先祖返りと混血種
神経がぶっ飛びそうになったけど、一応魔術は成功したらしい。
マジで死ぬかと思った。てか諦めたら試合終了してたわ多分。
魔術ってこんなに辛いもんなの?とヴァニスに尋ねたが、そういう問題では無いと言われた。
そもそも試しにやってみ?とかいうノリで言われたハズなのに何故俺が怒られるのか、解せぬ。
あとヴァニスたん、服ボロボロですよ?
「もう魔術というより魔法だね……」
どういう精霊魔術を使ったかと聞かれたので、「そもそも精霊魔術なんて分からんし、精霊にお願いしただけ」と答えたのだが、なかなか納得してくれなかった。
精霊が俺の体に入ってきて、矢を撃つイメージをしただけなのだが、実際のところ、俺のやったことは精霊魔術とは呼べないそうだ。
むしろ精霊魔法とでも名付けるべきらしい。
結局のところ、術式を教えずに魔術を使わせた先生が悪いと思うんだけどな、俺。
ちなみに頼んだ妖精達は、(ほめて)と伝えてきたので、(えらい)と答えておいた。
精霊達というか、俺にくっついている妖精達は、何気にものすごい力を持っていたりするのだろうか。
ヴァニスはまともな返事をくれなかったけど。
それからもう一度水晶に魔力を流し込む作業をさせられた。
先ほど魔力を流した水晶は俺がぶっ飛ばしたらしい。
モノは壊れるもんだと開き直ってやったら、キレられた。
「神界では材料の確保が難しいんだよ!」
まあ、【解析】でもリソースで作ったとは書かれていなかったから、実物なんだろうなとは思ったけど。
ちなみにさっきと違って、恐ろしいくらいスムーズに作業が出来た。
やはり見た目では分からなかったと答えられたが、最後の1つの水晶は、魔力を流したら、水晶が砕け散った。
これについては、あまり怒らなかった。ちょっと引き気味だったけど、「ありえるとは思った」そうな。
「何をするにしても、今日明日くらいまでボクが出来ることはないよ」
そう言われて、俺はヴァニスの「ルーム」を叩き出された。
おこなの?とか思ったが、色々消耗しすぎて回復に時間が必要なのだそうな。
しかし若いな俺、すんなりおこなの?とか出てくるんだもん。
やっぱ意識も相当若いな、ってそういえば、転生転生つってたけど、俺の新しい人生は何歳から始まるんだろ?
転生つったら、やっぱ赤ちゃんからなのかなあ。
◆◆
「そこんとこどーなのシェラたん」
「誰がシェラたんですか」
気になったのでシェラに会いに来た。
創造神さまとは思えない軽さですね、とか言ってるけど、俺はまだそんな存在じゃないし。つーか意識したことねえよそんなもん。
神とかいう響きは偉そうだけど、ここにいる他の神や、アズのことを考えたら、別に軽くてもいいんじゃないの?
「転生先はまだ未定ですが、有力な人類の母親に、新たな生命が宿った際に入魂、という線で調査することにしています」
ってことは、なんだ、キメた瞬間にてn「真面目にお願いします!」ってそういうことじゃないのかよ!?
