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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第二章 幼年期 ~鬼才の片鱗編~
20/84

ネリーという獣人娘

 素を出さなければ、ネリーは聡明な知的少女であり、かつ獣人らしいパワフルさを持ち合わせた少女なのだろう、と推測する。

 まあまだ7歳だから、知らないこともあるのだろうと思う。

 ただ、魔法は知ってても魔術は知らない、というのはどう考えてもおかしい。


 可能性は2つだ。

 一つはネリーが「魔術」というものを知らなくて、「魔術」の現象を全て「魔法」として捉えている、ということ。

 もう一つは、「魔術」は既に失われていて、「魔法」の概念のみが残った、ということだ。


 これは母親に聞いた方が早いかもしれない。

 だが、母親に【念話】で話しかけるのは、まだ少し抵抗がある。


 俺は両親を知らずに「加納善一」の生涯を終えた。

 だから、「親子のスキンシップ」というものをしてみたい、という願望が少なからずあるのだ。

 出来れば先に【念話】で話しかけるのは避けたい。自分の口で喋って、「親子らしい」ことをしてみたいのだ。

 先祖返りであることは既に知られているのだからあまり意味はないし、隠し事をしているというのもバレている。恐らく記憶があることも知っているだろう。


 この際妹か弟かにその役目を任せるという手段もあるにはあるのだが。


 ちょっとだけ、構って欲しい、とか思ったりするのだ。


 神界にいた時からそうだが、精神年齢は確実に低下してきている。

 ある程度体に合わせてしまっていたりするのだろうか。

 全く制御出来ないわけではないのだが……。


 まあ、とりあえず、声帯がある程度発達するまで、【念話】は両親に使わないと決めた。

 となると、ネリーの協力が必要になるわけだ。

 これまで【念話】で伝えたことが無い以上、まだ「使えない」とされている、と思いたい。


(ネリー、これから二人だけの時は、【念話】で会話するのは吝かでもない、口にすることもあるだろうが、ネリーに聞きたいことは俺にもある)

「ホントにゃ!?」


 ピコッと耳が立ったように見えた。

 もしかしたら尻尾とかあって、振ってたりするかもしれない。


(ただ、条件がある。俺と【念話】で会話出来る事は、両親にはまだ伝えるな)

「それは……難しいかもしれにゃいにゃ」


 そう言うと、またしても顔を近づけてくる。

 いや、顔というより、見せたいのは首輪の方だろうか?

 今まで気づかなかったが、確かに首輪がある。


「この隷属道具(くびわ)がある以上、ゾーク様に聞かれたら嘘は付けにゃいのにゃ」

隷属道具(くびわ)?)

「そうにゃ、ネリーは奴隷にゃのにゃ、マスターであるゾーク様に嘘は付けにゃいのにゃ」


 奴隷か……まあ、存在するというのはシェラからも聞いていた。

 俺は博愛主義ってわけじゃないし、明確な動力源が存在しないとすれば、そういった存在が必要だろうと思っている。

 ただネリーには、それをネガティブに感じているような素振りを見せた覚えはない。

 むしろ従者とか使用人とか、そんな雰囲気だ。

 そういった事が許されるのかどうかは知らないが、虐待を受けたり、色々とアレなことをさせられたりはしていないのだろう。

 両親はネリーを大事にしている、と推測出来る。


 しかしここまで近くで見られれば、【完全解析】が使えるかもしれない。

 説明を受けるよりは、その方が早いだろうと思い、隷属道具(くびわ)を解析してみる。


名前 服従の首輪

効果 装着者は主人(マスター)の命令に従わなければならない

   主人(マスター)の不利になる行動は出来ない

   なお主人(マスター)が死亡した時は、

   最初に会った人物が新たな主人(マスター)となる

   命令なく主人から3km以上離れるか、主人を害する行動を取ると

   ペナルティが与えられる

   ペナルティについては、行動により効果が異なる

   最大のペナルティが発生した場合、装着者は死亡する

   なおこの首輪は、解除術式を持つ高い魔力を持った人物

   或いは主人には以外は着脱不可である


 ややファジーな部分もあるのだが、およそ解析できた。

 厄介なシロモノだが……。


(もしかしたら主人(とうさん)が外せなかった、ということか?)

