告白
「二人は【擬態】ってスキル、聞いたことあるかな」
俺の問いかけに答えたのは母さんだ。
「名前からすると、擬態する、ってことみたいだけどね、持ってる人はいても、その効果は知らないわね」
「自分を強く見せ付けるスキル、というのは存在すると聞きました、それでしょうか?」
ネリーが追随してきた。うん、ネリーはやっぱり物知りだな。
正確な知識という意味では母さんの方が知ってることは多いのだろうが、ネリーのそれは幅が広いというか何というか。
ただ、【擬態】についてはやはりあまり知られていないようだ。
ある意味当然とも言えるだろう、【擬態】は使い勝手としては、かなり微妙なものだ。
他人にかけても本人が状態に気づけば、解除は可能だと思われる、説明文にしてもそう書いてある。
自分にかけて強さを見せ付ける、というのは考えられる使い道の一つではあるが、実力が伴わなければただのハリボテだ。
試したことは無いが、スキルの捏造ということも可能かもしれないが、それもハリボテに過ぎない。
結局利用方法としては、「自分を弱く見せる」というのがベストではないか、と考える。
となると、その利用方法を取った場合、「自分が【擬態】持ちである」ということは隠す必要があるのだ。
故に【擬態】は知られていないし、仮にいたとしても俺の【完全解析】であれば見破れる可能性は高い。
何より【擬態】を持っているにしても、所持者が正しくスキルを使えるかどうかはまた別の話なのだ。
「俺は昨日、【大魔鬼化】を使って見せたんだけど、そうなると俺は特殊能力の持ち主、ってことになるよね?」
二人は頷く。特殊能力の所有者ともなれば、周囲がほっとかないのは、考えなくても分かることだ。
「でも俺がそれを使えると知っているのは、今のところ母さんとネリーだけ。でもステータスを開示する機会が出てくれば、当然バレるよね?」
「そう、ね。洗礼を受ける時はステータスボードの更新があるし、どこかのギルドに所属する時もそうなるわね」
母さんは思い当たるケースがあるようだ。
やはり、[鑑定]を受けるかどうかはともかく、情報開示をする機会はあるということだ。
特に「洗礼」は避けようが無いのではないだろうか。必須かどうかは知らないが。
「だから俺は、【大魔鬼化】をステータスから隠してる。それが【擬態】の効果であり、俺が隠しているものだ」
「ゼン様のステータスボードは偽物、ということですか?」
ネリーは理解が早い、そこまで読めたか。
「偽物というわけじゃない、ただ書かれていることが全てじゃないってこと。全適正については俺も想定外だったよ」
実際に母さんに[鑑定]をして見てもらった。
そこに【大魔鬼化】がないことは確認出来たのだろう、[鑑定]の後で「確かに」と呟いた。
【大魔鬼化】は確かに強力なスキルだが、他の特殊能力はもっとまずいものだらけなのだ。
正直【擬態】でどこまで誤魔化せるかというのは不安要素だし、母さんの【半魔眼】で他のスキルも見破られるかもしれない。
だからもう一つ、伝えることにする。
「実のところ、まだ隠してるスキルがある。【無限成長】がそれだ。生まれつき持ってたよ」
「【無限成長】って、持つ者は人外をも越えると言われているスキルじゃない……」
母さんが天を仰いだ、やはりこれは知ってたか。
「【無限成長】ですか……それを隠されたのは、確かに賢明だったかもしれません。種族を超越するスキルと言われてますからね」
やはりゼン様は規格外です、とするのはネリーだ。
知識が幅広いネリーからすると、【無限成長】持ちは人類を越える者、という判断が出来たようだ。
【無限限界】が何故神の中でも優秀なスキルとされるかは以前聞いた。では人類種としてこのスキルは無意味なのか。
俺の結論はNOだ。
恐らく、汎用能力におけるスキルレベルは、一定値まで行くとそれを越えることは難しいのだ。
槍王である父さんの【槍術】は7、確かに高い。
父さんが「槍王」になったのは5年ほど前だと聞いた、そしてネリーの【格闘術】レベルは5だ。
おそらく、スキルレベルについては、上昇するにつれて何かしらの制限がかかるのではないだろうか。
そもそもスキルレベルというのは絶対的なものではない。
それに技量を高めるにつれて、その上昇に鈍化がかかるのは当然のことだと思う。
このスキルは、恐らくそれを無視して成長し続けるというものだと思われる。
