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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第一章 天寿・そして再会~神界編~
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意味不明な再会

2015/4/15 ちょっと改訂しました

 彼女の仕事は、魂の誘導である。

 神の使徒として生まれた彼女は、まだ生まれて間もなく、自我もない。

 元より使徒はよほど成長しない限り、自我など生まれず、ただ与えられた仕事を果たすのみ。

 彼女は淡々と魂の誘導を行う。とはいえ未熟なので、まだ人間の魂のような複雑なものは扱えない。


 ある時彼女は、とても懐かしい感覚を受け、遠い世界にやってきた。

 彼女はソレを見つけると、すぐさまソレを抱きかかえる。

 ソレは見たこともない魂であり、持っている力も尋常ではない。本来生まれて間もない使徒である彼女が扱えるような魂ではなかった。

 しかし彼女はその魂を必死に抱えて、彼女の上司の元へ連れて行こうとした。そうしなければいけない、という本能が働いたのだ。


 そして長い時間をかけて彼女は上司の元へ辿り着く。


 きっと褒めてもらえるだろう、そう確信を持って。



◆◆◆



「えっと、どうしてこの人の魂を私のところに連れてきちゃったかなー?」


 私は褒めてもらえると思ったのだが、上司の顔色は芳しくない。

 言語能力が発達していない私ではその理由を答えられず、ただ首を傾げてみせるのみ。

 そもそも本能が連れてくるべきとしたもので、その本能とは生みの親でもある上司の感情でもある。


「あの、とっても嬉しいんだけど、この人の魂は私の管轄じゃないんだけど」


 上司はオロオロとしているが、それは問題にならないだろうと思う。

 魂に管轄なんてものはない、いずれまたどこかの世界へ向かうだけだろう。


「その、この人の魂は特別製で、本当は最上位次元まで向かう予定だったんだけど……」


 でも会いたかったのでしょう?と更に首を傾げてみせる。

 どうやら意思が伝わったらしい、上司がさらにオロオロとしだした。


「そういう問題じゃないんだけど!?ああ、精霊体化しちゃう!だめー!」


 魂のままじゃ話せないから当然そうなるだろう、何を焦っているのかと思う。

 ここで私は「思う」ことを不思議に感じる。まだ「思う」ことを許されないはずなのだけど。


「そうだよ!なんであなたは「意思」をもう持ってるの!?もしかしてこの人の魂を連れて来たのって……え、私がそうしたかったの?確かにそうしたかったけど。え?まさか初めての使徒が私の分霊になっちゃってるの?何か私間違えた!?シェラさんー!どーなってるのー!?」


 ここにいない人物に聞かれても答えは返ってこないだろうに。

 我が上司ながら情けない。はて、何故そんなことを思うのだろうか。


「あー!なんか馬鹿にされてるー!喋れなくてもわかるんだよー?ってそれホントに分霊になっちゃってるってことだよねー!?」


 知りませんよ、と私は首を振る。

 そんなことより魂の精霊体化が終わりそうなんですが、と視線を向けてみる。


「あぅ、会いたいような、会いたくないような」


 とりあえず私は席を外しますね。

 フラフラと去ろうとするが、上司に襟を掴まれる。

 ガッチリホールドされてしまった。


「逃がさないからね?私のせいかもしんないけど、連れて来たのはあなただからね?」


 どうやら私も怒られるらしい。はて、何故怒られると思ったのだろう?