「そうにゃ、厳密には外せる人はいなかったのにゃ。別に外して貰わなくてもいいと思ってるにゃ」

(ふむ、しかしいつまでもそのままで居たいと思っているのか?)

「そうだにゃあ……もしマスターに何かあれば、サブマスターのシャレット様にマスターが移るけど、その時はゼン様にマスターになってもらうつもりにゃ」


 何とコメントしたらいいか分からん。

 人に仕えるのがネリーの幸せになるのだろうか。


「そういうワケじゃにゃいにゃ。ただ強い者に従うのは獣人の本能にゃ、戦うことこそ本能の獣人だから、仕える相手が強ければ、より強い相手と戦えるにゃ!」


 それに、と付け加えてくる


「ゼン様は先祖返りで間違いなく強くなるにゃ!一緒に勉強したり、一緒に修行したり、一緒に戦ったりしたいのにゃ!」


 ネリーは自分のやりたい事がもう決まっていて、奴隷とかあんま気にしているわけじゃないわけだ。

 実のところ、さっきの首輪を解析したとき、かかっている術式は把握できた。

 あんまし出来のいい術式じゃなかったが、解読はそれほど難しくなかった。むしろ何で外せる人物がいなかったのか不思議なくらいだ。

 やはり魔術が存在しないのだろうか?

 いずれにせよ、魔力がまだ足りないので、今すぐ外せるというものでもないのだが。


(ネリー、隷属道具(くびわ)が外れたら、何かやってみたいこととかあるか?)

「そうだにゃあ……無いことも無いのにゃ。でもゼン様が成長してからの話にゃ」

(そっか、まあ俺もネリーと一緒に色々したいのは確かだし、これからもよろしくな)

「分かったにゃ!」


 その時が来たら両親に話してみよう。

 確実に解除出来るとはまだ限らないし、自分の成長をまず優先するべきだろうな。

 まあ、まだ手足もロクに動かせないワケだが。


 それからネリーといくつか約束した。


・ゾーク達に聞かれるまで、【念話】で会話しているということを自分から話さないこと

・【念話】は二人きりの時のみ使うこと

・魔術や魔法については、聞かれない限り伏せること


 こんなところだ。

 現状、俺にもっとも近いのはネリーだ。

 ネリーにはある程度知ってもらって、あとは両親次第、ということにした。



◆◆



 それから1ヶ月後、久しぶりに両親に会うことが出来た。


「ゼンってば、ちょっと喋れるようになったんだっけ?」

「ぅん、かーさん」

「可愛いッ!」


 拙いが、それなりに話せるようになった。まだまだ単語の組み合わせでしかないが。

 しかし母さんもハグしてくるのか、スキンシップというやつだな。

 ちょっと苦しいけど……気分は悪くない。


「ゼンも喋れるようになったのか」

「まだ、ちょっと」

「俺は分かるか?」


 父さんが自分を指差して聞いてくる。


「とーさん」

「とーさん、か、うん、そうだ、俺はお前の父親だ」


 父さんも何やら感無量だ。

 発声練習の甲斐があったというものだ。

 顔の認識はある程度出来るようになったものの、まだ【完全解析】をかけられない。

 でもまあ、もうしばらく先でもいいか、と思い始めている。


 ちなみに四肢の扱いにはだいぶ慣れた。もうそろそろ歩けるくらいは出来そうだ。

 生後半年だと考えるとかなり早いんじゃね?

 いや、俺はクォーターの混血種なんだっけ。地球の常識は通用せんな。


「もうはいはいくらいは出来ますよ、人間族かなと思うんですけど」


 と言うのはネリー。まあ人類には間違いないだろう。

 しかし種族かぁ。人種はこの場合何になるのかね?ステータスはまだ不明なままなんだが。

 何か特定の人種ということにした方がいいのか?ちょっとどうしようか悩んでいる。

 【擬態】で何かしらそれっぽくしておくのも不可能では無さそうだが……そもそもここは誤魔化す必要はあるんかな?