つまり、【無限成長】というより、限界無視という方が正しい。というより無意識に作る限界という境界を持たないのだろう。
だからこそ【無限成長】持ちは実力者足りうる力を持てるのではないか。
世界のルールがどう定めてあるかは分からないが、俺の汎用能力の量と質はやはり異常だろう。元々の記憶や経験を加味しても、いくらなんでも伸びが良過ぎるように思う。
とまあ色々理由付けをしてはいるものの、実のところ【無限成長】についての恩恵は俺自身はそれほど感じたことが無い。
このスキルを持って生まれた人物は、少なからず同じように思うのではないだろうか。武術神にしても魔術神にしても、それほど実感はなかったに違いない。
ただ、これを他者から見れば話は別で、「強さ」を求めるものからすると、垂涎のスキルではないだろうか。
「俺の記憶が正しければ、【無限成長】持ちは、周りへの影響が強すぎる。だから【擬態】で隠してあるのさ」
「前世持ちだからの発想、ってことね。ゼンは強すぎる力を持つ意味が分かっていたから、【擬態】で隠しておいた、ということかしら」
「そういうこと。隠し事ってのはつまり【擬態】そのものさ」
紛れも無く事実である。
【擬態】していたことが隠し事である、というの事実だ。
と、いうことにしておいてくれると助かるのだが。
「【無限成長】・【念話】・【擬態】に加えて【大魔鬼化】です、か。固有能力が2つ、特殊能力が2つとなれば、神となった英雄級……あるいはそれ以上と見なされそうですね」
「俺としても、いつまでも隠し続けるつもりはないよ。ただ、成人して、独り立ちするまでは隠しておくつもりだ」
ネリーの推測はそのまま当てはまることだ。
【擬態】しておいてくれたのはファインプレーだったと思う、誰がかけたのか知らんけど。
ついでに【改良模倣】の効果が効いてくれたのも助かった。
【擬態】の取得経緯は幸運であったと思う。
母さんは何かを反芻しているようだが、[鑑定]の内容を思い出しているのだろうか。
【半魔眼】がどこまで見えるのかは不透明だ、ファジーな説明に加えて、熟練度がいくつあるか、なんてことは俺にも分からないことだ。
ただまあ、少なくとも【唯一能力】という存在は知らないだろうし、特殊能力がバレたところで、母さんが俺を利用しようとする可能性は低いと思う。
やがて納得がいったのだろう、母さんが語りかける。
「ゼンが【無限成長】や【大魔鬼化】を持っているかは、私のスキルでも分からなかった。でも【大魔鬼化】はこの目で見たし、【擬態】というスキルを持っている、ということは理解したわ。けれど、まだ何かあるのよね?」
「無いとは言えないかな。母さんのスキルで何か分かったの?」
問いかけてみるが、ある程度母さんの【半魔眼】で見える限界が読めた。
母さんは正直に答えたようだ。
「そうね、少なくとも固有能力は他にも持ってるわね?何かある、ということは私にも見えたもの」
何があるか、というのは分からなかったけれど、と締める。
なるほど、母さんの[鑑定]で分かる範囲と【半魔眼】で見える範囲は、固有能力まで、ということか。
パラメータには言及していないことから、そこまで意識して見ていないか、【擬態】の性能を上回ることが出来なかったか、そこまでは分からんが。
「これ以上何かお持ちなのですか!?」
ネリーは驚いているが、ぶっちゃけて言えば、俺はネリーを実験台にする気だったりするのだ。
ネリーがどこまでついてきてくれるかは分からない。
しかしネリーという人材は、俺にとって必要な人材であり、大切な家族だ。
少なくとも【成長指導】の対象にはなってもらうつもりでいるし、【変化之理】を使うことになるかもしれない。
「隠していることがまだある、というのは認めるよ。でも、知られて困ることもある。けどもこれだけは分かって欲しい、母さんもネリーも、父さんも、俺にとっては大事な家族だ。前世でも得られなかった、とても大事な人だと思ってる。だからこそ話さないこともあるってことを、分かって欲しい」
どうしても、というのであれば話すことも吝かではない。
けれど、俺の目的を知るのは、最悪俺だけでもいい。
世界の救済なんて重い荷物を背負うのは、俺だけでも構わないし、そもそも世界が滅びる、なんてことは信じてもらおうと思っていない。
結果がそうなればそれでいいことだ。
「母親としては、そこまで言うのなら教えてもらいたいのだけど、ゼンは何かしらの使命を持って産まれて来た、ということかしら」