ため息をつきながら、いいですか?とシェラは語る。
「転生とは魂が新たに生まれる瞬間に行われますが、人類はいつから魂を持つのか、というのは極めて難しいところなのです。それこそ精子g「お前もえぐいよね」、こほん。具体的に「何時から」というのは、我々も定義していないのですよ」
いずれにせよ母親のお腹にいる間、ということになるでしょう、とのこと。
少なくとも赤ちゃんスタートは避けられないようだ。
まあ考えてみれば、今いる人間の魂だけ入れ替えることを転生とは言わんよな。
「ん?人類ってことは、もしかして人間とは限らんの?」
「ああ、それはまあ、純粋な人間族、ということは今のところ考えておりませんが」
人間族と来たか、日本人とかアメリカ人とかじゃねえんだな。
「ドワーフとかエルフとか竜人とかってこと?」
「他にも色々ですね。他にも魔人族や獣人族など、いわゆる「人類種」であれば、カノー様の魂の形は合うのではないかと推測されます」
「あんま変なのは勘弁して欲しいんだが」
「変なのとは何ですか、差別はいけませんよ?」
ジト目で言ってくるシェラだが、別に差別しているわけではない。
俺は区別はしても差別は嫌いだ。
人間なんて意思疎通出来ればそれでいいと思ってたし、そういう意味では生前全く困らなかったわけだけど。
ただ、あんまり俺の知ってる人間から外れられると困るというか、何というか、そういうことを言いたいだけだ。
「ではカノー様は私を見て何かおかしいと思われるのですか?」
「耳が長いかな?それくらいだな」
「その程度の違いですよ」
やけに含蓄のあるセリフだな。
いずれにせよ、シェラにはこの世界の歴史を教えてもらわなきゃいかんから、率直に聞いてみると、遠まわしに説明を始めた。
エルフ族は他種族を一方的に貶める風潮があったのだそうだ。
シェラはその中で、混血種として産まれたそうな。
何千年という単位での過去ではあるが、近年までその風潮は改善されなかったのだとか。
少なくとも今でも少なからずそう思っているエルフは多いらしい。
「私の知る限りでは、人類種は互いに思うところがあるようです。事実、私の一族も色々ありましたし。ただ、アズリンド様がこちらに来られてからは、混血種への優遇などの方針もあり、落ち着きを見せています」
「そんなことが可能だったのか?」
アズが世界神になった時って、世界に干渉は出来なかったんじゃ?
「あくまで直接干渉が出来ないというだけで、転生前の魂などへの干渉は直接干渉と見なされません」
抜け道っぽいけど、俺に継承転生が可能なら、魂ならアリ、ということなのか。その辺アバウトだよなぁ。
でも魂って混じったらよくわかんなくなるんじゃなかったっけ?
混じる前に俺はこっちに来た、って認識でいいのかな。
「アズリンド様がこちらにいらしてから、世界神として最初にされたことです。こういった措置が無ければ既にアクイリックは無かったかと」
混血種優遇措置とか、そんなことが可能なのか?
それは直接干渉になりそうなもんだが。
「実のところ、アクイリックでは人類は人類ごとに魂の転生を行っていたのですが、アズリンド様は「先祖返り」を別の人類種に行うように指示されたのです」
「先祖返りとはなんぞ?」
聞いたことのある言葉ではあるけど、流石に言葉だけじゃわからん。
シェラの説明によると、先祖返りというのは、過去の優秀な能力を持った魂が、生前の一部の記憶やステータスを引き継いで転生してくることだと言う。
ただ全てを引き継ぐというわけではなく、生前の器用さであったりとか、あるいは固有能力であったりだそうな。
例えば元エルフであれば、エルフの純血種からしか先祖返りは発生しない、という法則があったのだが、そこにアズは干渉したらしい。
しかしそれが混血種優遇ってことに繋がるのか?
「例えば魔族の英雄が、一部の記憶と能力を持って、ドワーフ族として産まれたらどうでしょうか」
「どうでしょうか、と言われても?」
「ドワーフ族は筋力や器用さに優れるた種族ですが、魔力は高くありません。そこに魔力に秀でた魔族という魂が転生するとどうなるでしょう?」
まあ、優遇されそうではある。
少なくとも目立つのは確かだろう、あとは本人次第だろうな。
そんな感想を述べると、「それが上手く行きました」と、満足気だ。
ただ、やっぱり混血種の優遇される理由にはなってない気がするが?
そこでシェラの表情が苦笑いに変わった。
実は私も知らなかったことなのですが、と前置きして、こんなことを言い出した。
「この世界は「混血種」のステータスが優遇されているのですよ。混血するほど優遇されるのです」
ちょっと何言ってるか分かりませんね。
いや、種族ごとに特徴があるのは分かったけど、それは理屈に合ってるのか?