 というのも、ネリーとはちょこちょこ【念話】を使って話しているんだが、種族はなんかまた別の方法で調べる方法があるらしい。

 それが[鑑定]と似たようなものらしく、それを受けるまではよくわからないっぽい。

 デフォルトだと俺の種族はステータス的に「人類種??族/?」となっている。

 つまり、俺の種族はまだ未確定なのだ。


 これについてはネリーも知らなかったが、生後およそ1年くらいで、「鑑定官」という仕事を持つ人が調べるのだそうだ。

 役所届けみたいなもんだろうかと思ったが、戸籍とかはないらしい。

 1歳になった時に受ける「仮洗礼」みたいなもんらしく、本来そこで初めてステータスボードを家族などに公開するのだとか。

 まあ変に【擬態】でごまかすより、その時に種族を教えてもらおうか。

 流石に「人類種」ということは確定しているのだから、神族とまでは出ないだろう。


 ネリーからすると、【擬態】中の俺のステータスは「精神力は高いが、残りは4混血らしい優秀な子供」という評価になる。

 ただし、先祖返りのステータスからすると、


「言いにくいけど、ゼン様は先祖返りにしてはちょっと残念にゃ」


 というレベルらしい、残念とか言うなし。【擬態】したステータスしか知らないからだと思うけど。

 ただ初期精神力が高い子供はステータスが伸びやすいとされているそうで、周囲からはそれなりに知られる存在になるだろうとのこと。

 そんな法則あるのか?と思ったら、そういう傾向にある、とされているそうな。

 ステータスボートがどんなもんか知らんが、基本的には[鑑定]の結果が出てくるだけだろう。ヴァニスのあの板みたいなもんだと思う。


 一応鑑定官には守秘義務みたいなもんがあるそうだが、しかるべきところに報告するらしいので、完全に隠し通す、というのは難しい。

 先祖返りや固有能力(ユニークスキル)持ちは、場合によっては国が動くらしいが、どうするかねぇ。

 懸念事項ではあるが、【擬態】で誤魔化すという方法もある。


 実際には、俺自身でまだ【擬態】を使ったことがない。勝手に使われていただけだ。

 固有能力(ユニークスキル)持ちだということを、両親が他に言いふらしたりしていれば、もう手遅れではあるのだが。

 でも俺が【擬態】していることについては、まだ誰にも知られていないはずだ。



「そうねえ、エルフっぽいとは思うんだけどね、魔族はなさそうかな?」

「むしろ鬼人族じゃないか?」

「角らしきものは見えませんけど、体格は良くなりそうですね」

「あーうー」


 種族に関しては「人類種」なのは間違いないのだと、あまり気にしている様子はない。

 俺がどこにカテゴリされても、さほど重要ではないのだろう。

 特に父さんと母さんは、「自由人」という国に属していないフリーな立場にあるそうで、国に属したりはしていない。

 一応税金らしきものは払っているようなのだが、「国民」と違って町には住めないが、その分義務も少ない。

 元々はどこかの国の「平民」だったそうだが、元々小国だったらしく、今はどちらも存在しないのだそうだ。

 滅ぼされたというよりは、気がついたら他国に併合されていたとか何とか。


 今住んでいる国は、「カルローゼ王国」という国であり、その中でもやや辺境に位置する場所である。

 国土がどれくらいあるのかは不明だが、大陸でも有数の広さ、というのがネリーの評価だ。

 別にある国が全て王国制とは限らず、代議制やら帝国制やらあるらしい。国の在り方は単一じゃないもんな。

 日本みたいな民主制もあるっぽいが、そんなに多くはないようだ。


 「カルローゼ王国」は、「王族」「貴族」「平民」「奴隷」といった身分制でもあり、両親は「平民」にあたるようだ。しかし、そもそも国民ではないので、あまり関係はないのかもしれない。

