武器と職業
ホウセンとの修行は過酷を極め……なかった。
やはりというか何というか、剣を振ったり、体捌きを見せたりしてみたのだが、「未熟」の一言で一蹴されてしまった。
そりゃあそうだろう、転生を繰り返した魂といえど、今のベースは「加納善一」なのだ。
現代っ子は、武器といえば銃って時代ですよ?
剣とか槍とか使ったことありませんって、刀打ちは何気に経験あるけど自分で使ったことはねえしなあ。
「今のカノーとは戦う気にならん。だが未熟なだけで、鍛えればモノになるだろう、それなりに力はある」
そんなん簡単に分かるもんなの?
まあ武神がそう言うのであれば、やる価値はあるんだろう。
ホウセンは戟を筆頭に、弓・槍・矛が得意らしいが、この世界にある武器はおよそ扱えるという。
俺も一通り手に取ってみたのだが、長剣・短剣・弓については「弱い魔物相手になら通じる」程度のレベルだそうな。
あとは論外だと言われてしまった、使ったことないもんは仕方ないやん?
実戦経験を積むのは当分先だということで、しばらく型稽古という形を取ることになった。
ひたすら型と打ち込みを繰り返し、ホウセンが「眠くなった」と言うまで修行を続けた。
「疲れを知らぬ身とは聞いたが、これほど続けられるものでもない。やはり見込みがあるようだな」
そんなもんかね?
どれくらい続けたのかは、俺にも良く分からない。
疲労知らずの体とは恐ろしいものだ、日も落ちないし。
もう時間の感覚がだいぶ曖昧になった感じだ、砂時計基準を元に腕時計か懐中時計でも作ってみようか。
「ガダースに自分の武器を寄こせと言っておけ、俺のリソースで作る武器は所詮玩具に過ぎん」
ホウセンは自分の武器はキッチリ「本物」を持っているそうだ。
言われて【解析】してみたら、こんな感じだった。
神鋼の方天画戟【ホウセン】
神具の一種、神の手で作られた戟
神木の長弓【ホウセン】
神具の一種、神の手で作られた弓
それ対して、俺が借りてた剣は、こうだ。
鉄の長剣(偽)
リソースで作られた長剣
【解析】の精度は実のところ、そこまで高くはないのでは?と思い始めていたのだが、分かる範囲の情報は正確であるように思う。
戟と弓の【解析】内容で気になるのは、「神具」と【ホウセン】の部分だな。
「その戟と弓は、ホウセンにしか使えないのか?」
「これは俺専用の神具だ、他の者に扱える神具ではない」
そら、と戟を俺に向けて放り投げてきた。
それを受け取ると、触れた瞬間ゾクリと背筋に汗が流れ、凄まじい重量を感じ取る。
持つのが精一杯だ、こんなもの武器として使えない。
「てっきり取り落とすと思ったのだがな」
「そんなもん投げるなや!」
必死に戟を支えていると、ホウセンが俺の手から戟を取り返す。
「俺も良く知らんが、神具とは所有者を選ぶ意思を持つのだそうだ。所有者以外は触れることすら許されん」
え、でも俺一応持てたぞ?