鋭い、としか言いようが無い。
そこまで思い至るとは、聡明な母であると思う。
もしかしたらスキルを使ったのかもしれないけども。
「そこまで行き着くのは流石母さんだと思うよ」
「その使命に、私たちのことは、入っていない?」
「入ってる、だから話さない」
「そう、私たちでは、その手伝いは出来ないのかしら」
「分からない。でも、協力してもらう日が来るかもしれない」
「それまで話さないということかしら」
「分からない。何しろ俺もどこから始めたらいいか見当も付かない、雲を掴むような話だから」
「そんなに難しいこと?」
「難しいだろうね。母さん達だけじゃない、色々な人の力を借りる必要があると思う」
「出来るの?」
「出来るかじゃないね、やるのさ」
「そう。何時までも私たちの子供じゃいられないってこと?」
「それは違う、俺は死ぬまで父さんと母さんの息子で在り続ける。例え世界が滅びても、ゼン・カノーはゾークとシャレットの息子だ」
「……そっか、分かったわ」
俺との問答に納得してくれたかどうかは分からない。
けれど母さんは理解してくれた。
「あなたがやるべきことは私たちは知らなくていい、そう言いたいのね」
「正確に言えば、何をしたら俺のやるべきことを果たしたことになるのかが分からない以上、俺としても説明のしようがないんだ」
一応、プランが無いわけではない。
ただ段階が多すぎるというのもまた事実だ。
まずは原因から調べなくてはならないのだが、その切っ掛けを掴むには、神界の情報だけでは足りない。
正直ゼン・カノーである俺が、一代で成し遂げられることが可能なのかすら不明なのだ。
本来なら今すぐにでも外へ向かわなければならないだろうが、それは焦りでしかない。
情勢を見極めたうえで、どのように行動するのが効率がいいか、ということを確かめてからでもいい。
そのためならば、Sクラス冒険者である両親のフットワークは貴重と言える。
しかし、俺とネリーはまだ幼すぎる。
せめて俺が一次成長を終えて、ネリーが成人と言える年齢になるまでは、このまま生活するのが望ましい。
ネリーが同行してくれるかどうかは、まだ分からないが。
「実のところ、父さんと母さんにやって欲しいこと、ってのはある。でも俺とネリーはまだ成人には程遠いんだ」
「私にも、何かお役目があるのですか?」
ネリーが何かを期待するように見つめてくる。
これも言っちまうか。
「俺が何をするか、ということはまだ決めてない。でも、ネリーが一緒に居てくれれば、心強い」
俺がそう告げると、ネリーは母さんに視線を向けた。
その視線に気づいた母さんは、一つため息を吐くと、こんなことを言い出した。
「ゼン、ネリーはね、あなたの奴隷になりたいんですって。隷属道具、まだ持ってるのよね?」
◆◆
「ネリーは一生ゼン様にお仕えするつもりです」
そうは言われたものの、隷属道具は極めて邪魔なモノだから外したわけで。
確かに持ってることは持ってるが、それを再度付ける、というのは俺の中の選択肢に存在しない。
「そうは言うが、邪魔だから外したもんやぞ?」
「ネリーの忠誠を信じて頂けるのであれば、その証として私にお与えください」
「外した意味ねぇだろそれ」
「ゾーク様からゼン様にマスターが移ります!」
「いやそういう問題じゃねえから」
母さんに取り成してもらって、その場は流れたのだが、どうにもネリーに諦めてくれる様子がない。
ぶっちゃけ母さんも気が進まないようだが、俺もネリーを必要としている、ということで若干諦めムードだ。
実のところ昨日の時点でネリーからそういう申し出があったらしい。
俺や父さんに相談してから、ということで流したそうだが、ネリーは俺に仕えることを強く望んでいる。
とはいえ、隷属道具を付けることについては、やはり母さんも思うところがあるらしく、その場で付けてあげなさい、とまでは言わなかったのだが。
[空間箱]から首輪を取り出す。「服従の首輪」と名付けられた魔道具。
何を言われようが、コレを再度ネリーに付けるつもりはない。
主人と奴隷という関係を望んでいるわけでもなければ、行動を縛るということは気が進まない。
何よりも縛ることによって、ネリーの長所が失われる可能性が高い。
ネリーは極めて柔軟な思考が出来る聡明な少女である、と俺は評価している。
だからこそ自由な行動権利を持つべきだと思っているのだが……。
(きみは俺の傍にいて嬉しい?)