◆◆◆



「ごめんなさいっ!」


 いきなり謝られた俺はどう答えたものか。久しぶりの再会だというのに。

 目の前の人物は大変見覚えがある、というか死ぬ直前に思い出した顔だ。くりっとした目と柔らかそうな唇、南米系のやや褐色の肌の色。最後に見た顔とほとんど変わらない。

 ただ、目は黄色ではなかったし、髪も金髪ではなかった。

 だが顔立ちそのものは変わらない、柔らかいウェーブ状の髪型もそのままだ。今見ても可愛い。触りたい。


 逆に言えば目や髪の色が変わってても、同一人物に見える、ということが不思議な感覚だ。顔立ち自体は覚えてるそれと変わらないんだから、当然っちゃあ当然だが。

 ヴィーナスの女神像か何かかと言いたい服装をしてる。露出してる部分を見て触りたくなる気持ちを抑える。

 彼女が片手に首根っこを掴んでいる女の子には見覚えはないのだが、これもどこか懐かしいというか……。


 まあ、なんだろうな、この気持ちは。


「そういえば、初対面の時も最初に謝られた気がするな」


――――ああ、まさかまた会えるとは。


「そうでしたね。私にとってはとても、とっても昔のことなんですけど、今でも覚えています」


 今何がどうなっているかさっぱり分からないが、彼女と再会出来たことは素直に喜ばしい。あの時失った存在。俺の後悔。

 傲慢かもしれないが、俺がもっと思慮深くあれば、きっと守れた筈の存在。


「また会えるとは思わなかったよ、アズ」


 そう笑いかけると、アズは女の子を放り出して俺に抱きついてくる。夢か幻か分からないが、謝りたかったのはこっちの方だと言うのに。

 あの時守れなかった彼女が、間違いなく今、俺の目の前にいる。それだけで十分だ。


「えぐぅ……ぜんい゛ぢざーんっ!」


 うむ、俺の胸で泣くアズ、これも懐かしい。

 あの頃を思い出すな。とりあえず落ち着くまで待ってみるか?


「はぅ!」


 可愛い悲鳴がアズから飛び出し、俺の腕から体ごと飛び出す。

 あ、さっきの女の子に蹴られたんだな。なかなかいい蹴りだったようで、微妙に痛そうだ。


「上司を足蹴にする使徒がいますかー!?」


 どうやらお尻を蹴られたらしく、さすりながらアズは女の子に目を向ける。

 不機嫌そうにこちらを見る女の子は、こうして見ると、どことなくアズに似ている気がする。

 はて、アズに妹はいなかったと思うが、などと考えながら、現状の把握に努める。


 まずここはどこなんだ?


 夢か幻かって思ったけど、それにしてはリアリティがありすぎる気がするし、アズを受け止めた重さも確かにあった。

 ただ目に映る光景は、どうにも形容しがたい感じがする。

 なだらかに続く草原は恐らく斜面になっているのだろう、周りも山が見えることから、どこかの山の頂上付近なのだろうか。

 家畜なのかわからないが、ポツポツと牛や馬っぽいものも見えるが、本当にあれは牛や馬なのか?牛が白いのはまあいいとして、馬に角は生えてないと思う。

 そして見渡す限りでは建物らしきものも見当たらない。夢にしてはリアリティがありすぎるが、現実感もあまり感じない。

  

 そして俺は何なんだ?