「世界神であるアズリンド様が、世界神特有の唯一能力で確認された結果ですから、間違いはありません」
世界神は、その世界のルール、というものが確認できるらしい。
アズは赴任してきて、それをしっかりと読み込んだ結果、そういったことになっているらしい。
それが何故、世界が放棄されるまで地上に伝わらなかったのかというと、だ。
混血種の個体は極めて少なく、純血種よりステータスが優れているという証明はなされなかった。しかし、先祖返りが純血種で無ければ発生しない、というルールは正しく認識されており、そこに拘った結果、混血が嫌われたのだそうな。
先祖返りは産まれた時点で極めて優秀なステータスを持つのに対し、混血種は普通の純血種と比較して優れている部分がある、という程度だと言う。
ただし、混血種は更に他の人類種と交わることにより、平均してステータスが伸びて行くということになる。
先祖返りの頻度にもよるだろうが……。
「純血種に拘る理由は、先祖返りが生まれる可能性が無かったから。アズはその点を、混血種でも生まれるようにしたんだな」
「その通りです。アズリンド様が前世界神様から引継ぎをなされてから、この矛盾こそが世界滅亡の最大の理由だと考えられておられました」
野生の獣の方が余程この世界について理解しておりました、と嘆くシェラ。
シェラの生前と現在では、野生の動物は、生態が相当変化しているそうだ。
単なる進化ではなく、確実に今の動物の方が、生命力は高いらしい。
本能で別種と配合していった結果ではないかというのが、アインとの共同見解だそうな。
「そんなルール作ったのはどこのどいつだよ……」
「世界のルールを作れるのは、創造神さまか、あるいは世界神さまのみでございます。世界神さまでも、改変するスキルを持っている方に限られますが、前世界神さまはお持ちではなかったようです」
「少なくとも前任者ではないってことしか分からないのか」
恐れながら、と肯定するシェラ。
世界神だとすれば、相当性格が悪い。としか言えない改変だし、創造神にしてもなんでそんなルールを作ったのか、と思う。
せめて先祖返りなんてものが無ければ、もう少しマシだったのかもしれないのに。
「要するにアレだよな、人種は交われば交わるほど、優れた能力を持ちやすいよな」
「そういうことです」
先祖返りがどれだけ優秀なのか知らんが、つまりはそういうことだ。
人種がなんだとかいう以前に、そもそもそんなものが無いくらい交わっておけば、今より確実に良くなっていたのだろうと思う。
まあ魔物との戦いに集中出来たと断言はしかねるけどな、つまらん理由で争うのも地球のお約束だったし。
「ちなみにアズが先祖返りのルールを変えたのは分かったけど、混血種が地上で増えた理由は?」
「簡単です。先祖返りをした者が、他の種族の連れ合いを持つことが増えたためです」
「なぜそうなったし」
「美的感覚の違い、かと思われます」
混血種のシェラではあるが、エルフ族の美的ポイントは耳の長さであり、もう半分の人間族からすれば、エルフは概ね美しいと感じるのだそうだ。
この辺の感覚に一番優れているのは人類の中でもダントツで人間族だという。
個体能力としては特に優れた点が無い人間族ではあるが、処世術に長けた人物が多く、最も血にこだわりが無い種族であるとされていた、とのこと。
それゆえに、アクイリックの人類としては、最多人数を誇るらしい。地球の人間と比べても、違いはせいぜい魔力持ちという点だけだそうな。
人間は、どこに行っても人間なんだなぁ。
混血種が増えたおかげで、混血種が優れた能力を平均して持っているという事実が地上に出回った結果、昔より人類同士の諍いが格段に減った、というのが現状のようだ。
ぶっちゃけて言えば、俺も転生してまで人類と戦いたくはないし、転生するまでに状況がもっと好転しているとありがたいな。