 大半は「平民」なのだろう、次いで多いのは「奴隷」になると思われる。

 ただ奴隷といっても、単純な労働力といった認識であり、普通は虐待されていたりするものでもないようだ。

 奴隷は奴隷なりの権利があるようで、主人があまりに酷ければ、国に訴えて主従解消することも可能なようだ。

 奉公人とか従者とか、そういうものに近いようで、保護している側にもそれなりに責任がある。


 隷属道具(くびわ)というものは存在するが、ネリーのものは特別すぎるようだ。

 本来奴隷用の隷属道具とは国の管理品であり、奴隷商も認可したものしか使ってはならない、といった決め事も多い。

 奴隷を持つ者についても、色々と決め事があるのだが、やはりネリーが特別ということだろう。



「ゼンは将来何になりたい?」

「んー」


 父さんがそんなことを語りかけてくるので、曖昧に答える。

 まだちょっと喋れるくらいの幼児にそんなこと聞かないで頂きたい。

 そもそも何になりたいというか、何になるというか、そうしたものは決めてない。

 何をするということは、既に決まっているワケだが、課程はまだ未定なのだ。


「ゾーク、ちょっとそれは難しい問いかけじゃない?」


 父さんの困った質問を、母さんがフォローしてくれた。


前世(きおく)持ちだとしても、まだそんなに喋れないでしょ?」

「それもそうか。まあ、強い男になれば、それでいいけどな」


 記憶持ちということは重々承知しているようだが、それを気にしている素振りは見せない。

 詮索してこないのはありがたい。


「でも隠し事についてはいつか教えて欲しいわ、ね?」

「あい」


 もしかしたら母さんには【擬態】持ちであることがバレているかもしれないな。

 もう少し情報が整理されたら、全て話すかはさておき、【擬態】していることは告げてもいいかもしれない。



◆◆



 さて、生後8ヶ月、といったところだろうか。

 今俺はネリーと一緒に屋敷を探検中だ。

 といっても、そんなに広い屋敷でもない。狭くも無いが、日本の「家」と同じレベルだ。


「おれのいえと、ひろさは、あまり、かわらない」

「そうですかにゃ?ゼン様はもっと広いお屋敷に住んでたのかと思ったにゃ」

「いえは、おなじくらい」


 俺が老後、というか帰国してから、腰を落ち着けて住んでた家は、日本感覚で言えば「屋敷」だろう。

 バカデカい屋敷だったわけではないが、友人が泊まりに来たりしてたので、ある程度スペースが必要だったのだ。

 何坪だったかな?80坪くらいはあったと思うんだが。


 元々歩き方というものは知っているわけで、歩けるようになってからは割とスムーズに動ける。よたよたとするところもない。

 記憶持ちであることは周りも知っているので、そこは不審がったりはされないようだ。

 まだどことなく他人の体、という感覚もあることはあるのだが。


「こちらがお庭ですにゃ、訓練スペースもあるにゃ!」

「ひろいな」


 ネリーに案内された庭は、結構な広さを誇っていた。

 玄関らしきものが見当たらないので、裏庭ということになるのだろう。

 一対一の鍛錬とかには十分な広さだな。


「村の中で一番いいところを借りてるみたいにゃ」

「しゃくや、なんだな」

「そうですにゃ、どこかの貴族さまの別荘らしいにゃよ」


 割といいところに住んでるんだな。

 内装はそんなに綺麗な感じはしなかったけども。

 そのうち修繕でもしてみようか。


「ゾーク様達はずっとここに住むかはまだ決めてにゃいみたいにゃ、借りられるうちは借りておくみたいにゃけど、いつまで住めるかは分からないにゃ」

「そうなの?」

「貸してる側が返せと言ってくれば、住めなくなるにゃ。シャレット様のツテで借りてるから、あまり心配はいらにゃいけど」


 そもそも自由人は家という固定財産は持てないそうだ。母さんのツテでここを借りてるだけらしい。

 土地は国のものだから、そこに家を持つのなら、国民になる必要が出てくるそうだ。

 Sクラス冒険者である両親は実力者だから、国民になると国の依頼など引き受ける必要も出てくる。

 ここに定住するということはまだ考えていないらしく、結構な金額を払ってここを借りている、というのが現状なようだ。

 俺としても、いつからでも動けるフリーな立場が望ましい。


「体を動かしたい時とか、ここを使うのがいいのにゃ。まだ外に出していいとは言われてにゃいのにゃ、ごめんにゃ」

「いや、いい」


 外の様子は別に知る方法がある。

 訓練には十分な広さだし、もう少し体がしっかりしてくれば、ここで体を鍛えることにしよう。