「触る程度はコイツも許した、ということだろう」
「基準が不明なんだが」
「後はガダースに聞け、俺は寝る。武人になるのなら自分の得物は持っておくのだな」
そう言ってホウセンはどこかへ行ってしまった。
直接「ルーム」を呼び出したりはしないんだな。
しかし自分の得物ねぇ、汎用能力があるのは剣と弓と銃なんだけど、いざ自分の武器となると、込み上げてくるものがあるな。
「おう、創造神さまじゃねえか、歓迎するぜ」
「その創造神さまってのやめてくれ、俺は神じゃない、善一とは呼びにくいみたいだからカノーでいい」
「俺様も適当だからよぉ、そう言ってくれるのはありがてぇな」
自分も神とかガラじゃねえしな、と豪快に笑うドワーフの男、ガダース。
「実は俺様も混血種だったんだぜ?」
いきなり身の上話から始まった。
ガダースは、鬼人族とドワーフ族との間に産まれたそうだ。
ドワーフの特徴を色濃く受け継ぎ、見た目は明らかにドワーフだそうだが、武器の取り扱いに優れるという鬼人族の長所もしっかり引き継いだらしい。
「ホウセンほど強かぁねえけどよ、俺様もそこそこ強かったんだぜ?ま、戦うことは専門じゃねえけどな」
ガタースの「ルーム」は、まさに工房といった作りで、思ったよりも整理されている印象だった。
いくつか部屋を案内されたが、鍛冶場だけでなく、木工所らしき部屋や、機織機・革細工用の道具なんかも見える。
ただこれは、ガダースが全部使っているというわけではないらしい。
「俺様は元々下級神でよ、鍛冶専門の神だったんだがなぁ」
アクイリックから生産系の神々がいなくなり、残った生産系の神がガダースのみになってしまったそうだ。
生産の神が不在というのはとてもマズいことらしく、アズからお願いされた結果の暫定中級神、というのが今のガダースらしい。
「生産神ってのは何するんだ?」
「今のトコ、大したことはしてねえな。鍛冶神だった頃はたまにそれらしい加護をくれてやったりしたんだけどよ、俺様にもよくわからねえ」
「じゃあ鍛冶神の加護ってなんぞ?」
「俺様も生きてた頃に貰ってたんだがよ、そんな具体的なモンじゃねえな。他人よりちょっといいモンが作れるとか、その程度だぜ」
そもそも職人は経験が全てだという。
ステータスが高ければ有利に働くというのは間違いではないが、同じものを作るにしても、経験を積んだ者の方がより完成度は高い。
ただ、ステータスが高くなければ、扱えない素材、というものもあるらしい。
「一流の鍛冶職人は、少なくとも腕力と器用さがB以上はねえとマズいな」
「素材のことか?」
「ああ、それくらいはねえと、合金製の武器はまず作れねえ。ミスリルって知ってっか?」
まあ、ファンタジーなんかではよく聞く名称ではある。
「名前くらいしか分からんがな」
「一流の戦闘者は、大抵ミスリル製の武器を好む。ミスリルは使い手に馴染むって性質を持った合金なんだよ。他にもヒヒイロカネとかがそうなんだが、地上にはもうねーからなあ」
緋緋色金か、それもまた聞いたことあるものだが、名前しか分からんな。
しかし合金ってことは、元になる金属が何かしらあるのか。
「鉱石は結構種類があったりするのか?」
「俺様も全部知ってるワケじゃねえがな。ミスリルは鋼に銀鉱と白石を混ぜたモンだ」
「鋼も合金だろ?」
「良く知ってるじゃねえか、鋼は鉄鉱が元になる合金だ。作り方は色々あるけどな」
白石、というのは良く分からないが、およそ俺の知ってる合金の作り方と変わらんな。
さすがに成分まではよく知らんが、知ってる知識がまるで役に立たんということはなさそうか。
「鉱石自体は神界にもあるものなのか?」
「そんなにいっぱい取れるモンでもねえけど、地上にあるモンは大抵取れるぜ。神界の隅っこに鉱石場があっからな」
ここにしかないものもあるけどよ、とガダースは語る。
そこにも行ってみないといけないな。
しかし、生産神に聞きたいことは沢山あるのだが、物作りの全てを知っているということは無さそうだ。
元々鍛冶神だったというのであれば、繊維や木材といった部分まで詳細を知ることは難しいように思う。
「そういえばホウセンに武器を作ってもらえって言われたんだが」
「お、流石武神様だな、得物は大事だぜ?」
待ってました、と言わんばかりにやる気を出すガダース。
「ただ、俺はあんまし武器を使った経験がないから、得物と言われてもピンと来ないんだわ」
「ふうん?それなりに戦えそうな感じなんだけどな。どれ、実際どんなモンがいいか適正見るから、コイツを持ってみな」
ここでもまた適正か、適正ってこの世界でどんだけ大事なのよ。
ガダースから預けられたそれは、ただの「柄」。
何の柄なのかは良く分からないが…はて?