一つ思うのは、このままアズが世界を維持すれば滅亡は避けられるのではないか、という仮説なのだが、これはシェラにあっさり否定された。
何故その可能性が無いかというと、魔物のテリトリーという条件以外にも、世界の滅亡を避け難い点がある、ということだ。
具体的にそれは何か、シェラはこう答える。
「生物の保護者でもあるはずの人類に、これ以上数を増やすための要素が無いのです」
この回答に俺は首を傾げてしまう。
「なんでそう思うんだ?この世界の広さがどんなもんか知らんけど、そんなに飽和してるのか?」
むしろ地球育ちからすると、あんまし多いと困るんじゃないか、という感覚なのだが。
そこで思い出すのは、ヨシュアの話だ。
「もしかして食料事情?」
「それも一つの理由ですが、アクイリック最大の広さを持つ大陸に、人類がこれ以上広がる余力がないのです」
その大陸さえ何とか出来れば、滅亡を避けられるかもしれません、と続く。
はて、余力が無いというのはどうしたことか。
「混血種が広まるにしろ、魔物の侵攻は食い止めねばなりません。その防衛線であった国々が滅びてしまったのです」
「ふむ、魔物の侵攻の防波堤がなくなった、と。しかしそれなら取り戻せばいいんじゃないか?」
シンプルに考えればそうなるんだけど。
「それらの国々が滅びた時点で、前世界神さまは、下級神を遣わせて、人類を守ろうとしました。ですが、それも叶わず、世界の放棄となりました。そこで一つの境界が出来てしまったのです」
「境界?」
「最古の神族である「神獣」が住まう森、そこが境界です。それを越える事は人類には不可能なのです」
不可能、と来たか。
そこを可能にしなきゃいけない、ってことでもあるんだろうな。
シェラは何故、という問いにはまともに答えてくれなかった。
というのも、「神獣」は神族であっても神ではないのだそうで、互いに干渉はしないらしい。
その森について、現状を知る神はここにはいないし、人類はそもそも立ち入ることすら出来ない、という情勢のようだ。
森なのに入れないというのもおかしな話なのだが。
いずれにせよ、「神獣」と「境界」についての情報はあまり期待しないで欲しい、とのこと。
ただし、シェラはその越えられない境界が無ければ、既にアクイリックは存在しなかっただろう、と判断している。
それだけ押されていたということもあるし、防衛線にあった国々は、戦うことにおいては追随を許さない人種が住んでいた。
総称して「獣人」と呼ばれた彼らは、人類の中でも最強の一角を担い、個体数も人間に続いて多かったのだそうな。
それらが住まう国々が魔物に敗れたというのは、実質人類が魔物に敗れたのと同義でもあった。
世界放棄を決めた最大の原因だとシェラは告げるが、まあそれだけではないだろう。
人口が増えない最大の理由は、文明レベルの停滞だろう。
この世界に来て、最初に話したのは時計の話。
現状についてはまだ不明な点も多く残っているが、時計という概念が無いということは、地球で言えば最低でも16世紀より手前の文明レベルでしかないのではなかろうか。
日時計くらいは流石にあるとは思うが、科学技術は極めて未熟なレベルにあると断定出来るレベルと思われる。
精霊の存在についてもそうだ。
恐らく精霊は、シェラが生きていた時代の一種のエネルギー源だったのではないか。
あるいは今でも精霊は力を発揮しているのかもしれないが、減少傾向にあることは間違いない。
更に繋がりがありそうなのは、ヨシュアの「種蒔き」だ。
豊穣神の仕事を凍結されて、最大500年は過ぎている。
まだ人類は滅びていないことから、何かしらの農業はそれなりに発達していると見てもいいが、品種改良などについては期待薄だろう。
要するに、この世界は、これまで神への依存度が高すぎたのだろう。
魔力という存在、魔術という学問は、科学に取って代わる存在に成り得るのかは分からない。