 たとえ優秀なステータスを持っているとしても、鍛えることには意味がある。


 ステータスの数値があるのであれば、今の俺はそれに応じた力を発揮出来るのかというと、そういうわけではないのだ。

 ステータスというのは、実のところ「出せる力の最大値」であり、それに対応出来る「体の強さ」や「技量」はまた別に必要なのだ。

 この体でもステータス通りの力を発揮することは不可能ではないのだが、やはり根本的な筋肉や体力があるにこしたことはない。

 精霊体だった身が長くて、疲労だとか、そういうものに疎くなっているところもあるので、折を見て運動をこなしていこう。



 一通り見て回ったところで、ネリーは家事をするらしく、俺は部屋に戻った。

 ここは「俺の部屋」らしい。

 個人の部屋を与えるには早すぎじゃね?とか思ったが、記憶持ちだから大丈夫だろうと判断したようだ。

 俺の普段の様子から、躾というものは必要ないとされた模様。実際、まだ生後8ヶ月つっても、実際には75歳くらいだもんな。

 精神年齢は若くっつーか、むしろ幼くなってきている気もするのだが、喋りが拙いだけだと思う、うん。

 ここまでの成長具合からして、五感については1歳くらいで完成するのではなかろうか。


(おいで)


 俺は集中すると、近くに見えた一人の妖精に話しかける。

 精霊も固定した形で見えるようになり、何人か見たことのある妖精が近くにいることが分かったのだ。

 どうやら俺が「ゼン」になっても、神界で話したことは覚えているらしい。


(何かお話?)

(お願いしてたこと、分かった?)

(どれくらいヒトがいるか、だっけ)

(うん)

(ヒトは、近くだと、100個くらい魂があるみたい)


 精霊も妖精も同じなのだが、俺は妖精っぽく見える精霊は全て妖精と呼んでいる。それっぽいし。見た感じ美少女風だし。

 妖精は、俺が神界で色々言葉を教えたりしたので、大分賢くなった。

 調べてもらっていたのは、この村にどの程度人類が住んでいたか、という話なのだが。


(どんなヒトがいた?)

(ヒトはヒトだよ、特別なことはなかったかな)


 どうも妖精というのは、人類の見た目がどうこうというところまでは分からないようだ。

 きちんと教えればまた違うのかもしれないが、今のところ魂単位でしか分からない。


(他の子は?)

(マスターからのお願い通り、ちょっと遠くにいる。呼ぶ?)


 妖精は俺のことを「マスター」と呼ぶ。どうやら主という認識らしい。

 別に主になった覚えはないし、精霊神(ラピュータ)の立場はどうなる、などと思ったものだ。

 しかし、この呼び方は、精霊神(ラピュータ)のお墨付きらしいので、それでいいのなら別に構わんのだが。

 ちなみにどんなお願いをしたのかと言うと、周辺の地理の確認や、精霊の有無といった情報調査だ。


(いや、いいよ。新しい子は来た?)


 「ちょっと遠い」がどこまで指すか微妙なところだが、距離という概念があまり無い妖精に色々言うのは難しい。

 それにまだ集まりきっているわけでもないので、常に一人は近くに残ってもらっている。


(みんないるけど、まだここには来てない。もうちょっとかかる)


 実のところ、近くに精霊がいなくても【精霊魔法】は使える。

 ただ、近くにいる精霊の力の分しか使えないという制限つきだ。厳密には、使えないこともないのだが、発動出来る力にイメージとズレが出る。

 周りにいない種類の【精霊魔法】を使った場合、俺の元に精霊が引っ張り込まれてくるらしく、そのタイムラグや、集まった精霊の力が安定しないのだ。


 まだそれぞれの妖精は俺のことを見つけられていない子が多く、今いる子で使える範囲でしか使えないと思ったほうがいい。

 今いる妖精達は、早い段階で俺を見つけた精霊、俺が地上に来てから【精霊魔法】を使った結果引っ張り込まれた精霊、それからあとは自然に集まってきている精霊だ。

 それぞれの【精霊魔法】を使えば、一発で引き込めたりしそうな気もするのだが、それでも全員引き寄せるのは難しいだろう。

 そもそもこれは、神界で色々と妖精達とのコミュニケーションを取って知ったことなのだが……。


 精霊の属性とは大別して6種類である。


 これは正しいのだが、同時に間違ってもいる。

 正しくは、7種類とするべきなのだ。


 火・水・風・土・光・闇の他に、「無属性」という精霊がいる。

 具体的に何が出来るという説明は俺にも難しいのだが、属性的なものではなく、単純な衝撃であったり、単純に物を持ち上げたりと、何かしら物理的な作用を起こせる精霊がいる。