 加納善一は死んだ。

 生きているか死んでいるかなんて、自分だけで証明することは不可能だが、少なくとも俺はそういう認識をしている。

 だが今アズを受け止めた腕は、間違いなく俺のもの、俺の意思。そして目の前のアズは、確かにアズだ。

 2人とも既に死んだはずの存在だが、今ここにいると実感出来る。

 となると、考えられる答えは、割と単純。


「アズリンド・レリックは18歳で死んだ、というのが俺の記憶なんだが」


 何か女の子と揉み合いになってるアズに話しかけると、アズがビクッと動きを止める。


「ここは死後の世界か何か、ということなのか?俺も自分が死んだと思ってるんだけど」



◆◆



「改めまして、第三級上級神、世界神アズリンドです、お久しぶりですね善一さん!」

「いや、勢いで何かを誤魔化そうとしても、誤魔化されんからな?そういうところは変わらんな。見た目は結構変わったみたいだけど」


 フリーズしてしまったアズを、女の子がこっちに強引に振り向かせたのだが、コキッと鳴った首の捻り具合が悪かったのか、しばらく痛みで転がっていた。

 3分くらい待たされたが、ようやく取り直したのてパタパタと服をはたきながら(キリッ)とか擬音を出しそうな勢いでそんなこと言われてもな。

 知り合いに神様やってますとか言われたら普通正気を疑うわ。


「あの……それなりに上の方の神になったんですけど、上級神なんですよ?」


 アズは困り顔だ。うん、まあ、確かにこんなつまらん冗談を言う子ではなかったけど。

 上級神とか言われてもわけわからんし、神に序列があるかとか知らんし。

 そもそもアズは神として称えられるべきだとか、俺は一度も思ったことない。


「神って何?世界神?何それおいしいの?」

「い、一応、その、「悲劇の聖女」、とかって言われて、神になれるけどどうするって言われて……」

「自分のことを悲劇の聖女(笑)」

「善一さん意地悪すぎます!」


 パーンと音を鳴らして平手打ちが飛んできた。いい平手打ちだ。

 結構痛い。痛いから夢じゃないとか言うつもりはないけど、少なくとも五感はしっかり働いてるらしい。

 っていうかあれだよな、俺生きてるんじゃないのコレ。アズも自称神にしろ、どう見ても生きてるし。


「わ、私がそう言ったんじゃないんです!多くの人からそういう存在って認識されてて、なおかつ魂の器が大きければ神になれるって説明されました!」

「誰に?」

「神様です!」

「お前は何を言ってるんだ?」


 思いっきりジト目で言ってやると、「私より偉い神様から言われたんですー!」と涙目のアズ。

 ああ可愛いなあ。どうにもアズはいじりたくなるなあ……。


「誰でもいじってたじゃないですかー!」


 あれ、伝わっちゃったかな。だがその認識は誤りだ。


「失礼な、面白い奴しかいじらないぞ俺は」

「そんな立ち位置嫌ですー!」


 あっはっはっは。まあ笑っている場合ではないのだが、久しぶりに会えたことが嬉しくてたまらん。

 このままズルズルとお笑い展開に持ち込むのもいいが、あんまし思い出したくないフレーズが聞こえてしまった。


 悲劇の聖女、ね。


 まあ、死後のアズがそう呼ばれたことは確かだ。

 内戦中にアズリンド・レリックは命を落とし、反政府軍の士気を上げるために聖女に仕立てた、という事実はある。

 あまり賛同できる話でもなかったが、俺もそれをどうこう言える立場でもなかった。少しばかり苦い思い出だ。

 しかしそうなると、アズはなりたくもない神になってしまった、ということになるが、「なれる」って言ってたっけか。


「アズは神になりたかったのか?」


 ちょっと真剣に聞いてみると、アズは首を振る。


「神様なんて柄じゃないって思ったし、私に務まるとは思わなかったです。けど、神様も人手不足らしくて、なれる人にはなって欲しいって説得されちゃいました」


 アズの説明によると、神になれる存在は貴重らしく、それからさらに希望者となるとごく僅かしかいないらしい。

 神が何する存在なのかようわからんが、やはり響きからして偉い存在だったりするんだろうか。


「ってーことは地球の神様はアズってことになるわけ?」

「いえ、私は地球の神ではありません。というより、地球の神はいっぱいいますけど、上級神はいないんです」

「どゆこと?」

「そもそも地球っていうのは私や善一さんが住んでた星になるんですけど、地球は「始原の世界」と呼ばれる星の一つなんです」

「あれ?でもお前「世界神」って言わなかったっけか?」


 既に嫌な予感しかしないのだが、アズは一つ溜めて、宣言した。


「あの……この子が亡くなった善一さんの魂をここに連れてきたんです。ここは神界と呼ばれる、私が管理している「アクイリック」という世界の神が住んでいるところです」


 異世界宣言キマシタワー。


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