困惑してると、ガダースは更にもう一つの柄を渡してきた。
「一つは長物、一つは短物だ。カノーは魔力持ちなんだろ?だったらソイツに魔力を込めてみな。変にイメージは持たない方がいいぜ」
長物と短物って言われてもな…と思ったが、魔物相手に長物は必須らしい。短物は護身用といったところだという。
柄自体を見ながら魔力を込めちゃダメだぜ、と付け加えてきた。
イメージを持たずに魔力を込めるって結構大変なんだけど。
ふーむ、まあやってみよう、失敗しても知らない。
両手に1つずつ持った柄は、姿を徐々に変化していく。
あ、見ながらだとイメージしちゃうからダメなのか。
慌てて柄から視線を外して、魔力を込め続ける。
ガダースからもういいぞ、と言われて「元」柄を眺めると、そこには大幅な変化が成された「武器」があった。
重さは変わらず、重心も感じないのだが、それは確かにそこにあった。
片方は見慣れない「武器」、もう片方は多分それだろうという「武器」だった。
一つは知っている、「拳銃」だ。
少なくとも見た目はリボルバーではない、オートマチックに近いと思うのだが、俺が知っている銃の形ではない。
刃渡り20センチほどのナイフに、銃らしき機構が付いているL字型の形をした、何とも不思議な拳銃だ。
むしろこれを銃と認識した俺の目がおかしいのだろうか、柄に引き金が付いているという何とも奇妙な形なのだが。
もう一つは長物という扱いになるのだろうが…強いて言えば、「薙刀」だろうか。
形状で言えば3メートル近いソレは、柄の部分は60センチほどしかない。
「薙刀」と判断したのは、その先に刃渡り1メートルは超えるであろう、薙刀としてはいささか鋭角すぎる片刃。
むしろ一種の刺身包丁ではなかろうかとも思う、三角包丁的な。
ただこれをただの「薙刀」と判断するのは難しい、何しろ柄の逆側にも「あるもの」が付いているのだ。
そこには巨大なハンマーが存在している、ただのハンマーではない。
先切り型とでも言うべきか、片やツルハシのような形状をしており、片や円柱の形状を成している。
しかもこれまたデカいのだ、ハンマー本来の鉄の部分が、標準的な赤ちゃんより一回りデカいかもしれない。
「これは、武器と言えるのか?」
百歩譲って銃は分かる、銃として認めよう。
グリップがおかしいことと弾倉が見当たらないことを除けば、ナイフ付きの銃だ。
しかし長刀なのかハンマーなのか不明なコレは何なんだ、どうやって使えばいいんだよ!ニコイチってレベルじゃねーぞ!
ガダースも爆笑してるんじゃねえよ!説明しろ!
「コイツは本人の適正に最も合う武器の形状を、型として確認するためのモンなんだが……」
物理的に落ち着かせたガダースは、その武器の形をじっくり観察しながら語る。
なんでも本人作の「魔道具」であり、使い手に最適な形を確認出来る代物だそうで、自信作であるとのこと。
鍛冶職人としては、剣を得意とする者であれば、当然剣を作るので、この道具を使わせる対象は限られるのだという。
一つは、そもそも数多く武器を使いこなせる者が、最適な得物が何であるか知るため。
一つは、王族の子供など、高い身分にある者が、最初に使う武器を選ぶため。
どちらの場合でも、普通はそれほどおかしな形にはならないらしい。
「じゃあ何故俺はこんな形になったし……」
「ハッキリとしたことは言えねぇが、カノーは俺様もよく知らねえ複数の武器に適正があるんじゃねえかな」
おかしな形になった理由は、そもそも俺に同レベルで適正のある武器が存在するからではないか、というのがガダースの推測らしい。
ただ、ガダースにしてみても、ナイフとハンマーくらいしか見覚えはないらしく、
「鈍器っていうことなら分かるんだけどな、どう見てもハンマーだし、普通ハンマーは武器じゃねえよ」
棍棒の先に鉄塊をつける、メイスのようなもんなら分かるけどよ、とのこと。
俺もハンマーは武器であるとは思いたくない。
で、結局俺にどんな武器が合うのかというと、「使ってしっくり来ればいいんじゃねえか?」という投げやりな返事が返ってきた、適正調べた意味ないやん?
