早速鉄の加工を開始する。

 まずは鉄にはなっているが、魔力を込めるために融解させる。

 鉄くらいならば火法術で作れる火力で十分だ、炉の火力を維持する。

 この辺りは燃料もなしにズルいのだが、気にしたら負けだ。


 一度融解させた鉄をベースに白石を混ぜ込み、合金化する。

 この際に白石側に魔力を込めて、術式を刻みつつ合金にすると、少し冷ましてから加工開始だ。

 鉄製金床に青銅製ハンマーというのは、この合金を加工するには結構際どいところだ。

 ただ、どちらも性能自体は悪くないので、十分やれる。

 刻んだ術式は[軽量]という天法術、[融合]ともども術式として刻み込む。

 金属製の魔道具を作る際には、この合金化する前までに魔力を込める必要がある。

 直接触れるわけではないので若干魔力が分散されるのが難点だが、その分時間をかければいい。

 今回は繋ぎなので、そこまで強い魔力を込めるわけではないが。


 繋ぎといっても、掌の開け閉めくらいは出来るようにするつもりだ。

 手首は固定だが指の関節は第二関節まで作り上げる。

 部品がどうしても複雑になるのだが、本気で作り上げる義手はもっと複雑になる、練習みたいなものだ。

 中世ヨーロッパ仕様の義手、となると機構は曖昧にしか分からないが、設計図は作ってある、そんなにおかしなことにはなるまい。

 父さんだと魔力を流す量に苦労するだろう、なので鉄線を仕込み、筋肉で開け閉めも可能にしてある。

 感覚としては、人型大のプラモデルでも作ってるような気分だが、何せフルスクラッチだ、疲れる。

 でも本番は多分もっときついし、【一騎当千】で疲労を誤魔化しつつ作業する。


 仕上がりを確認する、軽い。

 [軽量]を込めすぎたかと思ったが、人の腕の重さならこんなものだろうか?

 魔力を込めて擬似神経を通した時、ちょっと両腕のバランスが悪いかもしれない。

 元より人の両腕の重さは均等ではない、さしたる問題はないだろう。


 ついでに槌を新調しておいた、青銅製から鋼鉄製にグレードアップ、次はチタン辺りかな。

 目安としては金床と槌はガダースミスリル級まで上げるつもりだ、ジルコニア製まで作ればガダースミスリルは作れるはずだ。

 銀は手に入らない素材ではないだろう、最悪銀貨を融解させたっていいわけだしね。

 ジルコニア製というと、イミテーション的宝石を思い出すかもしれないが、こちらの世界では人工的なれっきとした金属である。

 強度的にはA-と、むしろガダースミスリルより高いのだが、耐熱性で言えばガダースミスリルの方が高いので、まあ使い分けということになるだろう。

 黒鋼(クロガネ)製の金床と槌が用意出来れば、ほとんどの金属は加工可能だろう。


 いずれにせよこれ以上外で作業を続けると、少し問題かもしれない。

 レンガと石材をメインに、自分の工房を作ることにする。

 一人で全部やるのは難儀だが、ネリーにも手伝ってもらおう。



◆◆




 結局母さんから遅れること5日後、父さんの仮の義手を取り付けることになった。

 その際に父さんの腕の断面を一度斬ることにした。

 こっちのミスリル製、まあミスリルと言えば地上ではこれがミスリルなので、ガダースミスリルとミスリル、という呼び方をさせてもらおう。

 とにかく父さんにミスリル製の剣を拝借、普通医療器具ならメスとかだろうとは 思うが、すぐに加工出来るほど切れ味の出る金属はまだない、なのでこれを使う。


 父さんには冥法術の[麻痺]をかけてある、魔力は極小に絞ったので、まあ局部麻酔みたいなものだ、必要か疑問なのだが。

 出血を抑えるため、革製のバンドを肘から上に巻いておく。

 迷ったら断面がブレる、下手すると肘ごともっていくので、結構際どいところだが、一閃。

 断面を確認する前に出血を止めるべく、[中治癒]をかけて傷を塞ぎ、それなりに綺麗な断面になった。


「全然痛くなかったわ、便利な魔法使うなぁお前」

「本当はアレだわ、ヘルスネークとかの全身毒とあんま変わらんのだけど」

「サラッと言うけどお前それ<災害級>だからな」

「アレがそうなの?まあ毒は厄介だけど」


 などと軽口を叩きながら義手の取り付けに入る。

 やることは母さんと同じだが、ワイヤーを肩や上腕の筋肉部分に取り付けて、吊り上げを作る。

 魔力を通せばそれほど器用なこともせずに自然と開け閉めくらいは出来るはずだが、父さんの【魔力操作】はそれほど高くない、現在4だ。

 まあそれでも普通の人より高いので問題はないが、魔力量も母さんに比べて少ないので、多少は苦労するかもしれない。


「こりゃあいいな、これなら槍も使えそうだぜ」

「接続部分は強めに作ったけど、手首は返らないよ?」

「添えられるってだけでも大分マシだ、おお、悪くねぇ」

 などと言いながら槍を振り回す父さん、うん、魔力切れになると思うわ。

 まあ魔力切れになる前にさすがにやめるだろう、さっきから最小限のところを調整するように言っているのだが、通じているのだろうか。


「力が入らないのと、手首が返らないのはちっと問題だが、戦えなくもねぇな」

 実際のところ、B級くらいなら十分殺れるだろーな、父さんなら。

 でもまあ、今は無理する必要はない、何せそれは仮のものなのだ。


「んー、3ヶ月もあれば、元通りになる、かも?」


「本当か!?」

 槍を放り出して掴みかかって来る父さん、なんで義手の方で掴んできたし。

「まあ、元通りっつっても、体から腕が生えてくるわけでもないけどね。父さんと母さん、どちらも不自由なく過ごせるようにしたいとは思ってるよ」

「そんなことが、出来るんだろうなあ。ゼンだし」

 俺だから、という理由であっさり納得されるのも何か釈然としないのだが。



 その2日後、母さんから俺の報酬案が通ったらしいと聞いた。

 てか通り過ぎたらしい、どうしたこうなった。

 母さんにそれとなく、追加の報酬について聞かれたら、そう答えといてって伝えたんだが。

 受けたのは母さんだが、間違いなく苦労するのは俺だ。

 本当にどうしてこうなった。

次は4/1か4/2の12:00

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