 【精霊魔法】については俺も可能性を探っている最中に転生してしまったので、検証し足りないところはかなりある。

 ラピュータが「全ての属性」としていたのと、ヴァニスが「6属性」としていたのは認識の食い違いだろう。

 魔術神(ヴァニス)を以てしても、精霊魔術はまだ未完の類だろうな。

 ただ6属性、ということにしておかないと、キリがない術式を組むハメになりそうなのだが。


 妖精達に尋ねてみたところ、「知らない精霊」という存在を見かけた、という話だ。

 ラピュータが知らない間に、新しい精霊が地上で産まれていたかもしれない。

 仲良く出来そうかと聞くと、そこは問題ないようだ。

 頼めば力も貸してくれるということなので、また【精霊魔法】の幅が広がりそうだ。

 これ以上広がっても、使いこなせる自信は、全くない。



 ふと、ネリーのことを考える。

 ここ1週間ほど前のことなのだが、【完全解析】をかけることに成功した。

 極力人物にかけるのは避けようと思っていたのだが、知りたくて仕方なかったのだ、許せネリー。

 情報に制限をかけるのを失念して、知らなくてもいいことまで知ってしまったのだが、彼女のステータスはこんな感じだった。



名前 ネリー(ネリー・チシャ)

種族 獣人種猫人族 7歳

職業 なし

称号 なし

状態 健康 隷属(主:ゾーク 副:シャレット)

 Lv:11

生命力:142/142 (4~8)

魔力量:34/34 (1~3)

 筋力:121 (2~5) C

器用さ:83  (1~3) D

素早さ:115 (2~5) D

 魔力:38  (1~2) F

精神力:102 (2~4) D

  運:150  

 魅力:88  (2~4)

経験値:339/1200

汎用能力(スキル)