しかし、あまり楽観できる状況では無さそうだ。
化学についても、アインと知識のすり合わせを行う必要がある。
研究神というのだから、最も詳しいのは彼であろう。
石油レベルは製油技術が追いつかないにしろ、最低でも石炭レベルのエネルギー源が無ければ、人類の発展の見通しは暗い。
少しばかりやる事が多すぎるし、俺の手に余る部分も相当多いが……。
「俺にやれる事、結構ありそうじゃないか」
退屈は有り得ない、今から楽しみで仕方ないな。
だが、その前に準備だけはしっかりせねばなるまい。
そして俺は、今まで恐れていた、ホウセンの元へ向かった。
◆◆
ホウセンの「ルーム」に向かったのだが、生憎留守だったようだ。
もしやと思い、俺の「ルーム」に向かってみると、俺のルームの前に仁王立ちしているホウセンの姿があった。
「遅かったな」
「俺にも色々やる事があってね。丁度ホウセンの「ルーム」に行って来たところだったんだよ」
ニヤリと笑いながら、ホウセンに言うと、ホウセンも嗤う。
「随分と気合が入っているようだな、上等だ」
ホウセンはいくつかの武器をその場で作り出した。
「俺はリソースは「ルーム」にほとんど使ってない。「ルーム」は訓練所と寝室しかないんでな」
「じゃあ鍛錬は鍛錬所でやるのか?」
「まずはお前の実力を見極めなければならんな、得物は何が使える」
これから選べと無造作に転がる武器を眺める。
剣・槍・弓・矛・盾・篭手などがいくつか形状違いで転がっている。【解析】では、「両刃の鉄剣(偽)」や、「上質な長弓(偽)」など表示されている。
俺の汎用スキルを考えると、扱えそうなのはものはある程度限られるし、そもそも武器なんて使ったこと自体がほとんどない。
少考した上で、剣・弓・篭手を選ぶ。
「一番得意とするのは暗器や飛び道具なんだが、ここには無いからまずは剣術と体術を教えてくれ。弓については自主練習もするつもりだ」
「ふん、その中だと俺が一番得意なのは弓なんだがな。だがカノーの希望を受け入れてやろう」
思ったより押し付ける方ではないようだ。
「ではまず、剣術の型を教えよう。平行して体術の型も教えてやる」
そしてホウセンは言う。
「早く俺と遊べるようになれ。ここには戦える相手がおらんのだ、警備という名目で侵入者を待っているのだが、平和すぎるのだ。今更神界を襲撃してくるものなど、おらんだろうがな」
やっぱり戦闘狂なんだなと苦笑するが、ちゃんと段階は踏んでくれるそうだ。
アズの助言通り、他の神が寝ている間にホウセンと鍛錬することを提案すると、それはすんなり飲んでくれた。
しばらく型通りの鍛錬ということだから、ダメージについてはすぐに問題にはならないだろう。
眠れない体を生かして、みっちり時間をかけられそうだ。
鍛錬はアズの一日の終わり宣言を聞いてから始めることにも了承してくれた。
◆◆
「いらっしゃいゼンちゃん……あら?ホウセン?」
ヨシュアの元へホウセンを連れて行くと、心底意外そうな表情を見せた。
「何故連れて来られたのかわからんがな、カノー、どういうことだ?」
「ホウセンは武神だろ?武人たるもの、メシを食うのも大事だろ」
神族ならば関係ないのではないか、という反論は出てこなかった。
あのホウセンなら、武人に食事は欠かせないという理屈は理解出来るはずだ。
神じゃ栄養とか関係ないんだろうけど、気持ちの問題ってあるだろ。
「まあ満腹感は得られないし、体が強くなるってワケでもないだろうから、英気を養うって意味合いが強いけどな」
でも大事だろ?と告げると、ホウセンは少しばかり思案する。
やはり思うところはあるようだ。
「戦う人にとって、食事って大事なんでしょ?ガッツリ系メニュー用意するから待ってて!」
ホウセンの同意を待たずにヨシュアは食材取りに走る。
俺もホウセンに食事スペースを教えると、そこでしばらく待っててくれと告げて、ヨシュアについていく。