何とはなしに妖精に話しかける。
(マスターの役に立ててるなら、嬉しい)
(なんで?)
(誰かの役に立てるのが、嬉しいから。マスターならもっと嬉しい)
この子に限らず、精霊の理念はそこにある。
精霊というのは本来自我を持たない。
もし自我があるというのであれば、それは俺が与えたことになる、というのがラピュータ評だ。
精霊というのは意思はあっても、自分のために何かするということはない。
お願いされれば、そうする、というものだそうだ。
全ての精霊に共通するというわけではない、精霊はお願いをそのまま実行するわけではないからだ。
それを気まぐれとするのか、お願いの仕方が悪いのか、というのは微妙なところだが。
ただ強制されることは嫌うらしい、と言うのがだか、どこからどこまでそうなのかということは全く分からない。
(マスターのお願いは、分かりやすい)
(適当だよ)
(わたしたちも、どこまでやればいいか分からない、だからそれでいい)
俺もよく分からない問答をしているものだと思う。
魔道具を眺める。
無骨なデザインだ、成分的に言えば、青銅製のそれ。
ネリーに似合っているとは全く思わなかった。
実際留め金すらない、ただの青銅の首輪で、デザインセンスの欠片もない。
装着する時は魔力を込めることにより、首輪が二つに割れ、それを首に当てることにより装着される。
首にピッタリと嵌るようになっていて、成長に応じて首輪の大きさも変化するという、そこだけは無駄に性能が高い魔道具のようだ。
ただ、奴隷として何かしらの魔道具を付けるのは当然であるようだ。
この「服従の首輪」ほどではないにしろ、何かしらのペナルティが与えられるようになっている。
奴隷になるものは、それ相応に理由があるもので、犯罪者であったり、身売りしたものであったりするらしい。
犯罪奴隷は一定の服務期間を終えるまで強制労働させられるが、身売りしたものはそれ相応の金額で売買されるのだそうだ。
少なくとも本来平民が買うようなものではないらしく、貴族やらが引き受け先になることが多いのだそうだ。まあ、資産家は別だろうけども。
そもそも身売りしてくるような身であれば、奴隷にならねば生きていけない、という事情もある。
その辺は色々あるのだろう、少なくともそれなりに納得しないと奴隷になったりなどしないのだ。
だが、ネリーはその辺りは違う、望んで奴隷になったわけではないはずだ。
しかし父さんに仕えることにはむしろ積極的であったし、解放されたいと思ったわけでもない。
彼女にとって、隷属道具が外れたことは、一時の解放に過ぎないのだろうか。
若干面映いが、俺に仕えたいと思っているのは本心なのだろう、そうでなければこんなモノを再度付けろなどと言ってこない。
その気持ち自体はとても嬉しいし、実際のところありがたいという思いもあったりする。
それでも、だ。
この首輪を付けることは、絶対に認めるわけにはいかないのだ。
結論は既に出ているんだよ、ネリー。
◆◆
「アレは付けられない、という結論に落ち着きました。そういうわけで母さん、ネリーに着ける魔道具を作ろうと思うんだ」
「なんだかとんでもない事を言われた気がするのだけれど」
俺の中で折り合いは付けた。
ネリーは主従の形を欲しがっている、と結論付けた結果、ならばそれらしい首輪があればいいじゃない、と。
ただ普通の首輪じゃ納得はしてくれまい。
だからといって国で売られている魔道具を渡して、はいそれで、は流石に通るまい。
「つまるところ、無ければ作ればいいじゃない、という前世の記憶の格言通り、魔道具を作ろうかなと」
大和魂である。
何かが違う気がするが、物作りに関しては地球民族の中でもスペシャリストとして生まれた身である。