戦闘系:【体術5】【格闘術5】【弓術3】【隠密4】【暗器4】

魔法系:【魔力操作3】

職業系:【裁縫3】【料理4】

採集系:【採集3】【採掘3】

その他:【家事5】【礼儀4】【交渉3】【生存術5】【直感6】



 どうしても俺のステータスとの比較評価になってしまうのだが、まずまず優秀なのではないだろうか。

 父さんや母さんとも比較してみたいのだが、まだ使えるようになってから会えてない。

 特に母さん相手には一言断った方がいいかもしれない。[鑑定]させて欲しいとでも言えばいいだろうか。


 スキルについてはこれが全てというわけではない。2以下のスキルは除外して整理した結果だ。やはり汎用能力(スキル)は多様すぎて、情報整理が難しいのだ。

 目立つのは【体術5】【格闘術5】だろうか。

 パラメータ(数値のことはこう呼ぶことにした)にしても、純粋な格闘家(ストライカー)のそれだ。あるいは斥候的な役割もある程度出来るのかもしれない。

 むしろ真っ向勝負よりは、不意をついて一撃で落とす、みたいな方が向いてるのかもしれん。

 固有能力(ユニークスキル)こそないが、相当鍛えているのが分かる。


 また、従者としても優秀なのだろう。

 この家を切り盛りしているのはネリーの能力によるものだ。

 しかし【直感6】って、やっぱお前鋭すぎるだろ。多分こういう感知系でスキルレベルが6ってのは、相当高いはずだ。


 ただ魔力は俺と同じで低い。むしろレベルが11なのに38というのは、ぶっちゃけ素質自体はほとんど無いと言ってもいいのではなかろうか。

 成長値らしき数字も低いと言える。

 魔法はほとんど使えないと言っていたが、確かに魔法系スキルはほとんど持ってなかった。


 レベルや経験値についてはまだよく分からないが、ネリーも両親とともに魔物と戦っていたようだ。

 となると、やはりそのまんまの意味で取って良さそうだ。

 まあ、俺の経験値については、未だ不明なのだが。


 ところで自分はどうなのかというと、まだ確認出来てなかったりする。

 鏡はあるのだが、これがイマイチ出来が良くない。映りが悪くてハッキリとせず、自分を対象にすることが出来ていない。

 ただ鏡はなくとも、川なり水なりがあれば、自分の姿を確認出来るだろう。

 そのうち確認出来る機会があるだろう。



 ネリー・チシャ。

 知らなくてもいいこと、の一つである。

 いや、知らなくてもいいことなのかは、俺が決めることでもないか。

 どうも【完全解析】というのは、その人物のおおまかな人生についてまで知りえるようだ。

 無論完全ではない、あらましみたいな情報が頭に入ってくるだけだ。


 ネリーは獣人種の中で、猫人族と呼ばれる部族の「チシャ家」として産まれたようだ。

 猫人族というのは、極めて成長の早い種族であり、3歳の頃にはいっぱしの大人に混じって戦闘訓練をしたりしていたそうだ。

 獣人種自体が存亡の危機に立たされているような状況ではあるのだが、世の中よからぬ輩がいるもので、見た目麗しい猫人族は高く売れるなどと考えた商人がいたらしい。

 勿論無手でも強い獣人が簡単に誘拐などされたワケもなく、その商人は家長に色々たらし込むと、チシャ家には多大な借金が出来てしまったようだ。


 この借金というのが、詐欺だとはっきり分かるくらいおかしなものであったのだが、家長はそこまで考えが回らなかったようだ。

 商人はネリーの身柄を条件に借金をチャラにすると言ってきて、これをネリーが承諾してしまった。

 その結果が隷属道具(くびわ)である。


 それから先は、まあ色々あったみたいだ。

 彼女は商人に騙されたという何らかの確信は持っていて、ソイツに対しては忸怩たる思いも持っていたようだが、死んでしまった以上どうでもいいらしい。

 今の「ゾークの奴隷」という立場については、本人は納得済である。


 現状に満足しているのであれば、同情するのはむしろネリーに対して失礼だろう。生憎可愛そうだから解放してあげよう、とは俺は考えていない。

 これはネリーを信頼してないということではない。信頼出来るからこそ傍に居て欲しいのだ。

 それにネリーにはネリーなりにやりたいことがあるようだし、今すぐ必要なことではないとは思う。


 ただ、隷属道具(くびわ)については話が別だ。

 考えれば考えるほど邪魔なものだ。


 ちなみにこの隷属道具(くびわ)についてだが、「主人に逆らったら最悪死ぬ」とか、そういう曖昧なことしかネリーも知らなかったようだ。

 [鑑定]は厳密に言えば[人物鑑定]というのが正しく、魔道具についての「正確な情報」は、最近のものしか分からないようだ。

 他にもいくつか[鑑定]関係の種類があるらしい。そういえヴァニスの[鑑定]って、モノには効いたんだろうか?聞き忘れたな。

 実際どこからどこまで、というのは人類に伝わる歴史について詳しく知る必要があるだろう。

 しかし[鑑定]についても、何となくヴァニスの[鑑定]とは仕様が違う気がするなあ。


 そろそろ文字も知りたいところだ。

 屋敷にある本を見せてもらったのだが、全然分からなかった、やっぱり時代が違いすぎるようだ。

 これはまあ想定範囲のことだ、ネリーも読めないみたいだし。


 一応ネリーにも文字を教わっているのだが、ネリーの知っている文字は、この国が使うものとはまた別物のようだ。

 個人的にはアルファベットに近いネリーの文字の方が取っ付き易いが、こっちに来てようわからん文字はそれなりに見てきた。

 実際の識字率がどの程度なのかもよく分からない。

 人類が使う文字としては、ネリーの文字はマイナーらしいので、両親から教わる以外あるまい。

 本があるということは、どちらかが文字を知っているのは確かだろう。多分母さんだな。


 母さんには色々尋ねたいことがある。

 次に帰って来た時には、時間を作ってもらうようにお願いしてみよう。

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