「肉類を多めにするのは当然だな、あとは酒とかねえのか?」
「酔えないとは思うけど、あるよ。どんなのがいい?」
「リソースじゃなくて本物だったりするのか?」
「一部はそうだね、どんなのがいいの?」
「度数は20%くらい、日本酒に近ければいいかな」
「日本酒?なにそれ?一応米と麦で本物があるよ」
「ちょっと飲ませて……うん、日本酒とは違うけど、これなら飲んでくれそうだ」
まだここで俺が料理をするには知識が足りないので、ホウセンが好みそうなものをヨシュアに選んでもらう。
「メインは羊肉と豚肉……えっと、味が近いかどうかは分からんが、羊と豚、それから熊辺りでそれっぽいものをリソースで出せるか?」
「シープ・ピッグ・ベアだね。食べたことはあるからリソースで作れそう。あんまし高級なのは無理だけど」
「中級くらいにしておいてくれ。あとは穀物は、米と麦を頼む」
「米は玄米、麦はパンにしていい?」
「それでいい、あとは焼いて食える神野菜をいくつか頼む」
「りょーかい、それで何作るの?」
決まってるだろ?肉と酒、焼き野菜。
「焼肉パーティと行こうじゃないか」
俺のリソースを使ってホットプレート(仮)を作る。焼肉するだけの能力があればいいと思ったら、あっさり出来た。
それらを持ってホウセンの元へ向かう。
「ホウセン、食べたことがあるものないものあるが、基本的に俺とヨシュアが肉や野菜をこの場で焼く。それを勝手に取って食え」
ホウセンに酒とコップ、そらからタレをたっぷり入れた小皿というのは少しデカい皿を渡す。
それから玄米飯、パンもホウセンの手元へ配ると、ヨシュアは早速肉を焼き始めた。
俺やヨシュアも食している中、ホウセンはかぶりつくように肉を食らい、酒を飲み、気持ちよく穀物を食う。
野菜類も食べている、豪快な食いっぷりに笑うしかない、実に美味そうである。俺も美味いけど。
用意した食材が無くなるまで、ホウセンは無言で食べ続けた。
「馳走になった、感謝する」
ホウセンは頭を下げてきた。
俺としても意外だったし、ヨシュアも「あれ?」って顔してる。
結構律儀というか、存外物分りがいいというか。
「飯がこれほど美味いものだとは思わなかった。上質な酒と飯は気分を良くする。俺もいつから忘れたのやら、実に気分が良い」
上機嫌のホウセンを見て、ヨシュアも嬉しそうだ。
「ホウセン、私はもうじき寝ちゃうけど、もう少し早めに来てくれれば、いつでもご馳走するからね!」
ホウセンは三度、感謝を告げた。
いきなり「やるぞ」とか言い出さなかったところとか、こうして素直に感謝するところとか、あの「ホウセン」とはやっぱちょっと違うのかな。
まあ俺が知ってる「ホウセン」じゃないかもしれないし、変な先入観は持たない方がいいかもな。武神であることは違いないだろうけど。
◆◆
それから俺は一度「ルーム」へ戻り、アズが来るのを待つ。
やはりアズは約束通り来てくれた。
「善一さん、こんばんわ」
今日あったことを色々話す。
シェラが褒めてたと伝えたら、「なんのこと?」とキョトンとしてた、ルールを変えたことは肯定したが。
実はそこまで考えてルールの改変したってわけじゃねえな?
まあ、アズらしいといえば、アズらしいけど。
さて、これからお楽しみ、と行きたいところだが、初日からホウセンとの約束をすっぽかすワケにもいかん。
アレについては、10日に一度俺がアズの部屋にお泊りすることで決着がついた。ちょっと間隔が長いけど、俺も皆も忙しいだろう。
10日に一度は休みにして、神々とのコミュニケーションもいいかもしれんな。
「それじゃあおやすみなさい。これから大変だろうけど、よろしくね!」
しばらくして、アズは部屋を去っていった。
これから、か。
「実際、まだ始まってすらねえけどな。より有利なスタートが切れるように、努力しますかねぇ」
俺もホウセンの元へと向かうため、「ルーム」を後にした。