「簡単に言うけれど、魔道具なんて高価なものを作るのは私たちでもそんなに簡単n「できるよ」えっ」
「いや、魔道具なんて、大したことないよ。今回は作業するための道具がかなり限られるから、あまり細かな細工は出来ないけども」
母さんは何か勘違いしているのか。そもそも「服従の首輪」にしても、全くもって大したものではない。
むしろ作った奴は下手だと思うくらいだ、術式の完成度が低すぎる。
これでも生産神に学んだ身であり、魔術神や研究神の知識を学んだ身だ。
既に俺は知識神の知る一般的な魔道具の性能を遥かに越えるモノを作り出せる。
さすがに鍛冶の力量であったりとか、個々の技術についてはそれを上回ることは出来ないが、魔道具製作者としては、「アクイリック」の誰にも負けない自信がある。
発想の次元からして違う。地球育ちを侮ってもらっては困る。
魔道具を作るにおいて重要なのは、どういう術式を付与するか、そしてどうやってそれを魔道具に伝達するかにある。
この辺りの組み合わせの豊富さで言えば、ガダースやアインより俺の方が総合的に上だろう。
付与する術式単体で言えば、ヴァニスには叶わないまでも、複合させることにおいては俺の方が発想的には上回っている。
さて、材料なのだが、今回はネックレスのようなアクセサリーを作るのは少しばかり無理がある。それを行うための器具がないのだ。
なので、無骨にならない程度の革製の首輪を作ろうと思う。
考えているのは、ベルト式チョーカーだ。
これならば、多少なりとも主従っぽく付けられるのではないかと考えた次第。
決してそういう趣味ではない、断じて。
というわけで、母さんには素材になる獣の皮を調達して欲しいわけだ。
まあ、獣である必要は無い、魔物の皮でもいい、というより術式を付与するのであれば魔物の皮の方がいいこともある。
「材料として欲しいのは、魔物の皮なわけだけども、この辺りで出てくる魔物っているの?」
「魔物の皮?そんなもの使うの?」
ありゃ?なんか思ってるのと違う。
「なんでさ?魔物の皮っつったら革細工の材料っしょ?」
「えっ?魔物の価値といえば、魔石でしょ?」
「えっ?」
魔石?まさかコアのことじゃあるまいな?
「その、魔石ってのは、壊したら魔物が死ぬアレのこと?」
「それよ?魔石は魔力の塊だから、魔道具の魔力材として使用しているのだけれど?」
「ああ、なるほど……ってことは、デカければそれほど価値が高いの?」
「そうね、さすがにE級レベルじゃ価値もそんなにないけれど、B級ともなれば結構な値段になるわね」
B級、というのがどれくらいか分からないが。
何しろ貨幣価値もまだよく分からんしな。
しかしコアを魔道具にねえ、その発想は無かったわ、ホウセンからも壊せって言われてるし。
「もしかしてランク付けの高い魔物ほど強かったりするわけ?」
「流石に<災害級>ともなれば、魔石ごと壊さないと魔物を倒せないけどね」
「その、<災害級>ってのは、ランク的にどうなるわけ?」
「S級、ってことになるわね。まあ私たちも二回しか戦ったことはないわ、ギルドから緊急依頼で受けたっきりね。流石に命が持たないもの」
「例えばどんなのがいるの?」
「そうねえ、固有名の魔物には遭ったことないけれど、パープルジャイアントベアっていう5メートルくらいの巨大な熊だったわね、<災害級>としては発生しやすいみたい」
10人がかりで倒したわ、という母さんの魔物名には聞き覚えがある。
確か神界でホウセンに戦わされた魔物の一種に似たような奴がいた。
あの大きさなら、<災害級>って言われるのは分かる。俺が精霊体だからこそ一人で倒せたようなもんだもんな。
ただホウセンから言わせれば、「中級クラスとして一般的な個体」らしいが。
そういえばあのコアは確かミスリルでは壊せなかったような……?