確かにそうだろうが、実際にこんな武器があっても使えないって!特に長い方!
さすがに「まあそうだろうな」と納得したようで、ということで、薙刀部分とナイフ部分を参考にした武器を作ってもらうことになった。
手際よく作業していくガダースをしばらく観察する。
見たことのある工程ではあるのだが、一つ一つの工程が知っているソレと比べてやけに短い。
金槌の一撃でだいたいの形になるファンタジー、謎ぃ。
そんなもんなのかと聞くと、そんなわけねえだろと返ってきた。
「一応俺様の固有能力ってこった」
どんなスキルか聞いてみると、【工程短縮】というらしい。
したことのある作業を一部短縮出来る、という不思議スキルのようだ。
ただまあ、ハイ出来上がり、とまではいかないようで、細かいところはちゃんと作業しないといけないようだ。
便利なスキルではあるけど、超一流と呼ばれる職人はこのスキル持ちが多いのだそうな。
数がこなせる分、経験も積みやすいんだと、そんなもんかね。
「そういえばホウセンの武器って、「神具」って聞いたけど、ガダースが作ったのか?」
「ああ、あのホウテンガゲキって奴と長弓か、ありゃ生産神になってからホウセンに頼まれて作った俺様の傑作よ」
神具とは神界でしか取れない素材を使い、神が作成した道具を指すそうだ。
神鋼というのは、神界のみ取れるヒヒロイカネを元に合金した、ガダースのオリジナルだそうな。
神木も神界でしか見たことがないらしいが、元々あったものを材料にしただけで、結果が神具になった、ということ。案外テキトーだな。
「神具には明確な所有者が存在するらしいけど、そこんとこどうなの?」
「正しくは使っているうちにそうなるってこったな。使い手に馴染んでくると、そのうちソイツ専用の道具になるのさ」
「所有者以外は使えないらしいけど」
「神具は所有者以外に使われないような性質を持ってんだ、武器の場合は最悪他人は持っただけで死んじまうこともあるな」
なにそれ怖い、それ呪われてるんじゃないの。
「ま、所有者以外を拒絶する意思を持ってる道具、とでも思っとけばいいさ。神界のモンをそう簡単に使われちゃ困るからな」
それだけ強力なモンだってことだ、と締めた。
それからしばらくして、出来上がったのは、長刀と短剣。
銘を付けるほどではないが、ミスリル製の一級品との談である。
ただ長刀の方は相当特殊に思える、薙刀というよりは、デカい鉈だ、刃の部分のデカさが半端ではない。
ミスリルは鉄よりもやや軽いらしいが、両手で持ってみても結構な重量だ、長さも2メートルは越えているだろう。
【解析】してみると、「上質なミスリルの長鉈」と出てきた。
やっぱり鉈じゃねえか、まあ長刀の分類には違いないだろうけど。
ちなみに短剣は「上質なミスリルの短剣」、まあ普通だね。
自分の武器、というロマンが果たされたことで、とりあえず礼を言ったのだが、
「礼代わりなら、俺様の知らない武器を作ってみせろ」
という無茶振りが来た、知らない武器ねえ…そもそもどんな武器があるのか知らんけど、銃は知らないっぽい。
ただ今すぐ銃を作れと言われても困る、分解組立が出来る程度には知ってるが。
さすがに複雑な武器は無理だろう、アレはどうだろうか。
「トンファー?なんだそれ」
図面に簡単な作りを書いてみせると、知らないようだ。
この世界で武器として認められるか疑問だったのだが、使い方を説明すると、有用性は理解してくれた。
「魔物と戦うにはちっとキツい気がするが、格闘士の連中にはウケが良さそうだな」
「格闘士?」
「武器は己の拳って連中だ。篭手を使った近接戦闘者にそういう連中がいるんだよ」
トンファーも一種の篭手な気がせんでもない。
まあ篭手が武器というのなら、トンファーも武器ということか。
「じゃあ、作ってみな!」
「えっ」
適当な木材を使って簡単なトンファーを作ったが納得してくれず、鉄鉱石を用意したところからスタートするハメになった。
思ったより簡単に出来てしまった。
経験が全くないわけじゃないがよく覚えてたな……と思ったが、【鍛冶2】というスキルを持っていることを思い出した。
これがスキルのおかげなら、スキルというのはやはり便利である。
作ったものを【解析】してみたら、「低質な鉄のトンファー(仮)」と出た、(仮)ってなんだよ。
特に狙ったつもりは無かったのだが、これで行った事のない「ルーム」はアインとホウセンだけになった。
考えてみればアインとはまだまともに話をしてない気がする。
となれば行ってみるか、と「ルーム」へ向かったのだが、ノックをしても返事が無い。
留守ならば仕方ないので、その辺りで早速武器を振り回してみることにする。
まずは短剣だ。
30センチほどの刃で、取り回しやすい大きさだと感じる。
振り回してみても、軽いなと思う。
切れ味を試してみたいところだが、生憎切るものがない。
そこで思い出したのはリソースの存在。
切れ味を試すなら巻き藁、と言いたいところだが、巻き藁なんぞ切ったことないし、短剣で切るものでもないだろう。
で、取り出したのは、竹、健康法で有名な青竹踏みのアレである。
触った感じ概ね再現することに成功したようだ。
どう切ろうか、と思ったが、ここはカッコよくやってみようと、青竹を宙に放り投げる。
気合一閃ッ!
したつもりだったが、竹が宙で切れるなんて都合のいいことは起こらず、青竹は飛んで行ってしまった。
「ぐおっ!」
その青竹が、誰かさんの顔面にクリーンヒット、痛そう。
あ、見たことある顔だわ。
アインだわ。
「創造神様は我に何の恨みが!」
「お前がギャグ体質なだけだよ」
「その長刀をこちらに向けるでない!」
「あ、お前からしてもコレ一応長刀なのな」
「怖すぎるのである!まるで鎌のようである!」
「鎌か、ふむ、確かにそれっぽくもあるな、これでお前切れると思う?」
「切れるかは不明である!(スッ)あ、本当にやめてください」
口調の落ち着きの無さは何とかならんのか。
まあ自動翻訳の絡みもあるので、気にしたらアカンか。
「で、アインは何してるわけ?」
「こちらの台詞である!刃物を持って神界をうろつくのはホウセンだけだと思っておったのである!」
うむ、まあ不審人物だわな。
「まあいいだろう、さあルームを開けるがいい」
「勝手すぎるのである!」
そんなやり取りをしたところで、アインに「ルーム」に入れてもらう。
とりあえず入り口に長刀は置いておく、危ないよねコレ、ってかもう長鉈って呼ぼう、デカい包丁とか、デカい草刈鎌とかって感じもするけど。
案内された部屋で、乱雑に置かれた書物や、研究用であろう器具を見て顔を顰める。
「きたない」
そう言うと、別の部屋に案内されたが、やっぱり整理がなかってなかった
「まず整理整頓という言葉を教えた方がいいか?」
「余計なお世話である」
「整理出来ない研究者は大成しないぞ」
「我は既に神である!」
まあそう言われりゃそうなんだが。
さて、コイツに聞きたいことはそれなりにあるわけだが……。
実際のところ、知識神と研究神の知識、どちらが役に立つのかね。
「研究神と知識神ってのは、どっちが物事に詳しいんだ?」
「失礼すぎる呼び方はやめるのである!」
いやだってほとんど誰かと会うことがない神界で、たまたま飛んでいった青竹踏みが直撃するとかギャグ要員の何者でもないだろ。
「研究神と知識神の違いは知識の質である。シェラが世界の歴史について知る立場であれば、我は世界の在り方について知る立場である」
「それ二人要るもんなの?」
「世界の在り方については未だ不明なことが多いのである。それを探求するのが我の仕事である!」
「世界神は世界のルールを知れるらしいけど、お前存在価値あんの?」
「先ほどから扱いが酷すぎるのである!!」
いやだってさ、お前時計も知らない研究神(笑)やん?