「それ魔石を壊せたの?」
「<災害級>の魔石は簡単に壊せるものじゃないわね。基本的に魔法士数人がかりで魔力を練って魔法で壊すんだけど、私たちにはゾークの槍があるからそれで壊したわ。ゾークの槍は特別製だからね。私たちが探索した遺跡で見つけたのよ」
父さんの槍は古代道具というもので、何で作られているのかはよく分からないらしい。
ただ、現代ではお目にかかれるレベルの強度を誇る武器であり、今の父さんの愛槍だそうな。
しかし古代道具ね、「服従の首輪」みたいな術式付与された魔道具じゃなかろうか?材質は見てみないと分からんな。
まあ、それはいずれまた、ということで、この辺りで取れる魔物の皮だ。
「話を戻すけど、この辺りで現れる魔物というと何がいる?」
うーん、と考えてから母さんが名前を挙げていく。
本当に初級レベルというか、大した魔物がいないなあ。
その分平和でいいことだけど、あんましいい素材にならない。
「ビガーシープくらい、いると助かるんだけど」
「ビガーシープねえ、単体ならC級だけど、この辺りじゃ見かけn「話は聞かせてもらった!狩り行くぞゼン!」
今あれだよね、父さん「ガラッ」って感じだったよね。
AAかなんか張ろうか?てかいつ帰って来た父さん。
目の前に突然現れた父さんに母さんも驚いたらしく、軽く腰を打ったようだ、微妙に痛そう。
父さんは仕事帰りのはずだけど、元気いっぱいだ。
むしろやる気ありすぎ修正されて。
「ネリーからだいたい聞いた!それで?ゼンはビガーシープ狩りたいのか!よっしゃ行くz「待ちなさいよ!」今回ばかりは引かんぞシャレット!」
「むしろネリーから話を聞いたうえで、ビガーシープを狩りたいという事情について何も聞かないのは何故?」
「聞く必要がないからな!何か知らんがゼンに必要なんだろう?」
「うん、まあ、そうだけど、どこから聞いてたの?」
「ビガーシープくらい、いると助かると聞こえた!」
「会話の間にあったことについて、何も疑問を覚えない父さんはある意味男らしいね……」
そうだろう!と鼻息荒く腕組みをする親父殿。
おかしい、何かもっとシリアスな話だったのに。
まあ父さんのこのノリ嫌いじゃないけどね、バカだけど。
「で、近くにはいないって聞いたけど?」
「ついさっきまで狩ってたからな!その辺りまで行けばまだ残ってい「聞きなさいってば!」ええい、まだ残りはいる!行くぞゼン!」
そう言って俺を担ぎ上げる父さん。
ちょい待って、俺無手ですか?
「父さん、俺の得物は?」
「おお、やる気だなゼン!まだ槍は買ってきてないが、お前なら弓だけで「ちょっと、いきなりCきゅぅっ!」っ、やれるだろう!」
「……まあ、ビガーシープくらいならそれでもいいか」
「ちょっと!?ゼン!?」
抗議する母さんだけども、確かにビガーシープくらいなら弓と多少の矢があればいい。父さんに抗議しようとして潰されてたけど。
たまにだけど、何気に父さん結構容赦ないよね。
流石に矢が全く無いのでは弓の使いようがないので、父さんにせめて倉庫に寄ってくれと伝えた。
[空間箱]に矢を入れている作業については何も言わないのな。ついでに短剣を2本入れておく。
弓はともかく矢も短剣も青銅製で今一つだけど、まあ文句を言うほどではない、手入れはされているようだし。
「で、どのくらいの距離なの?」
「ここから30キロくらいだ!」
遠ッ!遠いよ父さん、徒歩でしょ!?
「走れば2時間だ!行くぞゼン!」
「ウソでしょ!?」
本当に最小限の準備で「走って」狩りに行くハメになった。
何故こうなったし……。
次は3/27 12時予定です。