そもそもそういうことを研究するために学者ってのが存在するわけで、神が世界について研究するってどういうことよ。
今思ったわけじゃなくてさ。
「神も完璧ではないのである……」
「知ってた」
「いい加減にするのである!」
そろそろアインが泣きそうなのでやめておく。
だが真面目に俺にはよく分からんことだ、神が何に対して研究するってんだよ。
相当アバウトな存在ってことは分かるけど。
「実際のところさ、神の選考基準とか、任期とか、そういうもんあるの?」
「研究中である!」
「ダメだコイツ使えない」
ただまあ、知ってる限りで一応返答は来た。
中級神であるアインでは、上級神については理解が及んでいないが、神族になる基準はあるとのこと。
明確なものではないが、地上にていくつかの前提条件を満たすことで、神族として転生するそうだ。
まず下級神・中級神のいずれも、共通していることは、こんなところらしい。
・職業が何かしらの「王」よりも格上であること。
・最低でも1つのステータスがS以上であること。
・何かしらの【固有能力】持ちであること。
その前提を満たした上で、知名度が高い存在が、神族に選ばれるのだそうだ。
さて、どこかで聞いたような気はするが…仕方ない、研究神(笑)に聞いてやるか。
「職業というのは、生前の仕事ではないのか?」
「職業とは、世界で定められたルールの一つである。人類には必ず付くステータスである」
「ステータスねぇ、で、どういうものなワケ?」
「生前の我は「研究王」であったのである!職業についてなら専門である!故に答えるのである!」
うざい説明を聞くハメになったわ。
さて、職業についてだが、どうやらここでまた「適正」というものが出てくるようだ。
実のところ、人類以外にも付くことがあるらしいが、不明な点については置いておく。
職業とは、人類が一定の年代になると受ける世界の洗礼のようなものらしい。
以前は洗礼を受ける基準がなかったそうだが、今は10歳の誕生日に受けるのが基本になっているそうだ。
受けなくても特に問題は無いが、職業を得ると、ステータスがそれに応じて上昇するため、受けない理由はほとんどないらしい。
さてその職業だが、どういったものがあるかというと、「剣士」や「弓士」といったところから、「農士」「商士」、「鍛冶士」「採掘士」といったものがあるそうだ。
ただ「剣士」だからといって、剣を使う兵士などになるわけではないし、「農士」が戦えないわけでもない。
ステータスに付与される内容が違うだけだ、というのがアインの結論だという。
しかしその職業に沿った仕事が向いていることには違いないようで、「鍛冶士」なら鍛冶職人になるのが自然な流れではあるようだ。
先ほどの「王」というのは、この職業には階級があるのだという。
「剣士」で言えば、この上の階級は「剣師」となり、もう一つ上がると「剣者」になる。
そして最終的に得られるのが「王」であり、「剣王」となるようだ。
つまり法則としては、「剣」や「弓」が職業を指し、「士」「師」が階級を指すのだという。
ここに神族とは何かという一つの答えがあり、「王」の上が「神」になるのではないか、というのが推論のようだ。
階級については、一定の経験を積んだとされた時点で、自動的に切り替わるのだそうだ。
切り替わった時点でステータスに更なる上積みがなされるということだ。
この職業について、種類がどの程度あるかということは、全く分かっていないらしい。
ただ、両親の職業を引き継ぐことが多い、ということしか分かって「いなかった」。
というのも、
「創造s「カノー」……カノー様の【解析】により判明した、【汎用能力】という存在がどのような職業にされるか、という条件になっている可能性は高いのである!」
ふーん、そう。
まあ確かにそうだ、【汎用能力】を元に職業が選択されるというアインの推測は俺も外しているようには思えない。
関連してると見るのは妥当だろうな。
ただステータス絡みの話はやたら多いなぁ。
いい加減基準を知りたいところだ。
しかしレベルの概念は一般的ではないんだよな、【解析】は極めて特殊だと思って良さそうだ。
ややこしくなりそうだし、そこのところはおいおい話すとしよう、経験値?/5も謎すぎるし。
「そういやスキルについてもお前の研究範囲になるのか?」
「勿論である!我はステータスについて研究することこそ専門である!」
「それもいいけどよ、例えば水はどうやって出来ているかとか、そういうことは研究しないわけ?」
「水は水である!」
「化学的思考は停止してんのかよ……火が何故燃えるのかとか考えたりしねえの?」
「火の精霊の力により燃えているのである!」
ああ、やっぱりそんな認識だよ。
魔力という存在がそういう研究をする思考を放棄する理由になっちゃってるっぽいな。
まあ想定の範囲内だ、うん。
それはともかく、スキルである。
アインの認識では、【唯一能力】が最上位であり、世界のルールを曲げられるような能力を指すらしい。
それより一つ落ちるのが【特殊能力】で、基本的に中級神ともなると、一つは所持しているような能力であるらしい。
先日聞いたヨシュアの【種子創造】辺りはそれに当たるようだ。
確かに世界は曲げてない……のだろうか、勝手に新種を作り出せるっておかしいと思うんだけど。
断定出来ないのは、神に[鑑定]が出来ないから、という理由らしい。
地上で人類が【特殊能力】を持つことは極めて稀であり、100年に1人産まれるかどうかというレベルで、どういったスキルがあったのかというのはあまり分かっていないようだ。
その中でも俺の【無限成長】は、有名な部類であるという。
俺からすれば、噴飯モノのスキルなんだけどな、これが無い人類は「有限成長」ってことになるやん?
そう言ったところ、「そんなことはないのである!」と断定してきた。
そもそも「人類は成長有限である」という証明からしてなされていないようだが、神族になると少し事情が変わるらしい。
「神族はほぼ無限とも言える寿命を持つのである。我のステータスは確認することは不可能であるが、【無限成長】を持つ神は強さに上限を持たぬのである」
「逆に言えば、持ってない神には限りがあるという証明がされている、ということかね」
「古代神による魔力測定器において、その証明がなされたという文献が残っているのである、【無限成長】を持たぬ者の魔力は、ある一定値でそれ以上伸びることはなかったのである」
ふむ、人類には寿命があるから、それまでに「ここまでしか上がらない」という証明は出来ない、と。
まあ衰えとかもあるだろうから当然っちゃあ当然だけど、それにSという評価以上のものが無ければ、Sを得たらそれ以上は判別不能ってことになる。
ただ寿命が不明というほど桁が違う神族からすれば、その限界があることを知ることができた、と。
ま、納得は出来ても、【無限成長】が転生時に役に立つかは微妙だな。
さて話を戻そう。
「じゃ、【固有能力】ってどうなん?」
「自然保持者はおよそ1万人に1人といったところである。相当数のスキルが確認されているが、スキルの所持者に共通する点はないのである。先祖返りは共通して同じ【固有能力】を持っている、というのが分かっていることである」
「例えばどんなスキルがあるん?俺が持ってる奴はパスで」
「そうであるな、例えば我は【再生】というスキルを持つのである」
「ふむ、どういうもの?」
「生物の欠損した部位を再生することが出来るのである、致命傷でさえなければ、大よその部位の回復を行うことが出来るのである」
えっ、なにそれは。
「普通にすごいやん?」
「確かに便利なスキルではあるのだが、代わりに治癒魔術は使えなかったのである」
「ああ、そういやヴァニスがそんなこと言ってたな」
「極端な話、治癒魔術の最高峰の使い手であれば、[再生]という魔術が使えるのである。【再生】は魔力の消費もなく、それに比べれば便利、という程度である」
なるほどねー、ってことは、だ。
「実は固有能力って、「すごいスキルだけど代換品はある」、みたいなもんが多かったりするのか?」
「スキル次第である。【魔眼】・【隠蔽】・【擬態】などは特別なものだと言えるのである」
アインの説明によると、【魔眼】は嘘発見器、【隠蔽】は姿を消す、【擬態】はステータスを改ざんする、というスキルらしい。
【擬態】はそれがすごいのかどうかわからんが、【魔眼】と【隠蔽】は結構すごいかもしれない。
「【固有能力】は極めて強力なものから、使い方次第と呼べるものまで様々である」
というのがアインの見解らしい。
「そういえば俺の【解析】や【念話】ってのは、昔はあった、という認識なのかね」
「【解析】は、我の知る中で使い手はいないのである。神界の文献で存在だけ確認されているものである。[鑑定]はヴァニスが【解析】を研究して作った天法術である。【解析】については是非とも研究したいのである!」
天法術ねえ、魔術の一種なんだろうな、たぶん。
そういやヴァニスに魔術の名称聞き忘れたわ。
うーん、気持ちが全く分からない、というわけではないのだが。
「確かに【解析】は便利だがな、全く同じ魔術は作ったらアカンと思う」
正直知らない方がいいこともあると思うんだ。
「何故であるか?」
研究させてくれオーラがすごいアイン、俺が創造神候補じゃなけりゃ問答無用だったかもしれん。
「お前に【解析】かけてもいい?」
もちろんである、と答えるアイン。
さて何が出るかな?
名前 アイン(アイン・レオ・アルティメット)
種族 神族第三級中級神(魔人族)
職業 アクイリック界研究神(評価王)
称号 医療の始祖(風来の奇人)
「名前はアイン、アイン・レオ・アルティm「やめるのである!」ほら、問題あるだろ」
「過去まで知られるのは困るのである!」
アインにとって恥ずかしい要素がどこなのか何となく予想がつく。
家名らしきところが、究極だし、そもそも職業は研究王だったはずだ。
称号欄も言われると恥ずかしいかもしれん。
「どこまで分かるのであるか【解析】とは!」
「お前ら相手にゃステータスらしきものは分からんよ、名前・種族・職業・称号の4つだ、ってか評価王ってなんだよ」
「研究王だった頃もあるのである!それは最終職業であろう!?」
「まあ多分そうだろうな」
アインは何やら観念したようだ。
「評価王とは、固有職業である。本来国王などにつく特有の名称である」
「恥ずかしいもんなのか?」
「そういうわけではないのである。ただ誇れるものとそうでないものがある、我にとっては忘れて欲しいのである……」
まあ、名前から察するしかないわけだが、人物鑑定士みたいなことしてたんだろうなあ。
研究もステータス絡みとなれば、そういうことだろうな。
「まあ、俺からすればそんなに恥ずかしいことではないと思うよ、究極さん?」
フォローする気は全くないのでバッサリ切り捨ててやった。
散々からかったあと、【模倣】や【念話】の話もした。
【模倣】は読み方を伝えると、かなり動揺してた。まあ未知のスキルではあったようだ。
【念話】についても使い手はいたものの、やはり希少スキルではあるらしい。
【成長促進】【限界突破】は、どう伝えたらいいか、というか俺もよくわからんしな。
そもそもどう伝えたら意味が伝わるのやら…【限界突破】だと【無限成長】と噛み合わないんだよな、何か別の読み方というか、そういうスキルじゃないかとは思う。
もう一つは【成長促進】とでも言えば伝わるだろうか?
読み方が無いってことは、俺のスキルだから、俺が好きに読んでいいものかもしれないけども。
さて、これで一通り神と会って話が出来た。
まだ調査したりない部分があったりするわけだが、顔合わせは済んだ、といったところだろうか。
いよいよ修行開始かな。
説明話は多分ここまで。
第一章もそろそろ終わります。




